IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百四十二話~闇夜を裂く灯~

 

 

 なにかが引っ掛かる。

 この白式のコンパチISと戦っていて、そんな違和感が頭の端から離れていかない。

 

 敵の搭乗者が昔の千冬姉にそっくりだから?

 まぁ不振には思ってるが……なんか違うんだよなぁ、こいつ。顔が同じだけだ。

 なら具体的になにが違うと言われれば説明できないんだが、多分当時の千冬姉を連れてきて並べられても一目で判別できるだろうくらいには違う。

 ガチで本人なら兎も角、端から偽物だとわかってる奴に、違和感も何もない。

 

 あのモンド・グロッソで、俺を後ろから撃った奴だとカミングアウトしたから?

 恐らくレイシィがやったことの片棒を担いだ奴だと思われるから?

 

 ――――自分で一度考えておいてなんだが、それは絶対に違う。

 正直、むかっ腹は立ってる。

 でもそれは、あの場で俺が得たものを、横から我が物顔で所有権を主張されてるような気がするからだ。

 

 レイシィが死んだ。

 千冬姉がモンド・グロッソの二冠を逃し、国家代表としての選手生命を終わらせた。

 鈴や弾、他の友達や知り合いにも、散々心配や迷惑をかけた。

 

 こういった、表面的な事実だけじゃない。

 あそこで、あの場所で得たもの。

 抱いた気持ちも、ほんの僅かな救いも。痛みも傷も後悔も、罪も絶望も。

 全部、俺のものだ。これだけは、例え千冬姉が相手だろうと、絶対に譲る気はない。

 だから――――レイシィや、千冬姉本人に糾弾されるならまだしも。

 こんなぽっと出の、千冬姉のパチモン風情に今になって、後ろから俺を撃った程度のことでピーチクパーチク囀られても、はっきり言ってイラつくだけだ。

 

 イラつきはするが……それだけだ。

 なら――――このこいつと対面していてずっと感じてる、この違和感の正体はなんだ……?

 

 「フン……!」

 

 「おいおい……タネが割れてる技を何度も使うなよ、見てて恥ずかしいぞ」

 

 「減らず口をっ……!」

 

 おっと、今はそれどころじゃないか。

 馬鹿の一つ覚えみたいにまた『羽緻』をぶっぱしてきたので、溜めの段階を蹴りで潰してやる。

 敵は左腕でガードするも、体勢が崩れ技自体は完全に失敗する。

 それに苛立ったように、敵は返す刀で雑にあの黒い光を纏った剣を振ってくる。

 

 あれが直撃するのは流石にマズい。

 引こうとしたところで、白煉が可変スラスターを逆噴射させて対応してくれる。

 が、後ろに下がったところで先程敵があの剣を振ったことで残っている、黒い残光に腕が掠る。が……

 

 「おっと……!?」

 

 「チッ……!」

 

 一瞬吞み込まれかけた白式の装甲からバチッ、っと青白い電光が走り、逆に黒い残光を搔き消してしまう。

 いつものことながら速攻で敵の能力を解析してくれた白煉が、即席の対抗プログラムを組んでくれたのだ。

 そうなりゃ当然、敵の手札もある程度割れている。白煉曰く、敵の力は通常ISの能力の拡張版でしかなく、単一仕様能力のような特異性がほぼないため解析が非常に楽だったとのことだ。

 

 敵の力の本質は、ISの基本機能の一つである『量子化』の発展系。

 本来は自身のISや武装の量子収納に使う機能だが、敵は敵味方関係なくあの黒い光でありとあらゆるものを『削り取って』お片付けしてしまうらしい。

 そしてタチの悪いことに、敵はISなら標準搭載している、量子化格納した物質の再構成タスクを『敢えて』ONOFFできる特別仕様にしているらしく、OFFの状態で量子化されると、誰も今まで観測したことのない謎空間に量子化したままバラ撒かれ二度と再構成できなくなる。

 要はガオンである。白煉の対抗プログラムでは本体の黒光をブチ当てられると防御できないらしく、呑み込まれようものなら絶対防御も当然のように貫通し粉微塵になって死ぬということだ。

 

 白煉は大したことないみたいなこと言ってたが……いや、初見殺しにも程がある、とんでもなく凶悪な能力だった。確かに殺気は感じていたが、思ってた以上に敵の殺意が強い。

 でもまぁ、そこは神様仏様白煉様。きっちり敵の能力の弱点も調べてくれている。

 

 まずは燃費。とても親近感を感じる話だが、先程山田先生に仕掛けた大規模な黒光を使った攻撃は大分SEを消耗するらしく、そう何発も撃てないそうだ。敵はもう最大SEの半分もないっぽい。

 実際今敵は時折剣に黒光を纏わせるか、光波状にして飛ばしてくるくらいしかしてこない。

 山田先生は役に立てなかったとばかりに、泣きそうな顔で先生方に連れていかれたが、とんでもない。大分敵の力を削ぎ取ってくれた。

 

 そして敵の力は、結局はISの基本能力の応用の域を出ないものということで、展開の兆候の段階で白煉には察知できる。

 不意打ち気味に撃ち込まれても事前に警告を出してくれるので、寧ろ予備動作を見て先手をかけられる。

 

 そんな訳で、危険な相手には変わりないが……山田先生の活躍と相棒の優秀さのお陰で、俺は今比較的に優位に立ちまわることができていた。

 

 「チッ……何をしている毛虫っ!! お前の予測、まるで当たらんぞ……!」

 

 『そういう台詞は一度でも指示通り動いてから言って欲しいのであるが……元より戦闘は吾輩の領分ではないのもあるが、今回ばかりは相手が悪い』

 

 いや、ホント持つべきは優秀な相棒だわ。

 敵もAIが戦闘予測をしているらしいが、全然白煉の相手になってない。

 黒煌や紅焔は白煉相手でも拮抗や上回ったりできていたが……伊達にIS生みの親(束さん)謹製ではないということか。

 で、同じ近接戦闘タイプISの戦いでこれだけ戦闘管制AIの差があると、殆ど先読みレベルで敵のやりたいことを徹底的に潰せる。

 敵の剣技は篠ノ之流が下地にあるので猶のことだ。技の起こりの段階から予測できるのだから、即座に最適解を出せる。

 

 「これならどうだ――――!」

 

 左すり足からの、二、三手先を見据えた連撃の構え。

 ――――『鎌切』の初動。へぇ、そいつも使えるのか。

 箒辺りなら無難に敢えて初撃を受け止めて、技の流れをせき止めたりするんだろうが……あ、そういや一回それで対応されてたな。

 

 『量子展開時SE反応です! 警戒を!』

 

 だがどうもまた剣に黒光を纏わせてくるらしい。受けとめるのはなしになった。

 なら――――鎌切亜流(・・)。『返し斧』……!

 

 「なっ……!?」

 

 「――――スピード勝負だ。先に首を掻っ切られた方が負けだぜ? トロトロすんなよ雌蟷螂」

 

 「キ、サマ――――!!」

 

 振り抜こうとした剣腕に裏拳に入れて阻止。

 そのまま敵の間合いの内側に踏み込んでスラスターキックで敵の体勢を崩す。

 流石にPICですぐさま立て直してくるが――――その間に拳と肘と蹴りを、顔と胸と鳩尾にお見舞いし……そのままもつれ込むようにインファイトに突入する。

 

 受け止められないなら……鎌切を()()()()返してやればいい。

 元より変則的な動きが特徴のラッシュ技だ。全く同じことをやるなら、当然()()方が勝つ。

 そして……白式は手足にスラスターがあるという、他のISにない特徴上、この鎌切との相性は抜群にいい。

 更にこの技は、ラウラ戦で初めて試して以降も鍛錬を積み重ねたことで、既にISの近接戦闘においてもモノにしている。

 

 スラスターから漏れる青光が、鎌のような曲刃の軌跡を描く度に白い装甲が敵の黒い装甲を撥ね飛ばし、俺は更に敵の間合いの内側に踏み込んでいく。

 

 「ぐっ、がっ、ごっ――――!?」

 

 敵も鎌切で喰らいついてこようとするが、遅すぎる。

 拳も蹴りも面白いくらい入る。このままいつかのラウラの時のように、零落白夜でフィニッシュであっさり終わるかと少し期待したが――――

 

 「クソ、がっ……!!」

 

 「うおっ!?」

 

 逆手に持った雪片で足の装甲を捥ぎ取ってやった辺りで、敵が体勢が大きく崩れるのも構わず無理矢理剣を地面に突き刺す。

 お、追撃貰い、とニヤリとするも、敵が突き刺した剣が黒く膨れ上がるのを見て一瞬で掌を返した。

 脚部スラスターを全開に吹かして敵を蹴り飛ばし、そのまま宙返りを敢行。反転した視界が元に戻り、後ろに大きく下がった頃には、先程俺がいた場所から黒い光の柱が立ち昇っていた。

 

 あ、あぶねー……!!

 そう何度も使える技じゃないんだろうが、あれで無理矢理接近拒否できんのズルいな! 同型機の風上にもおけん。

 

 「ハァ、ハァ……! 何故だっ! 私は織斑千冬だっ! あの人の娘だっ! あの人に認められてすらいない、死人如きに何故圧し負けるっ!?」

 

 「え、マジ? お前それ本気で言ってんなら失笑モンなんだけど」

 

 「何っ……!?」

 

 「あの人だの死人だのは知らんが……俺如きにここまでいいようにやられてる奴が千冬姉の訳ないだろ。で? 誰なんだよお前は?」

 

 「……五月蠅い! 黙れっ!」

 

 『落ち着くのである、エム。そう感情的になっては、勝てるものも勝てぬ』

 

 「貴様も貴様だ毛虫! 普段偉そうなことばかり抜かす癖に、無能が過ぎる!」

 

 『まぁそれはそうです。ISの基本OS付属アプリケーションに多少アドオンを追加した程度のスペックで、よくもまぁ私達に喧嘩を売る気になったものです。逆に感心してしまいます』

 

 なんか周りに敵以外いないのをいいことに、当然のような口調で白煉が仲間割れする敵の尻馬に乗り出した。

 聞く限り完全に煽りっぽいが……多分素で言ってるわ。個人的にIS講習をこいつから受けてるときの、俺に対する態度そのものだもん。

 下手な煽りよりよっぽど刺さるヤツだこれ。

 

 実際刺さったのか、敵ISのハイパーセンサーに表示されている、芋虫が煙管を咥えているように見える特徴的なシンボルが、気持ちしょんもりしたように縮んだ。

 

 『……酷い言われようであるが、こうもいいようにやられては否定できぬな。ではエムよ。吾輩の無能を理由にして、このまま逃げ帰るかね? お前が慕うあの男も、吾輩が原因なら責めはすまい』

 

 「! チッ……! 必要ない。この上は『零落白夜』で奴を仕留める! 一度くらいは役に立て毛虫!」

 

 『ふむ。では仮初の主の望むようにしよう』

 

 『零落白夜、ですか……』

 

 敵の黒い剣がまた大きく膨れ上がる。どうも、残存SEを気にせず形振り構わずこっちを殺りにきたらしい。

 おい白煉、なんか思わせぶりに呟いてる場合じゃないぞ。確かにあれを零落白夜とか言ってる敵に、俺も思うところがないわけじゃないが。今はお前の予測であれを回避するのが第一――――

 

 『――――いいえ。必要ありません。マスター、タイミングは指示するので、あれに零落白夜を合わせられますか?』

 

 「うん? いやまぁ、お前が指示してくれるってんならできると思うけど……攻撃の規模が違い過ぎね? あの光の柱からすれば俺の零落白夜なんて爪楊枝みたいなもんだぞ。呑み込まれたら即死なんだろ?」

 

 『問題ありません。仮に私達の零落白夜が爪楊枝なら、あの敵の攻撃は風船のようなものです。面が広く見た目が派手なだけで、本質は薄く脆い。故に――――』

 

 正直かなり腰は引けてたが、それでも白煉を信じて突っ込む。

 薙ぎ払われるように放たれた黒い光の斬撃に、展開した零落白夜で斬りかかる。

 すると――――奈落の底を覗き込むような、不気味な黒光はこちらの青い雷光を纏った白い光剣と克ち合った途端、道が開通したかの如く二つに()()()

 効果はそれだけに留まらず、黒光の中に一瞬青い雷光が走ったかと思うと、闇が残光すら残さず四散した。

 敵の巨大な黒い光の剣は、夢か何かだったかのように一瞬で霧散していく。

 

 「は……?」

 

 『――――突き刺すだけで、致命的な穴が開きます』

 

 『……!! 膨大な過剰SEにより拡張領域(バススロット)単一仕様能力(ワンオフアビリティ)がショート! 一時使用不能(システムフリーズ)……!! エム! こうなっては止むを得ないのである! 一時撤退を!』

 

 「ふ……ふざけるなっ! 私の零落白夜が……あの死人の紛い物以下だと言うのかっ!! こんなことが認められるかっ!!」

 

 想定していた以上の結果が出たことに呆然とする俺を余所に、敵さん方はなにやら大慌てらしかった。

 あれ……? これ、終始白煉無双で終わっちゃう流れでは……?

 

 『紛い物とは言ってくれますね。確かに暮桜搭載のオリジンとは若干仕様が異なりますが――――1を0にするからこその『零落』。闇を齎す夜に日を灯すからこその『白夜』。そのどちらも満たす白式の単一仕様能力は、紛れもなく『零落白夜』に他なりません』

 

 「っ! 木偶のAI如きが、何をっ……!!」

 

 『その点……貴女の『それ』は、そのどちらも満たしていません。夜をただ闇のまま使い、1を10の0.1に分割して0に見せかけているだけに過ぎません。紛い物と言いたいのはこちらの方です。貴女の単一仕様能力は――――』

 

 『! いかん! エム、耳を貸すな……!!』

 

 「ち、違うっ! 違う違うっ、黙れ、黙れっ!」

 

 『――――零落白夜ではありません』

 

 「黙れえええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 『エム!』

 

 うわぁ……白煉の奴、言葉だけで敵をメッタメタにして破れかぶれにさせやがった。っていうかお前解析終わった頃からやたら敵の能力に関してボロクソだったの、敵が零落白夜騙ってたからじゃないだろうな?

 いつかのVTシステム騒動の時、まんまと黒煌に乗せられた時の俺がこんな感じだったんだろうか? 敵ながら見てて居たたまれない。

 

 しかしまぁ、本物の零落白夜かどうかなんてのがそんなに大事かね? こいつには確かに世話にはなってきたが、今でも正直千冬姉だからこそ扱えたピーキーすぎる武器って印象は変わってない。

 強いのは千冬姉であって、武器じゃないのだ……いや、いくら範囲極小でもシールド無効とISを一撃必殺は強いか。俺が扱いきれてないってだけだ。

 なんなら飛ばしたり遠距離攻撃対策ができたりと、俺からすれば偽物だろうが敵の力の方が便利そうに思える……いや、白煉がいなきゃ今回だって初見殺しにまんまと嵌って今頃あの世だっただろうし、代わって欲しいとは思わんけど。

 

 まぁ、それは兎も角……こうして最早、篠ノ之流すら捨てて剣構えて突っ込んでくる敵を見て、俺は漸く自分の中で何かがストンと落ちるのを感じた。

 ずっと感じてた違和感の正体……ああ、そういうことか。

 

 う~ん……俺がこの千冬姉のパチモンに配慮してやる理由はないし、正直こいつが何処で篠ノ之流を習ったのかも検討もつかないが。

 それでも仮にも同門だというのなら――――今度は俺がやってやるべきか。

 

 雪片を正眼に構える。

 どっちかっていうと箒向きだし、俺としてもお世辞にも得意とは言えない技だが……同門として、こいつで計ってやるとしよう。

 

 ――――篠ノ之流()()の型……『現示(げんじ)』。

 

 お前が、本当に篠ノ之流に相応しい剣士かを、な。

 

 




現示→源氏
源氏虫……カブト虫の別称
一応虫の法則から外れていないとだけ、念のため。

エムは本作における設定変更の煽りを強く受けてしまったキャラの一人だったり。
現時点では原作エムより弱いです。特に精神的に。
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