IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百三十八話~虐殺機工~

 

 

~~~~~~side「シャルロット」

 

 

 ――――空が焼かれている。

 思わずそんなことを感じずにはいられない程、強烈な敵のミサイル攻撃が続く時間は、実際の時間よりもかなり長く感じた。

 だけど箒達が上手くやってくれたようで、レーザーによる狙撃が止んだところで僕とラウラは飛び立った。

 イブさんのことは気になったけれど……まずは、このあまりに危険な攻撃を仕掛けてきている敵のことだと気持ちを切り替える。

 亡国機業……どんな敵が相手でも、絶対に止めてみせる……!

 

 「なるべく早く、アリーナを離れるぞシャルロット……私達が近づけば、敵が標的を私達に変更する可能性がある。そうなっても対応はできると思うが、アリーナを巻き込んでしまうのは避けたい。対応に当たっている教師達にも迷惑だろう」

 

 「わかってるけど……対応できるかな? 今こそ高空で撃ち落としてるからこれくらいで済んでるけど、至近距離で爆発されるとISでも厳しいと思うな……」

 

 「レーゲンに今射程を大幅改良した『ブリッツ』を積んでいる。AICでも対応可能だとは思うが、私達を狙ってきたらこれで撃ち落とす。ただ……軍属として狙撃訓練もしてきたが、正直自信があると言い切れるほどの腕はない。その時がきたら観測手を頼めるか?」

 

 「了解したよ。でもレーダーが効かないから、打ち上がる瞬間を見逃さないようにしないとね」

 

 「ああ。いっそもう少し移動したら敵IS本体を直接狙――――避けろシャルロットっ!!」

 

 「!?」

 

 突然のラウラの警告に、スラスターを作動させて思いっ切り横っ飛びする。

 すると先程まで僕がいたところを、火の玉のような砲弾が凄まじい弾速で通り過ぎていった。

 魔法の設計図(ソルティレージュ・スキーム)で解析できたのは一瞬。けれど拾えた僅かな情報すらとんでもない要素が詰まっていて、僕はすぐさまラウラに叫んだ。

 

 「ラウラっ! 僕の後ろにっ!!」

 

 「っ!?」

 

 ソルティレージュ・ガチェットを発動。

 大型物理シールド『パシオン』の表面を耐熱コーディング、かつ最大強化状態に改造しコール。

 それを構えた僕の影にラウラが滑り込むのと同時、先程の砲弾が恐らく海面に着弾。途端――――

 

 ――――青白いプラズマを周囲に撒き散らしながら大爆発を起こした。

 僕らのいた場所は着弾地点からそれなりに離れていたが、それで尚呼び出したパシオンが一瞬で赤熱化し融解し始める程の熱線と爆風が僕等を襲う。

 おまけに強烈な熱線は海面を破裂させ、海そのものが巨大な爆弾として二重に牙を剝いてくる。

 

 「く、くううううぅぅぅっ!!」

 

 「しゃ、シャルロットっ!」

 

 なんとか耐えきった……! けどパシオンは使い物にならなくなり、僕のラファールの腕部マニピュレータが一部融解。

 あまりの膨大な熱量で大量の海水が蒸発したためか、辺り一面が陽炎でゆらゆらと揺れ、一気に湿度と周辺温度が上がりクラクラもして、方向感覚がおかしくなりそう。

 

 「無事かシャルロットっ!? 今のは……!」

 

 「なんとか大丈夫、だけど……あの敵、頭おかしいよっ! ミサイルだけかと思ったら、今度はよりにもよって多薬室砲で核弾頭を直接撃ち込んできた……!」

 

 「多薬室(ムカデ)砲だと……!? くそっ、敵の武器はゲテモノだらけかっ! こうなれば多少無理をしてでも一気に接敵(アプローチ)するしかあるまい、絶対砲弾に当たるなよシャルロット!」

 

 「それしかないね……あとラウラ、AICもダメ。弾頭内核融合を、弾頭にかかる運動エネルギーがなくなった瞬間に反応するようにしてるみたいだから、多分止めた途端にドカン」

 

 「!? ……本当に、お前が一緒の作戦で助かった。その『目』、この先も頼らせて貰う」

 

 「任せて。さぁ、行くよ、ラウラ!」

 

 こうして、箒達と比べれば遥かに近場なのがせめてもの救いとはいえ。

 僕達の、命懸けのアプローチが始まった。

 

 

 

 

 「あれ、は……!?」

 

 敵の姿を遠目で捉えた時、最初は何かの勘違いじゃないかと思った。

 

 どこかラファールに似たシルエットに、僕の機体と同じオレンジのカラーリング……のように『最初は』見えた。

 左腕に直接取り付けられるような形で展開している多薬室砲は、別名通りムカデの肢のようにゴテゴテと砲身に取り付けられている全ての薬室が赤熱化し、冷却部と思われる場所から青い炎のような陽炎が立ち昇っている。

 

 大分手が加えられているようで、僕の知っている『それ』とはもう随分と様変わりしてしまっているが、間違いない。あれは、あの機体は――――

 

 「ソレイユ・リヴァイヴが、なんで……!?」

 

 あの凶悪なミサイルで、皆を苦しめ。

 そしてここに至るまで、色んな意味で掟破りの砲撃によって散々僕とラウラに冷や汗を流させてくれた敵は。

 

 僕のお父さんが開発し、その際技術提供をしてくれた企業に対しての返礼として贈呈された、『ソレイユ・リヴァイヴ』の初号フレームに違いなかった。

 それを知った僕が思わず呆然と零してしまった言葉で色々と察したのか、横を飛ぶラウラが苦い顔をする。

 

 「お前の父親に技術提供を行った企業、だったか……恐らくそこは亡国機業のフロント企業の一つだったのだろうな。奴等の本来の姿を考えれば不思議なことではないし、サイレントゼフィルスの件も、頑なにイギリス政府が奪われたという事実を否定している辺り、奴らに似たような手口で召し取られたISフレームは意外と多いのかもしれん」

 

 「そんな……デュノアが亡国機業に加担してしまってた、なんて……」

 

 「心中察するが、今悔やんでもどうにもならん。来るぞ……!」

 

 「う、うん……!」

 

 敵も流石にこの距離で核弾頭など放っては、仮に当てても自分も巻き込まれるのはわかっているのか、未だに炎のような陽炎を吐き出している多薬室砲を腕の装甲ごと量子化格納する。

 その際に敵ISの搭乗者は左腕が肩先からないことに気づき、思わずギョッとする。更に代わりとなる追加武装のコールが異様に早いことにも、驚きに拍車をかけた。

 

 「あれ、まさか……僕と同じ……!?」

 

 「『高速切替(ラピッドスイッチ)』持ちか……ただでさえ規格外の武装ばかり使う敵だ、惑わされるなよシャルロット!」

 

 「ひえっ……またあんな馬鹿みたいな変態兵器を……!」

 

 敵が新しく展開した、巨大な手のような装甲から伸びる爪状の超大型五枚刃チェーンソーから女性の悲鳴を思わせる高音と火花を散らし、真正面から突っ込んでくる敵に少し腰が引けそうになりながらも、僕は応戦すべく拡張領域から武器を呼び出した。

 

 

 

 

 「ひっ……!?」

 

 「くぅっ……!?」

 

 悲鳴のような金属音と爆音を響かせながら横を掠めていくチェーンソーを、いっそ大げさなぐらいに避ける。

 いくらシールドと絶対防御があるにしたって、直撃すれば真っ二つは免れ得ないような攻撃だ。立ち回りは慎重にならざるを得なかった。

 さらに――――

 

 「ぐうぅぅぅ……! あっ……」

 

 「ラウラ、危ないっ!」

 

 咄嗟にAICで防御を試みてしまったラウラがISごと真っ二つになるところを、腕を引っ掴んでギリギリのところで難を逃れる。

 

 敵ISに、AICが効かない。

 いや、一瞬動きが止まりはする。けれど、すぐに纏わりついた空間を無理矢理引き剝がすようにして動き出す。

 ラウラが言うには、敵のPIC出力があまりにも高すぎる故らしい。AICによりPICを上書きして慣性を消し、空間に縛り付けても、元のPICがすぐにそれを上書きしてしまうそうだ。

 そんなことであのAICを破れるのであれば、もっと世にそういう調整のISが出てきても良さそうなものだけど……ラウラが更に言うには、普通はそんな馬鹿なPIC調整を行ったISは満足に動くことすらできなくなるらしい。

 

 実際、敵にもその兆候はある。

 敵ISは、規格外な武器を扱っていることを加味しても攻撃が非常に大ぶりなことに加え、動きが速い反面突進を仕掛けてきた際は必ずオーバーランを起こす。飛んだ際も乱高下や横揺れが酷く、偶に滑るようにあらぬ方向にぶっ飛ぶ。

 だからとても隙は多い、んだけど……僕達の武装と敵の更なる特性が嚙み合わず、苦戦を強いられている。

 

 「ああ、もう……! 耐熱仕様FMJ弾でもダメだ! ラウラ、他に何かない!?」

 

 「ワイヤーブレードも焼き切られた。レールカノンなら貫通できそうだが……すまん、流石に外しすぎた。敵に見切られつつある」

 

 全てISが標準搭載している、搭乗者やIS本体を攻撃から守るEシールド。

 敵のソレイユ・リヴァイヴのそれは、太陽の名を持つ機体名に相応しく強烈な灼熱を纏っていて、半端な実弾攻撃はIS本体に届く前に融解する。榴弾系も、敵ISシールドに近づくと太陽のフレアのような反応が起き、爆発して大幅に威力を軽減されてしまう。

 メインの武装が実弾系ばかりの僕とラファールには天敵のような相手だ。デュノア……というよりフランスのIS開発企業にはE兵器開発のノウハウがないのがここにきて響くなんて……!

 ラウラにしてもワイヤーブレードによる牽制や拘束が一切効かず、近接用のプラズマ兵装にしても、AICが効かない上に高出力PICの為パワーもスピードも上で、絶対防御があっても尚危険な武器を振り回して暴れる相手に中々接近できず苦戦している。

 

 僕の知ってるソレイユには、あんな機能はついてなかった筈なのに……! それに――――

 

 ――――発射した実弾が、即座に液体化して弾けてしまうような高温。いかにISとはいえ、常にそんな高温に晒され続けて、無事に済む、筈が……

 

 そこまで思い至って敵ISを改めて観察し……血の気が引いた。

 僕のラファールに近い色合いのオレンジカラーは、元の機体の色じゃない……ソレイユの装甲は、その悉くが赤熱化し、融解を始めていた。遠くからでもその色がよく見えたのは、敵の装甲がそれによって仄暗く光っていたからだとわかった。

 ……どうかしてる! あんなISに乗り続けていたら、搭乗者だっていつかは……!

 

 「うわっ!」

 

 「何をしているシャルロットっ! 殺されたいのかっ!」

 

 自殺志願者……いや、現在進行形で自殺し続けている(・・・・・)敵を見て、思わず動きが止まってしまい。もう少しで五連チェーンソーの直撃を受け頭が跡形もなくなってたところで、ラウラのワイヤーブレードに引っ張られる形で救出される。

 

 「ご、ごめんっ!」

 

 「これで互いに貸し借りなしだ……だがこれでは埒が明かんな」

 

 「そうはいっても僕には決定打はないよ……多分僕の武装はどれも、あの敵シールドの高温に耐えられない」

 

 「武装については私も似たり寄ったりだ。射撃E兵装を一つでも積んでおくべきだった……と、今更言っても仕方あるまい」

 

 「ねぇ、ラウラ……」

 

 「……わかっている。無理に攻勢にでなくても、あの敵は恐らくここで私達が時間を稼いでいるだけで、程なくして自滅する。だが……」

 

 ラウラも流石にわかってたか……敵とはいえ、ソレイユの搭乗者が自ら死に向かっているのは、ハイパーセンサーのバイタルコンディションの表示を見るまでもなくわかる。早く、止めないと……!

 

 「ことここに至って敵の心配とは。お前も大概だな……だが、敵の自滅を待ちたくないというのは同意だ。これが陽動の可能性もあるし……なにより、最後の最後で自棄になって核で自爆などされてはたまらんからな」

 

 「うえぇっ……それは考えてなかったよ……」

 

 それに……ラウラはいつものように不敵に笑ってるけど、ISスーツに血が滲みだしているのに気づく。

 対戦相手の鈴が意識不明のまま病院に担ぎ込まれていった印象が強くて忘れていたけど、ラウラも先のCBFで少なくない負傷を負っている。不幸中の幸い搭乗者保護機能が早めに働いたお陰で、見た目の割に失血はそこまでではなかったらしいけど、この様子じゃまた傷が開き始めたらしい。

 記憶違いでなければ、確か右足も折れてた筈だ。ISの性質上、PICの制御さえしっかりしていれば、足の骨が折れていても自立も飛行もできる。でもそれはあくまで理論上の話であって、苦痛は切り離せるものじゃない。

 緊急治療用のナノマシン注射によって応急処置は済ませているとはいえ、ラウラは本来安静にしていなければいけない状態な筈なんだ。

 

 決着を急がないといけない理由が増えた。けど、それを僕に悟られることをラウラは望まないだろうから、敢えておどける様な態度をとってみたけれど……バレてるな、これ。

 

 「ふっ……お前はそれでいい。シャルロット、20秒……いや、15秒だけでいい。奴の動きを止められるか?」

 

 「あんなに滅茶苦茶に動いてる敵を!? う~ん……試してみるけど、多分できて一回だよ。何か、隠し玉が?」

 

 「敵がPICを強化しているなら、こちらもAICを強化する……この『眼』を使う。ただ、先程のCBFでの凰との戦闘で多少酷使し過ぎた。眼を開くまで少し集中しなくてはならない……こうなるとわかっていれば、凰の誘いになど乗らず温存していたのだがな」

 

 「……あまり無理して欲しくないけど、そうも言ってられないよね。わかった。任せて、ラウラ」

 

 集中に入ったラウラの前に出て、敵に向けてアサルトカノン(リオン)を連射。

 榴弾は敵シールド手前で発生するフレアに悉く焼き尽くされるが、爆煙が敵を覆う。今のうちに……!

 

 パイルバンカー(シュープリス)をコール。これも溶かされるだろうけど、爆煙の中から飛び出してきたタイミングでの奇襲を狙う。強い武器があるのは、そっちだけじゃないってことを教えてあげる……!

 敵が爆煙を突き破ってきたのに合わせ、瞬時加速を発動。先程のダリル先輩との戦闘で習得した個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)も駆使し、敵が大型チェーンソーを展開している方とは逆の右側に上手く回り込めた。

 これなら……!

 

 敵シールドの灼熱に突っ込んだ途端、肌を灼かれるような痛みを味わいながらも、処刑杭(シュープリス)を敵に突き刺した……が。

 敵の手元に一瞬だけ白い光が走り、手元に返ってきたのは杭が敵を貫く感覚ではなく、金属と金属が激しくぶつかって弾かれる轟音。

 敵は高速切替(ラピッドスイッチ)で、瞬時に片手で片方ずつ取っ手を持ち、全身を守るような巨大な半球状の盾を呼び出して、僕の一撃を防いでいた。

 敵に回して初めてわかる。高速切替持ちがここまで厄介なんて……!

 

 ――――くっ、でもこの距離なら銃弾も届くはず!

 そう思ってこっちも高速切替で二挺のアサルトライフルを呼び出すも、その前に敵は呼び出した盾の前面をガチンッと扉を閉めるような動作で閉じた。僕が守りに入られたと思ったのも束の間。

 

 ――――閉じられた盾の表面からハリネズミのように、膨大な数のパルスレーザー砲が飛び出してきた瞬間、僕は敵の武装の規格外さをこの期に及んで舐めていたことと、これからその高すぎる代償を払わされることを嫌でも悟ることになった。

 

 ……あっ。終わった……

 敵の構えた盾そのものが緑色に光って見える程の飽和攻撃を前に、僕は全てを諦めかけて――――

 あわやというところで、何かに足を引っ張られる感覚と共に吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 「はぁ……まったく、世話の焼ける……」

 

 宙吊りにされて反転した視界が、頭を抱えてため息を吐くラウラを映した。

 あのどう見ても詰んでいた状況で、彼女はどうやら僕のラファールの足をワイヤーブレードで絡み取り、後方に退避させてくれたらしい。

 

 「ら、ラウラァ……」

 

 一時は本当に死を覚悟しただけに、思わず涙目になって命の恩人を呼ぶ。

 ラウラはそれを受けて半眼になりつつも、優しく僕を下ろしてくれた。

 

 「あ、ありがとう……」

 

 「……私は時間稼ぎを頼んだ筈だが? あわよくばと、取りに行ったなシャルロット?」

 

 「うっ……ごめん……」

 

 「お前が部下なら折檻ものの失態だが……まぁ、ここは敵の手札を一つ引っ張り出せたということで良しとしよう。それよりもまた来るぞ! まさか今のが一回きりの足止めとは言うまい?」

 

 「っ……! まさか! ここで名誉挽回してみせるよ……!」

 

 先程の接敵で早くも銃身が溶け始めているアサルトライフルを量子格納し、攻撃を凌がれたとみるや先程までの五連チェーンソーを再び展開、瞬時加速で突っ込んでくる敵に正面から立ち向かう。

 

 ――――遠距離攻撃で釘付けも、奇襲も通用しない。となれば……どんなに無謀だとしても。正面から受け止めるしかない。

 再度魔法の引金(ソルティレージュ・ガチェット)を発動。まずは改造する武器を設定――――

 

 単一仕様能力(ソルティレージュスキーム)による、敵の五連チェーンソーの解析は既に終わっている。

 ただでさえ規格外のあの武器は、IS本体のなんらかの干渉によって動力や駆動系が暴走に近い状態に陥っており、それによって出力が異常なまでに上がっている。普通の盾ではまともな防御すらままならない。

 それを理解した上で、選択するのは(パシオン)。状態は……既に七割近い部位が融解。

 最初は更識先輩のISの鉄壁の防御力をイメージして改造を施したが、よく考えてみればただの金属の盾であれを再現するのは無理があった。

 僕のISの力は、ただ強固なイメージだけでは結果を出しにくい。武器を生み出す力な以上、もう一押しの発想が要る。

 

 ――――思い起こすのは、先程のCBFで僕のハンドガン(リゼ)による射撃を防いだ、箒の紅椿のEシールド。

 設計図再解析……ダメだ、あれ程精巧なEシールド発生装置は作れない。あの紅椿はその存在自体がオーバーテクノロジーの塊なのに加え、こういった細かいところにも天才的なアーキテクトの芸術的なこだわりが見えるISフレームだ。

 だけど、純粋にあれを再現する必要はない。このパシオンを起点に……融解部分をシールド発生装置で補い、Eシールドで改めてミステリアスレイディの水の防御と、紅椿の強化多重Eシールドを再現――――

 

 出来上がったのは、元のパシオンの形からすると見る影もない歪な盾。

 でももうやり直す時間はない――――武器()を借りるよ箒、更識先輩……!

 

 「熱情の八花弁(フルール・ド・ラ・パシオン)……!」

 

 「……!?」

 

 パシオンを起点に、コスモスの花を思わせる八つの光の花弁が花開く。

 同時に八枚の多重シールドが真正面に展開し、敵の五連チェーンソーを真正面から受け止めた。

 高速回転するソーチェーンがシールドと接触し、激しい火花が散り金属を金属で無理矢理削り取るような高音が周囲に響き渡る。

 

 「ぐっ……!?」

 

 一気に二枚のシールドが砕け散り、二枚の花弁が弾け飛ぶ。

 ……やっぱり敵の武器火力が高すぎる……! これだけの盾で受け止めてるのに、手に伝わってくる衝撃が凄まじい。だけど……!

 

 「っ……!」

 

 三枚目のシールドが砕けるのと同時に、敵のチェーンソーのうち一基のガイドバーが圧し折れる。

 そう、無茶な暴走に近い駆動をしているからこそ、敵の武器は脆い(・・)。僕が勝機を見出したのはそこだ。

 四本になった己の武器を見て、敵ISの搭乗者が赤いペイントが施された猫の仮面状のバイザーの下で、歯軋りをしたのを感じた。

 

 ――――四枚、五枚、六枚。

 一枚一枚が強化パシオンに匹敵する防御力がある筈のEシールドが、薄いガラスのように割られていく。

 だけど、敵のチェーンソーも更に三本折ってやった。お互い鉾と盾は残り一つ……!

 

 「通さない……!!」

 

 「……!!」

 

 渾身の力を盾に込めて、敵の攻撃を弾き飛ばす。

 途端に最後のシールドが砕け、パシオンも真っ二つに割れてしまったが……敵も最後のチェーンソーが歪んで折れる。

 これで両者ともに武器を失い――――普通のISバトルなら、ここから追加の武器のコールが速い方が勝つ。

 でも僕は武器のコールに入らない……すぐ後ろに控えてる、心強い仲間を信じてるから。

 

 「ラウラッ!!」

 

 「止まるがいいッ!!」

 

 ラウラが眼帯を毟り取り、金色の瞳が晒される。

 敵はそれより先に、高速切替で武器を呼ぼうとしていた。

 しかし間に合わず――――それでも尚抵抗するように膝をついたが、やがて完全にAICに絡め取られて動かなくなった。

 

 

 

 

 「やっ、た……?」

 

 「いや、このAICは長時間持たん。今のうちに止め、を……!?」

 

 動きを止めた敵を見て僕は思わず安堵から息を吐いてしまったが、ラウラは油断なく追加パッケージ『ブリッツ』の展開に入ろうとしていた。

 けれど、僕はそこで敵の高速切替が間に合ってしまっていたことを知った。

 

 ――――手榴弾のような形をしたグレネードが、動きを止める直前の敵の右掌から零れ落ちていたのだ。

 

 「ラウラッ!」

 

 「!?」

 

 咄嗟にラウラの前に立ち、完全に再使用が不可になったパシオンの代わりに換装用の予備装甲を改造で無理矢理繋げ、即席の盾として展開。衝撃に備えるが……

 

 爆発はなく、代わりにパンッ、とクラッカーを思わせる乾いた音。

 程なくして破裂した際の衝撃と海風に乗せられ、妙にキラキラした薄い金属の破片のようなものが空中に漂い始める。

 僕はその謎の金属片の正体を確かめるべく、魔法の設計図でそれを解析しようとして……『見てしまった』。

 

 「ぐっ……!」

 

 頭に急に鈍痛が走り、意味のない数字や文字化けした文字のようなものが頭の中を駆け巡って思考がフリーズする。

 あの金属片自体は本当に何の意味もないゴミだ……けど、その金属片自体が放つフラッシュのような虹色の光に、信じられない位の容量の『意味のない』視覚処理情報が信号として刻まれており、僕の単一仕様能力をクラッシュ(・・・・・)させてきた。

 そして、ここにきて僕は最大の失態に気づく。この欺瞞情報の飽和攻撃は僕にも効いたが、多分僕以上の情報を視覚を媒体に処理してる仲間が後ろにいる……!

 

 「ラウラッ、見ちゃダメッ――――!!!」

 

 「あ――――うああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 遅かった……!

 ラウラから、いつも気丈で凛とした彼女からは考えられないくらい、か細い悲鳴があがる。

 そして左目を抑えて苦しんでいるラウラを余所に、AICが完全に解けた敵が、ゆっくりと立ち上がる。

 敵のハイパーセンサーにはいつの間にか、煙突を登っているトカゲのシンボルが大きく浮かび上がっていた。

 

 『チャフグレネード『A-7911:メドウ』。相手が情報処理能力を上げて能力を強化してるなら、そこに大量のゴミ情報(トラフィック)を流し込んでパンクさせてやればいい……その眼のこと、オイラたちが対策してないと思ったの? IS学園ってのは、随分とおめでたいトコみたいだね?』

 

 「……あんまり武装のことをペラペラ喋らないで、ビル」

 

 『どうだっていいでしょ。だって、そっちの金髪はずっとこっちのこと覗き見してたよ? どうせもう知ってるよ……もう、何もかも遅いけどさ』

 

 「ああ……成程、それでか。道理で見てて鬱陶しいと思ったんだ。こいつが、ね」

 

 なんだろう、こっちを小馬鹿にしたような青年の声と、恐らく僕と同じ年頃くらいの少女の声がダブって聞こえてくる。

 少女の方は多分搭乗者なんだろうけど、もう一つの青年の声は、一体……?

 

 全く働かない頭をなんとか動かそうとするも、先に思い浮かぶのはそんな疑問ばかりで。

 体も機体も動かせないまま、敵の高速切替の光が走るのを、ただ見ていることしかできなくて――――

 

 「コール。『R-1522:ディアトロフ』」

 

 ――――敵に一瞬でコールされた、フルークの部分に雑に推進用ブースタが取り付けられている、ハンマーと呼ぶにはあまりに歪な鈍器のような武器でラウラが殴り飛ばされるのを見ても、動けなかった。

 

 「よく、も……!」

 

 黒い装甲を撒き散らしながら吹き飛んでいくラウラを見て、怒りで一気に頭が醒める。

 けれど動き出すにはもう遅すぎた。敵はブースタ付きの鈍器を、義手としても機能しているISの左腕のみで巧みに操り、炎のような光の軌跡を残しながらその場で回転。僕がコールした武器をハンマー投げのような動きで叩き落し、更にその反動で自ら前に跳んで武器を持っていない右手のマニピュレータで僕の首を鷲掴みにする。

 

 「がっ……!?」

 

 そのまま空中に吊り上げられ、シールドの灼熱が機体ごと僕を灼く。

 敵が高熱量兵器を多用し大量の海水が蒸発した為か、いつしか空に分厚い雲がかかり激しい雨が降り始めた。けれど、降り注ぐ大量の雨粒が敵のシールドや装甲に当たり、こちらの視界を塞ぐほどの水蒸気を噴き上げていて尚、纏う灼熱が揺らぐ気配はない。

 いや、違、う……!? 確かに敵のシールドとISは高熱を放っているが、それだけじゃない。これ、僕の、ラファールまで、燃え、て……!?

 

 「単一仕様能力(ワンオフアビリティ)破壊駆動(デストロイアクセル)』。武装、機構、コア。この『デストロイワークス』のSEに触れたISは、その全てが一切の例外なく暴走する」

 

 「……!?」

 

 「――――この際だ。ほんの少し前まで、鳥籠の中で大事に育てられてきたんでしょ? ……せめてボクの痛みの、十分の一だけでも味わってから死んでよ『姉さん』」

 

 「あっ、がっ、ぐっ……」

 

 自身が放つ高熱に耐えられなくなったのか、敵のバイザーの一部が融解し敵搭乗者の顔の一部が露になる。

 僕の髪より少し、白みがかった金髪。どこかお父さんのそれに似た青い瞳は、自身を含めたこの世の全てを恨んでいるように真っ暗で。

 雨は激しく降り続いているけど、敵ISの灼熱のシールドによって全て蒸発し、僕のところまで届かない。

 当然、涙なんてすぐに乾いてしまう筈なのに……僕には、その真っ暗な瞳が泣いているようにも見えて。

 

 そんな、敵の瞳を見た時。彼女が最後に発した衝撃的な言葉が気にならないくらい、無性に嫌な予感が僕の中を駆け巡った。

 なんでそう思ったのかは、自分でもわからない。でもなぜか確信があった。

 

 ――――この敵を、一夏に会わせちゃいけない。きっと取り返しのつかないことが起きる。

 ジリジリと焼かれる中、必死に手足を動かそうとする。けれど、全く叶わず、寧ろ視界が狭まっていく一方で。

 お願い、僕はもう、どうなってもいいから。だから、ラウラ……一夏……

 

 伝えない、と……

 逃げ、て、一夏……この敵と、戦っちゃ、ダ、メ……

 

 

 

 

~~~~~~side「???」

 

 

 『――――待った』

 

 「……なに? 殺しちゃえばいいじゃん、こんな奴等」

 

 『それは全く同感だけど……スコールの分火から連絡があった。エムの奴、手古摺ってるから手伝いにいけってさ』

 

 「本当に使えないな、あのゴミ屑……織斑千冬諸共、さっさと死ねばいいのに」

 

 『ワーミィも普段偉そうな割に大したことないよね、どうでもいいけど……で、だ。こいつら、使えるんじゃない? そういう用途であれば、『その時』までは生かしといたほうがいいと思うけど?』

 

 「……面倒」

 

 『そ。じゃ、好きにすれば? オイラは別に、アンタの目的が叶うかどうかなんて知ったこっちゃないからさ』

 

 「っ! ……わかったよ。ビル、手伝って」

 

 『はいはい、ご理解いただき重畳。仮初の家主とはいえ、バカの相手は気が滅入るから助かるね』

 

 「言ってなよ。悪いけど、最後まで付き合ってもらうから、ビル。短い付き合いになるだろうけどね」

 

 『……短いなら、別にいいけどね。でもさ、それってそんなになってまで、やんなきゃいけないこと? オイラからすれば、無駄なことにしか思えないけど』

 

 「かもね……でも、いいの。だって――――」

 

 

 

 

 「――――全部、全部。あそこで、間違った。だから、ボクが……やらなくちゃ」

 

 






章ボスラッシュ終わり。
何話か後にもう一人くらい出るかもですが。
前回までの予告は114話後書きのネタを回収してやってみたものになります。
気になる人は見てみてください。
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