IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百五十六話~曙風VS昏陽~

 

~~~~~~side「シャルロット」

 

 

 迫る敵をハイパーセンサーで捉えながら、僕は手早く自分の要望を皆に伝えた。

 

 「―――― 一人で戦わせて欲しい?」

 

 「なっ……! 何を言っているのだシャルロット! 相手はあの亡国機業なのだぞっ!!」

 

 皆の反応は芳しくない。

 

 特にラウラは強く反発した。

 ……自分で言い出しておいてなんだけど、無理もない。

 この強い熱源反応は、僕等がかつて二人がかりで尚敗北した相手のそれに違いなかった。

 だけど――――それを承知の上で、僕にはこの意見を押し通さなければならない理由がある。

 

 「皆。僕達の任務は何? 何のために、今ここにいるの?」

 

 「……!?」

 

 だから、ラウラの言葉は敢えて無視し。

 それが卑怯なことだとわかっていながら、一夏のことを持ち出した。

 

 「一夏だけは、絶対に連れ帰る。少なくとも、僕はそのためにここに来た。皆は違うの?」

 

 「そんなこと……!!」

 

 「なら、迷う余地はないよね。CBFのことを思えば、最低でも後他に三人敵がいる。その中でもイブさ……パスカルが出てきてしまったら、僕達が全員がかりでも勝てないかもしれない。だから、元々一夏を救出したら真っ先にアーリィ先生と合流する作戦だっただろう?」

 

 「だからって、アンタ一人で殿やることないじゃないっ!」

 

 「今は一夏が自衛できない以上、護衛は一人でも多いに越したことはないでしょ?」

 

 「それは……そうですけれど。ですが、せめてわたくしだけでも一緒に」

 

 「いいから! ……行って! 僕の……大事な人を守ってっ!!」

 

 心配するセシリアの声を遮るように、大声で叫ぶ。

 少しの間僕らの間に静寂が流れて……最初に切り出したのは、未だ一夏を抱えたままの箒だった。

 

 「いいんだな? シャルロット」

 

 「最初からそう言っているつもりだよ」

 

 「わかった。なら、ここは任せる。代わりにというわけではないが、一夏は必ず守り通す……例え、この身に代えてもな」

 

 「そういう返事が欲しかった訳じゃないんだけどな……無理はダメだよ? 箒になにかあったら、言い出しっぺの僕が一夏に恨まれるからね」

 

 「善処しよう」

 

 彼女らしく端的に言い残し、一足先に飛びだっていく箒。

 それを見てセシリアは僕と箒の方に視線を行き来させつつ慌てだし、鈴は頭を抱えたが、二人はすぐに覚悟を決めた顔で僕を見た。

 

 「やはり貴女は、大人しい顔をしておいてわたくし達の中で一番の曲者でしたわね。そこまで言うからには、完璧に任務を遂行しなければ承知しませんわよ」

 

 「あー……もう! 勝手に死んだりしたら許さないんだからねっ! すぐに追いかけてきなさいよ!」

 

 そう言い放ち、箒を追いかけていく二人。

 あの二人とは一悶着あったけど、素直じゃないなりになんだかんだ心配してくれる辺りやっぱり人が好い。彼女たちと友達になれて良かったと、思わず笑みが零れる。

 最後に一番ゴネていたラウラが、どこかいじけたような表情でじっと僕を見つめているのに気づいて向き直る。

 そして、もう既に冷徹な軍人のラベルが剥がれかけ、寂しがり屋の本性が顔を出して目が潤み始めている彼女に笑いかけた。

 

 「……ごめん、ラウラ。勝手なのはわかってる。だけど……君がそうすると決めたみたいに、僕もいい加減、自分の過去と向き合わなきゃいけないんだと思う。多分、今を逃したらもう機会はないって、そんな気がするんだ」

 

 「シャルロット……でも、私は……」

 

 「大丈夫。僕には、君と二人で今日のために創り出した、この武器がある。だから……一夏のことを頼んだよ、お姉ちゃん?」

 

 「む……さっきから言わせておけば大事な人だのなんだのさも弟の嫁みたいに振舞って……いくらシャルロットとはいえ、お前に姉などと呼ばれる筋合いはないんだからなっ!」

 

 極めつけに対ソレイユとのリベンジマッチに備えて作った、新しい武器を高速切替(ラピッドスイッチ)で呼び出してラウラに見せる。

 それが多少は気休めになったのか、今にも泣きだしそうな雰囲気は鳴りを潜めたが、今度は先ほどの僕の発言の言葉尻を捕まえてむくれ出し、それを見て僕が慌てだすと、最後には半分冗談だ、と笑ってくれた……え、半分?

 

 そんな僕達のやり取りを、最後に見届けてくれているかのように。

 先ほど呼び出した武器に、僕達で生み出した武器の証として銃身に巻き付けてある、黒い布がハタハタと海風に流されて揺れていた。

 

 

 

 

 「……?」

 

 追いついてきた相手は、やはり思わず心配しそうになるほど、赤く赤熱化し周囲に熱気を振りまいているソレイユ・リヴァイヴだった。

 搭乗者も相変わらずあの特徴的なバイザーで顔を隠しているが、その仮面越しでも、待ち構えていたのが僕一人なのを見て僅かに戸惑ったのがわかった。

 恐らく何かの罠かと疑っている敵に、僕は半分ISバトルの際の仮面(ロール)を顔に張り付けながら声をかける。

 

 「そんなに警戒しなくても、見ての通り僕一人だよ」

 

 「……なんのつもり?」

 

 「少し、話をしない?」

 

 「時間稼ぎに付き合う気はないね」

 

 「勝手だね。自分は一夏を攫うために、僕達に付き合わせたくせに」

 

 「都合って言葉は、嫌なことを自分以外の誰かに押し付けるって意味さ。知らなかったなら覚えとくんだね」

 

 軽口を叩きながら、高速切替で武器を呼び出す敵。

 やっぱりそう簡単には乗せられてはくれないみたいだけど……こっちだって、そう軽い覚悟でこんな真似をしてるわけじゃない。

 それこそ、こっちの()()を押し付けさせてもらう。

 

 「冷たいな……()()()お母さんのこと、気にならないの?」

 

 「! ……自分の役割も忘れて、好き勝手に生きた馬鹿女のことなんて知らないよ。大体、もうとっくにくたばったんだろ?」

 

 「その今際の際に、君のことを話していたって言っても?」

 

 「!」

 

 ――――あ~あ……結局、ダメなお母さん、だったなぁ……

 ――――シャルロット。これから先、困ったらイブを頼って。あの子には、恨まれているだろうけど……それでも、いつか、二人、で……

 

 ……そういう意図かどうかは、今となってはわからないけれど。

 お母さんの言ったあの子(・・・)は、イブさんのことを指していたなら少しおかしいような気はしていた。

 お母さんとイブさんは偶に言い争うことはあったが、そこに恨みという感情が見えたことはなかったから。

 

 だから……

 目の前の彼女に姉と呼ばれたとき、驚くのと同時に心の何処かで納得していた。

 当時は少しだけ心の何処かに引っ掛かるに留まった、お母さんの最期の言葉の意味。

 何の力もない一人の女の子だった頃の僕であれば、そこから先は何も知ることはできなかったかもしれない。

 でも、世界屈指のIS企業デュノア社の娘となり、お父さんとの関係もある程度改善した今となっては、取っ掛かりさえあれば僕個人でもある程度のことは調べることができた……その情報が、ある程度秘匿されたものだとしても。

 とはいえ――――

 

「でも、まあ。そうか」

 

「……?」

 

 ――――生まれた子供は()()だった。

 

 それ以上のことはわからなかった。

 知ろうとする気がなかった、と言い換えてもいいかもしれない。

 ……あまり詳細を知ってしまえば、僕はきっとまた揺らぐ。

 だって、僕は――――

 

「君の言うとおりだ。生まれがどうだったとしても……もうあの人の娘じゃない君には関係ない話だったよ。ごめんね」

 

 「っ……! なんだよ! 何が言いたいんだよアンタはさぁっ!?」

 

 ――――あ~あ、我ながら、本当に敵の言うとおりだと思う。

 本当であれば、このまま敵の興味を引けそうなお母さんの話を続けて、一夏達が逃げる時間を稼ぐのが上策。

 CBFで箒に立ち塞がることを選んだ時といい、僕はどうも土壇場になると効率を度外視して感情を優先してしまう傾向があるらしい。

 ……いや、そんなのは今更か。それを自覚していたからこそ、一人で足止めなんて不確実な方法を皆の反対を振り切って強行したんだ。

 

 ――――これから僕がすることを。選んだ道を。皆には……特にラウラには。見られたく、なかったから。

 

 「僕は、さ……これでも君に感謝しているんだ」

 

 「何……?」

 

 「一夏を奪われて……皆を、ラウラを傷つけられて。僕の大事な人たちに手を出されて、僕はやっと気づけた」

 

 甘かった。いや、よりにもよって、敵にイブさんがいるというだけで、心の何処かで甘えていた。

 あの人が……今あの人のいる場所が。かつて一夏を傷つけて、追い詰めた不倶戴天の敵だと解っていたはずなのに。

 

 自分では戦えると決意できていたと思っていたのに、いざイブさんがCBFの場を襲撃して来たときは足が震えた。

 皆が当然のように立っているスタートラインに、僕だけが立てていなかった。

 その結果が、この一か月間の空白とラウラの涙だった。その償いを、僕はしなければならない。

 

 ……とはいえ。

 イブさん……パスカルに立ち向かえるかといえば、まだ自信はない。

 心情的な部分もそうだが、現実問題として、ほぼ更識先輩と同格と思われるあの人と戦えるだけの力が、僕に……僕達にまだない。

 

 けれど……この()になら。

 ラウラを傷つけ、一夏を奪い。お父さんの作った第三世代機(ソレイユ)の初号機に禍々しい改造を施して使っている、この敵が相手ならば。

 既に戦えるだけの準備を今までしてきたつもりだ。

 だから――――

 

「君が何者かなんて関係ない。あんなことが二度とできないよう、敵は倒す……お父さんには申し訳ないけれど、君にはその出来損ないのソレイユごと、ここで果ててもらう」

 

「……はっ! 何? 今更、そんな覚悟をしたってこと? ……やっぱ甘ちゃんだよ、アンタはっ!」

 

 最早話は終わりとばかりに、瞬時加速で迫ってくる敵に高速切替で呼び出した武器を向ける。

 

 ――――ごめん、お母さん。

 あなたの願いは……僕には、叶えられないみたい。

 

 

 

 

 敵のソレイユはあらゆる物理弾頭を無効化する、爆熱を帯びた特殊なEシールドを展開している。

 それらがメイン武装の僕のラファールとは、本来相性が最悪の相手。事実、最初に対峙したときは殆ど手も足も出なかった。

 でもそういう相手だとわかっているなら、いくらでも通用する武器を用意して搭載できるのもまた、フランスが擁するラファール、ソレイユシリーズの強みだ。

 

 「っ……!」

 

 先ほどラウラの前で展開して見せた黒い銃から放たれた、橙色の()()が敵のシールドを貫通し敵に着弾、無数の火花状のプラズマを散らせるのを見て、僕は用意した武器が敵に通用することを確信した。

 

 敵ソレイユに対抗するため、目下EN兵器の搭載が急務だった僕のラファールだが、デュノア……いや、そもそもフランスのIS産業は欧州の中でもこの分野においては明確に後れをとっており、開発のノウハウがないという悩みがあった。

 それを解決してくれたのがドイツ……というよりラウラが隊長を務めている、かの国の特殊部隊が、内密に彼らが試験運用している第三世代機群、シュヴァルツシリーズに搭載されているプラズマブレードの設計図を送ってくれたのだ。

 それを元に、ラウラの助言を貰いながらなんとか作り出せたのが、このプラズマブラスターライフル『ガスパール』。銃身には、完成祝いにラウラから貰った、黒兎部隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)の徽章が描かれた旗を巻き付けている。

 

 そして、いざ運用となったのはいいものの……シュミレーションの段階で、ラファールはそもそもEN武器の運用が想定されていない機体構造だったため、武器適正の低さのせいで花火レベルの火力しか出せないことがすぐに判明。

 これについては元のラファールのフレームが、敵ソレイユとの闘いで大部分が大破してしまったこともあり、ソレイユの技術が転用された新生ラファールのワンオフフレームを、お父さんが送ってきてくれたことである程度解決した。

 まぁ、お陰で今の僕の機体は最早三分の二くらいは実質ソレイユのそれなのだが……辛うじてラファールの操作感も残ってくれていて調整は比較的容易だった。

 これにラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの腕部装甲データを元に更に改造を施し、僕のラファールはなんとかシュヴァルツェア・レーゲンの四分の三程のEN武器適正を獲得。

 ガスパールを本格的な実戦運用レベルにまで漕ぎつけて、今に至っている。

 

 「やっぱり、か……」

 

 あの敵に通用する武器がある、というだけでも、前回とは全く状況が違う。

 

 ――――けれど、良いことばかりでもないみたい。

 

 純粋な第二世代機のラファールと比べれば大分改善されているとはいえ……新生ラファールのベースになっているソレイユも、元々EN兵器の運用に適した機体というわけじゃない。

 フレーム自体もワンオフと言えば聞こえはいいけど、その実ラファールの基本構成に沿ったもの。ここを変えすぎると、ラファールフレームが持つ本来の良さが損なわれるから仕方ないんだけど……最初からEN兵器の扱いに特化するよう設計されたBTシリーズ等のフレームと比べると、どうしてもEN効率の悪さが目立つ。

 それでも大きく手を入れた結果、従来のラファールとは比べ物にならない程、良いものにできた自負はあるものの……目下最重要項目だったEN武器適正はともかく、負荷や効率にまで手を付けるには時間が足りなかった。

 

 この辺の問題も、せめて先行技術のノウハウがあればきっと大分違った。

 BTシリーズを例に挙げたことからわかるように、この辺りの技術に関しては、欧州じゃイギリスが最先端のものを持っている。

 だから協力を頼んでみたけど、流石に本国が公開を許可してくれなかったと、セシリアに申し訳なさそうに頭を下げられた。

 

 ……まぁ、これに関しては正直セシリアと彼女の母国の対応の方が正しい。

 いかに共通の敵が現れたとはいえ、自分たちが苦労して編み出した技術を簡単に供与してくれるほうがおかしいんだ。

 それに今イギリスは、自国の国家代表が亡国機業の協力者で、IS学園でのテロに関与したという大スキャンダルでパニックになっているという。それどころじゃない、っていうのもわかる。

 だから、セシリアにもイギリス企業にも、思うところはない、んだけど……

 

 ガスパールを撃つたびに目減りしていくSE残量を見ると、やはりちょっとでも技術提供して欲しかったという後悔がぶり返しそうになる。

 長期戦はダメだ。条件は相手も似たようなものだが、この戦いで負けは死に直結している。賭けてみる気にはならない。それに――――!

 

 「くっ……!」

 

 「チッ……!」

 

 こちらの銃撃を搔い潜り伸ばされた、赤熱化した凶手を、すんでのところで回避する。

 ……自他問わずISを暴走させる敵の単一仕様能力は、未だ調整中の部分の多い僕のISには天敵のようなものだ。

 自分で使ってみて初めてわかるが、EN兵装はエネルギー源として使用するSEの調整等含め、設計の段階から繊細なバランス調整を要求される。

 即ち、あれを前みたいにまともに受けてしまえば、間違いなくガスパールは使用不可能になる。

 極端にEN兵器に弱い構成だと思ったら、思わぬ落とし穴があった訳だ。あのソレイユをあのように調整したアーキテクトは、悪趣味なうえに間違いなく性格が悪い。

 とはいえ……あの単一仕様能力の影響を受けるのはそれこそ超至近距離で掴まれたときくらいなため、さっきみたいに近づかれて受けなければいい、ともいえるんだけど……

 

 こちらに向こうに通じる武器があるというのが大きいのか、あちらも前回使用しなかった手札をいくつも切ってきた。

 

 ……僕のガスパールの弱点は『金属』だ。プラズマ熱線はレーザーと違い、金属に接触すると反応を起こして熱量が四方に飛び散ってしまう。

 尤もこれは想定された仕様で、強みでもある。熱量と共に飛び散った金属粒子が、プラズマ熱線とは別に敵に二次被害を与えるためだ。

 事実、何発か命中したプラズマは、敵の装甲が融解して脆くなっているのもあり、相当なダメージを機体に与えられているのが見ただけでわかった。

 だが敵は、その数発だけで僕の武器の特性を見抜いたらしい。

 無数のチェーンブレードを自身周辺に張り巡らせ、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードを思わせるような運用で攻撃を仕掛けてくるようになった。

 これがとても嫌らしい。刃鎖によって単純にプラズマ熱線を防御してくるだけでなく、うっかり刃鎖が至近距離にある時にガスパールを発射してしまえば、こちらが粒子拡散の被害を被ることになる。

 最初はガスパールさえあれば、と高を括っていた僕は、気づけば瞬く間に迂闊にガスパールを撃てなくなる状況に追い込まれていた。

 

 おまけに敵ソレイユのそれはレーゲンの楔状のブレードアンカーと違い、チェーンとは独立したブーメランのようなブレードアンカーを電磁投射で操作し刃鎖を引っ掛けることで、巧みに刃鎖を操ってこちらの逃げ道を封じてきて、ガスパールの射撃適正距離が潰される。

 あの高熱のヒートシールドが干渉するのか火器は使用できないようだが、代わりに投擲や自動弓(クロスボウ)のような特殊な投射兵装を使ってありとあらゆる方向からグレネードを投げ込み、高速振動する刃鎖の檻に追い込もうとしてくる。

 そうやって追い込まれれば、あの凶手で掴まれて終わりだ。

 

 僕も人のことを言えた義理じゃないけど、相当手癖が悪い……!

 高速切替によって立て続けに手投げ弾をポンポンと呼び出して、フェイントを巧みに織り交ぜながら息をつく間もなく、緩急つけて投げてくる様はジャグリングを思わせる。

 敵もビックリ箱兼巨大武器庫たる、ラファールから連なるソレイユシリーズの特性を理解した上で、僕とは違うやり方でキッチリ使いこなしている。

 前回の大型チェンソーを構えての突撃一辺倒の動きは、どうやらこちらに有効打がないのをわかったうえで、僕らを油断させるため本来のスタイルを隠していたのが察せられる。それぐらい、敵の攻撃や機動が変則的で狙いが上手く定まらない。

 だけど……!

 

 「(フェイク)・双天牙月」

 

 「……!?」

 

 魔法の引金(ソルティレージュ・ガチェット)で改造したブレードを()()()()()

 投擲しても回転しながら自動で戻ってくる、変則的な動きの曲刀が敵が纏めて投げつけてきたグレネードを纏めて薙ぎ払う。

 

 「(フェイク)・ブルーティアーズ!」

 

 「なっ、この……!」

 

 改造したデコイ(ランスタン)を射出。

 セシリアのビットとは比べるべくもない動きだけど、二機のデコイビットは敵に突っ込むなりECMを放出。

 電磁投射で操作している敵のブーメランアンカーの動きが鈍る。

 

 「(フェイク)・カノーニア」

 

 「うあっ……!?」

 

 敵の刃鎖の動きが止まったところで、手持ちのコイルガンを改造、ラウラのレールカノンに近づけたものをコールして射撃。

 ラウラも威力については太鼓判を押していたレールカノンの一撃は、アンカーによる牽引を失い一時的に撓んだ敵の刃鎖を粉々にしながら敵に命中。大きく吹き飛ばした。

 

 ……こっちにだって、あの時なかった手札を大量に抱えてる。

 戦い方を変えたくらいで、早々やられたりはしない……!

 

 「鬱陶しい……!」

 

 レールカノンによって余計に損傷が大きくなった敵ソレイユが、苦し紛れのように複数のグレネードを同時に投げてくる。

 新しい武器をコールして迎撃しようとするも、直ぐに気が付く。

 あれは……!

 

 「何度も同じ手に引っ掛かるわけないだろ……!」

 

 「っ……!」

 

 敵が『メドウ』と呼んでいた、前回僕等を打ち負かしたチャフグレネードが投げてきたグレネードの中に紛れているのを視認して、即座に単一仕様能力(ソルティレージュスキーム)を切る。

 あれは僕やラウラのような、視認による情報取得能力に対する強烈なメタだが、逆に言えばそれらの力がなければせいぜい七色にキラキラと光る金属片を撒き散らすだけの、派手なパーティーアイテムでしかない。

 

 爆発を恐れることなく突っ切り、左手のシャンタージュを連射する。

 物理弾頭による攻撃は相変わらず敵IS本体には一切通用しないが、機体から離れた位置で生き物のように蠢く刃鎖や飛んでくるグレネードの迎撃に使用する分には、充分効果を発揮した。

 行く手を阻むように伸びてくる鎖の檻を銃弾で無理矢理こじ開け、その隙間を通すように右手のガスパールを立て続けに撃ち込んでいく。

 

 「ぐっ……!?」

 

 プラズマ熱線が数本機体に突き刺さり、敵の苦悶が漏れる。

 しかしその一方で、敵のバイザーに覆われた口元に笑みが浮かんだのを、僕は見逃さなかった。

 

 ……わかっていた。

 さっきのグレネードの性質がこちらに割れていることくらい、敵は承知の上だろう。

 それでも尚使ってきたということは……恐らく、次の一手を僕の単一仕様能力で看破されるのを嫌ったからだ。

 切り札のピーピングは許さないってことなんだろうけど……嫌だな。そこまでされたら、何が何でも()()()みたくなるじゃないか。

 

 ――――って訳だから……頼んだよ、ル・ヴェル……!

 

 「チチチチチチチチチッ!!」

 

 「なっ……!?」

 

 先ほどのミサイル攻撃を対処した後、敢えて格納せずにそのまま上空で待機させていたル・ヴェルがハチドリの鳴き声を思わせる駆動音を響かせながら急降下し、僕の眼前で漂う金属片を、その羽ばたきで吹き散らしていく。

 敵が驚きの声を上げる間に視界は確保され……満を持して、僕は再び単一仕様能力を発動したハイパーセンサー越しに目を開く。

 さて、敵の目論見はいったい――――げっ……!?

 

 「チィッ……!?」

 

 敵はこちらに手の内を隠せなくなったのを悟るなり、即座に準備したカードを晒す方に切り替えたらしい。

 ハイパーセンサーが捉えたのは、敵のシールドに流れ込む、膨大な暴走SE……あのヒートシールドを無理矢理臨界状態にまで活性させることによって引き起こす、()()同然の全方位への熱量の放出……!

 

 「消し飛べっ!!」

 

 「っ! 疑似展開装甲・盾(マルチロールシールド)(フェイク)・紅椿』ッ!!」

 

 高速切替(ラピッドスイッチ)により瞬時に紅い追加装甲が呼び出され、ラファール腕部の専用ハードポイントに接続、即座に起動。

 多重Eシールドが花開くように展開、満開の椿が咲いた、その瞬間――――

 

 ――――眩い白い閃光が収縮した後、敵ISが大爆発を起こした。

 

 

 

 

 「っ……やっぱ凄いやこれ……!」

 

 パシオンであれば全損は免れないような、あの核融合ミサイルもかくやといった熱エネルギーの放出。

 それを……流石に半数以上の花弁が散ったものの、それでも花の体を残したまま受けきった自らの切り札を見て、思わずほぅ、と溜息に似た吐息が口から漏れる。

 

 現状では様々な制約により能力が制限されているが、完全体ならば現行ISの中ではぶっちぎりの機体スペックを持つ紅椿。

 あれをそのまま再現するのは、勿論できなかったわけだけど……追加シールド、追加スラスター、追加ブレードのそれぞれの形態のスペックデータを参照、それを現行技術で出来る限り再現した追加装甲が作成できそうだ、という倉持技研の研究報告があり、その実験作の運用機として選ばれたのが、不測の不具合に襲われても魔法の引金(ソルティレージュ・ガチェット)の改造能力のお陰である程度カバーできる僕のラファールだった。

 疑似展開装甲(マルチロール・アクトレス)、『(フェイク)・紅椿』。稼働実験では、あのアーリィ先生にすら初見で冷や汗をかかせる程の成果を挙げ、僕もその時はこれさえあれば亡国機業も敵じゃない、なんて思い上がりそうになったのを覚えている。

 

 ただ、その力はこの通り確かなものなんだけど……想像以上にSEをドカ食いするため、本当に切り札的なピンポイント運用が必要になる。

 実際あの攻撃をほぼノーダメージで凌げたのは大きいけど、代償に半分以上SEを持っていかれた、これじゃあますます長期戦、は……!

 

 「っあ……!?」

 

 ……いけない、油断した……!

 

 一瞬でも残SE表示に気を取られた僕を咎めるかのように、ブーメラン状の2本のブレードアンカーが、縦に高速回転しながら水平に飛来してくる。

 ECMは!? と思わずハイパーセンサーを確認するも、デコイビットは退避が間に合わず、さっきの敵の炸裂(リアクティブ)シールドによって文字通り消し飛ばされてしまっていた。

 ル・ヴェルはギリギリ範囲外に逃れてたっていうのに……セシリアみたいにいかないのはわかってたけど、僕のBT適正は自律兵器以下か……

 

 なんて、落ち込んでる場合じゃない……!

 咄嗟に間を潜り抜けるように回避するも……それが失策であることを、すぐに悟った。

 

 「しまっ……!? くっ……!!」

 

 例によって一対のブレードアンカーには刃鎖が絡みついており、僕の背後に回るのとほぼ同時にX上に交錯する。

 それによって瞬く間に両者に絡まった刃鎖は環状に収縮し、僕とラファールを締め上げようとした。

 何とか逃れようとするが、遅かった。ギリギリのところで、ラファールの左腕が刃鎖に捕まってしまう。

 

 ……マズい!

 敵の単一仕様能力による、暴走SEはこの鎖越しにも流せるのは、前回の戦いの際に身を以て知っている。

 このままじゃ、前回の二の舞に……!

 

 「()った……!」

 

 敵も勝利を確信したかのように口元を歪め、あの単一仕様能力による暴走SEを流すべく左腕をこちらに伸ばした。

 ……また(フェイク)・紅椿を……ダメだ、次使えば完全にガス欠する。こうなったら、僕に残された、手は――――

 

 ――――しょうが、ないか……出来ればこれだけは使いたくなかったんだけどな。

 

 敵が止めを宣告するように、ソレイユの左拳を握りこもうとした、その瞬間。

 

 無数の赤い光が、敵ソレイユに突き刺さった。

 

 「!?」

 

 敵は一瞬、こちらの別種のEN攻撃かと思ったのか怯んだようだが、すぐに持ち直した。

 ……そうさ、お察しの通り。それはただのレーザーサイト。ISに被害を与えられるようなものじゃない……()()()()

 

 レーザーサイトを発しているのは、一番最初に放った一機と、先程の爆発時に多重Eシールドを展開した裏で追加で放った四機の、合計五機となったル・ヴェルだ。

 嘴の先端から放たれる光の線を浴びながら、コケにされたと思ったのか敵の口元が不機嫌そうに歪む。

 

 「こんなコケ脅しで、なんのつもり……!」

 

 「……そう、これは脅しだ。君はもう、その単一仕様能力を使わない方がいい……きっと、後悔することになるよ?」

 

 「なに……?」

 

 折角ラウラが作成に協力してくれた、ガスパールだけでなく。

 皆から貰った力を結集して尚、決めきれなった自分が嫌になる。

 だって、これを使ってしまった以上、僕は本当に――――この目の前の、血を分けたかもしれない女の子を、どこまでも残酷に殺すことになる。

 でも。きっと心の何処かでこうなるとわかっていたから……僕は、皆と一緒に戦うのを拒んだんだろうな……

 

 ――――特殊兵装AMWP……『ル・ブラン』起動――――

 

 

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