IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百四十四話~闇に落ちる~

 

 雪片による一閃が、寸分違わず敵の胴を捉えた。

 敢えてかつて見た現示(げんじ)の型に拘り、正眼の構えから入ったので、納刀による零落白夜への変換が出来ず、物理ブレードの雪片による一撃だった。

 しかしあれだけバカスカ黒光による、燃費の悪い大規模攻撃をぶっ放し続けたのが、やはり堪えたのか。

 自身も真っ二つに裂かれ絶対防御の発動というダメ押しも入り、敵の黒いISは膝をついた状態で沈黙した。

 

 「くそ……クソッ、クソッ……!!」

 

 敵の押し殺すような嗚咽が、悪態に混じって聞こえてくる。

 ……あの反応だと、どうやらまだ柳韻さんのいう『敵』認定、処置なしという程タチの悪い奴ではなかったようだ。

 同門に俺の現示(げんじ)で届いたという達成感はなくもないが……ちょっと複雑でもある。

 何せ過去に今さっきと二度に渡って俺を殺そうとした奴だ。顔も知らない……いや、顔は知ってるが、この暫定千冬姉のパチモンに恨まれるような筋合いはないと思うのだが……

 

 まぁこうして無力化した以上、その辺は俺じゃない誰かが裏を取ってくれるだろう。

 そう思って残心を解き、この敵を捕まえてもらうために、撤退していった先生達に通信を入れようとした。

 

 『強力な熱源反応を感知……! 新手ですマスター! 警戒を!』

 

 「!?」

 

 が。気を抜きかけたところで白煉から警告が入り、すぐさまハイパーセンサーで周囲を見渡す。

 すると上空から、何やらハンマーとも鉄骨ともつかない無骨な鈍器で遮蔽シールドを叩き割り、なにやら棺桶のような大きな鉄塊を鎖のようなもので引き摺りながら派手に侵入していくるISを見つけた。

 

 一目見た限りではラファールに似たフレームのISに見えるが……ラファールとは思えない位、武装も機体も異質だった。

 は? ……なんだこれ? ハイパーセンサーのサーモグラフィ表示、あのISの周りもう赤を通り越して白いんだが……?

 よく見れば機体自体も真っ赤に融解している。新手は俺の位置からは少し離れた場所に降り立ったものの、そこにいてさえ照りつけるような熱気がこっちまで伝わってくる。

 あの新手のISの搭乗者は正気なのか……? いくら絶対防御あるつっても、空飛ぶファラリスの雄牛状態だぞアレ。

 

 しかし新手はそんな俺の困惑を余所に、動けなくなった黒いISの近くへ歩み寄ると、

 

 「がっ……!?」

 

 「!?」

 

 ――――躊躇も手心も見せず、容赦なく蹴り転がした。

 

 「シー……! キ、キサマ……!!」

 

 『エムもワーミィも、揃いも揃ってなんてザマだよ。なんでオイラ達がアンタ等のケツ拭かなきゃいけないわけ? あの甘ったれの姉御とノロマのドゥドゥでさえ、最低限の仕事はしたってのにさぁ』

 

 『ぐぅ……それについては、返す言葉もないのである……』

 

 『あー、後そこの。織斑一夏、だっけ? そこで止まって何もしないでね? こいつらがどうなってもいいなら別だけど』

 

 新手のIS搭乗者は一切口を開かず、恐らくISの自律AIらしき、若干擦れた口調の青年の声がオープンチャンネルから響く。

 そして新手ISが手にした鎖を大きく引き、それに引き摺られる形で転がった金属の棺桶のような箱から出てきたものを見て、俺は血の気が引いた。

 

 「シャル……! ラウラっ……!!」

 

 ――――それは鋭い鋸状の刃が連なる凶悪な鎖に雁字搦めにされ、殆ど装甲を失ったISに辛うじて守られながらも、血塗れの状態で気を失っている、シャルとラウラだった。

 そんな凄惨な状態の彼女たちを見て、思わず一度引いた血が頭に昇っていくが、それを感じとったのか、新手ISの搭乗者がまた強く鎖を引いた。

 すると刃のついた鎖がシャル達を傷つけ、彼女達の表情に苦悶が浮かぶ。

 

 「っ……!?」

 

 歯を食いしばりすぎて、自分の奥歯が砕ける音を聞いた。

 だが先程の動きには、全く躊躇や遠慮を感じられなかった。こいつは、シャル達の命を奪うことになんの葛藤も抱いていない。

 恐らくあの鎖を引いた結果二人を死なせてしまっても、顔色一つ変えないだろう。

 それを認識してしまったら、もう敵のAIの声に従う以外、俺には残されていなかった。

 

 『そうそう、わかればいいんだよ……あーもう、でも黒のネメシスが動かないんじゃ仕事になんないじゃん……シー、なんて? ……ああ、そう。わかったよ。じゃ、それでいこっか』

 

 「……?」

 

 『……! まっ、待つのであるビル! それは――――』

 

 新手ISが、今度は先程敵の黒いISを蹴り飛ばした足を引く。

 すると先程蹴った時についたのか、シャル達を縛っている鎖が黒いISの腕にも絡まっていた。

 黒いISの搭乗者の方は怪訝そうだったが、AIの方は新手ISのAIが何をしようとしているのか察したのか、焦った声をあげる。

 が。既に新手ISは動いていた。

 

 『―――― Eバイパス、開放』

 

 「っ!? ぐああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 黒いISが燃え上がった。

 一瞬そう勘違いするほど、新手ISと同じくらいの熱気が、黒いISを覆った。

 黒いISは新手IS同様次第に装甲が赤く赤熱化していき、あまりの熱に黒いISの搭乗者が絶叫をあげ、周囲のには生の血肉が焼けるような嫌な匂いが漂い始めた。

 黒いIS搭乗者の苦しむ姿を前にして、新手ISの搭乗者は赤い隈取をした白猫のお面のようなバイザーで顔全体こそ見えないものの、口元と、熱で一部が溶け剥がれたバイザーの向こうにある目が笑っているのが見えた。

 さっきの手加減なしの蹴りといいこいつら、本当に仲間なのか……? いくらなんでも、味方内でバチバチ過ぎないか?

 

 「きゃああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 「うあああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 「っ!?」

 

 新手ISが唐突に始めた、仲間に対する拷問は、最悪なことに同じ鎖で縛られているシャル達にも影響を与えだした。

 目の前で悲鳴をあげて苦しむ二人を見て、俺は頭の中が真っ白になるのを感じた。

 

 「や、やめろおおおぉぉぉっ!!!」

 

 咄嗟に雪片を抜いて新手ISに向かおうとする。

 しかしその前に新手ISが面倒そうに、右手マニピュレータの人差し指を立てるのと同時。

 鎖がうねり、倒れているラウラの首に巻き付いた。鎖の刃がラウラの首を圧迫し、血が滲んでいく。

 それを見て、俺は再び雪片を構えたまま動けなくなる。

 

 「っ……!?」

 

 『何もするなって言ったよね? 頭悪いの? こっちは人質なんて二人も要らないし、別に一人くらいこのまま頭捻じ切ってやってもいいんだぜ?』

 

 「っ、わかった! だからやめろっ、やめてくれっ!」

 

 『マスター! あの敵の言いなりになるのはっ――――!』

 

 「……白煉。頼む。今は何もしないでくれ……!」

 

 『……くっ!』

 

 くそ……!

 打開策を必死で考えるが、あの新手ISは搭乗者とAIともに躊躇が無さ過ぎるせいで、何をどうしても最悪の未来が訪れる展望しか浮かばない。

 どうやらアリーナの外で雨が降り出したお陰で、先程までのミサイル攻撃によるプラズマの影響が和らぎ始め、コアネットワーク等による通信状況は回復しつつあるようだが……我ながら感情を抑えられずに迂闊に動いてしまった。今助けを呼んで奇襲に成功したところで、この状況ではどうあってもラウラは犠牲になってしまう……!

 

 「うっ、ぐっ……!」

 

 俺がそうしてラウラを人質にされ動けない間に、敵はどうやら目的を果たしてしまったらしい。

 先程戦闘用SE枯渇によって動けなくなっていたはずの黒いISが、ISと搭乗者共にダメージでふらつきながらもまた立ち上がっていた。

 

 『ビル! 貴様なんという無茶を……!』

 

 『だってしょうがないでしょ? 破壊工房は通信ですら他ISに影響を与える単一仕様能力の都合上、ネットワークチャンネルの通信プロトコルが一切適用されてない。だから、自機以外の全てのISから基本『敵』として認識される。ISは有線バイパスからのSE補給なんて、敵機からは受け付けてくれない。なら……単一仕様能力(デストロイアクセル)の影響下にあるSEを直接機体に叩き込むしかない。恨むんなら、こんな敵地のド真ん中でむざむざSE切らした、自分と搭乗者の無能を恨むんだね』

 

 「こ、のっ! トカゲがっ……!」

 

 『悪態吐けるくらい元気なら問題ないね泣き虫。ほら、単一仕様能力一回分と最低限動けるくらい回復してやったんだ。別にお礼はいらないから、さっさと役目果たしなよ』

 

 『簡単に言ってくれる……! 破壊工房の単一仕様能力のせいで領域回路が暴走して再ショート寸前である! 量子展開制御をしているのは吾輩なのだぞ!?』

 

 『そんなの知らないよ。ケツは拭いてやったんだから、自分で後始末くらいはしなよって言ってんの。わかんないかなぁ?』

 

 「チッ……後で覚えていろよ……!」

 

 新手ISの搭乗者が黒いISの搭乗者に、いかにも早くしろとでも言いたげに俺の方に向けて顎をしゃくる。

 それに対し黒いIS搭乗者は苛立たし気に歯軋りをしながらも、黒いISをこちらに向け、剣に黒い光を纏わせ始める。

 ……参ったな、やっぱそうなるのかよ。

 結局ここに至るまで、何一つできなかった自分が嫌になる。俺は何か選択や行動を間違えたか……? まぁ、今となっては手遅れか。

 

 「悪いな白煉、白式……地獄まで付き合ってくれるか?」

 

 『……! はぁー……本当に、仕方のないマスターですね。お供しますよ。私抜きでは、とても生き残れそうもないでしょうしね』

 

 「…………ごめん。恨んでいいぞ」

 

 『ご心配なく。あのような零落白夜を騙る偽物など、どうとでもなります。後のことは、全て私にお任せください』

 

 相変わらず、我が相棒は頼もしい。

 こいつがそこまで言うなら、本当に大丈夫な気がするから不思議だ。

 

 敵の黒剣が膨れ上がり、全てを呑み込むような黒光が迫る。

 視界から全てが消えていく直前で、首をあの凶悪な鎖で締められる痛みで目を醒ましたのか、ラウラと目が合った。

 ラウラはいつもの毅然とした態度はどこへやら、こちらに必死で手を伸ばしてポロポロ涙を流していた。

 

 「おと、うと……やだ。やだぁ……にげて、にげてえぇっ! ひとりにしないでぇっ!!」

 

 オープンチャンネルが声を拾ってしまった……心が痛い。

 でも弟として、弱いところは見せられない。俺はこんなところで終わらない、信じてくれと、精一杯ラウラには笑い返し。

 

 

 

 

 ――――俺は、迫る黒光に呑み込まれた。

 

 

 

 

~~~~~~side「???」

 

 

 「ク、クククッ……ハハハッ!!」

 

 私の零落白夜によって、跡形もなく消え去った織斑一夏を見て思わず笑いが零れる。

 前座如きに思わぬ苦戦を強いられたが、これで残すは織斑千冬のみ。奴さえ消せば、私は――――!

 

 『お疲れー。ワーミィ、ちゃんと拡張領域(バススロット)に入れたよね?』

 

 『抜かりはない。予定通りである』

 

 『今回抜かりだらけだった奴が何言ってんの』

 

 『ぬっ……貴様先程から黙って言わせておけば! 吾輩は元より戦闘用AIではないのである! 戦闘予測なぞ碌にしたことのない身で、篠ノ之束の『色付き』と戦わされた身にもなるがよい!』

 

 ……? 待て。こいつら、先程なんと……!?

 

 「毛虫貴様っ……! 織斑一夏を消していないのかっ!?」

 

 『元より作戦目標の回収が任務であるが? 文句があるのなら単一仕様能力くらい自力で制御するのだな』

 

 『大体これだけお膳立てされて、織斑一夏一人押さえられなかったアンタは、今更私情を通せる立場じゃないよ。それとも何? 織斑一夏にやられてワンワン泣いてた以外に何かしたっけ?』

 

 ぐっ……! 毛虫といいトカゲといい、本当に気に食わない奴等だ……!

 だがまぁいい。考えようによっては、織斑千冬を引き摺りだす材料が手に入ったともとれる。

 どうせ織斑一夏など、生きていようがいまいがあの人にとっては眼中にない存在でしかない。

 織斑千冬。奴だ。奴さえいなければ……!

 

 「っ……! 返せ。返せ返せ、弟を返せえええええぇぇぇぇぇ!!」

 

 「!?」

 

 私が次の標的へ思いを馳せていると、シーが連れてきた人質の一人が、縛り付けられているソーチェーンによって自らが傷つき血が噴き出すのも構わず暴れだした。

 鬱陶しいし、喧しい。いっそこいつも消すかと剣を構えようとするが、それより先にシーに蹴り飛ばされた。

 

 「がっ……! キサマ、さっきからいい加減に……!」

 

 「……折角恵んでやったSEを無駄遣いするなよゴミ。役目終わったんだからさっさと消えろ。目障り」

 

 私を追い払うように雑に手を振りつつ、シーは私を蹴った足をそのまま振り下ろし、暴れている人質を踏みつけた。

 

 「がっ……! ぐっ、かはっ……!」

 

 「お前も織斑一夏に命救われたって自覚してるの? 負け犬は負け犬らしく地を這ってろよ。そっちの負け犬みたいに寝てるだけで命が助かる。安いもんだろ?」

 

 「かふっ……こ、このままお、おと、うとを、うばわれる、くらいなら……死んだほうが、マシだ……!!」

 

 「そう。じゃ、死ねよ」

 

 「ぎっ……がっ! うっ、あっ……」

 

 シーは爆熱を帯びたISの足で人質を抉るように踏みにじり。

 人質はそれでも死に物狂いでしばらく抵抗していたが、やがて手足から力が抜けて動かなくなった。

 それを見て踏むのをやめ、止めを刺す様子もないシーを見て、私は口元を吊り上げる。

 

 「随分とお優しいじゃないか? 昔の自分とそいつを重ねたか、シー?」

 

 「なにを……」

 

 「それに織斑一夏がいなくなった途端、随分とお喋りになったじゃないか? あの死人がそんなに気になったか?」

 

 「は……?」

 

 「はっ! 最初は自分を人質にして、今度はその女。あの無様で惨めな死人を二度もまんまと嵌めて今どんな気分だ? 傷物女のくせに、男を手玉に取るのは上手くて実に羨ましいことだなぁ?」

 

 「……殺すっ!!!」

 

 「やってみろっ!!!」

 

 『な、なにをしているのであるかっ、お前達っ!?』

 

 『ちょっと!? こんな時にいつもの発作起こすの止めてくれる!?』

 

 ハハハッ! 貴様等のその慌てふためく様が見たかった……!

 一年前から何かと突っかかってくる、この陰気で生意気な女も気に食わない。

 零落白夜など使うまでもない、先程の恨みを今ここで晴らしてくれる……!

 

 「やめてくださあああぁぁぁぁぁいっ!!!」

 

 シーと互いに武器を構えて向き合ったところで、気の抜ける声が上から降ってくる。

 ティーの馬鹿だ。あの能天気な女は周囲を漂う虹色の蝶が遮蔽シールドに干渉し、開けた穴を潜って降りてくると、私達の間に両手を広げて立ち塞がった。

 

 「喧嘩はだめですっ! メッ、です! お仕事終わったら帰るんですっ!」

 

 『そ、そそ、そうですよぅ。仲間同士で、た、戦うなんて。こ、怖いこと、やめてくださぁい……』

 

 「こんなゴミ屑を仲間だなんて思ったことはないっ!」

 

 「こっちの台詞だ雑魚がっ!」

 

 「ひええぇぇ……で、でもダメなものはダメですっ! それ以上続けるなら……ティーが相手になりますよっ」

 

 フンッ、と、鼻息も荒くスターイレイザーを構えるティー。

 ……チッ、もうすっかり気が削がれてしまった。どうやらそれはシーも同じであるらしく、やれやれと首を振っている。

 だが溶けたバイザー越しに見える目は、相変わらず私への殺意で満ちていた。ティーは兎も角、やはりあの女は気に食わない。

 

 『ふぅ……ティーが間に合って助かったのである。では、早く撤退を――――』

 

 『――――いや、ワーミィ。ちょっと馬鹿騒ぎしてた時間が長すぎたね。敵の増援だよ』

 

 『ぬ……』

 

 トカゲの言葉が終わるや否や、アリーナのピットから三機のISが飛び立ち私たちの前に降り立つ。

 先程の眼鏡の女とは違う、IS学園教師と思われる女達が私達に銃を向けるも、バイザーが剥がれた私の顔を見て驚きの表情を浮かべる。

 

 「お、織斑、先生……?」

 

 チッ……仕方ないと頭ではわかっていても、やはり織斑千冬と間違われるのは苛立たしい。

 だが敵も驚きを引き摺らず、すぐに気を取り直した様子で私達を睨んだ。

 

 「いいえ。違うわね……一つだけ聞くわ。織斑君をどこへやったの!?」

 

 「あわわわ……えっと、その。ティーは……」

 

 「ティー。ここはボクが受け持つ。早くパスカルと合流してきて。ボクにはどこにいるかわからないから……そっちのゴミはそこらで死んでろ」

 

 「えっ、えっ? で、でもシーちゃん……」

 

 「フン。行くぞティー。もうここに用はない。雑用なぞそこの雑魚に任せておけ」

 

 「っ! 行かせると思うっ!?」

 

 私とティーが撤退する気配を感じ取ったのか、教師たちが一斉に手にしたアサルトライフルで発砲しだす。

 しかし私たちの前に立ちはだかったシーのISのヒートシールドは、一発たりとも弾を通さない。

 

 「!?」

 

 『行くんだよ。そんなザコISで何ができる気でいたの?』

 

 「ボクも早く帰りたい。だから、さっさと沈んで」

 

 グシャ、と。

 シーの武装のブースターが火を噴いたと思うと、敵の一体が金属のパワードスーツを纏っているのにそぐわない、生々しい音を立てながら叩き潰されていた。

 残り二人の教師があからさまに怖気づく。そして、シーは恐怖で固まった敵に鈍器を振り上げて迫る。

 最早一方的な蹂躙劇に、見る価値もないとアリーナから飛び立つ。ティーも辛そうにしながらも、己の感情を振り切るように私に続いた。

 

 これで今回の仕事は終わり。

 そう思ったところで――――

 

 

 

 

 「――――許さない」

 

 

 

 

 ――――災難は訪れた。

 

 

 

 

~~~~~~side「鈴」

 

 

 ふと、目を覚ました。

 見慣れない部屋に一瞬混乱しかけるも、すぐにIS学園専属病院の病室だと気づく。

 ……今まで何度かお世話になっているからこそ、すぐ気づけたというのも複雑な気分だが。

 

 「っ……!」

 

 体を起こすだけで、全身に激痛が走った。

 どうなってるんだ……? あたしは甲龍の第二次形態移行(セカンドシフト)でISの自意識に体を乗っ取られて、それで……!

 

 「あの、力か……!」

 

 なんとなくだけど、乗っ取られていた時の記憶はある。

 甲龍(あいつ)はあたしの体でいくつかとんでもない力を使ったが、これは恐らくその代償ということだろう。

 最初からなんとなくはわかっていたけど……あたしのISはいくらなんでも曰くつき過ぎる。

 すぐに代表候補生になるためとはいえ、なんでもお上の言う通りほいほいと聞き過ぎたんじゃないかと今更思う。

 けど――――

 

 ――――ゾクリ、と。なにか、寒気の様なものを背中に感じて目が覚めた。

 あの忌まわしいモンド・グロッソの時。一夏が大怪我を負った日も、似たような感覚があった。

 この感覚を何もせず放置すれば、きっと一生後悔することが起きると、あたしの勘が言っていた。

 

 一夏……!

 

 体中につけられたチューブや呼吸器を、振り払うようにしてベッドから転げ出る。痛みが体に走るが無視。

 IS学園で何かが起こっているのか、外から何か慌ただしい気配はするが人は入ってこない。今の、内に……!

 

 枕元に置かれていた、甲龍の待機形態を引っ掴む。

 ……よし。寝てる間に自己修復が進んだのか、あたし自身と違い損傷は軽微。いける。

 

 ――――あの日。

 意識不明の重体を負い、何とか命を取り留めて戻ってきた、担架に乗せられた一夏の顔は青白くて。

 本当に『死んでいる』ように見えて。怖かった。もうこの大事な気持ちを、二度と伝えられないんじゃないかって、怖くて怖くて仕方なかった。

 

 いつもそうだ。

 一夏はなんの関係もないあたしを、大した理由もなく助けてくれたのに。

 一夏にとって大変な時に限って、あたしは一夏の傍にいられない。

 あたしはいつだって、一歩遅い。

 

 あんな思いは、もう二度としたくないと思った。

 見ているだけで何もできない自分は、もう終わりにすると誓った。

 

 これは、そのための力だ。

 それが例えこの身を……命を削るものだとしても。

 一夏のためなら、怖くない。例え今日、この命が終わるのだとしても――――後悔しない。

 だから――――

 

 「行か、ないと――――!」

 

 

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