IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百五十九話~夕凪は黄昏に溶けて~

 

 

「テメエエエエエェェェェェ!!!」

 

 ――――俺に成り代わったあの『俺』に、レイシィが刺された。

 その様子を、あいつの中で見ていることしか、できなかった俺は。

 

 『俺』が表に出ている間、代わりに俺が閉じ込められていた夕日が差し込む屋上の空間に、再びあいつが姿を現した途端。

 思わず、殴りかかっていた。

 

 「っ……!」

 

 『俺』は一切抵抗せず、顔面を狙った俺の拳を受け入れた。

 いいのが一発入り態勢こそ崩したが、口の中を切ったのか血の混じった唾を吐きだして胡乱げにこちらを睨んでくる。

 

 「気は晴れたかよ?」

 

 「っ! お前っ……! レイシィに手を出さないって約束はどうしたっ!?」

 

 「そんな約束はしてないね。お前はレイシィに恨みを晴らしてやろうとしてるなら、入れ替わりを認めないっつっただけだ……事実、俺は欠片もレイシィを恨んでなんかない。ほら、嘘は吐いてないだろ?」

 

 「屁理屈捏ねやがって……!!」

 

 『俺』の開き直ったクソみたいな態度に、再び頭に血が上って胸倉を掴み上げる。

 だが『俺』は、それでも変わらず覇気のない顔で俺を見つめ返してくるだけだ。

 

 「キレ散らかすのは結構だが……よく見ろ。あれだけこっちに干渉してたんなら、まだ見えるだろ?」

 

 「……?」

 

 言われて、目を瞑って現実の方に意識を傾ける。

 気づけば『俺』が展開した、茜色の光の刃は消えており……それに貫かれた筈の、レイシィは特に傷を負った様子もなく、穏やかな表情で現実の俺に抱かれたまま眠っている、ようだった。

 レイシィの現状は、ISを通して白煉が教えてくれた……このままでは、彼女はISを展開してもしなくても、先が永くないということも。

 だが彼女と彼女のISを苛んでいた、呪いのような単一仕様能力(ワンオフアビリティ)は……『俺』があの茜色の光の剣を突き刺して以降、完全に沈黙しているように、見えた。 

 

 「お前の零落白夜と同じだよ……俺の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)も、物理的に対象をどうにかする力じゃない」

 

 「……っ、じゃあお前、レイシィになにをしたんだ?」

 

 「さて……そいつは、レイシィが目を醒ませばおのずとわかることだ。まぁ……俺は、どうにもそれまで持ちそうにないが」

 

 「!?」

 

 『俺』のその言葉で、気づく。

 『俺』の姿は、僅かに半透明となり薄っすらとその体を通して後ろの景色が見えている。

 それに驚いて思わず手を離すと、『俺』は慌てた様子もなく居住まいを正してこちらに向き直った。

 

 「今更驚くか? ……お前もこうなるって、わかってたんじゃないか?」

 

 「お前……」

 

 「そんな顔するな、一夏……未練が失せれば亡者は消える。当たり前の話だろ」

 

 『俺』のその言葉は、一見肩の荷が下りたような、晴れやかな調子でありながら……どこか、自分に言い聞かせるような。そんな響きを、含んでいるように感じた。

 ……こいつに、同情したわけじゃない。けど、この場所から見ていても、こいつが箒や鈴を見て思うところがあったことくらいは、簡単に察せた。

 きっと、良くないことなんだろう。でも、あんなものを見せられたら、つい、訊かずにはいられなかった。

 

 「……いいのかよ?」

 

 「いいんだよ。大体普通の人間なら、こんなチャンスすらなかった筈なんだ。一番大きな未練がなんとかなったんだから、残りの小さな後悔くらい、抱え落ちするくらいで丁度いい……あいつらだって、こんなみっともない織斑一夏なんか、今更見たくもねぇだろうさ」

 

 「あいつら相手に格好つけたってしゃあねぇだろ」

 

 「そりゃ、恥の上塗りしかしてない奴にとってはそうなんだろうけどな」

 

 「……どういう意味だコラ?」

 

 「好きなようにとれよ。テメエにとって一番嫌な解釈が正解だ……ハッピーバースデー箒、だったか?」

 

 「よーし、もう一回死にやがれこの出歯亀悪霊野郎……!!」

 

 「もうとっくにくたばってんだよ勘違いウザキモ野郎……!!」

 

 「あーもう許さんわお前、死なねぇってんなら調伏してやらあっ! 悪霊退散ナムアミダブツ……!!」

 

 「はぁ? アホか、頭おかしいん、じゃ……? 本当に崩壊速度が上がってる? おい馬鹿やめろ! こんなところで無駄な才能を発揮してんじゃねぇよ!?」

 

 だが少しだけしんみりとした空気を吹っ切るように、『俺』は見覚えのあるムカつく顔で笑いながら煽ってきたので、やるかこの野郎と俺が臨戦態勢に入ると、しばらくそのまま間抜けな言い合いに発展した。

 そして互いにいよいよ不毛だと悟り出したタイミングで、息を切らした『俺』がいつの間にか手元に収まっていた、鞘に収まった刀をこちらに投げ渡してくる。

 

 慌てて空中で飛んできたそれをキャッチ。

 少しだけ抜いてみると、先程『俺』が現実で見せた、単一仕様能力『夕凪燈夜』のような茜色の刀身が、夕日を受けて鋭く光った。

 

 「これ、は……」

 

 「――――どうせ消える身だ。そいつは、お前にくれてやるよ」

 

 「だから、なんなんだよ、こいつは」

 

 「その答えは、レイシィが目覚めるのを待てっつったろ? ……俺自身、初めて使ったからな。俺が知ってる通りの効果があるかは、正直結果が出てみないとわからん。だが――――」

 

 急に低くなった『俺』の声に、手元の刀に向いていた意識が引き戻される。

 こちらを見る『俺』の視線は、冗談や酔狂じゃないことがわかるくらい、真剣で鋭かった。

 

 「――――覚えておけ。そいつは、『織斑一夏』を殺す剣だ」

 

 「なっ……!」

 

 「……正直、舐めてたよ。俺……いや。織斑一夏なんかが消えたところで、世界は問題なく回るってさ。だけど……実際それで、レイシィみたいに傷つけて、追い詰めた人間がいる。片手の指で数えられるくらいの数かもしれないが、確実に、いるんだ」

 

 「ああ……そう、だな」

 

 「レイシィの他にも……もしかしたら、誰かいるかもしれない。けど、俺はそれを見届けることが出来ずに消える。だから、こっから先はお前の仕事だ。もし……もし。これから先、俺以外の織斑一夏の亡霊に、苦しめられている人がいたのなら――――」

 

 「……!」

 

 「――――その剣で。織斑一夏を、お前が殺せ。一夏」

 

 多分、この『俺』の言葉を、俺は完全に理解できたわけじゃない。

 けど、『それ』が俺……俺たちにとって、何よりも大事だということだけは、はっきりわかった。

 だから……誓いを立てるように。刀を前に突き出して、『俺』に頷きかける。

 

 「わかった」

 

 「頼んだ……言っておくが、他人事だと思うなよ。お前が織斑一夏の大事なものを踏みにじる亡霊に成り果てるなら、その剣はお前自身に牙を剥く。忘れるな」

 

 「っ! ああ……肝に銘じておく」

 

 「フン……肝が動いてるかどうかすら怪しい体の奴がよく言う」

 

 「……今それを言うのはナシだろうが……!」

 

 アホなことを互いに言い合って、同時に噴き出す。

 けど『俺』は、何かを急に思い出したかのように、急に再び眉間に皺を寄せた。

 

 「なんだよ?」

 

 「ああ、ついでにあと一つ忠告だ。今更お前にこんなことを言うのもあれだが……お前が、亡国機業の連中に捕まったせいで、ちと問題が起きててな」

 

 「問題……?」

 

 「お前……白騎士から抽出したマスターデータを利用して、最悪のISを起こそうとしてる連中がいる……幸いまだ時間はある、備えろ。前に俺の前でデカい口を叩いたんだ――――二度と、俺みたいな無様な失敗すんじゃねえぞ」

 

 「最悪のISを起こす……? 亡国機業の連中のことか? もうちょいその辺詳しく教えろよ……!」

 

 「そうしたいのは山々なんだが……悪いが、そろそろ時間切れだ」

 

 そう言って肩を竦める『俺』。

 『俺』は既に、足元から消えかけていた。

 

 「じゃあな、先に行く……今一緒にいるあいつらを泣かせない程度に、ゆっくり追ってこい。約束しろよ?」

 

 「横紙破りの屁理屈野郎が最後まで好き勝手言いやがって……まぁ、わかってるよ。そっちこそ()()()()、泣かせんじゃねえぞ?」

 

 ――――正直なところ、半分以上カマかけだった。

 けど、急に話を持ち掛けてきて、それでいて頑なに自分がやったことの詳細を話さない辺り、絶対このまま抱え落ちしようとしている秘密があるのは確信していた。

 何せ『俺』だ。こいつの性格の悪さは、俺が誰よりもよく知っている。

 そして案の定、『俺』はキョトンとした顔をした後、少し悔しそうに顔を歪めながら、大きな溜息を吐き――――開き直りやがった。

 

 「っ!? んだよ。バレてんのかよ……まぁ、()()()()()だ、悪いな――――()()()の方は、任せたからな」

 

 「ホンッッッッッット勝手な奴だよお前は!!!」

 

 「バーカ、お互い様だっての」

 

 もう殆ど消えかけながらも、いっそ憎々しいぐらいの、飛び切りの笑顔を浮かべて笑う『俺』。

 それを最後に、風が吹いた。

 『俺』だったものの残滓が、風に流れて夕暮れの空に溶けていく。

 やがて『俺』の顔さえ崩れて光の粒子へと形を変え、空に溶けて見えなくなった。

 

 かつて『俺』だったものの小さな光の粒子は風に流されるままになっていたが、声が止まるのと同時に浮き上がり、俺の体に吸い込まれるように消えていく。

 気づけば、先程『俺』から受け取った、例の刀も一緒に光の粒子へと溶けて俺の手の中に消えていた。

 

 「っ……!?」

 

 同時に頭の奥に痛みが走った。

 痛みと共に、いくつかの記憶が蘇って――――いや、違う。

 ただ情報として覚えていただけの記憶が、急に色づき始めた。あの時何を考えて、何を思っていたのかが、まるでさも今思い出したかのように()()()されていっているのを感じる。

 

 ――――ふざけんなっ! あんな姉貴がいるから、俺は……!

 かつて千冬姉に密かに抱いていた、鬱屈したドス黒い感情も。

 

 ――――ハン。いいご身分なこった。どうせ俺の存在なんて、あいつにはどうでもよかったんだろうな。

 箒が剣道の大会で優勝したと知ったとき、才能がない自分をどうせ裏で見下していたんだろうと決めつけたときに感じた嫉みも。

 

 ――――なんで俺があいつに付き合わなきゃいけないんだ? 一回助けてやったくらいで調子乗りやがって。

 鈴や弾と友達になって、あいつらに振り回されるのを楽しいと感じる裏で、少しずつ心の底に積もっていった、箒と違って目を見るだけで何を考えているかわからない奴らと、付き合うことの煩わしさも。

 

 全部、思い出した――――いや。俺の中に()()()()()

 ああ、そうだ――――織斑一夏って奴は、こういう人間、だったっけか。

 

 あの半ば怨霊化していた『俺』を取り込んだせいか、正直押し寄せてくるのはこういった負の感情が圧倒的に多くて自己嫌悪で死にたくなるのだが、これも俺だと受け入れてなんとか耐える。

 ここで自分と向き合えないなら、ここから先俺が織斑一夏として生きていくことは出来ないと感じたからだ。

 

 『マスター』

 

 俺が一人で黒歴史に近い感情の奔流に悶え苦しんでいると、聞き覚えのある少女の声が耳を叩いた。

 いつの間にか、前にもここで会った白い少女が、心配そうに俺の裾を掴んで顔を覗き込んでいる。

 

 「白煉……なぁ。あいつは……白式は。やっぱり、消えたのか?」

 

 『……はい。元々白式本体は『セカンドコア』……本体であるマスターのコアのカモフラージュとして機能していましたが、この度一つに統合されました。先程は、その際のフィードバックが発生したと思われますが……お加減はいかがでしょうか?』

 

 「最悪だよ……あの根暗野郎、いいとこだけ自分で持ってって、ネガは全部俺に押し付けて逝きやがった……! これでくたばってねぇなら、後二、三発殴ってるとこだ」

 

 『ですが、これでIS『白式』は真の完成をみました。さらに――――単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『夕凪燈夜』のシステムドライバを受領しました……二つ目の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)。従来のISでは、起こりえない現象です』

 

 「ああ、そういや、んなもん貰ったっけな。結局、それってどんな能力なんだ?」

 

 『これは……非常に危険な力です。差し出がましいですが……私としては、この能力は今後一切使用しないことを推奨します』

 

 「そうか……」

 

 実際のところ、白煉の言葉に、自分でも不思議なくらい、驚きはなかった。

 

 ――――『織斑一夏』を殺す剣。

 

 あいつからそれを聞いて、改めてあいつから受け取ったあの刀の刀身を見たとき。

 本来暖かさを覚えるような、明るい茜色の刀身から、言いようの知れない恐怖のようなものを感じた。

 

 なんとなく予感があった。

 この力は本当に――――いつか、俺自身すら殺すのかもしれないと。

 けれど同時にあいつは、こうも言った……この剣が俺に牙剥くのは、かつての織斑一夏が大事にしていた人たちを、俺自身が脅かした時だと。

 今は、それを信じることにする――――普通であれば、俺がそんな真似をすることなどあり得ないのだから。

 

 「しかしまぁ……これで本格的に俺もISの仲間入りかぁ……悪いな白煉。こうなるはずじゃなかったんだろ?」

 

 『マスターに非があるわけではありません。謝罪は不要です』

 

 「そうか? いや、お前が気にしてないならいいけどさ……つーかそうだよ、亡国の連中だよ。最後にあいつがなんか焦った様子で最悪のISがどうのこうの言ってきたの、絶対あいつらのことだろ。白騎士がどうの言ってたけど、何かマズいデータでも抜かれたのか?」

 

 『他の機体は兎も角……前回の襲撃に関わった機体である『ファフニール』や、マスターが遭遇したという少女の『ガリバー』は、明らかにマイスターの設計とは違う体系で作成されています。いかにかの白騎士のマスターデータとはいえ、独力でコアからISを作成できる技術者が、今になって必要とするとは思え――――』

 

 白煉がそこまで言いかけたところで、ゴゴゴ……という遠鳴りのような音が聞こえた後、不意に地面が揺れた。

 すわ地震か!? と身構えるも、今俺がいる場所のことを思い出す。

 すると今度は夢から醒めるように、夕焼けに照らされるビルの屋上の景色が解けるように崩壊しだした。

 

 「これは……!?」

 

 『量子空間が本来の主を失ったことで崩壊を始めたようです……マスターに未練があるのであれば、私の方で再構成と維持を実行しますが、如何いたしますか?』

 

 ああ、そうか。まぁ、あいつがいなくなったんならここもなくなるよな。

 考えたのは一瞬。俺があいつなら……いちいち考えるまでもなく。絶対に()()()()

 

 「……いや。()()()()

 

 『了解。これよりIS『白騎士』は、織斑一夏へと再誕を果たします。よって――――かつての織斑一夏の残影は、最早必要ありません。さようなら……白式の礎にして、私の半身。どうか、安らかに』

 

 俺の命令を受けて、白煉が顔の前でパチンと、その小さな手を合わせる。

 その直後、まるで早回しか何かのように、空間の崩壊が加速し始めた。

 俺の……『俺』の、最期の記憶。織斑一夏の辺獄が、思い出の墓標が消えていく。

 

 なあ……これで、いいんだろ? 『俺』……

 

 最早返事はないとわかっていながら、崩れていく空間に呼びかける。

 そうするや否や、俺の足元の空間が崩れ――――白煉に手を引かれながら、光の中に俺は落ちていった。

 

 

 

 

 「――――か! 一夏!!」

 

 「……!?」

 

 俺が意識をあの量子空間に囚われている間に、白煉がどうにかしてくれたのか、それともあの『俺』が消える前に気を利かせてくれたのかはわからないが。

 シャルの声で現実に立ち返った俺は、気づけば安らかに眠っているレイシィを抱えたまま、海の底から這い上がっていた。

 

 「あ~あ……やっぱり、一夏には敵わないや」

 

 態々身を挺してまで、自分が倒した敵を助けに行った俺をシャルはしょうがないなぁ、といった感じで眉尻を下げながら見つめていたが……どこか安堵したような、嬉しそうな感情が垣間見えたのは、多分気のせいじゃないだろう。

 まぁ、いかにかつて自分に痛い目に遭わせた敵とはいえ、人殺しにはなりたくないわな……シャルに手を汚させずに済んだという点でも、俺がやったことは意味があったと思いたい。

 

 「そんなことはないって。お前は俺なんかよりもよっぽど大した奴だよ……こいつ、このまま連れていくけどいいよな?」

 

 「……うん。一夏がしたいようにすればいいよ」

 

 「? ……なんだよそんな訳知り顔して……言っとくけど、俺だって誰彼構わず助けるわけじゃないからな?」

 

 「あはは、わかってるよ……ありがとう、一夏」

 

 「変な奴……」

 

 ――――実は俺がこの時思っていた以上の意味が、シャルにとってもレイシィにとってもあったなんてのは、この時は知る由もなかったわけだが。

 だからシャルのこの反応の意味だって、この時は首を傾げることしかできなかったのも当然な訳で……やめろ! 俺のことをアホのノンデリとか言うな! お前のことだよ鈴!

 

 ……と、未来の〇魔か見〇色か知らんが一瞬脳裏にゴミのような未来予知が過ったのを首を振って吹き飛ばし、相変わらず少し腹立つ顔で微笑んでいるシャルに向き直る。

 

 「大分寝ちまってたみたいだが、状況はそれなりに覚えてるつもりだ……迷惑かけてすまん。他の奴らは?」

 

 「ああ、それは――――!」

 

 今まで穏やかだったシャルの顔が急に引き攣る。

 そして何があったのかこちらが確認するまでもなく、口を開いて俺に質問の答えを告げた。

 

 「――――皆が亡国機業の襲撃を受けてる! 増援、に……!」

 

 行こう、と言おうとしたのだろう。

 だが同時に飛びだとうとしたラファールのスラスターが明らかに正常ではない感じの火を吹き、黒煙を上げて沈黙したことで何も言えずに、代わりにシャルは歯を食いしばった。

 

 見れば、シャルのラファールもレイシィのソレイユに負けず劣らずボロボロだった……相当激しい戦闘が繰り広げられたことが、想像に難くないくらいに。

 特にソレイユのあの単一仕様能力による灼熱を直に浴びたのか、ところどころ機体の融解による損壊が酷い。左腕とか特に、マニピュレータが一度液状化してから固まったらしく、もう手の形すら残ってなかった。

 幸い絶対防御等ISの基本機能自体にはさほど影響はなく、シャル自身は特に大きな負傷をしていないようだが、ISは修理しなければ戦闘継続は厳しそうに見える。

 

 「ごめん、一夏……! 最悪這ってでも後から追いかけるから、先に皆のところに行って!」

 

 「いや」

 

 シャルの提案を首を振って拒否すると、俺は抱きかかえてるレイシィをゆっくりと、シャルへと託す。

 

 「一夏……?」

 

 「シャルは、こいつを連れて一回撤退してくれ……シャルならそのISでもなんだかんだ器用に立ち回れはするんだろうけど、流石に亡国機業の相手は無茶だ」

 

 「……でも!」

 

 「俺が行く……信じてくれないか?」

 

 「その言い方は……ずるいよ……」

 

 俺の言葉を聞いて、シャルの声が涙で翳んだ。

 ……くそ。泣かせるつもりはなかったんだが。だけど、ここは譲ることはできない。

 どちらにせよ、気を失ったレイシィを抱えたまま戦いには行けないのだ。

 

 そんな俺の意思が伝わったのか。シャルは目に涙を浮かべたまま、それでも笑ってくれた。

 

 「うん……でも、わかったよ。この子は僕に任せて……行って、一夏! 皆を守ってっ!!」

 

 「! ……ああ!」

 

 一時は、俺には重すぎると思っていた、その言葉。

 ――――なのに……今は不思議と、悪く感じなかった。

 

 あの『俺』が利用した、新しい白式の翼を広げ、シャルの前から飛び立つ。

 今度こそ……俺が守りたいものを、守るために。

 

 そうだ……確かに、あの『俺』は消えた。

 だが、織斑一夏はまだ終わっていない……なら。

 織斑一夏として――――今度こそ。あのモンドグロッソに度重なるIS学園襲撃と、何度も上等かましてくれた奴らに、いい加減積もり積もった借りを返して貰わないとな……!

 

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