ガンプラバトルを経験してからギャプランの事を調べたダイズだったが。
事バトルにおいては、このガンプラは微妙な評価だった。
その評価に至る理由は、2つの欠点が要因。
1つは、この機体のコンセプトは飛行形態、MAの状態で高速機動し、2つのビーム・ライフルで強襲が得意なのだが。
昨今高速で動いて強力な攻撃を放つガンプラなど珍しくもなく、むしろ溢れており。
同じコンセプトでありながら攻撃手段がビーム・ライフルだけというのはあまりにも貧弱。
もしギャプランをバトルにおいて勝たせたいというのならば、武装の強化は必須だ。
もう一つの欠点は、機動性が高すぎて使い手を選ぶ事。
原作においても強化人間という人体を弄った者でなければ使いこなせず、
何度もデチューンを重ねて、ようやく並の人間が使いこなせるという代物である。
ダイズは初期設定で後期型を選んだため、まだマイルドにはなっているのだが、
それでもMA形態での運用は手に余るようだった。
そうなるとまずは欠点を一つ潰す。
ダイズは休憩がてら工房に来てくれたジュウリに、考えたプランを説明しはじめる。
「まずバーニア、スラスター周りのデチューンだな。
MA形態が基本っつっても、今の俺じゃ使いこなせねぇ。
今は扱いやすさを重視して、これから練習しながら、
少しづつオリジナルに戻していく方向で考えてんだ」
「妥当だけど、……割り切りいいわね。俺はこのまま使いこなすんだとか言い出すと思ってた」
「使いこなせねぇモンを無理に使ってたって面白くもねぇだろ?
使いこなせる状態じゃないと、ビーム・ライフルも当てれねぇし」
「ま、敵からしても、速いだけのガンプラなら近づく手段はいくらでもあるからね」
「あと、即応性を高めてぇんだ。
さっき使ったレンタルガンプラの中でも、あの黒いのが一番使いやすくて気に入ったんだよ」
黒にライトグリーンのラインを差した初代ガンダムのガンプラ。
基本工作の精度とシンプルさの相乗効果で、恐ろしいぐらいの扱いやすさだった。
ああ、と見覚えがありすぎるカラーリングにジュウリは。
「良い眼してるわねぇ。
そりゃユリカ様のガンプラは桁違いよ。
……制作技量はさておき。
それじゃ、まずは操作難易度の緩和ね」
「あとはもう一つの欠点の武装なんだよなぁ。
ビーム・ライフルだけじゃ手数が足りねぇってのは痛いほどわかったんだが、
試しに手持ちの銃を持たせたら、MA形態でフラフラすんだよ」
「ギャプランも私のダハックと同じで、手に武器を持たせる設計してないものね。
かといってフライルーみたいに武装を盛っても使いづらくなるだけ。
そうなると、内蔵武器の追加ね」
「内蔵? ガンプラに仕込むのか?」
「そうよ、MA形態のバランスを崩さず、干渉しない位置。
メインウェポンのビーム・ライフルを活かせるサブウェポンね」
ふむ、ジュウリは少し考えてパッと浮かんだアイデアを空に描き。
「とりあえず、作ってみましょうか。
「へ? 作る?」
「そうよ、私たちはガンプラビルダーだもの」
ジュウリは棚から真っ白のプラスチックの板を取り出し、
タタンと図面を描き、切り出し、箱を組み上げる。
「うおっ! 手際はやっ!」
「こんなものは慣れよ。前腕に小型のランチャーをつけてみましょ」
丁度ギャプランの前腕には”くびれ”があるので、そこにフィットする形に。
弾頭はどうしようかと考えて、そういえばとジュウリは昨日の話を思い出した。
「ダイズ君のご先祖様って、忍者だったのよね?」
「そうだけど」
「じゃあ、シュリケンを発射するランチャーなんてどう?」
プラ板を切り出し、細長い棒手裏剣を数本作り上げて、箱の中へ。
発射口をピンバイスで開けて、あっという間にギャプラン用の武装の形が出来上がる。
「おお! すげぇな姉ちゃん器用すぎだろ!?」
「フフン、これもガンプラビルダーの技よ」
両面テープでギャプランの腕に貼り付け。
即席のシュリケン・ランチャーをもう一つ作って両腕に装着してバランスを取る。
一体彼女はこれまでに、どれだけプラ板工作をしてきたのか。
「いやほんとすげーわ」
「これが気に入ったら、もっとちゃんと作り直してみましょ。
まずは試しね」
最後に作るのは、あくまでもダイズ本人。
ジュウリはするのはきっかけだけだ。
それで十分、初心者には手厚すぎる助力にダイズは感動しっぱなしだ。
「こんなに姉ちゃんに世話になってっと、
何かお礼しないといけねぇな」
「そんなの気にしなくていいわよ、私も好きでやってるだけだし」
「いやそうはいかねぇよ。
姉ちゃんだってバイトで忙しいのにわざわざ付き合ってくれてんだ。
俺にできる事があったら、なんでも言ってくれよ」
「そう? じゃあ考えておくわ」
義理に篤そうなダイズらしい。
それじゃお言葉に甘えて、……とはいえ何をお願いしようか?
男の子の友人に頼める事?
男遊びが得意な女ならパッと思いつくのだろうが、
ジュウリにはとんと無縁の世界である。
まぁ今でなくてもいいかとジュウリは切り替え、時計を見る。
まだレストランのほうには戻らなくて大丈夫だろう。
よし、とジュウリは昨日クリヤーコートを塗り重ねて、
まだまだ塗り途中の赤いダハックを乾燥ブースから取り出し。
「それじゃ、ギャプランの改造プランの手助けに一戦やってみましょうか」
「やったぜ! じゃあ、昨日途中で終わっちまったサーペント250機討伐の続きやろうぜ!」
ガンダムWエンドレスワルツの原作再現ミッションが楽しく。
残念ながら二人で100も倒せなかったので、今日は新記録に挑戦と意気込むダイズだったが。
ジュウリは、いいえと首を横に振り。
「それじゃ新しい視点が生まれないわよ。
だから、今日は、私と勝負しない?」
PODの出撃待機中に、ダイズは考える。
昨日から色々とジュウリにレクチャーしてもらっていたが、
こうして直接戦うのは初めてだ。
二人協力ミッションで共にCPUの敵を倒している時も、
ジュウリのダハックはとてつもないスコアを叩き出しており、
ダイズが苦戦していた相手を、なんともないと屠っていた。
正直、勝ち目はないだろうとダイズは理解している。
実力、経験値、知識、どれをとっても10倍以上の差はあろう。
負けて当然、5分保てば良い方。
とはいえ、じゃあどうでもいいかと投げやりになるような無気力な人間でもなく。
勝つための作戦を考えるぐらいはする。
「あのダハックに勝つための最大の難点が、バリアとプランダーだな」
守るという点に関して言えばダハックを上回るガンプラはまずいないらしい。
ガンプラというよりガンダムの設定としてもバリア特化の機体は少なく、
2000を超える登場ロボットの中で20行くか行かないか。
ただでさえ少ないバリア特化機の中でも、ダハックほど極端な仕様はもっと下回る。
対するギャプランは、似たようなコンセプトの機体は何百と存在し、その中でも攻撃性能は下位ランク。
得意分野であるスピードも、操縦者の問題で活かしきれはしない。
「まぁ、やりながら突破口を見つけるしかねーな」
両者のカタログスペックで考えれば絶望しかないが、
負けるつもりもないダイズは、まずはやってみると決める。
丁度そこで読み込みは完了。
戦いの場は、地球、キャピタルテリトリー。
お洒落な建物に、ジャングルや港湾と様々な地形が広がっている、Gのレコンギスタに登場したステージ。
ギャプランの出撃ポイントは、キャピタルアーミーの戦艦から。
「ジケイ・ダイズ。ギャプラン行くぜ!!」
青空に飛び立つにMA形態のギャプラン。
宇宙空間とは違う、重力下でありながら、それに逆らって飛ぶ感覚はそれだけで楽しい。
いや、楽しんでばかりもいられない、これは1対1の戦い、気を抜けば落とされるのはこちらだ。
前方、ジャングルの上空に、ガーネットカラーのダハックを発見、あちらもこちらに気が付いている。
「まずは先手ぇ!」
攻撃の射程はギャプランに分がある。
MA形態のまま、高速機動からのビーム・ライフル2発同時発射。
バリアを使って軽くあしらうように防ぐダハック。
こんな遠距離のビームなど、バリアの耐久値を1%も減らせはしない。
「ちっ、やっぱり近づかなきゃ、ダメージにならねぇな」
ダハックの射程に入るギリギリまで近づき、ビーム・ライフルを放っては逃げてを繰り返し、
ビーム・バリアの耐久値を少しづつ減らしていくしかない。
もし距離を間違えてダハックに近づかれれば、その時点で敗北が決まる。
戦法は決まった。ギャプランが得意とする高速ヒット&アウェイで――。
ダハックのアームド・アームの先端部ビーム砲、4門から同時にビームが放たれた。
狙いはギャプランの進路のやや頭上。
当たらないようにと下降して回避するギャプラン。
――ダハックは、何事か、一気に頭上から迫って来た。
「なんでぇ!?」
まだ距離はあったのに、どうして詰められた!?
MA形態で近接戦闘など不可能、MS形態に急速変形。
ビーム・サーベルを取り出して迎撃に振り上げるも、ダハックのビーム・バリアに妨げられて、
かつ、ビーム・サーベルのエネルギーが吸い取られていく。
「やべぇっ!」
ビーム・サーベルどころか、機体のエネルギーまで吸い取られかけた。
やぶれかぶれにビーム・サーベルの基部を投擲するも、カツンと軽い音で跳ね除けられ。
ビーム・バリアを展開したダハックはそのまま落下、ギャプランごとジャングルの木々をなぎ倒し、地面に叩きつけられる。
まだダイズの認識は甘い、叩きつけたのち、押し潰される。
ビーム・バリアと地面のプレスに、ギャプランの装甲がメキリと歪み、バキリと砕けはじめた。
「冗談だろ!?」
圧壊まであと1.2秒。
ペダルを蹴り飛ばすように踏み込んで、スラスター全開噴射。
ギャプランの胸部パーツが砕けた瞬間の隙間が幸運となり、
命からがらプレスマシーンから脱出を果たす。
しかし、受けた機体のダメージは尋常ではなく。
全身のパーツがひび割れ、ぐらつき、立つこともままならぬ。
変形も不可能、すれば、自壊しその時点で敗北が決まるだろう。
「っかぁ、強ぇぜ姉ちゃん……」
ゆっくり歩いて近づいてくるガーネットカラーのダハックと。
その操縦者に畏敬の念すら感じる、ダイズだった。
ダハックというガンプラは、それほど人気がある機体ではない。
登場作品Gのレコンギスタのどっちつかずな評価は別として、
ガンプラバトルの攻略サイトのノーマルでの強さランク付けもDと下位クラス。
この理由として、機体の極端なコンセプトが挙げられる。
ビーム・バリアとプランダーの組み合わせによる鉄壁の防御こそ全ガンプラの中でもトップクラスだが。
攻撃性能に関しては、4つのアームド・アームのビーム砲とビーム・サーベルと、
敵に近づかなければ効果的ではなく。
さらに機動力も速くもなく、並程度。
いくらビーム・バリアが強固だろうと、足の速い敵が遠距離から一方的に攻撃し続ければ、
いずれエネルギーを切らして落ちるだけ。
ガンプラバトルでダハックを使うぐらいなら、ハイペリオンガンダムを使え。
あっちの方が射撃武装も豊富で、バリアも全方位展開が可能な上位互換だ、と。
――わかっていない。ジュウリは愛機の評価ページを鼻で笑い飛ばす。
ハイペリオンガンダムはバリアを装備したガンプラでも使いやすく、
バリエーション豊富なSEEDシリーズとして拡張性も高い。
良い事ばかりで非の打ちようもないが、わかっていない。
ダハックという機体は、一度敵に取り付いてしまえば無敵に近い特性を誇る。
原作でも猛威を振るったジャスティマが接近戦を挑んだ瞬間、あっという間に撃破された通り、
この特性はガンプラバトルにおいても変わらない。
最大の欠点である遠距離武装の不足と機動力の低ささえ補えば、
ダハックは最強のガンプラとなる可能性もある。
――だがそれはナンセンスだ。
ジュウリはダハックにそんな姿を望まない。
機動力を高めればその分ビーム・バリアとプランダーの出力は落ちるし、
巨大ビームを放つダハックなんて、解釈違いも甚だしい。
極端なまでのクロスレンジ特化。これがいいのだとジュウリは不敵に笑う。
無論、ノーマルのダハックのままでは接近戦を可能な距離に潜り込む事は難しい。
ましてや相手は機動力がバカ高いギャプランのMA。
だから、ロックオンをせずにギャプランの進路上の少し上に置くようにビーム砲を撃てば、下に回避する。
あとは上から、落下加速エネルギーを加えたスラスターの最大噴射で一気に頭上から接近し、押し潰して圧殺すればいい。
地球上ならではの、重力を利用した戦法。
これ以外にも、この類の接敵技を10以上は習得しているジュウリ。
素組の脆さゆえにギャプランには脱出されてしまったが、勝敗はもう決まったも同然。
ここで、ジュウリは、大事な事に気が付いた。
「ってぇ、ギャプランの装備チェックをしに来たんでしょうが私っ!」
何、全力の本気でギャプランを叩き潰しているのか。
しかも初見殺しの極道殺法まで決めてからに。
つい熱くなるのが自分の悪い癖だ。
とりあえず、この試合は手早く終わらせて次へ行こう。
近づいてトドメを刺そうとするダハックだが、
ヨロヨロと立ち上がるギャプランは、ビーム・ライフルの銃口を向けてくる。
「驚いたわね、この状況でまだ戦意が残ってるんだ」
良いガッツだ。再び闘志が刺激されたジュウリの脳裏から、また手加減なんて言葉が消える。
ビーム・バリア展開。弱々しくも、しかと狙って放たれるビーム弾は、
バリアに触れて散っていくも、負けたくないという気迫が伝わってきた。
ジュウリが作ったシュリケン・ランチャーも連射しつつ、
ビーム・ライフルを撃つ度に自壊していくギャプランは止まらない。
「ホント、気に入っちゃうなぁ」
金持ちのボンボンだなんてジュウリの敵でしかなかったのに。
彼の実直さには、胸を打たれる物がある。
そんな事を考えていたからと、油断なんてしていなかった。
強固に展開するビーム・バリアは、確実に攻撃を防いでいた。
――はずなのに。
「え?」
ビームのたった一発が、無敵のバリアを貫通し。
ダハックの左腕が、宙に舞った。
「慈恵の家を敵に回せば、この国では生きていけない」
一般庶民にはまず知られていない、豪族たちの共通認識。
ダイズは幼いころより自分は皆と違うのだと思い知らされ、
この”敵に回さない”という点には、腸が煮えくりかえるほどに苛立ちを募らせていた。
頭に来るのは、スポーツやテーブルゲーム等の勝負事だ。
これまで相対した連中は明らかに手を抜いて、こちらに勝ちを譲ってくる。
たまに本気を出してくれた相手も、次の日にリベンジを挑めば、不自然すぎるほど弱くなる。
ダイズは、血沸き肉躍る勝負がしたい。
己の全力を出してぶつかって、勝利に食らいつく獣に成り下がりたかった。
その点、オンラインゲームは相手の事がわからいため、
本気のバトルが味わえると、ダイズがゲームに熱中するのは自然な成り行きだったが。
それはあくまでもネット越しの見知らぬ相手。
「――いいぜ、最高だよ、姉ちゃん」
こうして、慈恵の家の事を知りながらも、容赦なく叩き潰してくれたジュウリ。
ダイズは胸の内から溢れ出す感謝が止まらない。
ギャプランはボロボロだ、腕を動かしただけでパーツがバラリと落ちていく。
けれど。まだ。動く。
「付き合ってくれ、ギャプラン!」
勝てなくとも、一発はぶちかましてやらないと気が済まぬ。
ビーム・ライフルとシュリケン・ランチャーを同時に連射。
ダハックのビーム・バリアの貫くには火力が足りない。
せいぜいが、ビーム・バリアに”揺らぎ”が生じさせるぐらい。
ダイズは思う、あの”揺らぎ”を狙えないかと。
揺らいでいる時間は何秒か? 脳にアドレナリンが噴き出し続けて時間の感覚がおかしい。
0.5秒? 0.3秒? いやもっと短いだろうか。
けど、目で見える。だったら狙える。
ビーム・ライフル1発、発射の衝撃で肩が砕けた。
2発、左腕のビーム・ライフルが、シールドバインダーごと粉砕する。
3発目、シュリケン・ランチャー最後の一発がビーム・バリアに刺さり、揺らいだ!
「そこだ!」
揺らぎに吸い込まれるように突き進むビーム弾。
突き刺さり、ビーム・バリアを貫通し、ダハックの左腕が千切れて飛んだ。
それを確認した直ぐ後に、ギャプランは、機能を停止する。
真っ暗になったモニターに「撃墜されました」と表示が現れ、負けた事を知るダイズ。
やっぱり勝てなかった。
悔しいけれど、悪い気分だけではない。
全力を出し切って負けた戦いは、それはそれは気持ちがいいものだから。
真っ暗になったPODの中、スキャナからギャプランを取り出して、直接声をかける。
「ごめんな、負けてしまったよ」
気にしないでいいわ。ありがとうダイズ。
そんな声が、手の中の愛機から聞こえた気がした。