IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百三十七話~凶ツ星の剣~

 

 

 「や、やったらあああぁぁぁぁぁ!!」

 

 「代々木先生に敬礼っ!」

 

 最早様式美というか、茶番に片足を突っ込みつつある先生方のやりとりを、俺も申し訳程度に敬礼をして見送る。

 いや、本人たちからすれば笑い事じゃないんだろうけど。

 

 IS学園教師陣の尊い犠牲のお陰で、IS学園の海上アリーナを狙ったミサイル攻撃はなんとか防衛できている。

 先生方も期待の卵達を育てるため各国から派遣されているだけあって優秀で、ISで出て行って先ほどミーティア先生がしてたよりも遥か高空でミサイルを迎撃、ボロボロになって戻ってくる。

 

 ただそんなことを続けていたらあっという間に経戦可能なISがなくなってしまいそうだが、天才メカニックとドクターISとでも言うべきISのタッグが、見るからに戦闘不能といった体のISをあっという間に最低限動けるよう直してしまうため、先生方持ち回りでのゾンビアタックが辛うじて成立していた。

 

 「えっ~と~、ここを~こ~して~……」

 

 ……すごいなあれ。のほほんさん本人はアプリゲーでもプレイしてるみたいにタブレット端末ポチポチしてるようにしか見えないのに、部分展開してるISの尻尾みたいな九本のロボットアームが何してるのかわからんくらい高速で動いて、みるみる内にズタボロになったISを修復している。

 いや待て、なんであのダボダボの袖でタブレット操作できるんだ……? 今回のCBFのことといい、我がクラスの癒し枠は急激にミステリアスな存在になりつつあるぞ。

 先程撃ち落とされた先輩方のISの修復も既に終わっており、他の専用機持ちの生徒と一緒にIS学園本棟へ避難した生徒や観客の防衛に就くことに。

 あのアメリカの二人は最後まで渋っていたものの、最後にはダリル先輩が一度負けた身だから、と引いた形になった。

 

 しかし……先生方にとって地獄みたいな防衛戦も、漸く終わりが見えつつある。

 箒とセシリア、簪のチームが上手く対処できたのか、しばらくしてアリーナから飛び立とうとするISへの狙撃が止んだ。

 それを見届けたことでシャルとラウラがアリーナから発ち、ミサイルを撃ち込んできている敵への対処へ向かった。

 シャル達の結果はまだわからないが、二人が発って数分以降新しいミサイルが打ち上がっていないように見える。

 

 ――――だが……途端に、このアリーナに向けられる殺気が膨れ上がったのがわかった。俺にとっては、どうやらここからが本番のようだ。

 

 そう思って立ち上がろうとするが……何故かミサイル迎撃に加わらず、俺の近くで何処か深刻そうに物思いに耽っていた先生の一人が、急に貼り付けたような笑顔を浮かべて俺を制すように先に立ち上がった。

 

 「や、山田先生……?」

 

 「こういうときに真っ先に動きそうな織斑君がずっと大人しくしていたら、流石の先生でもわかりますよ……もうすぐ、ここに敵が来る。そうですよね?」

 

 ……しまったな、流石に露骨すぎたか。先程のシャルのこともそうだが、自分の振る舞いが周りからどう思われているかにすら気を回せてなかった辺り、自分では戦いを前に出来るだけ冷静を保とうとしていたつもりだが、実際大分余裕がなかったらしい。

 鷹月さんの件で大分キてるのは、どうやら俺も同じのようだ。あまり、箒のことをとやかく言えたもんじゃない。

 

 「思えば今までずっと、何か起こった時織斑君は戦いの場に立ち続けていました……不甲斐ない先生だという自覚はあります。今更何をと、思われるかもしれません。でも……偶に位、先生を頼りにしてくれてもいいんですよ?」

 

 山田先生の言いたいことはわかる。それこそ、俺が逆の立場だったら絶対に同じことを考えると思う。

 だけど――――

 

 ――――やっぱりボク、君が嫌い。

 

 あの時よりも前は向けている。俺を信じてくれている奴らがいるなら、それだけで少しは自分を許せるようになった。

 それでも。やはり、自分のせいで誰かが傷つくのが許せないのは、俺の譲れない一線だった。

 

 言葉こそ何も発しなかったが、俺の目はそんな自分の意思を雄弁に語っていたらしい。俺と目が合った山田先生は困った顔をして、何かを言おうとしたが。

 

 その前に、『黒い光』という、現象としてあまりに矛盾した現象が、アリーナに闇を齎した。

 ……ああ、いつかの『あいつ』かよ。道理で、身に覚えのある殺気だと思ったんだ。

 

 「『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』……!」

 

 咄嗟に白式を展開しようとして、また機先を制された。

 そいつがあの黒い光でアリーナのシールドを削り取り侵入してきたのを見て、山田先生がISを展開し飛び出していったのだ。

 

 ラファール・リヴァイヴ・スペシャル。機体名称『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』。

 IS学園に訓練機の一つとして登録されている、迷彩柄の特別仕様のラファールだ。

 本来扱い易さが売りのラファールなのだがこの機体はPIC制御の仕様が特殊かつ難解で、上級生どころか先生ですら偶に制御をミスって墜落することがあるというラファールらしからぬじゃじゃ馬なため、訓練機としては生徒から全く人気がないのだが……なんと昔は山田先生の専用機だったらしい。

 その特殊なPICの仕様も、代表候補生時代の山田先生が自分の思う様に飛びたいという希望から、自力で一から組み上げたものなんだそうだ。その割に山田先生も偶にこいつに乗って墜落しているのを見るんだが……

 

 ま、まぁでも彼女の武勇伝は一学期に少し千冬姉から聞いたことがある。なんでもかつては千冬姉の後輩の中では一番有望株の代表候補生だったようで、一時は国家代表に王手までかけた。

 しかし代表選抜試合でその本番に弱くあがり症な気質な故に、相手に多少過剰に攻撃を加えすぎてしまい。結局勝負にこそ勝ったが、後からその対戦相手に武装がレギュレーション違反だとの物言いがあり、審議の結果試合には負けてしまったそうだ。

 これについては相手が身分由来の政治力のゴリ押しで審議結果を捻じ曲げたらしく、本当は山田はこんな場所で教師なんかに収まっているような器ではなかったのにと、千冬姉が心底腹立たしそうに話していたのが印象的だった。

 

 仮にその辺りの事前情報を抜きにしても、山田先生の強さは一学期で鈴とセシリアの二人を、一人で相手して尚寄せ付けなかったことで証明はされている。

 他の先生方も、こういう事態に備えて山田先生を敢えて温存していたようだ。専用機があるとはいえ、実質非戦闘員ののほんさんに一時避難を促しつつ、自ら出撃することはせず様子を見ている。

 彼女たちの機体はのほほんさんが直してくれているとはいえ満身創痍には違いないので、そうするしかないというのもあるのだろうが。

 

 ――――こうなってしまったら、空中では変則的な動きしかできない白式が下手に突っ込むわけにはいかなくなった。

 敵のISのことは殆どわからないが、あの山田先生仕様のラファールはマシンガンやチェーンガン、ガトリング砲といった、兎に角大量の弾を全方位にバラ撒く火力重視の武装構成だったはず。迂闊に首を突っ込んで自分が蜂の巣では笑えない。

 とはいえ、山田先生の実力を思えば俺が心配するような余地はない……筈なのだが。

 それでもなにか、無性に嫌な予感がするのは、俺がまだあのモンド・グロッソの日の記憶に囚われているからか……?

 

 俺がそんな感じで下でやきもきしているのを知ってか知らずが、山田先生は侵入してきた黒い白式といった様相をした黒いISの、黒い光を纏った剣での斬撃を、いつか見たヒラヒラと飛ぶ蝶のような動きで危なげなく避けていき、逆に両手のマシンガンで銃弾を雨霰とばかりに相手に浴びせていく。

 だが敵ISの白式モドキには剣を振った直後に黒い残光のようなものがその場に少しの間残り、そこに銃弾が当たるとまるで沼にでも嵌ったかのように『吞み込まれていく』という異様な力がある。敵自身この性質を理解しているようで、一見闇雲に斬りかかっているようで残光を利用し巧みに防御を行っている。

 しかも、敵のあの動き……いや、まさか……

 

 敵の動きを見て感じた俺の疑念は、次の瞬間確信に変わる。

 高機動力の機体で突っ込んで剣で斬るという、とてもシンプルかつ親近感を感じるスタイルでひたすら山田先生に向かっていく敵ISだが、また山田先生に対応されたかと思った瞬間、振り抜いた剣先が不意に『ハネた』。

 

 「っ!?」

 

 反撃しようとしたところで躱し切った筈の剣先が急に伸びてくるような動きに不意を突かれるも、体ごと機体を捻って辛うじて回避する山田先生。しかしその動きでバランスを崩してしまい、高度を落としつつあるラファールの先に回り込むように、敵の追撃が迫る。

 

 「くっ……!」

 

 「……!?」

 

 ヤバい。と思ったのも束の間。

 山田先生はマシンガンを投げ捨て代わりにコールしたグレネードランチャーを斜め下に撃ち込み、敵の黒光に弾ごと呑み込まれないために、発射した擲弾を自身のISの足で蹴り飛ばし自爆するという荒業を敢行。

 至近距離に迫った敵ISを爆発で自分ごと吹き飛ばして距離を離した。

 これには流石に敵も驚いたのか、吹き飛ばされてからはしばらく、山田先生の銃器のリーチを確かめるように周りを飛んで様子見に入る。

 

 山田先生らしからぬアグレッシブな対応にも驚いたが……さっきの敵のあの動き。

 剣を振る動作に見せかけて力を溜め、相手が隙ができたと認識し攻めに転じてきたところで『刺す』突きの動作……篠ノ之流秘剣『羽緻(はち)』……!

 

 「なっ……同門なのかよあいつ!? だけど……」

 

 あんな奴知らないぞ……? いや、顔隠してるから断言できるわけじゃないけど、多分俺達と同じか少し下くらいの女だ。篠ノ之の道場で俺や箒と同世代がいなかったわけじゃないが……あそこは表向きは剣道の道場だったし、基本柳韻さんが師範として来た時は俺も箒もいたから、俺たちの知らないところで柳韻さんが誰かに教えてた、ってのも考えづらい。

 それに確かにさっきのは紛れもなく『羽緻』だったんだが……なんともいえない違和感があった。でもその違和感の正体が自分の中ではっきりしなくて、無性に気持ちが悪い。

 

 しかし俺が敵の正体について探りかねている間に、大きく戦況は動いた。

 再度攻勢に出た敵ISに山田先生が斬られたのだ。機体から大きな金属音を立てて剥がれ落ちる装甲に俺は思わず慌てるが、戦況を見守っていた一部の教師たちがそれを見て何故か口元をニヤリと歪めた。

 一瞬怪訝に思ったものの、すぐにその理由は判明した。山田先生は斬られたのではなく、斬られた振りをして腰部に装着された装甲を自ら『切り離した』のだ。

 切り離された盾のような装甲は、直後自律浮遊を開始し敵ISを取り囲むように移動。しかもその移動がてら、盾と盾を繋げている鎖が絡みながら引き合い、敵ISの太刀腕を鎖で縛り上げた。

 

 「……!?」

 

 「捕らえました……! お願いします!」

 

 山田先生のその言葉を聞き、ISを展開した四人の先生が、それぞれ大きな鉄の筒のようなものを山田先生に向けて放り投げる。

 いや……よく見るとそれは、とんでもなく大きな大口径のガトリング砲だった。山田先生のISより大きいんじゃないかってそれを山田先生は空中で瞬く間に鎖で縛り上げ、無理矢理四連ガトリング砲として成立させると、拘束されている敵に向けて構えた。

 

 「あなたは既に、私の『絶対制空領域(シャッタード・スカイ)』の中にいます。その状態でこの『クアッド・ファランクス』の掃射を受ければ、いかにISを展開していようと無事では済まないでしょう……どうか、投降を」

 

 凄いな、あの一瞬でもう敵を詰みの状態まで持っていった。あんなんやられたら、俺だったらもうとっくに白旗あげてるぞ。

 だが、敵は俺と似たようなIS乗りの癖に俺とは大分考え方が違うらしい。山田先生の降伏勧告に、即座に縛られていない方の手で中指を立てて応えてみせたのだから。

 これには流石の山田先生も目を見開いた後、瞳に冷たい光を宿して首を振った。

 

 「そう、ですか……では、ここで墜ちてください『亡国機業』」

 

 『――――聞けぬ話であるな『IS学園』』

 

 そして山田先生による最後通牒がなされた直後。

 まるでそれに応えるような、恐らく俺と白煉にしか聞こえていない低い男の声が敵のISから響き。

 

 「なっ……!?」

 

 『……!?』

 

 俺達がその声に驚く間もなく、轟音が響き渡り文字通り空が閉ざされるような、残酷な処刑が始まった。

 

 

 

 

 それは、銃殺刑という言葉すら生温いような、一方的な暴力だった。

 敵ISは山田先生が切り離した盾の檻の中で、四門のガトリング砲の掃射を身動きも取れないまま浴び続ける。

 あのガトリング砲は高威力だが集弾性が悪いようで、時たま弾があらぬ方向に跳ねる。だがそんな弾すら山田先生が片手で掴んだ鎖で操る、高速で動く四枚の盾が拾い、敵ISを鎖でグルグル巻きにしながら、跳弾させて当てていく。

 最早盾の檻の中では悍ましい程の金属音を立てながら無数に跳弾が発生しており、それに伴い発生する火花と黒煙で中が見えないが……恐らく悲惨なことになっているのは、想像に難くなかった。なにせ生身の人間なら一発当たっただけで血飛沫になって跡形も残らないようなガトリング砲四門の掃射に加え、跳弾の追撃つきなのだ。

 千冬姉は不満そうにしてたが、正直これを代表選抜戦でやらかしたんなら、山田先生には悪いが相手からクレームが入るのもちょっとわかってしまう。

 どうみても虐殺だもんよこれ。普通の相手なら5、6回沈めて尚余りある火力だが……

 

 『『絶対制空領域(シャッタード・スカイ)』……イメージインターフェイスすら用いず、純粋なマニュアル操作だけであれだけのことができる搭乗者がいたとは驚きです。しかし……』

 

 「……ああ。わかってる。白煉、準備しといてくれるか?」

 

 だが、それは敵が普通の相手ならの話だ。

 さっきの『声』は、恐らく白煉や紅焔と同じ完全自律タイプのAIだ。

 白煉が言うには間違いなく束さんが作成に関与した個体ではないそうだが、だとしても仮に黒煌や紅焔並みのAIだとしたら、そいつらを相手にする厄介さは骨身に染みて知っている。

 それに襲撃が始まってからずっと感じている殺気が未だに途切れていない。少なくとも、あの銃弾の監獄の中にありながらまだ搭乗者は健在だということだ。

 だけどせめてワンチャン、あれでやられてくれないかという期待もあったのだが……案の定、裏切られることになる。

 

 「っ!?」

 

 黒い光の柱が山田先生の盾の檻を突き破った。

 光に盾の内一枚を完全に呑み込まれ、さらにもう一枚も七割ほどの面を抉られ、鎖も断ち切られて操作が維持できなくなり落ちていく。

 それでも山田先生は諦めずに手にしたガトリング砲を撃ち込み続けるが、もう一度黒い光が走った瞬間とうとうそれを投げ出して上昇。

 山田先生はギリギリ難を逃れたが、四連ガトリング砲クアッド・ファランクスは横薙ぎに薙ぎ払われた、巨大な黒い光の剣に跡形もなく消し飛ばされた。

 

 冗談みたいな凶悪な魔剣が残光を残して姿を消すと、その仄暗い残光の向こう側に殆ど無傷の敵ISが姿を現す。

 そして、今まで頑なに閉ざしていた口を開いた。

 

 「――――フン。こんな豆鉄砲で勝ったと気取っていたのか」

 

 『……防御を吾輩に一任しておいて、あまり大きな口を叩かぬことだ名失せ。お前単体では、先程のでとっくに墜ちているのである』

 

 「黙れ」

 

 は……? なんだ、気のせいか? いや、だけど、あの声は……!?

 混乱する俺に、敵はあの学園祭の時と同じような、妙に陰湿でドロドロした殺気を乗せた視線を向けてきたのを感じた。

 

 『作戦目標を確認。だが……あの教師は任務遂行において障害となろう。後3秒間はお前の『零落白夜』で拘束できる。手早く片付けよ』

 

 「五月蠅い、私に指図するな毛虫……!」

 

 敵が恐らく自ISのAIと思われる存在とそんな会話をしている間にも、山田先生は新しい重火器をコールし射撃を続けていた。

 しかし先程の大規模攻撃の余波で敵IS周囲には黒い残光が(とばり)のように降り、銃弾は悉くまるで別空間に飛ばされているかのように吞まれていく。

 一方で敵は全く自らの生み出した黒い残光の影響を受けないようで、帳を瞬時加速で搔い潜り、一瞬で山田先生に肉薄。

 

 「ゴミが」

 

 先程までとは逆に黒い残光の檻に囚われ身動きが取れない山田先生に、剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 「っぶねー……」

 

 「あ……織斑、君……」

 

 備えておいてよかった。

 山田先生の危機に俺は咄嗟に白式を展開。雪蜘蛛で山田先生のラファールの足を引っ張りバランスを崩させることで、敵ISの斬撃から逸らしつつ、ISの装甲の大部分を失い落ちてきた山田先生を飛び上がって下から抱きかかえた。

 

 「は、離してください……私、まだ……!」

 

 「そんな有様で何言ってんですか……あの! 先生方、山田先生をお願いします! 出来れば、先生方も避難を」

 

 山田先生を抱いたまま雪蜘蛛の上を滑り、ゆっくりと地上に降り立つと、腕の中で弱弱しく抵抗する山田先生をなんとか他の先生方に預け、俺こちらを見下ろしてくる敵と向き合う。

 

 「だ、だけど織斑君……!」

 

 「自分でわかってるでしょう? 今の先生方のガタガタのISじゃ、あいつの相手は無理です……それに、敵もどうやら、俺をご所望みたいなんで」

 

 「くっ……! 布仏さんに、共食い整備でも何でもして貰ってすぐに戦闘可能なISを確保するわ! 織斑君は時間を稼いで! 危なくなったら逃げなさい! 絶対だからね!」

 

 「うっす」

 

 山田先生を抱えながら、先生方がアリーナのピット内に一時避難していく。

 敵はそちらには全く興味がないのか、あのお面のようなバイザー越しに、俺に殺意を込めた視線を送ってくるだけだ。

 さて……じゃあひとまずは、先生に言われた通りに、時間稼ぎをしてみますかね。多分、ダメだろうけど。

 

 「よう。随分と剣呑な様子だが、俺に何か恨みでも? つっても、最近の悪事といったら学園都市にあるスーパーで、特売の卵の最後の一パックを、オバさん達が争奪戦してる中横からこっそり掠め取ったくらいしか心当たりがないが。お前、あん中にいたっけ?」

 

 「……死人が動いている。今を生きている人間からすれば、その事実だけで腹立たしい。そうは思わないか?」

 

 「……会話になんねーなこれ。何、その筋の宗教の人だったか? うん、いい加減な対応して追い返したのは謝るよ。最後に対応したの三年くらい前だけどな」

 

 「おや……? そちらこそ、心当たりがないのか? 三年どころかほんの一年前、『ここ』を撃ち抜いてやった仲じゃないか」

 

 そう言って、自分の右脇腹辺りにISの親指を当てる女。

 は……? こいつ、まさか……あのモンド・グロッソの時、レイシィを助けに向かった俺を、後ろから撃ちやがった――――

 

 「いや、そうか。あの時、お前を見ていたのは私から一方的にだったから、面識がないと感じるのは当然か。許せ、本来あの場でこれっきりとなる仲の筈だったのでな……折角だから最期までたっぷり苦しむところを撃ってやったが、まさかそれが仇になるとは。まったく……まぁ、いい。ならば、今度こそ――――」

 

 「テメェ……!!」

 

 山田先生の必殺技は、一見全く効いていないように見えて確かにダメージを与えていたのか、壊れかけていた敵ISのお面状のバイザーの留め具が今になって完全に砕けた。敵のバイザーが外れ地に落ちていく。そして、その下から現れた敵の、顔は――――

 

 「――――死んでくれ、織斑一夏。私が私で在る為に」

 

 ――――他の誰よりも見知った、かつて少女だった頃の姉が、見たこともない表情(かお)で嗤っていた。

 

 この敵が、今になって俺の前に現れた意味はわからない。わからない、が……

 

 IS学園に来て、色々なことがあって。これからは前に進みたいと、思った。

 けれど――――そんなことは許さないと。逃れられない過去が追いかけてきた足音が、この時聞こえた気がした。

 

 






それは太陽の名を戴く暴威
負の衝動のまま己すら()く死の日輪
戦禍の果てに何もないと知りながら鏖殺(おうさつ)装置は動き出す

次回 虐殺機工
ソレイユ・リヴァイヴ・リビルド
モデル:デストロイワークス


全部、全部。あそこで、間違った。
だから、ボクが……やらなくちゃ。
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