~~~~~~side「???」
「あー、死ぬかと思った。や、今回ばかりはあなたがいなかったら死んでたわ。ありがとう、オータム」
「……別にいいけどよ。それより、出歩いてていいのか? 私もあの雷の余波だけでまだ体に痺れが残ってんだが。お前、何発か直撃貰ったって言ってなかったか?」
「勿論、いくらか
「マジかよ……どうなってんだよ、お前の体……」
――――IS学園近海の海底で土左衛門になりかけていたスコールを何とか救出した私は、半死半生のスコールを抱えつつ、過去に放棄した日本国内の亡国機業のアジトを転々としていた。
最初は計画通り、例のアンネイムドの潜水艦まで撤退する気だったのだが、スコールが待ったをかけた。
あんな無骨な鉄の棺桶なんかより、どうせ体を癒すなら日本の温泉がいいとか言い出しやがったのだ。
最初はまたいつもの病気かと思ったのだが……どうも、今回は少し
いや、だが……一風呂浴びてきたのか、浴衣姿で扇風機に当たって涼んでいる姿を見ていると、やはり病気だったかと疑いたくなる。
この手の服は、スコールみたいな黄金比の体を持つ人間が着ると却って下品に見えるものだが……それを全く感じさせずに完璧に着こなしているのが、思わず見惚れそうになるのと同時に腹立たしい。
これで風呂上がりのオヤジみたいな真似をしてなければ、本当に完璧な美女なのだが……こいつに、そんなもんを期待するだけ無駄だろう。
「やれやれ……どの道実名じゃ、碌にお天道様の下を歩けない身だが……思った以上に『巻紙礼子』の名前が役に立ってくれたなァ。こんないい場所を、アポなしで借りれるたァな。まったく、亡国機業様々だぜ」
「だから言ったじゃない。あの時、早まった真似しなくて良かったでしょ? お陰で、あなたのISも手に入ったし」
「ああ……いつだったか、あれ。前の『スコール』と『オータム』が、私らのところに来たんだよなァ」
「ええ。私達に手を貸せ、そうじゃなきゃ私の『ゴールデンドーン』を寄越せ、ってね。一応話は聞いてみたけど、第三次大戦起こして世界をどうこうとか、詰まんないこと言い出したからさっくり殺っちゃったのよね」
「……思い出したわ。お前、私に早まるなとか言っといて、テメエが一番好き勝手やってんじゃねェか! つーか、お前はいつもそうだ! 綺麗に首から上だけ無くなったあいつ等を、バレないように片づけんのに私がどれだけ手間かけたかわかるか? アァ!?」
「ゴメーン。でも私があの後方々に働きかけて手に入った亡国機業の実行部隊、『モノクロームアバター』のエージェントの肩書、役に立ったでしょ?」
「お前その気になったら、本当エグい真似しやがるよな。気づいたら、あの私らのとこに来た前任のあいつら、名前も含めて全部根こそぎ奪われてるときた」
「何を今更。ずっと傍で見てきたでしょう?
そうだ。
亡国機業としての任務も
終わってみれば襲撃の成果はどこへやら、いつの間にか各国がまだ生きているスコールの財産を巡って、椅子取りゲームを始めやがった。本当に意味が分からない。
聞いたところによると、IS学園に巣食う古狸とやらの仕業だったらしい。あのロシアのカナリアといい、IS学園は魔物の巣窟か何かかよ。
この結果に、流石のスコールもこいつにしては本当に珍しく、
「やってくれたわね……あのお爺ちゃん」
なんて、本気で悔しそうに吐き捨てていた。
だがその後直ぐに、今争奪戦をしてる連中は政府も含めてこいつの息がかかった奴らが多く、恐らく一時は奪われたとしても最終的には回収できると嘯いて立て直し、ケロッとしていたが。
寧ろもう一度一からヒリヒリするマネーゲームが楽しめると嬉しそうなケすらあった。今も言葉と裏腹に輝かんばかりの笑顔を浮かべている。無敵すぎる。
「私の知ってる、焼きが回った奴のツラじゃねェんだよなァ……で、動けるようになったんならこれからどうすんだ? 金取り返すために、一回ドバイにでも行くか? それともお前の金のせいで失敗したとでも、亡国機業のお偉いさんに言い訳にしに行くか?」
「どっちも楽しそうだけど……一夏君を攫えた以上、狂ったお茶会もいよいよ大詰め。だからまだ、もうちょっと休むわ。体調は万全にしておきたいもの」
「そうか。だが、アンネイムドの仮拠点に撤退した連中と合流しなくて本当にいいのか?」
「あー……私のIS調整のために、ドクトルBとは確かに一回会っておきたくはあるんだけど……あそこはダメよ。それにもう、パスカル辺りは察知して動いてるでしょうから、今更行ってもきっと合流できないわ」
「……? どういうことだ?」
「はい」
私の疑問に対してスコールが渡してきたのは、今まで私と会話しながら弄っていたタブレット端末。
なんだと受け取って覗き込んでみるが――――
「アメリカの秘匿通信情報……? って、オイこれ暗号化されてんじゃねェか!? 読めるかっ!!」
「え? そう? 私、読めるけど」
「……私のおつむの出来を、お前と一緒にしないでもらえるか?」
「しょうがないわねぇ……それには、こう書いてあるの」
「対IS仕様兵器としてイギリスと共同開発した衛星砲『エクスカリバー』が、原因不明の暴走を開始」
「ってね」
「っ……!?」
「――――身内に手を出されて、怒り心頭の天災が動き出したわ。千冬も、IS委員会が監視していた滞在先から姿を眩ましたそうよ。天災にかかれば、あんな所属不明の怪しい潜水艦、あっという間に見つかっちゃうわ……わかったでしょ? 私達、今あそこに向かったら二人仲良くあの世行きよ」
――――はぁ、ったく……今までで一番ヤバい仕事なんてのは、もうとっくに呑み込んでいたが……
どうも本格的な修羅場は、これから訪れるらしい。この際、今は私もスコールに倣って、ちっと羽を伸ばしますかねェ……
~~~~~~side「???」
「モノクロームアバターの連中はどこへ行った!?」
「ど、どこにもいません! 研究区画はもぬけの殻です! 恐らく昨晩の内に、あの技術部の少年とISで脱出したものと見られます……」
くそっ!
亡国機業だかなんだか知らないが、テロリストの支援をするなど我が国の上層部は何を考えている?
等と思っていた矢先にこれだ……!
確かに我々合衆国特務部隊『アンネイムド』は、我が国の礎となるのであれば、どのような薄汚い仕事でもやり遂げてみせる覚悟はある。
だが何一つ知らされないまま、年端もいかない少女達が通う学校を襲うような連中に利用されるのは、任務とはいえ内心で納得できないところはあった。
……いや。我々に、そのような個人の感情など邪魔だ。今、重要なのは――――
「例の男性搭乗者はどうしている? まさか、彼まで一緒に姿を消したとは言うまいな?」
「いえ……そちらは未だ意識不明ですが、部屋にいるのを確認済みです」
「なら良い。勝手に姿を消した戦争屋のことなど知ったことか。結果はどうあれ、この件で連中との取引も終わりだ。彼を連れて、本国に帰還する」
「……あの。彼はかの、ブリュンヒルデの弟なのですよね? このようなことをして、本当に問題ないのでしょうか?」
「問題に決まっている。だが、それ以上に男性搭乗者の解析及び再現は、我が国の生粋の命題であると上は判断した。少なくとも、他国に先んじられる訳にはいかん」
「それは……そう、なのかもしれませんが」
「……ことが明るみに出ることがあれば、我々が首を切られるだけだ。私は、既に覚悟している。なるべく私の首一つで済むように努力はするが、駄目だった時は……お前も、覚悟を決めるのだな」
「はぁ……あなたの成功を祈ることにします、リーダー。何処までも軽い命なのは承知の上ですが、まだ死にたくないので」
「フ。国にも親に見捨てられた、我等のような者の祈りが届くような神がいれば良いがな」
部下の軽口を半分聞き流しつつ、改めて全員に撤収を指示しようとした。その時だった。
「!?」
艦橋内の至る所にある外部センサーカメラから送られてくる、今まで闇しか映していなかった外部環境表示画面が、一斉に眩い青い光一色に染まったのだ。
ほぼ同時に周辺で何か異変が起こったのか、パーシアスの船体が激しく揺れ、思わず近くのコンソールにしがみ付いて、揺れが収まるまで体勢を維持する。
「何事だ!?」
「ほ、砲撃です! 凡そ本船から500m以内の海中に着弾したものと推測。発射地点は……た、大気圏外から!? 衛星です! 衛星砲からの狙撃です……!」
「!? 『エクスカリバー』だと? 馬鹿な……!? 我が国とイギリスが共同開発した、対IS兵器が何故我々を狙う!?」
「ほ、本国から秘匿通信! かの衛星砲が、かの『三月ウサギ』と思われるコンピュータウィルスによって制御権を奪われ、現在暴走中とのこと!」
「馬鹿が……! 暴走している衛星砲が現在秘匿行動中の我々の潜水艦をピンポイントで狙ってくるものか……! あれは明らかに何者かの意図で動いて……!?」
……待て。
1km圏内にエクスカリバーの砲撃を落とせるのなら、一発目で命中させることもやろうと思えば出来たはずだ。
試射か警告のつもりだった? 我らの運が良かった? それとも――――最初から命中させる気がなかった……?
そうだ……エクスカリバーに搭載されている兵装は、確か……!
「……バラスト注水! 直ちに潜航しろ!」
「リーダー!?」
「イギリスの『BT兵器』……光波ソナーだ! あの砲撃をサーチライトソナーの代わりにして、我々の場所を特定している! 急げ――――!!!」
「は、はっ……!」
――――が。
どうやら……私の判断は、僅かに遅かったようだ。
今度は外部環境表示画面どころか制御盤のモニターまで、一斉にブラックアウトする。
直後に船内の照明まで落ち、流石の事態に部下たちが浮足立ち始める気配を感じ取った時。
暗転した船内の全てのモニターに、趣味の悪い崩した字体の赤文字が浮かび上がった。
――――
「!?」
同時に、足元が浮くような感覚を覚える。
……浮上している!?
「何をしている!? 潜航しろと言ったはずだ! 何故浮上している!?」
「だ、ダメです! パーシアス、操舵を受け付けません! 制御不能です!」
返ってくる部下の返答は最早悲鳴に近い。
くそっ! どうなっている? 何が起きているんだ……!?
私のその疑問に答える存在は、思った以上に早く現れた。
……尤も、歓迎しがたい形でだが。
『それ』は、パーシアスの艦橋の床から、まるで水面から顔でも出すようにヌルリと
――――第一世代機を彷彿とさせる、全身装甲のIS。だが……
本体は随分と
頭はバイザー以外をベールのような布で覆われており搭乗者の表情は伺えない。
そして……異様なのが、その四肢。サイズ的には搭乗者が爪先まで収まっている筈の手足は、いずれも肘と膝に当たる部分までしか
あれに人が収まっているとすれば、肘と膝から先がない五体が不自由な者であることになるが……どうにも先程の異様な出現方法といい、命が宿っているような気がしない。
なら、まさか。
私が急に出現した、謎のISを観察している内に、ISのバイザーにニヤリと嗤う、赤い牙のシンボルが浮かび上り。
『ハロー!
一見可憐に見えるISの姿からは似つかわしくない、下品な少女の声で喋りだした。
「っ!? な、何者だ!?」
『ん~、そだね。篠ノ之博士のオトモダチ、とでも名乗っておこーかな。で、そんだけ言えばオレの要件はわかるだろー?』
「……知らんな。お引き取り願おうか」
『おー、冷静で的確な判断力じゃん? ……いや、天下の天災サマにケンカ売った時点でどっちもねーわ。なんてこった、もう助からないゾ♡』
「!? これはやはり貴様の仕業か……!? パーシアスの制御権を返して貰おうか。さもなくば我が軍の作戦行動の妨害と見なし、武力による排除も辞さないぞ」
サブリーダーに目配せすると、彼は直ぐにハンドサインで仲間を呼び出す。
それは次々と仲間内で伝播していき、程なくして完全武装したアンネイムドの部下が敵ISを取り囲んだ。
『おいおい、こんな精密機械だらけの場所でドンパチする気かい? オタク等、オレが手を出すまでもなく海の藻屑になるぜ?』
敵ISから心底馬鹿にしたような声が響く。
……わかっている。ISどころか、特殊作戦用に対IS用に調整した『アレ』でさえ、ここでは狭すぎて使い物にならない。
部下たちも完全装備とはいえ、あくまで対人用の装備だ。IS相手に勝てる筈もなく、ここで発砲をすれば艦橋に搭載している各計器を自ら破壊してしまいかねない。
我々は、ここに侵入を許した時点で既に敗けている。だが……
――――彼には、申し訳ないと思うが。
ここでみすみす天災に奪い返され、いつか他国の手に渡ってしまうくらいなら。
悪いが……我々と、運命を共にして貰おう。
『……え、マジ? 思い切り良すぎてドン引きなんだけど』
「撃て!」
部下達が手にしたアサルトライフルが火を噴く。
最早全滅も覚悟の上。ならば……せめて男性搭乗者の隠滅と、篠ノ之束の最新機と思われる不明ISの情報を、この交戦で少しでも引き出して本国へ伝える。
部下たちも私の決意を酌んでくれたようだ……済まないな、皆。文句は全て地獄で聞こう……!
――――しかし……そんな我々の決死の決意を、敵はあっさりと踏み砕いてきた。
『ジャジャーン! イリュージョニストクロちゃんの消失マジック、とくと見さらせ!』
どこまでもふざけた掛け声と共に、敵が拡張領域から何の変哲もない、ただの布を呼び出すと、布の端を左手に当たる針のような杭で突き刺しバサリと広げた。
なにを、と怪訝に思うのも束の間……部下たちが放った弾丸は、全て敵が広げた布の中に吸い込まれるように消えていく。
「なっ……!?」
『ハイ消えましたーパチパチ! お代は……そだねー。オマエ等の命とか言ってもビビッてくんなそうだし、オマエ等の誇りとか尊厳とか、そんなのにしとこーかな。ってわけで――――』
敵が再び、突き刺したままの布を雑な動きで振る。
「!? 皆、伏せ……!」
『――――
ただそれだけの動きで――――先程放った弾が、まるで時間が巻き戻されるかのように部下達の元へ
私の警告は遅く、部下達はその悉くが自らが放った弾丸で床に沈んでいく。
『ハッハー!
「なっ……なにを、した……!?」
『手品の種を明かす奇術師なんてのはいないんだぜ……と、言いたいトコだけど。オレは親切でやさしーので教えてしんぜよう』
今度は敵のISが、艦橋の床に手を突き刺す。
すると杭上の手はまるで水の中に手を突っ込んだように、床に波紋を残しながら沈み……その波紋に影響されるように金属の床が帯のように変形。倒れた部下達を拘束し始めた。
「これは……なにが……!?」
『――――
だからこんなこともできるぜー、等と言いながら、敵ISが先程突然出現した時のように急にその下半身が透過したかの如く、トプンッ、という水音に似た幻聴が聴こえてきそうな動きで、波紋と共に床に沈む。
物質支配と物質透過……ま、まさかこんなISが存在する、とは……! ではつまり、このパーシアスは既に……
『そ。もうどうあってもオレの思うがままってコト……そこまで知って、まだやるの?』
「くっ……! 斯くなる上は……!」
今作戦中は使用が禁止されていた、ISに手を付ける。
場所の都合で完全展開は出来ないため、腕の装甲を部分展開。
展開と同時に、火器が効かないならばとISの拳を振り抜き敵ISを狙う。
『おおっと!?』
だが紙一重のところで闘牛のような動きで躱され、先程敵が持っていた布だけがISの腕にかかる。
くそっ、どこまでも人をおちょくってくれる。ならばもう一発……!?
『あ~あ。ISには効かないとでも思ったの? ……折角ネタバレしてやったってのに、オレの優しさを棒に振りやがって』
ISが動かない……!?
いや、これはまさか……しまっ――――!?
『――――
――――敵の言葉と同時に最後に私が見たのは。
私の意思に反して跳ね返されるように翻り、轟音を響かせながら私の顔面に迫ってくる、自身のISの拳だった。
黒煌くんちゃんがふざけすぎててサブタイの「騎行」を「奇行」にするか10分くらい悩んだ。