IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百三十四話~予感~

 

 

 遠方で光が空に上がっていき、程なくして頭上から落ちてくる。

 それをミーティア先生は手にしたスナイパーライフルで撃ち落とすが、途端に青白いプラズマが周囲にバラ撒かれアリーナにも叩きつけられて遮蔽シールドにジリジリとノイズが走る。

 白煉が言うにはあのプラズマは核融合反応によって引き起こされていて、摂氏1億度を超える熱量を持つらしい。ミーティア先生が上空で撃ち落としてくれているからこれ位で済んでいるが、直撃したらどうなるかなんてのはあんまり考えたくない。

 一応一学期に一度外からシールドを破られて、シールド自体が機能不全になるという事態があって以降、アリーナの遮蔽シールドは仮に破られても即座に再構築される仕様のものに変更になってはいるらしいが……あの火力の前では、それすら気休めにしかならない気がする。

 おまけにあのプラズマの影響でIS学園近郊の磁場が滅茶苦茶になりありとあらゆる通信手段が役に立たず、例によってIS学園は現在孤立無援の苦境に立たされているそうだ。こうもピンチが続くといい加減嫌になってくる。

 

 「で、どうする? 私じゃこれが限界。でもこの海上アリーナを潰していいなら、他の皆が逃げるくらいの時間は稼いでみせるわよ?」

 

 アリーナの中央に集まった、俺たち含む一部の生徒たちと教師陣の前でそう言いながら、自重の10倍以上はありそうなバカデカいスナイパーライフルを片手でヒュンヒュンと回すミーティア先生。

 我が姉といいこの学校人間辞めてる人多くないですかね。

 

 言葉を掛けられた教師陣は目くばせし合った後、我らが副担任山田先生が前に進み出る。

 

 「……いいえ。仮にそれで避難ができたとしても、次にIS学園本棟があのミサイルで狙われるなら意味がありません。コアネットワークの反応から敵はこの場所から目視できる範囲にいるようですし、ここを狙っている内に対処したほうがいいと思います」

 

 「ま、そうなるわよね。セシリアっ!」

 

 「は、はいっ!」

 

 「私の代わりにアレ狙える? 上昇中のを狙えれば尚良し」

 

 「えっと……恐らく単一仕様能力(ナイトビット)を呼べば狙うことはできますわ。ですが……武装の射程距離の問題が。スターライトでは、標的に到達する前に減退してしまうと思います。わたくしでも、お姉さま以上の対応は難しいかと」

 

 「あー……そっかぁ、その問題があったかぁ……ああ、もう! ホンット、BTトライアル参入(イギリス)企業はケチよね! 折角のCBFなんだから、最新モデル(スターイレイザー)の一つや二つ、パッケージ化して送ってきなさいよ!」

 

 「あ、あははは……」

 

 ミーティア先生の口を尖らせながらの自国企業批判に、批判を返すことも賛同することもできないといった表情で目を逸らしながら愛想笑いを返すセシリア。あれは内心代表候補生としてそれはちょっと、っていうのと、でもまあ実際それくらいしてくれてもよかったかな、っていうのが半々と見た。

 しかしそんな二人のやり取りを暢気してるとみたのか、一部の血気盛んな専用機持ちの上級生が焦れ始めた。

 

 「こんなところで時間を無駄にしている場合か!? 生徒会長が拐かされたのだ! 敵を殲滅し、彼女を助け出すこと即ち! 正義の行い!」

 

 「つーかあのミサイル上がってるとこ敵いるってわかってんじゃねッスか。つべこべ言ってねーでさっさとブッ潰しにいきゃいーんスよ!」

 

 「あっ、ちょっと……!」

 

 そしてアメリカの代表候補生の先輩二人が、とうとう山田先生の制止を振り切ってISを展開、アリーナから飛び去ってしまった。

 まあ先生の指示を聞かないのはアレだが言いたいことはわかる。あの二人の先輩はCBF中もセシリアとシャルをあと一歩のところまで追い詰めた実力者だという話だし、あわよくば近所で核ミサイルぶっぱしているクソ傍迷惑花火師野郎を上手いことシメてくれないだろうかと期待したが――――

 

 二人がアリーナのグラウンドからは見えない位置まで飛び去ろうとした瞬間。

 忘れもしない。あの臨海学校での福音騒ぎの際、散々俺とセシリアをズタボロにしてくれた赤い光が、再び空を覆ったのだ。

 

 「なっ……!?」

 

 「えっ……!?」

 

 光は相も変わらず、一度空中にいる二人の頭上を行き過ぎてから、ほぼ直角に二回曲がって引き返してくるというあまりにも不条理な軌道を描いた。

 そしてその網膜に焼き付いた光の軌跡が見える頃には既に遅いという点も変わらず。

 次の瞬間見えたのは、ISのスラスターをワンショットで撃ち抜かれた先輩二人の姿だった。

 

 「ぬおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 「ふぎゃあぁぁぁぁ!!」

 

 体格の大きいケイシー先輩?が小さいサファイア先輩?の真上に墜落し、錐もみしながら落ちていく二人。退場が早すぎる。

 それにしてもまたあの狙撃か……! 改めて他人がやられるの見てもインチキ感極まりない攻撃だ、できれば二度と見たくなかった。

 しかもここでこいつが出てくるってことは……あの福音騒ぎも、亡国機業の仕業だったってことか。

 

 「閉じ籠ってれば火力で圧殺。対応に出れば逃げ場のない海上で不可避の狙撃……はぁー。本格的に殺しにきてるわねー、これ」

 

 ミーティア先生のいっそ感心したといった感じの声が響く。

 セシリアも福音騒ぎのことを思い出したのか顔を引き攣らせていたが、すぐに覚悟を決めた表情で光が飛来した方角を睨んだ。

 上級生の中でも上位の実力者があっさり落とされたことで生徒どころか教師陣の間でも動揺が広がるが、ミーティア先生が持っていたスナイパーライフルを、勢い良く地面に降ろした際の轟音と地鳴りによりなんとか我を取り戻す。

 

 「私は警備責任者代理として非戦闘員の避難を何より優先させなきゃいけない。だから悪いけど、この場は一旦あなた達に託す。けど……一応、私なりの方針は伝えとく」

 

 注目を集めたミーティア先生はそう言うと、未だ空を睨んでいるセシリアに目を向けた。

 

 「セシリア。狙撃手への対応、できるかしら?」

 

 「……狙撃ポイントさえ特定できれば、必ずやり遂げてみせますわ」

 

 「Wow! いいじゃない。マヤ、どう?」

 

 「ごめんなさい。やはり磁場の乱れが酷くて、コアネットワークサーチも上手く……少なくともミサイルを撃ち込んできている敵と違い、目視できる範囲にはいません」

 

 「……!」

 

 ミーティア先生の問いに、眉尻を下げながら困ったように返す山田先生。

 しかしその傍らで、簪がぴょこっと手を上げる。

 彼女のその様子に注目が集まると、簪は少し怯みながらも、

 

 『私、探せます。オルコットさんを、狙撃手のところまで導いてみせます』

 

 と、書かれたスケッチブックを掲げた。

 それを見て、ミーティア先生が口笛を吹く。

 

 「いいわね! じゃあ、狙撃手の対応をまず二人に――――」

 

 「私も行く」

 

 今度は箒が名乗りをあげた。しかしこればかりは、流石のミーティア先生も少し困り顔になる。

 

 「ええっと、ホウキちゃん? 今回は――――」

 

 「勝手を言っているのはわかっている。だが、私の今のISの性質上守る立場にいてもできることは少ない……足を引っ張るようであれば、盾にでもしてくれていい。セシリア、この通りだ」

 

 箒はミーティア先生に窘められるのに先んじて、セシリアに頭を下げる。

 ……焦ってはいるのだろう。亡国機業が再び攻めてきたと知って、今の箒には一時の張り詰めた気配が戻ってきている。

 だがその瞳の奥には確固たる決意が宿っていた。箒にとってはこれはピンチでもあるが、鷹月さんを取り戻すチャンスでもあるのだ。

 

 その辺りを汲んでくれないかと俺はセシリアに声をかけようとしたが、それより前にセシリアはもう決断したようだった。

 

 「わかりました。一緒に行きましょう、箒さん」

 

 「! 感謝する!」

 

 「あーもうはいはい、じゃあ狙撃への対処はその3人で決まりね。で……狙撃手も自分が狙われてると分かれば、ミサイラーへの援護ばかりもしていられなくなる筈よ。狙撃による援護がなくなった辺りで、ミサイラーへの対処班を出す。これは……シャルロットちゃんとラウラちゃんにお願いできるかしら?」

 

 「あ……はい、わかりました」

 

 「フン、まあ妥当なところだろうな」

 

 「ま、待ってください! 未確認の敵への対処を生徒だけにさせるんですか!?」

 

 ミーティア先生によりトントン拍子でメンバーが決まりそうになる中、慌てた様子で山田先生が声をあげる。

 それに対し、ミーティア先生はまあまあと宥めるように手を前に翳した。

 

 「言いたいことはわかるわ、マヤ。でも、一番可能性があるのはこの子達よ。例の臨海学校の事件の後、今後の対策のためにこの子達のISには競技用リミッターの一時解除ができる仕様が追加されてる。当時いなかったシャルロットちゃんのラファールにも、編入時に同じ措置が取られてる。そしてそれはこういう時のため。そうよね?」

 

 ミーティア先生の確認に、簪以外の専用機持ちの面々が頷く。

 

 「相手が亡国機業のISである以上、その仕様は軍用ISと同等と見積もったほうがいい。なら多少技術が拙かったとしても、競技リミッターを外せるこの子達の方が、競技用の訓練機しか使えない私達教師より戦いになるわ」

 

 「それは……そうかもしれませんが……」

 

 「それに……何処からともなく現れてタテナシを襲い、攫っていった黒翼のISの女のこともある。あのタテナシがそう簡単にどうにかされるとは思えないけど、アレが近くにいる以上、危険なのは何処にいても同じよ。そうでしょう?」

 

 「……!」

 

 あのパスカルのことを思い浮かべたのか、山田先生の顔色が青白くなる。

 それでも何か言いだけに視線をしばらく彷徨わせたが、やがて無念そうに項垂れた。

 そんな山田先生を見てミーティア先生は少し申し訳なそうな顔をするも、表情を今までで一番真面目な感じに改めて俺たちに視線を移す。

 

 「まあ、そういうことだから、もしあの黒ずくめの女を見たら脇目も振らずに逃げなさい。チフユがいない今、この学園でアレの相手ができるのは多分私だけだから……倒せるかってまでは約束できないけど、最悪最後は私がなんとかしてみるわ。だから敵を倒せないまでも、せめて避難が終わるまで時間を稼いで欲しいの」

 

 そこまで言ったミーティア先生に全員が返事をしようとしたところで、また遠方で白い光が打ち上がる。

 途端にミーティア先生は足元のスナイパーライフルを蹴り起こし、銃口が上を向いた瞬間片手で発砲。またはるか上空で青白い炎の花が咲き、アリーナの遮蔽シールドからジリジリと嫌な音が響く。

 どんどん悪化していく状況に、あまりに危険すぎる不確定要素の存在。その現実を現在進行形で直視させられ全員の表情に影が落ち始めるも、ミーティア先生はどこまでも明るく声をあげた。

 

 「あ、そうそう……残りの面子は、なんとかここでアレの対処宜しくね。大丈夫! シャルロットちゃん達がやり遂げるまでの辛抱だから!」

 

 「それまで持つんですかねここ……」

 

 「私と同じやり方じゃダメねぇ。ISで出て行って、もっと上空で撃ち落とさないと」

 

 「え……それ死にませんか!?」

 

 「あ、ISなら多分一発は耐えれるわよ、きっと。それに……」

 

 「は~い! ISが壊れたら、わたしと玖尾(きゅっぴー)がぱぱって直しちゃうよ~」

 

 「ってことだから。安心して死んできなさい」

 

 「今死んできなさいって言ったぁ!?」

 

 う~ん……引くも進むも地獄か。

 そんな感じのミーティア先生と他の先生方のやりとりを見ていると、皆が準備を進めている傍らシャルが近くに寄ってくる。

 

 「ねぇ……さっきのミーティア先生の話、一夏の名前が挙がらなかったけど、一夏はどうするの?」

 

 「俺は……ここに残る」

 

 このシャルとのやりとりは箒達も聞いていたのか、それぞれの反応を見せる。

 シャルとセシリア……それと簪は、ちょっと意外そうな顔。

 一方で箒とラウラは納得したような顔で頷く……まあわかる奴にはわかるわな。敢えて俺の名前を挙げなかった辺り、多分ミーティア先生も承知の上だろう。

 

 「そっか。一夏はこういう時、さっきの箒みたいに真っ先に動くタイプだと思ってたけど……あ、いや、文句言ってるわけじゃ、なくて」

 

 「わかってるよ……ただ、そうしなきゃいけない予感がするっていうか……いや、違うな。殺気を感じるって言ってわかるか?」

 

 「さ、殺気?」

 

 「ああ。なんつーか、こう……首筋の辺りがチリチリすんだよ。この感覚がするときは、大体近いうちに避けられない戦ってのがくる。それが『ここにいるから』なのか、『俺だけが』そうなのか。それがわかるまで、できればここから動きたくない」

 

 「そう、なんだ……一夏、気をつけて」

 

 「お前もな。ラウラを頼む……信じてる。絶対無事に戻ってこい」

 

 「……うん! 任せて!」

 

 顔の前で拳を握りしめて気合を入れるシャルを見て、少しだけ和む。

 ……シャルには少しぼかした言い方をしたが、正直もう自分の中では確信に近い。それくらい、この騒ぎが始まってから嫌な気配をずっと感じている。

 正直誰かまではわからない。例の狙撃手かも、ミサイル花火師かもしれない。こいつらの両方かもしれないし、両方違うのかもしれない。だからこそ、まだ動けない。

 ただ、確実なのは――――

 

 

 

 

 ――――どうも。今度の敵の中には、俺を殺したくて仕方がない奴がいるらしい。

 

 

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