ガンプラビルダーズ・フレンズG-Next   作:いすた

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工房の隣に併設された一室に並ぶ大型のドーム型の筐体、ガンプラバトル用の『POD(ポッド)』はなんと6つ。

3対3がオーソドックスなルールとなっているガンプラバトルがこの工房だけで楽しめる。

しかも店舗ではなく個人所有というのだから、

ガンプラ界隈に詳しくないダイズでも、これがどれほどすごい事かわかる。

 

「ガチの環境じゃん……」

「あったりまえじゃない、所有者がガチ中のガチなんだから」

 

電子機器の経年劣化を防ぐために外光は遮断され、ほんのりとした明かりだけが導となる薄暗い室内。

設置されているPODは少々古いようだが、経過年月に比べて汚れも少なく、大事にされているものだと伝わってくる。

 

「それじゃさっそく――」

「ストップ、その前に、これ」

 

PODに入り込もうとしたダイズを呼び止め。

ジュウリが指し示したのは部屋の奥のロッカー。

性別、身長別に分けられたロッカーの中に入っていたのは、同じデザインながらも色とりどりのツナギとヘルメット。

 

「パイロットスーツに着替えてからよ。

 シートが揺れるからこれを着てないと体は固定されないし、

 ヘルメットにはヘッドセットが内蔵されてるから便利よ」

「これ、何を借りてもいいのか?」

「専用の人のは別の所よ、ここにあるのは全部レンタル。

 あ~、でも君の身長だと、あんまり種類ないかな」

 

さすがに190センチを超える身長となると、

無いわけではないが、数はあまり用意されていない。

ブラック、ホワイトの定番二つと、淡いパープルの3色のみ。

 

「ん、じゃあこれにすっかな」

 

ダイズが迷うことなく手を伸ばしたのは、淡いパープルのカラーだった。

この3色なら、男子ならば黒か白と思い込んでいたジュウリは少し驚いているようで。

その表情を見て、ダイズは言われなれていると自分から。

 

「藤色には、ちょっと思い入れがあってさ」

 

気恥ずかしそうだけれど、どこか誇らしさも感じる笑みで。

なにか大切な思い出でもあるのだろうかと推測しつつも、

手早く更衣室で自分専用の、プラチナカラーのパイロットスーツに着替えるジュウリ。

 

「PODに入ったら、ヘルメットの後部ソケットにイヤホンプラグを差し込んでね。

 続きはボイスチャットでしましょ」

「りょーかい」

 

言われるまま、PODに入りこむダイズ。

長身のおかげで少々狭いが、窮屈というほどでもない。

ヘルメットにプラグを差し込んで被れば、

丁度あちらも同じようにセットを終えたのか、ザッと短い砂嵐の後。

 

「テステス、聞こえるダイズ君?」

「こちらダイズ。聞こえてるぜー」

「OK、それじゃあまず右手側にあるハロスキャナ。

 目のついた丸いのだけど、上に開くから、そこにガンプラを入れてフタを閉めてね。

 ん……? ちょっとマイクがブツブツするわね。差しなおすから、先に進めてて」

 

ジュウリとの通話が一時切れる、再接続の間に進めれるところまで進めておこう。

ハロスキャナにガンプラを収めれば、目が光り、数秒のスキャニング音ののち、

手元のタッチパネルコンソールに文字が現れた。

 

<ギャプランの設定は、どちらにしますか?>

 A.前期型

 B.後期型

 

「これは、ガンダム知ってる人向けの設定か。

 よくわかんねぇけど、

 まぁ、こういうモンは後の方がいいだろ」

 

ポンと気楽に、タッチパネルで決定。

あとは新規ユーザー登録、パイロットネームの設定などなど。

一通り初期設定を終えたところで、再び通話がつながった。

 

「おまたせ、だいたいおわった?」

「おっけー。今は店内バースト待機中だ」

「スムーズね、ゲームはよく触ってるんだ?」

「ボチボチ。この手のアクションは好きなジャンルだからさ」

 

ボチボチとは言うが、気に入ったゲームは全てやり尽くすほどにはゲーム好きのダイズ。

話が早くて助かると、コンソールに現れたモニター越しのジュウリは慣れた手つきで設定を選択していく。

 

「ステージはサイド7宙域のフリーでいいわね。

 10分間、広いフィールドを自由に動き回れるから、まずはそこで操作練習ね」

「うい~。……お、画面かわった」

 

真っ黒だったドームスクリーンにパッと浮かび上がったのは、どこかの格納庫の中。

工具片手に宇宙服を着たCGの人々が飛び交い、ガンプラに取り付いて、離れていく。

スクリーンは正面から真後ろまで。

頭上にも表示されており、まるでその世界に自身が居るかのような錯覚を覚える。

足元にもスクリーンはあるのだが、表示されていないが、まぁ別に気にする場所ではないか。

ダイズのギャプランの隣に格納されていたジュウリのダハックというガンプラの瞳がブゥンと輝き。

歩き出し、先にあった足載せのような部位に両足を固定させ。

 

「カケヒ・ジュウリ、ダハック、行きます!」

 

足載せはカタパルト。

すさまじい勢いでガンプラが打ち出され、あっという間に漆黒の宇宙へと飛んで行った。

ダイズもペダルを踏み込み、ギャプランをカタパルトまで歩かせて。

足を乗せると表示されたチュートリアルに目を通す。

 

「え~っと、出撃の掛け声で発進する、か。

 よぅし、ジケイ・ダイズ、ギャプラン、行くぜぇ!」

 

ドンッ! と打ち出される感触をシートが、振動とスライドで再現する。

食べたばかりの胃袋の中がひっくりかえるみたいに揺れたのがわかった。

激しい衝撃に、パイロットスーツを着ていなければ、シートから投げ出されていたかもしれない。

 

「び……びっくりさせんなよ……。何か再現、すごくね?」

「ここにあるPODは数あるPODの中でも最も臨場感が味わえるってマニアの中では評判のタイプだからね。

 筐体の負担が大きいから、不特定多数が使う店舗には向かないって理由で、あまり普及しなかったけどね」

 

もちろんメンテナンスはバッチリと補足するジュウリ。

宇宙空間に飛び出した感覚そのままが味わえる極上の環境。

ダイズが試しに操縦桿を傾ければ、ギャプランも同じように姿勢を傾け、指示通りの方向に旋回する。

座席も同調して傾き。ガンプラとパイロットの一体感にダイズの口元は緩みっぱなしだ。

 

「こりゃすえげぇ、動かしてるだけで楽しいんじゃね!」

「慣れないうちはMSのままで。慣れたらMAに変形させてみるといいわよ」

「いえっさー♪」

 

宇宙空間を自在に飛び回る、バーチャルでしか味わえない体感。

ペダルを踏みこんで加速し、操縦桿で縦横無尽に遊泳する。

そしてガンプラはただ動くだけにあらず。

その辺に漂っていた何かの機械の破片、

宇宙ゴミに向けて盾と一体化したビーム砲の銃口を向けて引き金を引けば、

放たれたビーム弾が宇宙ゴミを貫き、赤熱化した風穴を開ける。

 

「なるほど、こりゃネコトちゃんがドハマリするわけだわ」

「でしょ? 自分で作ったガンプラに乗れる事が楽しくないわけがないもの」

 

ジュウリのガンプラ、ガーネットカラーのダハックも色々と動きを試すように加速、原則、旋回を繰り返しており。

 

「ん、ちょっと左腕の動きが鈍いわね。塗料が少し関節に入っちゃったかな……」

「塗料? あぁ、そういやネコトちゃんも、ガンプラの出来で性能が変わるって言ってたな」

「そうよ。そうだ、試しに左右のビーム・ライフルで、あのデブリを撃ってみて」

「こうか? ……あれ、左のだけ外れたな」

「左のビーム・ライフルの差し込みが甘かったから、発射の衝撃でグラついてるのよ」

「そんなところまでガンプラを読み込むのかよ」

「すごいでしょ? 内部構造から材質まで、ガンプラを構成する全ての情報がバーチャル上で再現されるわ」

「こーりゃ、奥が深ぇわ。覚える事めちゃくちゃありそうだ」

 

この試しが終わったら、一度ギャプランの細部を確認しておこうと決めたダイズ。

思い返せば、少しはめ込みが甘い所があった気もする。

今後、ガンプラを楽しむのなら模型の知識も色々と必要になるだろう。

もちろんそれも大事だけれど、とジュウリは。

 

「奥が深いし、覚える事も多いけれど。一番大事な事があるわ」

「何だそれ?」

「ガンプラを作った時の楽しい気持ち。

 想いがガンプラに宿り、それは力となって、出来映え以上に勝敗を左右するわ」

「想い……?」

 

それは理屈じゃないし、バーチャル世界には関係の無い話だ。

よくわからないというダイズの反応は当然だろうと、ジュウリもそれをわかっていてなお。

 

「オカルトっぽいでしょ?

 でも、その想いだけで、数々の戦いを制してきた人も居るのよ」

「へ~、なんかすげぇな、その人」

「うん、私が世界で一番尊敬する二人のうちの一人」

 

ジュウリの口ぶりからすると、知っている人物のようだ。

そんな話をしながら宇宙空間を気ままに飛び回っている時だった。

 

<フリールームにメンバーが追加されました>

 

コンソールに表示が現れて、二人が飛ぶ場所とは離れた位置に、2つのガンプラの反応が現れた。

 

「あれ、誰か来たな。え~っと、オンライン経由でこのルームに入ってきたみてぇだけど」

「え? おかしいわね。ルームにはパスワードを入れてあったはずだけ――」

 

ど、と言い切る前に、ジュウリのダハックはギャプランを蹴り飛ばす。

突然の衝撃に揺れるシートの上で、驚くダイズ。

 

「うわっ! いきなりなにす――」

 

抗議の声は、さきほどまでギャプランが居た場所に走ったビームの光条が遮った。

あれは、直撃すれば撃墜をま逃れない火力。

 

「攻撃!?」

 

続けて2発目、3発目。

誤射ではない、当てようという明確な意思がビームから感じられる。

慌てて回避運動を取りながら、射線の先に居る2機のガンプラを見つけた。

機体の横に表記された機体名は『ダブルオーライザー』と『セラヴィーガンダム』。

これは許せぬと、ジュウリは攻撃してきた2機と通信を繋げ。

 

「ちょっとそこの2機!

 いきなり攻撃してくるとはどういう了見よ!?」

 

いくらゲームであっても、一緒に遊んでいるのは人間だ、マナーというものがある。

2機はこちらに通信を繋ぎ返して。

 

『バーカ! フリールームは何をしようと自由ですー!』

『カギかけてない奴が悪いんだよ!

 こいつら初心者だぜ! ぶっこわしてやんよ!』

 

まだ声変わりもしていない悪ガキの邪気。

どこか遠くの場所からオンライン経由でフリールームに入り込み、練習中の初心者をいじめて楽しんでいるのか。

素組のギャプランなど格好の的だと、執拗に狙ってくる2機。

まずい、連中のガンプラは、低性能ではない。

 

「ダイズ君! MAに変形して!」

「えぇ!? いきなりぃ!?」

「いいから! MSの機動力じゃ捕まる!」

「ちぇ、しゃーねーなー!!」

 

後のお楽しみにとってあった変形を、こんな形でさせられるとは。

仕方がない、ギャプランを人型から飛行形態へと変形させて、ペダルをグッと踏み込む。

ギャプランに多数搭載されたバーニア・スラスターのほぼ全てが後方へと回された加速は、

ドンと大砲と放ったかのような轟音をたて、

パイロットを押しつぶさんほどの衝撃を生み出す。

操縦桿を握る手がビリビリと痺れるほど引っ張られるが、堪えてコントロールを続けるダイズ。

 

「くっ……すげ……、人型と、まったく別物……!」

 

速い、この速度のまま回避を続ければ生半可な攻撃は当たらぬだろう。

セラヴィーガンダムから放たれる太いビームの弾幕を回避し続けられはするが、

回避パターンを読まれれば、撃墜されるのは時間の問題だ。

だったら、その時間が来る前になんとかすればいい。

ジュウリは盛大な溜息を一つつき。

 

「ダイズ君。この馬鹿共は私が片付けるから、しばらく避けてて」

「えぇ!? けど姉ちゃん一人じゃ――」

「大丈夫よ、この程度の相手に負けるほど、柔な鍛え方されてないわ。

 っていうかこんな奴らに負けたら、クミさんに殺されるっての」

 

そうは言うが、この手の対戦ゲームで人数不利は致命的だとダイズは知っている。

マナーは知らぬが常識は一緒、通信を聞いていた敵の二人はゲラゲラと笑い出し。

 

『プーっ! そんな武器も持ってないガンプラで何イキってんのあの女!

 ってかなにそのガンプラ、ダッサいデザイン。俺あんなの知らねー』

『あれたしかGレコの奴だっけ?

 あの富野信者がオ〇ニーしたいだけのクソアニメ!』

 

ブチッ。

モニター越しなのに、ジュウリの中でなにかがキれた音が聞こえた気がした。

 

『…………』

 

無言。

ジュウリの駆るダハックは棒立ち姿勢のままスラスターだけで動きだす。

スーッと幽霊みたいな動きでセラヴィーガンダムへと近づきはじめ。

 

『ハッハッ! まずはこの女から潰してやるよ!』

『おい落とすなよ! そっちのギャプランの前でバラして遊ぼうぜ!』

 

ダブルオーライザーの悪趣味な提案に従うセラヴィーガンダム。

手足を狙って放たれる火線は、油断しきっていて、

そんなものに当たるジュウリではない。

スッスッと姿勢ひとつ変えずに動いて回避し、セラヴィーガンダムとの距離を詰める。

セラヴィーガンダムは砲撃を得意とする機体。接近すればいいという考えなのだろうが。

あれは、それだけで勝てるほど甘い相手ではない。

 

『バーカ! こっちにはGNフィールドがあるっての!』

 

セラヴィーガンダムを包み込む、薄緑色のエネルギーバリア。

大出力のビームを持ってしても貫く事は容易ではない強力な障壁。

そのバリアにダハックの右手がソッと触れられて。

バリアは、シュンと吸い込まれるように消え失せた。

 

「へ?」

 

何が起きたのかわからない。呆然とするセラヴィーガンダム。

対照的に、ダハックの背中から細長いクレーンが4つ、バクンッと展開し。

 

「あんた達みたいなのがぁーー!!」

 

怒声と、名称アームド・アームの先端から放たれるビーム弾の連射。

いまだ理解が及ばず無防備なまま、

バックパックに擬態しているセラフィムガンダムごと、セラヴィーガンダムは木端微塵に砕け散った。

 

『な、何しやがった、あの女ぁ!』

 

味方が相手に近づかれながらも、援護もしなかったダブルオーライザー。

セラヴィーガンダムがやられてたっぷり3秒後にようやく攻撃を開始する。

両手のGNソード・ライフルモード2丁と、GNミサイルの一斉発射。

濃密な弾雨がダハックに襲い掛かるも、ジュウリは回避などせず、ダハックの両手を掲げる。

先ほどGNフィールドと呼ばれたバリアよりも色鮮やかな、

エメラルドカラーのエネルギーバリアが手の平から発生し、降り注ぐ弾雨の尽くを防ぎ切った。

 

「なに? その程度で私のダハックを落とせると思ってるの?」

『てめぇぇぇ!』

 

自分は煽るが、煽られるのは許せない。

ダブルオーライザーの全身が怒りを表すように真っ赤に輝きだし。

掲げたGNソードから極太のビームソードが伸びだした。

トランザムライザー。ダブルオーライザーという機体の持つ、最大火力の兵装。

触れればどんな重装甲でも無事では済まない、強力な一撃を前に、

ジュウリの表情に一切の動揺も見えない。

 

「ダイズ君、私の後ろに」

「お、おう」

 

言わるがままに、ダハックの背中へと移動するギャプラン。

静かに怒りに震えるジュウリの声と愛機の背中は、

こう言っては失礼かも知れないが、雄々しく、頼り甲斐がありすぎた。

 

『ぶっつぶれろぉぉぉぉ!!!』

 

振り落とされるトランザムライザー。

待ち迎えるのは、バリアを発生させたダハックの両手。

莫大なエネルギーソードを白刃取りの要領で掴み止め。

極光は、手の平に吸い込まれるように無散する。

 

『うそ……だろ……?』

 

虎の子の必殺技すら、見知らぬガンプラに傷一つ負わせることなく無効化された。

バカな乱入者だとジュウリは哀れむ。

ダハックは、全ガンプラの中でも最高峰の防御性能を誇る機体と知らぬなど。

 

「ほら、もう終わり?」

『うわぁぁぁ!』

 

エネルギーのほとんどを使い尽くしたダブルオーライザーの無謀な突撃。

両腕のGNソードで切りかかるも、それぞれを手の平のバリアで受け止められて。

GNソード経由で、ダブルオーライザーにわずかに残っていたエネルギーをも根こそぎ吸い取る。

『プランダー』。ダハックの両手に搭載された、敵のエネルギーを吸収する強奪の魔手。

併設されたビーム・バリアと組み合わせて使うことで、

ビーム、実弾問わず現在するほぼ全ての武器を防ぎつつ、エネルギーを奪う事が可能。

ガンプラバトルにおいては定められたリソースの大半をプランダーの制御に持っていかれるため、

機動力と火力が著しく低下する欠点こそあるが、

そんなものは、近づいてしまえば関係ない。

目の前でピクリとも動かなくなったダブルオーライザー。

スピーカーからの、操縦桿を我武者羅に動かす音がうるさい。

もういい、さっさと終わらせよう。

アームド・アームの先端から、高出力のビーム・サーベルが形成された。

 

「あなた達はネットワークの向こうから、この私にやられに来たのよね!?」

 

4本のビーム・サーベルが、ダブルオーライザーを切り刻む。

哀れ、知識も経験も浅く虚勢を張るしかできぬ乱入者は、無残に散って姿を消した。

ジュウリからすれば、エネルギーに依存して戦うダブルオーシリーズの機体を相手に、

ダハックが後れをとる事などないと初めからわかっていた話だ。

その背中を間近にするダイズは、圧倒的な光景に、目を奪われていた。

 

「……すごい、これが、ガンプラバトル」

 

煌びやかに輝く、ガーネットのガンプラ。

こんなガンプラを作ってみたいと、憧れを抱かぬほうが無理だった。

 

 

 

 

 

 

 

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