IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百四十九話~真実~

 

 

 「白騎士……? 白騎士って、あの白騎士か? 俺の白式と、何か関係があるってことか?」

 

 「おや……? ああ、成程。あなた自身知らないのか。あの白式の調整はそういうこと……そうだね。そういうことなら、ちょっと昔話に付き合ってくれるかな。少し長くなるから、二人とも好きなところに座りたまえよ」

 

 白騎士、という言葉に対する俺の反応に、葵は一人で納得したように頷くと、俺とクロエに座るよう促してくる。

 ……正直意味がわからんままだが、クロエが椅子を持ってきてくれたので促されるまま席についた。

 正直付き合いきれないという気持ちはあるのだが……あのパスカルがいるのと、目が不自由なクロエが近くにいる都合上、あまり強引なことはできない。

 取り敢えずは、葵の話を聞くことにした。

 

 「――――昔々……具体的には、15年程前のこと。あるところに、人間の()について研究している男がいた。その男は、人間は既に進化の限界に達しており……人間が次のステージに進むには、肉体を捨て魂だけを別の器に入れ替える必要があると考え、その方法を寝る間も惜しまず研究していた」

 「男には一人、娘がいた。妻に先立たれていた男は、一人でその娘を育てていたんだけど……妻を亡くしたのをきっかけに、元から取り組んでいた研究に更にのめり込むようになってね。まぁ早い話……研究者としては兎も角、親の資格がない類の人間だったのさ」

 「ある日のこと……男の娘が病気になった。といっても、普通であれば2、3日も寝ていれば自然と治るような軽い病気だ。男もそれがわかったから、いつものように娘を放置して研究を続けた」

 「その結果……病気は拗れに拗れた。男が気付いた時には、娘の病状は医者が匙を投げるくらい悪化していた」

 「ことそこに至って、漸く男は己の行いを悔やんだ。けどもう、医者が諦めている以上どうにもならない。追い詰められた男は……自身の研究の成果を、娘に試すことにした」

 「……人間の魂を抽出し、物質化させる薬。男としてはダメ元だった。何せ、生物を使った臨床実験は全て失敗していたからね。失敗しても……このまま、何もできずに苦しませるよりは。なんて、思っていたのかもね」

 「けど……薬は効果を発揮してしまった(・・・・)。早い話、男の薬は成功作だった。けどそれは、『人間』にしか効かない薬だったんだ」

 「それで、どうなったんだ? って顔だね……男の娘は、『石』になってしまった。それも、物語で出てくるような、人のまま石化したとかじゃない。人の形すらなくなってしまった。それこそ、こんな風にね」

 

 話の傍ら、葵は少しだけコンソールを弄って追加の空間投影ディスプレイを出現させる。

 そこに表示されていたのは……俺が覚えている限り『ISのコア』と同じ、デルタ六面体状の結晶のように、見えた。

 

 「……!?」

 

 「――――男は自分の研究の成果が実ったことを喜べず、寧ろ半狂乱になった。そこから先は自分にできることを全てやって、娘を元に戻す手段を探した」

 「けど……男が死に物狂いになればなるほど、周囲は男は頭がおかしくなったと思うようになった」

 「まぁ、当然だよね。こんな石ころを後生大事に持ち歩いて、これは娘だなんて言っている人間が正気だと思うなら、世間一般的にはそちらの方が狂人だろうさ」

 「しかしなんと。驚くべきことに、ある日本当にそんな狂人が男の前に現れた……当時まだ年齢的には小学生だったのに、既に大学に論文を提出してるような、天才少女がね」

 「その女の子は一目でその石が、男の言っている通りのものであることを看破し……たった一年で、その石を元に人間を……男の娘を再生してみせた」

 「とはいえ……男の娘は、人間として復活できたわけでもない。当時既に少女が発明していた、人造の肉体を作り出す技術で創り出された肉体に石を埋め込み……石の力で骨と肉のフレームを動かしている所謂『疑似人間(アンドロイド)』として娘を再誕させたんだ」

 「――――ここまで聞いたら、もうわかるだろう? その男の娘こそ、真のファーストナンバー。最初のインフィニット・ストラトスだったんだ。まぁ、当時はまだ別の名前で呼んでいたようだけどね」

 

 待て。待ってくれ……ISコアの正体とか、一度考えたら頭が追っつかないことばっかで困る。白煉を返してくれ。

 それに途中で話に登場した天才少女とやら、物凄く身に覚えがあり過ぎるんだが……

 

 「……なぁ。まさか、その天才少女って……」

 

 「ああ、お兄さんが今頭に思い浮かべてる、まさにその人だよ。この時の研究成果が、彼女が後にISを生み出す原点になったんだろう」

 「けどまぁ、男は多分、研究成果を奪われたなんて考えていないんじゃないかな? 仮初の命とはいえ、娘を助けてくれた彼女には大層感謝していたそうだから」

 「おっと、ごめんごめん。ここまでは、前提の知識を入れて貰うついでの余談みたいなものだ。お兄さんに直接関わってくるのは、ここからさ――――」

 

 「……!」

 

 何故か、非常に嫌な予感がした。

 ここから先を聞いてしまえば、もう俺は今までの俺では、いられなくなるような――――

 

 「――――話は飛んで、一年半程前。あの戦女神の祭典、モンド・グロッソでのことだ」

 「当時ではまだ唯一だった戦女神ブリュンヒルデのただ一人の弟が、彼女の試合を前にして誘拐された」

 「ブリュンヒルデは出場予定だった自身の決勝試合を蹴り、弟救出のため奔走。そして――――ブリュンヒルデの親友である、例のかつての天才少女も、かの弟の救出に協力した」

 「天才は、ブリュンヒルデよりも一足早く、弟を発見。けど、時すでに遅く――――」

 

 

 

 

 「――――天才が見たのは、崩れたビルの瓦礫に埋もれた、無残な親友の弟の死体(・・)だった」

 

 

 

 

 「……彼女は自分の親友が、弟を自分の命よりも大事にしていたのを知っていたし……なにより、彼女自身がその親友の弟を自分の弟のように思っていた」

 「だから……彼女は目の前の現実を受け入れなかった。自分の親友が無残な姿になった弟を見つけてしまう前に、弟の死体に細工をして生きているように見せかける(・・・・・)ことにした」

 「やったことは、さっき言った男の娘の時と同じだ。天才は自身が持っていた、自身が一番最初に生み出したIS……『白騎士』のコアを弟に埋め込み、弟を二体目の『生体IS』にして、彼の死をなかったことにした」

 「そして、白騎士を埋め込む際に摘出した心臓を使い……もう一つ、ISコアを作った。それが――――今のあなたの専用機(白式)なんだ。織斑一夏君」

 

 「俺が……死人……?」

 

 「考えたことはなかったの? 本来女性にしか起動できないISを、男性のあなたが使える理由を」

 

 「……!」

 

 「一応、そのことについては僕なりの仮説があるんだけど……今は関係ないから脇に置いておくよ。そもそもとして、あなたの場合はあなた自身がIS。それもあなたの中にあるのは、全てのISの原点にして王とも言える存在。扱う云々の前に、他のISが従わない筈がないのさ」

 

 「白、騎士……」

 

 「普通、ISは待機形態を起点に量子展開が発生する形で展開する。だけど……あなたの場合は、あなた自身の中にあるISコアが他のISフレームをコアごと『接収』する形で展開される。あなた自身がISだから、ISスーツなんてない方がISとの適合もしやすい。そして……IS特有の、自己修復能力による損傷の再生。心当たり、あるんじゃないかい?」

 

 思い出す。

 ――――今でも忘れない、初めてISを動かした時のこと。金属の塊に、頭から呑み込まれるように展開する打鉄。

 ISスーツがない方が動かしやすいと、千冬姉にこぼしていた過去の俺。

 どんなに傷を負っても、次の日には綺麗に治っている自分の体……

 

 「あなた自身に真実を伝えていなかったこと。そしてあの白式を作ったことから察するに……束ちゃんは多分、あなたを本当の意味で人間に戻す方法を探っていたんだろうね。はぁ……困るんだよなぁ。折角、お兄さんは姉さんと同じ(・・)、新人類のベースになり得る存在なのに。そんな余計なことをされるとさ」

 

 「余計……?」

 

 「余計だよ。最初にISコアを作った男も、束ちゃんも……ISは人間に寄り添う存在であるべきだと考えた。でも――――僕の考えは違う。どうして人間なんていう、既に進化のどん詰まりにいて、あと千年もすれば勝手に滅ぶような生物に……無限の可能性を抱えてる、ISが態々合わせなきゃいけない?」

 

 「何を……お前だって、人間だろうが」

 

 「そうだね。だから、羨ましいよ……姉さんや、お兄さんがね」

 

 羨ましい……?

 ふざけんな……! その、最初のISとやらを作った研究者の娘とやらがどう思っているのかは知らない。

 だが、少なくとも俺は辞めたくて人間辞めた訳じゃない。

 俺が、あの場で死ぬことになったのも。束さんが、千冬姉を騙すようなことをしなければならなくなったのも。

 あの千冬姉モドキのことといい、元を正せば全部お前らのせいだろうが――――!

 

 激情のまま、座っていた椅子から立ち上がる。

 いや、立ち上がろうとした。

 

 ――――だが、次の瞬間。俺は膝から崩れ落ちていた。

 

 「っ! 一夏様!?」

 

 「――――成程。自身の根幹に根差す強い感情が発露した際、まだその再現能力が完全ではない白騎士は、まだ白式というアーカイブを参照する必要があった。例の無人機やVTシステムの件は、白騎士の感情を刺激し、少しでも白式から感情データを引き出すためだったのか……で、それを無理矢理切り離せば、こうなると。やれやれ……ちょっと、しくじったかな――――」

 

 クロエの焦り声と、葵の呟きだけが耳に残ったまま、急激に意識が遠のいていく。

 意識が消える直前で思い起こしたのは、ここで目覚めて、あの猫の仮面の女に襲われた直後に、頭を過ったこと。

 

 俺だけ生き残ってしまったと、ずっと思っていた。

 けれど、もし――――

 

 ――――俺とあいつの運命が、本当に逆だったなら。

 

 レイシィは、今もどこかできっと――――

 

 

 

 

~~~~~~side「クロエ」

 

 

 「なにを……一夏様になにをしたんですかっ!」

 

 わたしには、目が見えない。

 けれど、これが異常事態であることは直ぐにわかった。

 

 ――――織斑一夏様。

 初めてお会いした時は一瞬、秋一様と間違えそうになった。

 少し擦れてしまっているようで、とっても暖かい心の人。人にその暖かさを分けてくれるけれど、本人はその陽だまりの中に居ず、一人ぼっちで寒さに震えているところまで、そっくりだった。

 

 そんな彼の『心』が――――蠟燭の火を吹き消されるように、一瞬で消えてしまった。

 まるで……死んでしまったかのように。

 

 必死で這いずり回って、倒れてしまったであろう一夏様を探す。

 幸い、近くにいた一夏様の体はまだ温かくて、一安心するも……やはり、彼の中からは魂が抜け出てしまったように、もう何も感じることが出来なかった。

 

 「落ち着いて、クロエちゃん。君も、ISを持っているならわかるだろう? お兄さんは、ISの防衛本能に従い一時待機状態に入った。人間としての機能を学習させている白式と離されたことで、白騎士……ISとしての側面が強くなった結果だろう」

 

 「! ……先程の話、本当、なんですね……」

 

 「こんなことで嘘なんて吐かないよ。これはここから先……僕にとっても、彼にとっても重要なことだからね」

 

 「一夏様を……どうするつもりですか?」

 

 「それ、関係あるかい? 君に」

 

 「ありますっ! わたしはこの場所にいる間、一夏様のお世話係を任されました。だから……例え亡国機業の構成員だとしても、この人に勝手な真似をするのは許しませんっ!」

 

 「他でもない君の保護者が、お兄さんを殺すよう君に命じたのに?」

 

 「っ! ……秋一様は賢明なお方です! 今回のことだって、何かの気の迷いに違いありません……わたしが感じたことをお話しすれば、きっとわかってくださいます……!」

 

 「わかってくれる、か……君自身がそれを信じるのは君の自由だけど……他人に同じものを期待するのは止めておいた方がいい。言葉で折り合うことが出来なかった時、人は拳を握るしかないのだからね」

 

 「あなたに、なにが……!」

 

 「ふむ……では、先程の話の続きといこう。クロエちゃん、君は何故、ISは女性にしか起動できないと思う?」

 

 「……? それは……篠ノ之束様が、そのように造ったから、では?」

 

 「ああ、妥当なところだろう。なら……彼女が、ISをそのようなものにした理由は?」

 

 「そんなこと……わたしは篠ノ之束様ではありませんから、わかりかねます」

 

 「それもまた然り、だ。けど僕はちょっとした故あって、彼女のことを知っているし、ISについても他人よりも理解している自負がある。だから、彼女が考えそうなことを予想することくらいはできる」

 「束ちゃんは、『ある事件』を経て467個のISコアを手に入れた……いや、手に入れてしまった(・・・・)。恐らく、あの子は悩んだ。できることなら存在自体を隠し通したいとすら思っていた筈だ。ISがどれだけ危険性を孕んだものであるかは、彼女自身良く知っていたのだからね」

 「けれど隠し通せないと……いや、仮に隠し通せたとしても、万一自分がいなくなってから掘り起こされた場合に起き得る事態を、束ちゃんはより恐れた。かといってISの『元』になった存在のことを思えば葬り去ることもできず……彼女が取ったのは、多くの情報を伏せたまま世に送り出すという選択だった」

 「白騎士事件はISを兵器として扱い始めた世相に対する、彼女なりの抗議なんて言われてるけど……そんな訳ないよね。力として運用されているのを抗議するのに、より力を見せつけたんじゃ本末転倒だ。多分、あの子はISを世に出した時点で、ISが武器として扱われることは受け入れていた……ううん。諦めていた(・・・・・)、と言い換えるべきかな」

 「その上で……ISがまず世に行き渡る道を選んだ。自らの計画を推し進めるためにね」

 

 「篠ノ之束様の計画、ですか……?」

 

 「……束ちゃんは自分の発明を正しく扱わない人に対する失望を、よく口にしていた。あの子は多分、ISを世に出した際、もう一度人間というものに期待をかけた。けれど、それも裏切られたから……人間という生き物に見切りをつけたんだ」

 

 「っ……!?」

 

 「ISは自らの搭乗者に合わせる形で自己改変を行う。けれど同時に……搭乗者が『どうにもならない』場合、今度は搭乗者の改変に手を付け始める。クロエちゃんも、IS搭乗者をしているなら身に覚えはあるだろう?」

 「束ちゃんは、それを利用することにした。彼女は自分の親友、『織斑千冬』をベースに、ISに触れた人間の改変を始めた……まずは多くの人を自分の親友に近づけることで、自分の理想の世界を産み出す第一歩として、だ」

 

 「! ……なら、ISが女性にしか扱えない、のは……!?」

 

 「ああ。改変の際参照されるのは、織斑千冬の情報だ。なら女性である彼女にDNAマップが近い女性から着手していくのは自然な流れだろう? ISも、全人類という規模から考えれば僅かな数しかない訳だし、優先順位を作るのは当然だ」

 「単純に効率の問題でもある。人間を書き換えるという作業の工程で避けられない、遺伝子というものの都合上……生体情報に大きく寄与するX染色体しか持たない女性の方が、より改変が容易なんだよ。X染色体が変わっていけば、雌雄決定の一要素でしかないY染色体も自然と変わっていくしかなくなる。その際に何かしら障害が起きるなら、その時にまた手を加えればいい。自分が生きている内に起き得る問題程度なら、いくらでも対処できる……恐らく、束ちゃんはそう考えたんだろう」

 「兎も角、このISを通して人類を変革する……『織斑計画(プラン・モザイカ)』とでもいうべき計画は、既に水面下で動き始めている……白騎士事件から10年。今の調子でいけば、後10年も経たないうちにISに触れ続けた世代の次世代が生まれてくる……その中には、ISを起動できる『男性』もちらほら出てくるだろう。世代が入れ替わるころには、男性搭乗者も特別な存在じゃなくなっている」

 「尤も……そうなった頃には、既に手遅れだ。強大なISという力を誰よりも扱える者たちは全て、束ちゃんにある程度コントロールされ得る存在に成り果てていることだろう。だから……対抗するには、今しかないんだ」

 

 言い終わるのと同時に、少しの振動と共に小さな足音が耳に飛び込んでくる。

 火渡葵様が、かけていた椅子から飛び降りた。

 わたしがそれを認識した時には、既にこちらに向かってくる小さな足跡が聞こえていた。

 

 「――――こんなことになったのも、元を正せば言葉によって折り合えなかった、お互いへの『不理解』が発端だ。束ちゃんは、自分を受け入れて貰えないなら他の人間を、受け入れて貰えるだけの下地を持っている者へと『置き換える』道を選んだ。拳も脅しも使わないが……なんとも彼女らしい『暴力』だ」

 「クロエちゃん。君ももし、今回のことを君の保護者に話して、それでも一切聞き入れて貰えず、もう一度同じ命令を受けたとしたら。受け入れるにしても、拒否するにしても――――」

 

 「っ……!」

 

 「――――その手にしている『暴力装置(ガリバー)』。使わずに済むと思うかな?」

 

 「わ、わたし、は……!」

 

 「いやなに、責めているわけじゃない。言葉(警告)脅し(威嚇)を経て、それでも手を引けないなら戦争(戦う)しかないのは動物の宿命。人間も、結局はその範囲を出ない。それだけの話。だけど……」

 「それで全部済ませてしまうには、人間は力を持ち過ぎた。このままいけば、人間は自らの力によって滅ぶのは最早確定してる。進化が、改変が必要と判断したその一点においては。僕も束ちゃんも、かつての男でさえ、一致してる」

 「けど……その中では僕だけが、人間の形でさえ余計だと思った。君のISには、人間とISの進化の方向性についての、僕なりの理念が詰め込んである。扱っていて、それを感じることはなかったかい?」

 

 「…………」

 

 ……あるかないかでいえば、ある。

 ガリバーが内包している、四つの国の概念。

 その中でも、先程展開した『草原の国(フウイヌム)』は特に顕著に……『人間』という生き物に対する、露骨な見下しや否定を感じる時がある。

 

 先程の『馬人裁判』も、搭乗者であるわたしが陪審という立場に一人で立つことである程度判決を操作できるのだが……最終決定権はあくまで判事(IS)が持ち、被告人があまりに馬人に相応しくない人物の場合、わたしがいくら認定しても否決される。

 一夏様の時も、弁護側からは兎も角、検事側からも何も追及がなかったことに、内心では驚いていたくらいだ。

 ……でも、今ならわかる。彼らは既にあの時点で、一夏様が真の意味で自分たちの同族であると、気づいていたのだろう。

 

 ガリバーには他にもこのような、搭乗者の一存では自由に使用できない能力がいくつかあり、元のパワードスーツという存在からは余りに離れた形態のISだけあって、わたしも最初は不思議に思いながらも扱っていた。

 けど、彼の話を聞いて得心がいった……彼が設計したISは、篠ノ之束様のそれとは違い。恐らく初めから人に『使われる』前提で、造られていないのだ。

 寧ろ……きっと彼にとってIS搭乗者は、彼の理想のISを完成させる上での、部品でしかないのだろう。

 

 「……なんとなく、今クロエちゃんが考えていることはわかるよ。でも多分、君が思っているよりは、僕は人間のことを大事に思っているよ? ……何せ、ISを造るうえでの大事な資源(・・)なのだから。これについては残念ながら、他の動物では替えが効かないようでね」

 

 「あなた、は……!」

 

 「残念だな……その様子では、クロエちゃんは僕の考えには賛同してくれないようだ。ISとは事情が違うとはいえ……人の事情で身勝手に資源として産み出され、殺され続けた君達になら、或いはと思ったのだけど」

 

 「確かに、人を憎んだこともあります……でも。姉様達は、わたしに復讐なんて……まして、同じようにやり返して欲しいなんて、望んでいないはずです。だから――――『小人の国(リリパット)』!」

 

 「!?」

 

 呼び出したガリバーの頁から、無数の細い金色の鎖が飛び出し、葵様の指を、髪を、服を絡めとっていく。

 ほんの一秒も掛からぬ内に、葵様は鎖で雁字搦めにされ、身動き一つできなくなった。

 

 「――――あなた達には、干渉も、今以上の協力もするつもりはありません。クロエの望みは一つです……一夏様を、すぐに元に戻してください」

 

 「……う~ん。無論、こっちとしても元に戻すつもりだけど……正確にお兄さんの状況をまだ把握していない以上、すぐには無理だよ。ごめんね」

 

 「っ……! 失礼ですが。今の状況を、正しく認識できていますか?」

 

 「ふむ。それはこちらの台詞、と言わせてもらおうか。何のために、彼女をここに控えさせていたと思うんだい?」

 

 「あっ……!」

 

 自分の失態を、悔やむ間もなかった。

 次の瞬間、わたしは死神のような真っ黒な腕によって、空中に吊り上げられていた。

 わたしの意識が途切れたことで、金の鎖は霧散。

 再度ISを展開しようにも、冷気を思わせる凍えるような殺気を当てられ、激しい震えによってガリバーが手元から零れ落ちる。

 

 「――――君の気持ちもわからないではないが。悪いが、流石にそれは見過ごせない」

 

 「あっ……ひっ……!」

 

 「あまり脅かさないであげてください、パスカルさん。つい気が乗ってしまって、色々と話し過ぎた僕が悪いんです」

 

 「まったくだ。確かに話をするのは許したが、限度というものがある。彼女の保護者が彼女に命じていたことを思えば、最早彼女の保護者も協力者とは言えない存在になりつつあるのだぞ。知識を衒らかすのが好きなのは結構だが、相手は選べ詐欺師」

 

 「……前から思ってたんですけど。パスカルさん、僕に対して当たり強くないですか?」

 

 「先程の話を聞いて、君の正体についてはもう当たりはついた……胸に手を当てて考えてみろ。自分の立場で、私が君を好ましく思う要素が一つでもあると思うのか?」

 

 「ああ……まぁ、そうですね。納得しました。けどあなたからはもうこの際仕方ないですが、そちらの彼女にはこれ以上嫌われたくないので……まずは白式、お兄さんに返してあげてください」

 

 「……いいのか?」

 

 「あんまり良くはないですが……これで万一、お兄さんまでウェザーさんみたいになられるともっと困ります。幸い白式単体から取れる情報は粗方取り終えましたし、ここで白騎士とコンタクトを取らせて反応を見るのもいいでしょう」

 

 「了解した……クロエ、といったか? 折角拾った命だろう? もう少し、大事にすることだ」

 

 そんな忠告を残し、パスカルと呼ばれた恐ろしい女性は、わたしから手を離すと葵様と一緒に遠ざかっていくのを感じる。

 彼女の気配がわたしまで届かないところまで去って消えたところで……わたしは思わず、その場に膝をついた。

 床についた手が、恐らく倒れているであろう、一夏様に当たる。彼の体は暖かいままだったが……やはり、心は空っぽだった。

 

 ――――わたしは……クロエは、どうすればよかったのでしょうか? 教えてください、秋一様……一夏様……

 

 わたしの身に余る、あまりに恐ろしい真実を聞かされ。どうにもならないと知って猶、自問を繰り返さずにはいられない。

 その裡に無数の人格と知識を蓄えるガリバーも、このわたしの問いに答えてくれることはなかった。

 

 




一夏の真実は、連載開始前から決まってた設定でしたがようやく開示。
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