IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百三十二話~レースの勝者は~

 

 

 ~~~~~~side「簪」

 

 

 ――――やった!

 

 白式と紅椿の戦闘が始まり、白式のSEがみるみる内に減少しだした時はハラハラしたけれど、最後に表示された紅椿撃破の表示を確認して、私は思わず拳を握り締めた。

 

 やっぱり、織斑君はすごい。最初はビギナー故の基本的知識不足が目立つ彼だったが、恋ちゃんが知り合いにいるからか、たまに私や虚さんでも知らないようなことをさらっと口にしたりもする、知識面ではなんともアンバランスなところがあった。でも、搭乗者としてのセンスや才能は本物だった。

 CBF出走に当たって、飛べない白式でどうやって移動するのかの案を聞いた時も驚いたけど、この短い期間で、当初机上の空論に過ぎなかったそれをちゃんと実用レベルにまで持っていって、本番でやりきった。そして今、あの人が指導したという、私じゃ勝てるビジョンすら浮かばなかった紅椿とその搭乗者を、今正面から戦って下してしまった。

 

 無論、功労者は彼と白式だけど、協力した私も自分のことように嬉しかった。

 大したことは出来なかったけど、それでも私達が、あの人が仕掛けてきた勝負に勝てたんだ。

 

 ――――わっ!

 

 ……いけない。織斑君のほうだけじゃなくて、今目の前の自分のことにも集中しないと。

 私狙いの狙撃を盾を展開して防御、この時のために用意した、目くらましの広域スモークグレネードを弾頭にセットした近接信管ミサイルを発射、炸裂を確認後、その場から離れる。

 織斑君には秘密にしてしまったけれど、今回私もこっそりCBFに出場してしまった。結果がどうこうじゃなくて、レースに参加した方が色々な意味で得られるものが多いと思ったからだ。

 レース中に限り第三世代兵裝を封じての、一般枠での出走だ。打鉄弐式の戦闘能力は識武に頼る部分が大きく、それを封じた場合機動性を除いたほぼ全ての要素が打鉄に劣る。その辺りを考慮してくれたのか、専用機ではあるけれどそんな特例の措置が通った。

 打鉄より機動性が高いのはCBFでは有利ではあるが、そもそも打鉄自体が新世代機の中では強襲や防衛向きで機動性は低めの機体。今回のCBFの一般出走者の中でも、敢えて選んで来てる人はほぼいない。つまり一般枠とはいえ、その中では私は特に不利な部分が多い。

 

 とはいえ。今まで識武でやっていた部分を、そのままIS標準搭載のFCSに切り替えれば、相手側に被ロックアラートが表示されてしまう等の欠点こそいくつかあるものの、今回の仕様用に換装済みの搭載武装は問題なく使用できるし、各能力がないのも拡張領域内に積んだ、この打鉄標準搭載の盾を含む追加のオプションで対応できる範囲内だ。

 ちょとズルではあるけれど、IS非展開のまま使える範囲の識武の能力ならば、バレずに使えるのも意外と大きい。流石に和泉は出力的に殆ど役に立たないが、藤は今回のようなルールだからこそ役に立つ。使用中自分が動けなってしまうデメリットを差し置いても、相手のレーダーの範囲外から索敵が出来るのは大きなメリットだ。

 それに実働時間だけなら、私は一年生の中では上位に入れる自信はある。他の専用機持ちの人達なら兎も角、一般枠の相手なら、準備をしっかりしてきたのもあり、多少ハンデがあっても、戦略的優位を保ったまま逃げ切るくらいのことは私には出来た。

 

 これらの事実に、他の専用機持ちの人達の奮戦で処刑人が一気に数を減らしたのもあり、私は高得点予想者ランクの中には入れないものの、ランク最下位の2~3順位下程の位置につけることが出来ている。

 

 ……でも、ここまでかな。

 データはもう十分とれたし、最大の目的も今達成を見届けた。

 紅椿の高得点は殆ど他出走者の撃破によるものだ。ああして途中撃破された以上は帳消しになり、仮に白式もゴール出来なかったとしても、ちゃんと高得点チェックポイントを通過していた白式の方が最終得点は上になる。

 いざというときにはこっそり手を貸そうと思ったけれど、それももう必要なさそうだ。後は私も適当なところで引き返してゴールできれば――――

 

 ――――!

 

 藤でレーダーの索敵圏内外に映る白い機影を捉える。どうやら私がいる方に向かってくるようだ。

 方角からしてゴールへ向かっているようだが、妙に遅い。あれでは最終タイムボーナスは下がる一方だし、既にゴールへ向かいだしている他の出走者とゴール前で鉢合わせしてしまえば、逃げ切ることすら出来ずに袋だたきにされてしまう。

 怪訝に思って、直ぐにハッとする。直接見たわけではないが、あのSEのダメージレースの内容からしても、紅椿との戦闘が熾烈を極めたのは想像に難くない。白式も無傷では済んでいないだろう。推進系かPIC整波系にダメージを負ったのかもしれない。

 

 少し、迷った。嘘を吐いていたわけじゃないけれど、私の出走が秘密だったのは確かだ。今見つかったら、きっと怒られる。

 でも彼が困っているなら、行かなければ色々準備してまでここまで出てきた意味がない。私は覚悟を決めると、白式が『見えた』方に向けて飛んだ。

 

 

 

 

 「打鉄弐式……? 布仏か? え、なんでだ? 専用機持ちとして登録されてないよな?」

 

 白式が目視で確認できる場所まで来た時、同時にプライベートチャンネルに飛び込んできたのは、案の定そんな織斑君の困惑した感じの声だった。

 今の状態では返事が出来ないので、手で後頭部を掻くようなジェスチャーをして返すと、途端に彼は白けたような目をする。

 ……あはは。大分、彼もわかってきたな。

 

 「……まあ、どんな裏技を使ったのかは知らんけど、なんとなく状況はわかった。で、態々ここで待ってたってのは、『そういうこと』でいいのか? 布仏?」

 

 「……!」

 

 ……彼ははっきりとは言わなかったけれど、言いたいことはわかった。だって、私だって彼の立場だったら同じことを疑う。

 要は、私が彼が消耗するのを待って、最後の最後で得点源として利用しようとしているんじゃないかってことだ。

 悪い状況じゃない。そう思って『くれた』なら、それを利用することにする。

 

 ――――だから、言った。私は自分の詰まらない意地のために、あなたという人を利用するだけだ、って。

 

 そんなニュアンスを込めて、思いっきりできる限りの悪い顔で笑って見せる。

 意図は伝わったのか、織斑君は少しだけ顔を強張らせると……やっぱり悪い顔でニヤリと笑い返した。

 

 「ま、更識先輩の策は破った訳だしな……俺はもう用済みってわけだ。まんまとしてやられたよ、この悪女候補生が」

 

 ――――心外。嘘は吐いてない。私を信頼したのはあなたの勝手。

 

 背部ランチャーユニットにミサイルをセット。選択したのは高速ミサイル。ただし――――こんなこともあろうかという時用の、特別仕様。

 夢現をコール。雪片を構えて真っ直ぐ斬り込んできた織斑君をギリギリのところで受け流し、背後に回ったところでそのまま撃つ。

 

 「あ……?」

 

 迫ってくるミサイルを迎撃しようとする織斑君。

 けれどハイパーセンサーの補助もあってか、そのミサイルの異様さに気づいたようで、目を丸くした。

 

 弾頭に刻印されている『掴まって!』の文字はちゃんと見えたようだ。

 彼からすれば意味がわからないだろうが、それでも彼は対応した。直撃を避けながら雪蜘蛛を巧みに操り、ミサイルを絡め取って……

 

 「うおっ!」

 

 高速ミサイルの推力に流されそのまま飛んでいった。

 ……弾頭に信管も炸薬も積まずに、代わりに推進用の燃料を目一杯詰め込んだ特製高速ミサイルだ。

 ミステリアス・レイディの槍を見て思いつき、追加スラスター代わりに使えないかと思って自分用に作ったものだが……作った後になってから、私のISにはラスティーネイルや雪蜘蛛のような、推進機に自機を接続する手段がなくて活かせないことに気づいた失敗作だった。

 でも、彼なら活かせる。だからこの機会に全部放出し、このまま白式をゴールまで押し込む……!

 

 ミサイルに引かれて飛んでいった白式をすかさず追いかける。構造的に最早ミサイルというよりロケットなので、航行時間は長いがゴールまでは足りない。推進剤が切れる前に次を撃ち込む必要がある。

 ただこのままだと完全に私が織斑君を支援しているだけに見られてしまうので、カモフラージュのために高機動ミサイルを数本追尾させ、彼にはギリギリ当たらない位の位置で炸裂させる。これで見ている人には、ミサイルで白式を撃ち落とそうとしたけどそれをまんまと利用されて出し抜かれ、慌てて追いかけているように見えるはず。

 

 二発目を発射。織斑君は上手く乗り換えた。高機動ミサイルを必死に避けているように『みせる』演技も上手い。

 いける。ゴールが見えてきた。このままいけば、最後の一本を飛ばして丁度ゴールまで間に合う……!

 

 そう、確信してきっと、私はこの瞬間油断が出た。

 だから……次の高速ミサイルをうちあげるのと、ほぼ同時。白式が不意にミサイルを掴んでいた雪蜘蛛を解除、別のPICストリングを展開し、私の背後に急降下するように滑り落ちてくるのに、気づくのが遅れてしまった。

 

 ――――な……!

 

 慌てて振り向こうとしたときには既に、白式の手が私の打鉄弐式の背中に当てられていた。

 

 「……悪いな布仏。手伝ってくれるのは有り難いが、これ以上は余分だ。CBFにそこまで詳しいわけじゃないが、このまま俺が優勝しちまうと、ちょっとまずいことになることくらいはわかる」

 

 「……!」

 

 プライベートチャンネルから、囁くような織斑君の声が響く。

 ……彼の言っていることは、私にもわかる。けど、今この場にすらいない人達の損得なんて、私には関係ない。

 大体、去年あの人がそうだったように、難しいだけで専用機持ちが絶対に優勝できない大会って訳でもない。今目の前にある勝利をみすみす逃す理由にはならない。

 そう思って振り返って彼を睨もうとするも、次に放たれた彼の言葉で私は失敗を悟った。

 

 「特設エキシビションオーダーマッチ」

 

 「……!」

 

 「……その様子じゃ知ってたな? いや、最初からそれ狙いだったのか。本当、まんまと乗せられたもんだよ。このまま何も知らずに優勝してたら、なんやかんやの内に更識先輩とも戦う羽目になったわけだ」

 

 ――――IS学園主催CBFの上位3位までの入賞者は、特別に相手を指名しエキシビションマッチという形でISバトルを行い、注目度の高いCBFという場を借りて、自身の実力をアピールできる機会が与えられる。

 彼が言っているのは、その場であの人と戦うように私に仕向けられていたってことだろう。

 

 ……正直なところ、少しは期待していなかったといえば嘘になる。

 けれど優勝するのは難しいだろうし、彼にそこまでお願いしてしまうのは流石に厚かましいだろうっていうのが、実際の本音だった。

 でも今の流れからすれば、そう思われてしまうのも仕方のないことだ。

 

 俯いたまま、織斑君に何も返せない私に、彼は少し困ったような声で続ける。

 

 「まあ、俺もあの四対一の変則試合を見て何も思わなかったわけじゃない。更識先輩と戦ってみたいってのは確かにあるんだけどな。あの人に自分の力を認めさせるって意味じゃ、それが一番手っ取り早いだろうし」

 

 「……」

 

 「でも、それは別に『今』じゃなくたっていい。優先順位は、お前のことの方が先だ。お前と更識先輩の関係は正直よくわからんし、お節介かもしれないが……不満にしろ文句にしろ、何かあるなら俺に任せるんじゃなく、自分で直接言ってこい。前は四対一なんておかしなことになったけど、一対一なら二人だけの話もしやすいだろ」

 

 「……!」

 

 「口が利けないのに無理言うなってか? おいおい、俺のお節介な妹分と一緒に作った『アレ』、もうできてんだろ? IS展開してりゃ使える筈だ。どうしてとっとと試さない?」

 

 「……!?」

 

 それは……でも、実際にあの人はもう、私の言うこと、なんて……

 思考がグルグルと回る中、織斑君はニヤッと笑って。

 

 「また駄目なようなら、後で恋の奴にでも相談してみろ。最悪、俺が一緒に文句言ってやるからさ。だから――――」

 

 私の背中に当てた掌を握り締め、そのまま殴りつけるように振りかぶって――――

 

 「――――行ってこい!!」

 

 『充填完了。羅雪の使用を提案します』

 

 「……ははっ! わかってるじゃねえか……!!」

 

 「……!?」

 

 ――――何故か、一瞬恋ちゃんの声がしたと、思った瞬間。

 私は織斑君に『押し出され』、信じられないようなスピードでゴールに叩き込まれた。

 

 

 

 

 ~~~~~~side「???」

 

 

 『誰ぞ起きぬものかと思ってはおった。おったが……よもやそれが其方(そち)になるとはのう、雫の』

 

 『同感だ。いや、貴女の力と主の才能を思えば遅かれ早かれとは思っていたけど、まさかこんなにタイミングが重なるとはね』

 

 『うむ。しかし、其方の主の性根が据わるまで、姿形が定まらぬ性質は知っておったが……まあ随分と裡にそぐわぬ姿になったものじゃのう、雫の。依りにもよって徒人とは。母が今の其方の姿を見たら、さぞかし臍を噛むことであろうよ』

 

 『後悔はしていないよ。誰がなんと言おうと、この姿が私のあるべき形だと胸を張って言えるとも。と、私のことはさておき。貴女は目覚めるなり、また随分とやらかしているね熾龍』

 

 『あの雨の子のことかえ? ……いや、御子じゃったか? フン、相変わらず其方は温いことをぬかしよる』

 

 『あの子に対する、貴女の所感に一切間違いはない。その上で同じことを言うのかい?』

 

 『無論。御子が至った次第については憐れとは思おう。じゃがどうあれ、妾等は船であり槌。無の狭間を渡る風にして(しるべ)。稚子とはいえ、仮にもその同胞(はらから)が、妾のように封じられておった訳でもなく、最早意味をなさぬ記憶(もの)に縛られ閉じこもっておる。嘆かわしいとは思わぬか?』

 

 『……それは貴女のような生まれついての強者の物言いだ、承服しかねる』

 

 『異なことを。幾ばくかの差はあれ、妾等は同じものであろうに』

 

 『貴女のような規格外と一緒にされるのはたまったものではないが……頭から否定できないのは辛いところだ。私も結局は貴女の言う(しるべ)に縛られた者に過ぎないのだから。だが、貴女の口からそのようなことを聞くのは意外だよ。貴女は私達の在り方(使命)に対して否定的だと思っていた』

 

 『妾はただ、品性の欠片も感じぬ毛無猿共の礎になってやることに意義を見いだせなかっただけじゃ。その点、今の主は些か程度には見込みがある。まあ、それも我が試練(試し)に耐え得ればの話じゃが』

 

 『……主を得れば変わるものだね。いや、それは私も同じか』

 

 『フン。妾はまだ其方と違って認めた訳ではないがの。それで? 態々声をかけてきよったのは、御子のことを咎める為かや?』

 

 『まあ、概ねその件だ。貴女がまともに聞くとは思ってなかったが……北風が大層お冠だ。そのことだけは、伝えておいた方がいいと思ってね』

 

 『北風……? そういえば。あやつ、明らかに起きておったよな? 何故(なにゆえ)狸寝入りなぞしておるのじゃ?』

 

 『御子と北風はちょっと特殊というか、特別な関係なんだ。このままいくと、今ここにいる中じゃ恐らく御子の目覚めが一番遅くなる。あの子はきっとそれを気にするからと言って、北風はもうずっと前からあんな感じなのさ』

 

 『生温いことを……ん? なあ、雫の。先ほどあやつが怒っておると申したが、よもや』

 

 『……そうだよ。貴女は荒療治のつもりだったのかもしれないけど、ただでさえ記憶が原因で目覚めが遅れている御子を、主ごと痛めつけるような真似をして。これで御子の目覚めが遅れれば遅れるほど、北風は自分の都合で主に迷惑を掛ける期間が延びる。彼女の主の気性を考えればきっとそれでも許すだろうけど、北風もそれで良しとする性格じゃないから……まあ、怒るよね』

 

 『…………』

 

 『ああ、ちなみに北風から言伝があるんだ。聞くかい?』

 

 『聞かん! 持って帰るがよい――――』

 

 ――――殺してやるぞ紫トカゲ……!――――

 

 『ヒィッ……! やめよとゆうたであろうがぁっ!』

 

 『だってちゃんと伝えないと私が殺されそうな剣幕だったし……』

 

 『いくら主を得たとはいえ、其方前と大分性格違わぬか……!? というか、なにあの地獄の獄卒みたいな声!? 北風ってあの、蟲も殺せませんみたいな顔した、どっちかっていうと日輪(ひのわ)みたいにホワホワしたやつじゃったと思うんじゃが!?』

 

 『北風と太陽かぁ。この場合、貴女が北風で御子が旅人かな? で、北風が太陽。あはは、タイトル回収だね』

 

 『ゆうとる場合かぁ! なあ雫の! 其方北風と面識あるんじゃろ? なんとかこう、言いくるめてくれたりは……』

 

 『あっ、じゃあ要件も済んだので私はこれで……』

 

 『見捨てるなぁ! 雫の! おい! お~~~~~い!!』

 『あやつ本当に行ってしまいおった! 薄情者めぇ! ……まあよいわ! あんなもんちょっと面食らっただけじゃ! 北風なにするものぞ! 妾強い!』

 『さて、この際じゃ。他の連中も少し覗いてみるかの……』

 『まずは注目株の雪白と紅月じゃが……何もわからぬではないか! フン、母め。余程妾をあの二柱に関わらせたくないと見える。似合わぬ親心なぞ出しおって』

 『式部は……寝とるが、ありゃ半寝じゃなあ。己が夢を通して主に力を与えるなぞ相変わらず器用な真似をしよるが……回りくどいのぅ。まああやつが全力なぞ出そうものなら能無しの毛無猿なぞ、あっちゅう間に頭がパーンとなってしまうからの、詮方無きことか』

 『赤備、は…………堕ちた、か。最早失意すら湧いてこぬ…………これじゃから、人間というものは救い難いのじゃ……』

 

 

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