~~~~~~side「ヒカルノ」
――――CBF真っただ中における、亡国機業の襲撃から早半月程。
表向き、あの亡国何某という奴等は、他国の都合でIS学園潰しにきている工作員だと思われていた。
未だどの国もIS学園に入れて様子を見ていた状態の、
CBFという場で目撃者が多かったのも祟り、すぐに責任問題がどうだの言ってくる奴らが湧き出した。
ただ……その辺りは、あの轡木の狸爺が一人で何とかしてしまった。
前哨戦として理事会で吊るし上げられ、各国の外交官の前で釈明することになったあの爺は、自分の責任をすべて認めた上で、最後に何かのついでのように、あの日以来行方不明になっている
各国外交官共は取り敢えず最初の目的の一つである、轡木下ろしが成功したことを意気揚々と親分に報告に戻って――――二度と日本に戻ってこなかった。
割と知られていることではあるが、あのゴージャス女は欧州じゃ他に類を見ないほどの資産家だ。
あいつの行方不明はまだ公にこそされてないが、あの女が犯罪組織の一員だったとか、今回のIS学園襲撃時に犠牲になったとかいう噂が実しやかに囁かれるようになり、各国のお上や企業、資産家が、水面下で奴の遺産が手に入るんじゃないかと虎視眈々としていたわけだ。
そんな中で、あの爺がパイの切り取りにおいて一番最初に手を挙げることになった。それも、表面上頭ごなしに却下し辛い理由で。
しかも外交官がそいつを了承する形でふんぞり返りながら戻ってきたもんだから、あの女の遺産を狙ってた奴らはカンカンになった。
あの爺のタチの悪いところは、まだ調査中を理由に補償額に関する具体的な数字を約束の場で一切言わなかったことだ。
その内容次第では、下手すればあの女の莫大な遺産をIS学園に総取りされてしまうのを、各国のお偉いさんは危ぶんだ。
轡木下ろしに成功しても、それでIS学園の利権を奪うどころか更に力を与えてしまっては本末転倒だ。
特にシャレになってないのが欧州だ。
あの女の縄張りだった欧州における奴の資本は、芸術に不動産、最新鋭技術に宇宙開発、果てはライフラインにまで食い込んでいた。他国に奪われれば、国が回らなくなる。
困った奴らは、戻ってきた外交官を更迭して次の人間を寄越し、この前提の話をここぞとばかりに最初っから『なかったこと』にし始めた。
当然この欧州の掌返しに困惑する他国。
で、詳細を調べ始めて……特に中共やサムおじさん達は直ぐに気づいた。
あれ? 今はIS学園より、こっちつついた方が儲かんじゃね? と。
その結果がIS学園外での場外乱闘である。
各国は水面下での賢者ならぬ戦女神の遺産の争奪戦に血眼になり、気づけばIS学園の責任問題どうこうは水に流されていた。
それどころか、その中でも強硬にIS学園への制裁を叫んでいたIS委員が何人か、うるせー今それどころじゃねーとばかりに更迭されたらしい。
「――――例え、それが罠だとわかっていても。目の前に金塊をぶら下げられたら手を伸ばさずにいられないのは、人も国も同じ、ということですね。全く……誰もかれも、浅ましいことでなによりです」
轡木の爺様は、IS学園に帰ってきた後用務員姿のまま何食わぬ顔で茶をしばきながら、そんなことをぼやいていたが……
あの爺、こうなるのが最初っからわかってたんなら相当腹黒いと思う。問題流れたのはいいが代わりに経済戦争始まってんじゃねーか。
日本政府も政府で、なんでこの際ふんだくってやらなかったんだとか斜め上の方向で責めてくるしさ。
そんなにカネが欲しいか? 欲しいな……
それに結果だけ見れば内通者がいなくなって意識不明者も恢復しだし、一部専用機持ちが重傷を負ったのを除けば、人的被害はほぼなしということで、あまり大きなケチがつけようがなかったというのもあった。
唯一ワン坊が攫われたのは大チョンボだが、この事実に関しては影武者まで出す形で一時秘匿されることになった。
ワン坊には悪いとは思うが……何処に敵が紛れているかわからない現状弱みを見せて、首輪の名目でまたあのゴージャス女みたいなのを送られてはたまらないというのと……何より人伝でこの情報が千冬や束の耳に入ることで、連中の暴走を招くかもしれないという轡木の爺の懸念には、アタシも納得してしまった。
うっかり第二次白騎士事件とか、本当にシャレにならない。
でも正直死ぬほどしばかれるだろうが、千冬が戻ってきたらアタシの口から事実を伝えるつもりでいる。それが、せめてものケジメってやつだと思っている。
そして秘匿については意外なことに、普段ISについては殆ど口を開かない
露助が協力してくれるのは、あの
あれは核じゃなく、IS仕様の大型プラズマミサイルだったとIS学園からも公表することが協力する交換条件だったっぽい。
まぁ、非人道的な実験を未成年の少女に繰り返し行った末に生まれた核融合兵器とかいう、殆ど放射性降下物が発生しないクリーン核兵器なんて明るい触れ込みの割に、頭の天辺から爪先まで真っ黒な代物を秘密裏に作っていた挙句、過去の紛争で何度か使ってるとかバレれば普通に国が終わる。
当事者がよりにもよって自国の国家代表としてIS学園にいるとか、露助は気が気じゃないだろうな。なんなら今のデコ助はこれをネタに、相手を爆発させない絶妙な舵取りで、上手く露助を使ってる節がある。
総じて、今回は主にこの二人のお陰で、襲撃の規模の割にはボヤ騒ぎ程度で収まった印象だ。ああ、あとあのゴージャス女を炙り出して始末してくれたアーリィもだな。
亡国何某からしたら、資金源の一つと目されている女を失った挙句、その女をダシに今回の襲撃の成果すら無に還されたのだからたまったものではないだろう。ザマアみろってんだ。
仮にあの女が生きていたとしても、戻ってくる頃には世界中のハイエナ共に資産を散々食い荒らされていることだろう。
と――――外ではこんな感じで色々あったが、少なくともIS学園内はまた束の間の平和が訪れていた。
無論、表向きの話だ。心中は、さぞ穏やかじゃない奴ばかりだろう。
こんなん我ながらガラじゃないんだが……そういう連中のカウンセラーとして、アタシは未だにIS学園に留まっている。
まぁ、落ち着いてきてからは割と本職の方の相談も受けるがね。
さて、今日も迷える学園生の、心の平和を守りに行きますか。
――――なーんて、思っていた矢先のこと。
案の定、あのクソデコ助のスカポンタンが、またやらかすことになるのだが。
それはこれからもう少し、先の話だ。
~~~~~~side「箒」
「篠ノ之、さん……?」
――――今回、結局私はなにもできなかった。
大事な場面でのこのことしゃしゃり出ていって、無様に敗けただけだ。
私はきっと、また誰かに救われたのだろう。
そうでなくては……今目の前で起きている奇跡は、私が為せたことに対して余りにも釣り合いが取れないから。
目の前の、かつての私が知っている姿より幾分やつれてしまった――――けれど確かにその目を開けて、私を見つめ返してくる鷹月を見て。私は、そんなことを思わずにはいられなかった。
私が無力だった故に、今度は一夏がいなくなった。
良かったなんて、とても口に出しては言えない。言えないけれど――――
「ひゃっ!? し、篠ノ之さん!? あの、私……」
誰でもいい。どうかせめて、今だけは。
こんなに弱い私を、許してほしい。
そんなことを思ったのを最後に、鷹月の胸に飛び込んだ私は。
本当に久方ぶりに恥も外聞もなく、声をあげて泣き喚いた。
こんなみっともない私に対し、鷹月は最初こそ、戸惑っていたようだけれど。
けれど直ぐに、優しく抱きしめてくているのが伝わってきて、私は余計に泣くことになった。
――――また、失ったと思った。その時は、心の底から絶望した。
姉さんが生み出した、このISという力さえ、恨みそうになった。
けれど、こうして取り返せたものもある。
一夏のことだって、絶対に諦めない。
亡国機業から取り返すためには、なんだってしてみせる。例え篠ノ之の矜持を曲げ、己が剣が歪むことになったとしても。
そのためには――――
~~~~~~side「アリーシャ」
「せんせ! なんちゅうことしてくれたんや!? ウチ、日本の標準語教えてくれ言いましたで!? IS学園来てみたら、こんな訛りで話しとる娘おらへんやん! 標準語ちゃいますやん! ウチを騙しよったんですか!?」
「すんまへんなぁ、ベッキーちゃん。その口調、アンタにごっつ似合うもんやから、ついつい悪戯心が湧いてしもてなぁ。堪忍して」
「あーもー! そういうとこやで! せんせはもー!!」
亡国機業のIS学園襲撃からしばらくして。
私としてはこのまま連中の足取りを追いたかったのだが、あの狸爺様とヒカルノちゃんにお願いされ、千冬が戻ってくるまで警備責任者としてIS学園に逗留することになった。
今はその引継ぎやらなんやらが漸く終わったので、IS学園内を視察も兼ねて回っているところだ。
校内はペットの同伴禁止ということで、今日はシャイニィは滞在先にお留守番。この国の猫缶が気に入ったようなので、後でお土産に買って帰るつもりだ。
私としてももう一度千冬とは、心の整理をつけるためにも話しておきたかったし……なにより、彼女の弟君がここにいると聞いていたので、彼にも会ってみたかったのもあって話を受けたのだけど……
後者についてはすっかり当てが外れてしまった……全く、何処までもとことん私を苛立たせてくれる。
亡国機業許すまじ。
……なんて、いつにもまして仇敵に対する執念を燃やしながら校内を歩いていたら、イタリアにいた頃面倒を見ていた娘の一人に捕まってしまった。
いや、日本語の件は本当に悪いと思っているから許してほしい。
そもそも、私だってあまり得意ではないのだ。未だに日本人と日本語で話すと不思議な顔をされるくらいだし。
彼女……
「ところで、ベッキーちゃん。織斑……一夏君でしたっけ? 本人がおらへんのなら、その子のこと知ってる子と、お話してみたいんやけど……一年一組って、どこですやろ?」
「織斑君? ウチも話したことくらいはあるけど……確かに一組もええけど、ほんならもっとええ子達のこと知ってますで。え~と……第三アリーナの方、行ってみるとええですよ」
私が聞くと、すぐに懐からメモ帳を取り出してスラスラと答えてくれるベッキーちゃん。
相変わらず情報通かつマメなことで頼もしいけれど……こういう時の彼女は、大抵何かを企んでいることも知っている。
そんな風に考えていたのが顔に出たのか、彼女は誤魔化すように視線を逸らすと、ペロリと舌を出した。
「ありゃりゃ、せんせにはお見通しですか……や、なんか企んでるとかとちゃいますで? ただあの子ら、あの襲撃の日からずっと元気あらへんねんで……せんせからも、ちぃっと声かけてくれたりせえへんかなとか、思っちゃったり……」
……ああ。そういえば、こんな子だった。
ちょっとがめつくて、お調子者なところはあったが……ちょっと浮いてたり、逆に沈んじゃった子とかを放っておけない世話焼きなところもあって、向こうで同期の子達の中じゃメンターとして頼りにされていた。
単独でのISバトルでもそこそこの成績だったが、このお陰で特にチーム戦で僚機との連携能力が光る子だった。ISバトラーとしては兎も角、軍では重宝される人材だろう。
IS適正も高く、これで国籍取得が認められてれば、とっくに代表候補生になれててもおかしくなかったんだけど……まぁ、その話はいいか。どうせもう、昔の話になるのだし。
そういうことであれば……今回は、乗せられてあげましょうか。
「わかりました。ほんなら話してみますけど……わちきもその子らのこと知らへんさかい、上手く慰めてあげられるかはわからへんよ? あんまし、期待せんといてな?」
「何ゆうてんのですか! あの
「……ベッキーちゃん? お友達想いなアンタの心意気に免じて、さっきの
「は、はひ……」
「あと……少し前に、わちきから
「へっ……?」
「テンペスタなんですけど……ディアベラの後継機だけあって暴れん坊でなぁ、
……まあ、当の例の子は母国のIS委員会理事の孫という訳ありの子で。
その高い数字も、権力やお金の力で買い取っているということは、ISの能力上電子を介した情報網は筒抜けになる私はとっくの昔に把握していた。
とはいえ、それだけならばいずれ社会の波に揉まれれば誤魔化せなくなるだけだと放置していたのだが……
どうにも彼女の祖母が彼女を介して、私が開発に心血を注いだ
私も鬼ではないので、これでちょっとでも身の程を知って怖気づくところでも見れたら手心を加えてあげるつもりだったが……
どうも彼女は嘘と虚栄によって塗り固められた自らの経歴を自身の力で勝ち取ったと心底から
と、いうのが今回の件の裏事情なのだが……ここで態々言うことでもないので割愛。
それに……今回の子のことを抜きにしても、今のイタリアでは目下最強の第三世代機と言われているテンペスタを巡る権益争いが水面下で始まっており、その煽りを受ける形で搭乗志望者も実力ではなく権力やコネで選定されるようになって、質が目に見えて落ち始めてきたのを感じていた。
これを機に、外側にいる子に目を向け、ベッキーちゃんを見出した矢先にこのIS学園に来れたのも、何かの縁なのだろう。
――――せやから、ベッキーちゃん。
そんな何かを察したような顔で、雨に濡れた子犬みたいにプルプル震えなくてもええんですよ?
「は、はぁ……」
「せやから次のトライアルの搭乗者は、IS学園に留学した子の中から選ぶと決めとったんです。今行ってる中でなら、わちきはアンタがええと思いました」
「え? う、ウチ?」
「ほな……次、お願いします。結果を出せば、国籍の件はわちきがどうにかしますさかい……晴れて、アンタがイタリアの代表候補生です」
「……!」
「頼みましたで?」
「は、はいっ!!」
よっしゃあああぁぁぁ! なんて大声で叫ぶベッキーちゃんを背に、第三アリーナへ向かう。
イタリアは今までイグニッションプランにおいて、第三世代機トライアルの中では優位に立ち続けてきたものの。
カタログスペック上は強力な機体を制御できる搭乗者に恵まれず、次第に後退の兆しが見え始めていた。
今回イグニッションプラントライアルで散々な戦績で終わったことはその流れに拍車をかけただろうが、構わない。
テンペスタは確かに良いISだ。たが……
結局のところ、ISバトルで一番の要は搭乗者だ。それは、零落白夜という唯一無二の武器があったとはいえ、私と戦った頃には既にロートルとなりつつあった
テンペスタは、私にとっては何れあの最強に挑んでいくであろう後輩たちに、せめて最高の武器を持たせてあげたいという祈りの産物。それ以上でも以下でもない。
過分な名声や利益等必要ない。それらに纏わりつく虫のせいで本分が遠のくなぞ論外だ。
とはいえ……大人である以上、そんな個人の気持ちだけでなにもかも罷り通すことなど許されないとはわかっているつもりだ。
ベッキーちゃんという芽が出れば、後進の育成を担ってきた立場として最低限の申し訳くらいは立つだろう。是非、やり遂げて欲しいものだ。
さて……改めて、織斑一夏君とやらを探りにいくとしましょうか。
――――あの千冬が、IS搭乗者生命を自ら絶ってまで、守ろうとした子のことを。
――――そう、思っていたのだが。
「まだ、亡国機業の居場所はわからないの!?」
「焦るな凰。今、黒兎部隊を総動員して調査に当たらせている。それよりお前はまず体を治っ! っ……!!」
「それ、ラウラが言うの? ラウラももっと休んでなよ、治療用ナノマシンがあるっていっても痛いものは痛いんだし……あっつ! いたたぁ……」
「そう言うシャルロットも今朝鏡を見たのか……? 包帯に血が滲んで酷いことになっているぞ。いいからお前たちは病院に戻れ。当面は、私とセシリアで進めておく」
「箒さんの仰る通りです! まず傷を癒してからでなければ、一夏さんの救出なんて夢のまた夢ですわ! それを自ら遅らせるようなことをして、貴女達はどういうつもりなのですかっ!!」
「こんな時にじっとしてらんないわよっ!!」
……無事な子は誰一人としていない。程度の差はあれ皆、傷だらけだった。
それでいて尚、全員目に強い光を宿していた。あれだけのことに巻き込まれておきながら、悲嘆や絶望に目を曇らせている子は、誰一人としていない。
前を向いて――――亡国機業に奪われた、大事な人を取り返すために動いているのがわかった。
ただ一方で、傍目から元気がなく見えるというのも、無理はないとも思ってしまう。
この子たちは酷く打ちのめされ、それでも再び立ち上がるために、今は力を溜めている時期なのだ。
――――話聞く必要、なくなってしもうたね……
この子達のそんな活力に満ちた姿を見るだけで、いなくなった子がどんな子だったのかはわかる。
こんな子らに慰めなんて、野暮天な話を持ち掛ける程無粋なことはない。なら、今私が、すべきことは――――
「こんなところで悪だくみですやろか? わちきも仲間に入れてくれはりません?」
「ひょあぁぁっ!?」
取り合えず一番熱くなっている、ツインテールの小さな子をさっと抱き上げる。
ふむ……とっても軽い。けど、程よく筋肉のついたいい体。だけど……
「ところどころ、大分痛めてはりますな……こないなところで、遊んでいてはあきませんよ?」
「や、ちょっと、離し……力つよっ!? いたた、しまるしまる……! ふぎ、あぎゃあああぁぁぁっ!?」
ああ、変に抵抗するから少しだけ力を入れたら、口から魂が抜けたようにぐったりしてしまった……力加減は、昔から苦手だ。
でも一番安静にしてなきゃいけない子が静かになったし、結果良ければ全て良しということで。
他の子達もこの子が無理をしているのはわかっていたのか、特に咎められたりはしなかった……いや、突然のことにまだ理解が追いついてないだけか。
「ら、ラーズグっ……!?」
「ちょ、ダメだってラウラ!? その呼び名は本人の前じゃ禁句だって、先月のインフィニット・ストライプスに書いてあったでしょ!?」
「むー!!」
……なにやら気に入らない名前が聞こえたような気がしたが、すみれ色の目をした金髪の女の子が眼帯をしている小さな銀髪の女の子の口を塞いだことで言い切れなかったようなので良しとする。
そういえばこの金髪の子、例のトライアルの時の……奇妙な縁もあるものだ。
黒髪の長身の女の子は、どうやら私のことがわからない様子。彼女のその様子を見て、残りの薄い金の癖っ毛のお嬢様っぽい子がおっかなびっくりといった様子で、一歩進み出て私に声をかけてくる。
「お、お初にお目にかかりますわ、アリーシャ・ジョセスターフ国家代表。わたくし共に、何かご用向きでも?」
「そんなに固くならんでええですよ? 今のわちきは千冬の代理やさかい、気楽にアーリィとでも呼んでください」
「いえ、しかし。そういうわけには……」
「別にええですのに……千冬、こっちじゃ相当お堅くしとるみたいやね。ほんならこっち、要件から入らせて貰います……おまえはん等、お痛しようとしてますやろー? あきませんで?」
「な、な、なんのことだかきれいさっぱりですわっ!!」
「セシリア……」
「それで誤魔化してるつもりなの……?」
「顔に疚しいと書いてあるぞ……」
「皆さんはどっちの味方ですの!?」
周りの女の子たちからの非難の言葉に、威嚇するように両腕を振り上げながらガッーと吠えるセシリアという名前らしい女の子。
一目見た時からわかってたけど、面白い子達だ。
「わちきはここじゃ新参者ですさかい、おまえはん等の気持ち、ようわかります、なんて言うつもりはありませんけど……そこの黒髪の子以外は国家代表候補生なんですやろ? ほんなら、己の立場がどないなもんか、わかってはる筈です。好き勝手は、あきません」
「…………」
私の言葉に、女の子たちは全員俯いてしまう。
あらら。虐めたいわけじゃなかったんだけど……でも暴走直前といった雰囲気を感じたので、これだけは言っておかないといけないと思ったのだ。
或いはこの様子では正解だったのかもしれない。そうだとするなら……猶更、都合がいい。
「大体……おまえはん等、敗けたって聞いてますで? 今焦って出ていったって、返り討ちに遭うだけです。ちゃいますか?」
「っ……!!」
ふふ。また全員目に炎が宿った。そうでなくては、
「わちきも、ここで警備だけしてるんも暇ですからなぁ。ついでに、みっちりおまえはん等に稽古つけたります。ほんで、わちきがおまえはん等が連中に通用するくらい力つけたと判断したら……イタリア国家代表の名に誓って。正式に、仇討ちの機会を用意すると約束します。どないです? 今はそれで、我慢してくれはりませんか?」
「……!」
「実のところ、わちきも亡国機業には個人的に恨みがありましてなぁ。おまえはん等が連中に一泡吹かせてくれるんなら、こっちとしても望むところなんです。お互い、得しかない話だと思いますけど……どないですやろ?」
女の子達は互いに目を合わせ(一人ダウンしてるけれど)、すぐに覚悟を決めた目で全員が頷いた。
千冬の弟君には会えなかったが……もしかしたら千冬の教え子と、一緒に戦えるかもしれない。埋め合わせとしては、そこそこ以上に上等だ。
ただ、それもこの子達が私の稽古についてこられればの話だが……今は期待して、楽しみにその日を待つとしましょうか。
まぁ、それはそれとして。
この動かなくなっちゃった子と、そっちの仲良さそうな金髪と銀髪の子の二人。
取り合えず、あなた達は怪我が治るまではアリーナ出禁です。
そんな顔をしてもダメです……やれやれ。やる気があるのは結構だし、こちらとしても望む展開に持っていけたのはいいものの。
どの子も見た目相応に、一癖二癖ありそうだ。
――――はぁ。これは千冬が戻ってくるまでに、上手くやらなあきませんなぁ。
~~~~~~side「簪」
あの亡国機業との戦いの中で意識を失った私が目覚めたのは、実にあの襲撃の日から一か月が経とうとした頃だった。
一時は、もう二度と目覚めないのではないかとお医者様に言われていたくらい、紫の過剰使用によるダメージは深刻だったらしい。
これだけ早く目覚められたのは奇跡といってもいいとさえ言われた。
――――本当に、仕方のない子です……こんな無茶は、二度となし。ですよ?
意識を失う直前に、微かに聞こえた声を思い出し。指に変わらず嵌っている、打鉄弐式の待機形態に目を向ける。
……奇跡なんかじゃない。結局、私はまた、自分のISに守られた。
目が覚めた日には、あの所長が私を抱きしめて泣いた。
本音や虚姉さん、整備科や四組の皆まで駆け付けてきて、揉みくちゃにされた。
いっぱい、心配かけてしまったのはわかる。また、皆のところに戻ってこれて、嬉しい気持ちだって嘘じゃない。
――――だけど。
こうして戻ってきて。一番会いたかった人たちはいなくなってしまった。
織斑君は、亡国機業に連れ去られた。
あの人は――――私が意識を取り戻した翌日。IS学園から忽然と姿を消してしまった。
自室に、一枚の書置きだけを残して。
虚姉さんが涙でぐしゃぐしゃになった顔で差し出してきた、その手紙を、私も読んだ。
――――本当に、自分勝手な女でごめんなさい。
今日まで更識や、残った家族のこと以上に大事なものなどないと、信じていました。
けれど、いざ家族の、皆の仇に出くわして。
こいつ等が生きている限り、私は生きていけないのだと。
自分はそういう生き物なのだと、気がついてしまいました。
後のことは、布仏に任せます。
きっと、私よりも上手く、これからも暗部を取り纏めてくれると信じています。
ごめんね。かんちゃん。
私、駄目だった。
楯無でも、あなたの■■ちゃんでもいられなかった。
どうか、幸せになってください。
私は――――
――――更識刀奈は、死を選びます。
一番、認めて欲しかったところ。
呼んで欲しかった名前が書かれていたであろう場所は、涙で滲んで読めなかった。
また、失った。それも二度も。
心に穴が開いたようだった。紫の使い過ぎで頭が痛くなった時より何倍も痛かった。でも――――
――――諦めない!
私が憧れたヒーローは、どん底に落ちたとしてもそこで折れたりしない。
必ずまた立ち上がる。なら、私だってそうしてみせる。
あの人は、きっと一人で抱え続けた自身の闇に呑まれてしまった。
あの日の絶望と、今回失ったもののことを思うと、私も絶望と憎しみに呑まれそうになる。
きっとあの人は、今までずっと、この何倍も強い闇を、隠し押し殺し続けてきたのだ。
なのに私は自分のことばかりで、何もあの人にしてあげられなかった。
絶対、このまま後悔だけで、あの人との関係を終わらせたりしない。
織斑君だって、きっと今一人で戦ってる筈だ。
いつも誰かと一緒にいるのに、何故か、何処か孤独を感じる人。
だから……本当に独りにはしてはいけないと、ずっと感じていた。
孤独なヒーローは格好いいけれど……だからこそ、存在するのは物語の中だけでいい。
実際にいてはいけないのだ。だから……並びたてるヒーローに、私がならないといけない。
そんなこと、とっくに決めていた。
私は
くじけたりしない。また立ち上がって、絶対に助けにいく。だけど――――
だけど、今、この時、だけは。
ヒーローなんかじゃない、ただの一人の女の子で、いさせて欲しい。
それを誰かに、許してもらった訳じゃないけれど。
私はあの人の手紙を握りしめたまま、ただ子供のように泣きじゃくった。
それは漂流者の旅の記録
夢か現か足跡は不確かされど歩んだ
心せよ例え在るべき姿違えども
汝須らく人であると
次回 四つの国
空想投影旅録 ガリバー
どうか、対話を。織斑一夏様。