PODから出てきたダイズを待っていたのは、なんともいえぬ、
苦虫を噛む潰したような表情のジュウリ。
ダイズはヘルメットを脱ぎながら。
「いやぁ、さすがだわ姉ちゃん。
あの距離から突っ込んでこれるなんて、びっくりしたぜ」
「ん、まぁ、そういう技だったからね」
歯切れが悪い、聞くか聞かぬか少し迷って、聞くと決めた。
「……最後の、何をしたの?」
「ん?」
「ギャプランの今の装備で、ダハックのバリアを貫けるはずがないの。
でも、君は無改造のビーム・ライフルで破ってみせた。
何かをしなければ、あんな事はできないわ」
新装備のシュリケン・ランチャーにも、対バリア弾など付けてもいない、作った本人が知っている。
ああ、それかとダイズは。
「バリアに弾を当ててる時にさ、揺らぎみたいなモンが見えたんだ。
で、それを狙ったらバリアを貫通できたみてぇだな」
「揺らぎって、負荷で起きるIフィールドの流れの変化の事だと思うけど。
そんな隙間ができる時間なんてコンマ秒の話よ?」
そんなもの、目視ができる事が疑わしいのに。
ましてや狙って攻撃をするなんて、常軌を逸している。
そもそもありえない。
昨日、トランザムライザーを受け止めた時にもバリアは過負荷で揺らいだが、
巨大なビーム・サーベルのエネルギーは隙間から溢れだしはしていない。
揺らぎとはその程度のものでしかない。
そんな、0コンマ秒のタイミングで、遠くから針の穴を通すような真似。
考えれば考えるほどありえない。
しかし、偶然で出来るような事でもない。
「……『鎧通し』だっけ? 忍者が鎧武者を殺す技」
ご先祖が忍者だからって、末裔がゲーム内で技法を使えるとか、そんな事ありえるのか?
いや、もうありえると認めざるおえない。
「ダイズ君、ギャプランの改造はそっち方面で考えたほうがよさそうね」
ガンプラではなく、ビルダーの特性を活かす改造を。
それはそれで考えが甲斐があると楽しみではあるが。
(極められると、私のダハックがまずいわね)
ライバルとしても、ダイズに確かな脅威を感じるジュウリだった。
日もとっぷりと暮れた夏の空。
レストラン・フレンズはディナータイムの客引きは早く。
20時閉店ではあるが、夜の19時にもなれば来客はあまりない。
夜は明日の仕込みをしながら、まばらな来客と他愛の無い雑談に興じるのがモービルにとっての貴重な時間だ。
今日の話し相手は、本日一日中工房に籠っていた高校生の少年。
「どうダイズ君? ギャプランの改造プランはできた?」
賄用のビーフシチューを振舞いながら、料理人としてではなく、
ガンプラビルダーとして気になっている様子のモービル。
「うっす! 姉ちゃんのおかげで、だいぶ先が見えて来たっす!」
今は着替え中のジュウリと、ビーフシチューをごちそうしてくれるモービルに感謝するダイズ。
心から楽しそうな返答に、モービルは満足そうに笑み。
「ガンプラは奥が深いから、これから続けていけばもっと、どんどん面白くなっていくよ」
「うっひょ! 楽しみっす!」
こんな面白いものを今まで知らなかったなんて。
もったいない事をしていたと後悔するダイズ。
と、ここでダイズは一つ気が付いた。
「モービルさん。ガンプラってこんなに面白いのに。
なんで今、人気が落ちてるんっすかね?」
ネットではオワコンと呼ばれ、品の無い輩が自尊心のために侮辱して憂さ晴らしする事も多い。
実際にもガンプラを取り扱う店舗も減少している現状だ。
モービルは複雑そうな顔で、そうだねと前置きし。
「きっと、ガンプラの歴史が長すぎるからだろうね」
「歴史が長いから?」
「うん。ガンプラが生まれて40年以上。
ガンプラバトルも10年以上は続いている。
そんなに長いと、飽きちゃう人も大勢いるよ」
「飽きるって、こんなに楽しいのにっすか?」
「ダイズ君も昨日、パスタが続いてた所からトンカツ定食に変えたでしょ?」
「あー」
「世の中にはパスタを一日9皿食べる人もいるけれど、それは極一部の人だけだよ。
ほとんどの人は、一週間に一度食べるかぐらいじゃないかな。
そういう人は長い間食べなくても気にしない。
確かにガンプラはブームになって、多くの人を魅了したよ。
でも、世の中の娯楽はガンプラだけじゃない。
そういう人達は、いつしかガンプラから離れていって、他の楽しみを見つけたんだ」
「飽きる、かぁ」
自分もそうなるのだろうか?
テーブル上に置いた愛機を見る目が、いずれ変わってしまう時が来るのかも知れない。
と、ここで着替えを終えたジュウリがやってきて。
扉の向こうで話を聞いていたらしく。
「あとは、ユーザーの増加の反動かしらね。
あまりこういう言葉は使いたく無いんだけど、民度ってあるでしょ?
人が増えれば、バカも増えるわ。
それをネットのまとめサイトや煽りがそこだけ抜き出して話題にするから、
余計にマイナスイメージがついちゃうのよ」
「昨日の輩とかか……」
そう話を聞くと、昨日の連中がより頭にくる。
どうせ反省もせずに、今も初心者を探して一方的な戦いを仕掛けているのだろう。
ゲーム、特に対戦ゲームはだいたいどんなモノも同じような悩みを抱えるなとダイズは思う。
同時に、人間はいくら時間が経っても進歩しないな、とも。
口にはしないが、同じ事を思っているだろうジュウリはダイズの向かいの席に座り。
同じビーフシチューを頂きながら。
「ガンプラバトルの存在がガンプラそのもののコンテンツの寿命を縮めたっていう話もあるのよ」
「ええ? こんなに楽しいのに?」
「楽しいけれどね。
ガンプラの古来からの楽しみ方は、芸術作品だったのよ。
ガンプラというキャンバスに、モデラーが魂を注いで一つの作品とする。
それがガンプラバトルができるようになってから、
モデラーにはバトルの性能のみを要求する風潮も広まってきたわ。
さらには、競技として注目された結果、
他人が作ったガンプラで戦うだけのゲーマーも現れて、大きく疑問視された。
まぁ、そういう連中はガンプラ人気が下火になってきたら、さっさと去っていったわ。
ガンプラバトルブームに嫌気がさして消えていった、元来のモデラーが戻ってくる事はないけどね」
「ガンプラが人気が無いっていうより、コンテンツを喰らい尽くされた後って事か」
そういうのは、どうしようもないのだろうか? どうしようもないのだろう。
コンテンツの消耗など、過去、娯楽においていくらでも起こった事だ。
でも、とダイズは。
「私は、今が一番楽しいんです。
ガンプラを知って、ジュウリさんやモービルさんと、こうして一緒に居る時間がとても幸せです」
二人の顔をまじまじと見つめ、にやりと笑み。
「私がお二人に勝てるようになるまで、このガンプラバトルが続いてもらわないと、困りますから」
「……ほぉ、言ってくれんじゃないの」
口調は素で穏やかだけど、負けん気が強い性格は同じ。
ダイズの宣言に、上等と受けて立つジュウリ。
モービルは僕も? と一度呆気にとられたものの、クスッと笑いながら。
「ふふっ、それは楽しみだね」
モービルは、キッチンの方に視線を向ける。
客席からは見えない、裏の棚を見ながら、もう一度。
「……うん、楽しみだね、パワード」
今度は長い相棒に向けて、そう口にした。