ガンプラビルダーズ・フレンズG-Next   作:いすた

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せっかく、これからガンプラを始めてくれる人が現れたというのに。

乱入者の二人組め、勝てて当然の相手を屈服させてちっぽけな満足感を得ようなどと、

その代償は、新規ユーザーを失って、コンテンツの衰退を招くしかないというのがわからないのか。

初心者狩りというのは大昔から行われている悪行で、いつまでたっても人間は学習しない。

ああ、実にくだらない戦いだった。

PODから出て、ヘルメットを脱ぎながら、思い出したくもないとかぶりを振るジュウリ。

彼は、ダイズ君は嫌な思いをしただろうに。

ガンプラバトルをする人は、あんな奴らばかりじゃないんだと。

もっともっと楽しい事がいっぱいあるから、こんなものは犬に噛まれたと思って忘れなさいと。

……そう伝えなければいけないのだけれど、どう言葉を告げればいいのかわからない。

悲しいかな、カケヒ・ジュウリという女は独り言は得意だが、コミュニケーションに関しては大の苦手であった。

しかも同性ならともかく、相手は年下の異性。

年齢=彼氏居ない歴の女には、いささか厳しい案件だ。

考えが全くまとまらないうちに、背中のほうで、ダイズが入っていたPODの扉が開いた音がした。

 

「あ、ダイズ君。えっと、その、災難だったね」

「……」

 

振り向けば、うつむいたまま、無言でヘルメットを脱ぐダイズが居た。

悔しさからか、肩を震わせて、つかつかとジュウリのほうへと近づき。

 

「と――」

 

長身の彼は、ジュウリの手を取り。

上げた顔は、喜色に染まっている。

 

「とても、素晴らしかった!」

「――へ?」

「凛々しさと猛々しさを併せ持つ貴女のガンプラに、

 私はただただ、魅入る事しかできませんでした!

 ガーネットは実りの象徴とも呼ばれています、あの輝きがどれほどの努力と研鑽の結晶なのか。

 ああ、上手く言葉を紡げぬ私を、どうかお許しください!

 ……美しかった。ええ、美しかったんです」

「う、うつくし――」

 

曇りなき眼で、まっすぐにジュウリを見つめながら語るダイズ。

バカ丁寧な口調と柔らかい笑顔、瞳の中の情熱は全てジュウリの双眸に注がれている。

 

「ジュウリさん、よろしければ、私とガンプラを楽しむ友人となって頂けないでしょうか?

 貴女とならば、このガンプラという世界を、深く楽しめると確信があります。

 まだまだ至らぬ身ではありますが、どうか、お願い致します」

「そ、それはいいけど、いいんだけど……。ねぇ、ダイズ君?」

「はい、なんでしょうか?」

「キャラ、違わない?」

 

ビシリと、ダイズの表情が固まった。

流れる冷や汗は、「やってしまった」と彼の心情を如実に示している。

 

「わ――、じゃない!

 ど、どうよ俺のロイヤルな演技ぃ!」

 

さっきまでと同じ、雑な言葉遣いに戻るダイズ。

羞恥で真っ赤になったその頬に、ジュウリは、ははんと何かを察し。

 

「ふーん、結構無理してるんだ? ”そっち”のしゃべり方」

「ギグゥっ! な、なんのことか……わからねーな」

 

もう最初に持っていた怖いイメージなんて全く無い。

ジュウリはおもしろい玩具を見つけたみたいな悪戯な顔でムフフと笑い。

 

「いいよ、友達になってあげる」

「お、やったぁ! 姉ちゃん話わかるぅ!」

「ねぇ、その代わりもう一度あのしゃべり方してよ」

「それは、勘弁してくれ……」

「え~、また聞いてみたいなぁ」

「マジで勘弁……。ほらさっさとやろうぜガンプラバトル、もっと色々試してぇんだ!!」

「はぁい。じゃ、もう一回行きましょうか」

 

それから数時間、たっぷり二人はガンプラバトルを堪能し続けた。

そう、数時間。

レストランのピークタイムの間も、ずっと、である。

二人がふと気がついた頃には、初夏の空にすっかり帳が落ち、星空まで見えはじめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいモービル店長!」

 

いくらダイズの面倒を見ろと言われたとしても、一番居なければいけない時間にアルバイトが本職をしていないなど。

ましてやガンプラでずっと遊んでましたなど、言語道断である。

時間に気が付いて慌てて戻ってきたジュウリは、

キッチンの中で数十人分の皿洗いをしている最中のモービルに深く頭を下げる。

 

「俺もすみません。姉ちゃんを付き合わせすぎました」

 

一緒にモービルに頭を下げるダイズ。

申し訳なさそうな二人とは違い、モービルは温和な表情を崩さずに。

 

「いいよ、いっぱいガンプラを楽しんでくれてたみたいだし。

 ただ、今度から気を付けてね」

「はい、すみませんでした」

 

本当に優しい人だ。

この人が怒る時って、どれだけ強烈なんだろうとも考えて、

今後絶対に同じ不手際はしないようにと戒めるジュウリ。

と、モービルは、キッチンに用意してあった3つの皿をテーブル席に置き。

 

「はい、夕食。お腹すいたよね? 一緒に食べようか?」

 

いわゆる賄飯というやつである。

肉厚ハンバーグに、特製和風ソースに大根おろし。

ジュウリはともかく、ダイズも御同伴にあずかれるとは。

モービルの極上の料理を食べる機会を逃す馬鹿など居るはずもない。

 

「「いただきます!」」

 

閉店した店内で、テーブル席に隣り合って座るダイズとジュウリ、

向かいに座るモービルの3人だけで囲む食卓。

家族でも兄弟でもない3人が初めて過ごす時間だが、不思議と和やかだった。

ダイズが興味を示すのは、ガンプラに関わる二人の話。

 

「――へぇ、じゃあモービルさんも、昔はガンプラビルダーだったんですか?」

「うん、一応ね。といっても僕は料理のほうの勉強ばかりで、

 ユリカさんと一緒に大会にでる程度しかしていなかったけど」

「やっぱり奥さんって、ガンプラバトル強いんっすか?」

「うん、すごくね」

「ユリカ様はね、強いなんてもんじゃないわよ。

 ガンプラマイスターになってからのあの人の猛攻を30秒も凌げた人なんて、

 同じマイスターの中でも指で数えれるぐらいしかいないのよ?」

「鬼みたいなガン攻めタイプかぁ。

 モービルさんは、どんな感じなん?」

「モービル店長は……、あ~、うん」

 

なんだかジュウリのコメントの歯切れが悪い。

どういう意味なのかと計りかねているダイズ。

どうわかりやすく言おうかと考え、ジュウリが絞り出したのは。

 

「そうね、ユリカ様以上に、勝てる気がしないわ」

「そんなに強いんっすか!?」

「フフッ、そんな事ないよ」

「よく言いますよ。私、ここに弟子入りしてマトモにダメージも与えられた事ないのに」

 

ジュウリがガンプラバトルでもかなりの強さなのは今日、数時間楽しんだだけでよくわかったが。

そんな彼女ですら歯牙にも欠けぬ相手とは、この温和な表情からは想像もつかない。

というか、弟子入りという単語が気になったダイズ。

 

「弟子入りって、ガンプラ関係で?」

「そうよ。アルバイトはそのついで」

「え~っと、僕もユリカさんも、弟子とかそういのとってないからね?」

 

なるほど、ジュウリが無理やり押し掛けているという事もよくわかった。

このお店の人間関係が、ガンプラで繋がっているというのも知る事もできたと。

美味なるハンバーグを平らげて、長くお邪魔するのも悪いかとそろそろお暇しようかと考えていたダイズ。

と、それを止めるようにジュウリは悪戯な瞳を向けて。

 

「それでぇ、ダイズ君はどこかのイイトコの家の子とか?」

「うっ、いや、俺の事は別にどうでもいいだろ?」

「う~ん、僕も聞いてみたいな。いつもご飯を食べる時にとても姿勢が綺麗だから、気になってたんだ」

「モービルさんまでっすか……」

 

ジュウリだけならともかく、モービルにそう聞かれると黙り続けられない。

仕方ないっすと、嫌そうだがダイズは口を開き。

 

「まぁ、うちの家、慈恵は名家と呼ばれる家っちゃ家だけど。

 血統も900年以上続いてるとか言ってたし」

「名家中の名家じゃない。

 そんなお家の子が、なんで不良みたいな恰好してるのよ」

「こういう格好してると、慈恵の名前に群がってくる連中が居なくなるんでな。

 そっちのほうが楽でいい」

「ふぅん、で、その言葉遣いも無理矢理してるわけ?」

「あ~、こっちは、あ~……」

 

言い淀むダイズの顔は、少しだけ誇らし気で。

この表情はさきほど、紫色のパイロットスーツを選んだ時の同じものだった。

ジュウリとモービルならばいいかと、ダイズは話す事を決めた。

 

「慈恵のずっと昔のご先祖様に、俺が尊敬する人が居るんだよ。

 その人は、当時は忍者の軍団だった慈恵のお姫様だったらしいんだけど。

 藤色の装束を身に纏った優秀なくのいちだったとか」

「へ~、女の人なんだ?」

「おう、伝承では『小豆(アズキ)』姫って呼ばれていたらしいんだ。

 その人は、かたっ苦しい忍者の軍団の在り方が嫌で、抜け忍になって自由な世界に飛び出した。

 アズキ姫も、礼儀正しく躾けられた自分が嫌で、わざと雑な男のしゃべり方をしていたって聞いて」

「は~、それで、憧れのご先祖様と同じことをしてるってわけね」

 

案外ロマンチストなんだと、おもしろそうに笑うジュウリだが、そこに嘲笑は混じってはいない。

モービルも面白い話だねと感心しながら、気が付いた事を口にする。

 

「しかし、ダイズとアズキとは、すごい名前の共通点だね」

「そう! そうなんですよ! 父上も母上もアズキ姫の伝承はご存じなくて!

 私に付けた名前が、偶然ダイズだったんです! もうそれを知ったら、嬉しくなってしまって!」

 

この事を話して、受け入れられた事はあまりなかったのだろうか。

弾かれたように喜び、雑な口調にするのも忘れて、素の口調で語りだすダイズ。

隣に座るジュウリは、少年の花咲く横顔を見つめながら微笑みがこぼれ出す。

 

(ふぅん、良いコなんだ)

 

少しだけ年下の、顔立ちが良くて、背の高い彼。

オタクの観点を付け加えるなら、声が良いのもポイントは高い。

とそんな事を考えながら。

ダイズとジュウリ、二人が出会った初めての日の夜は、更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

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