IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百六十話~幻翅の虹光蝶~

 

~~~~~~side「ラウラ」

 

 

 目を覚ました一夏()が、急に皆が止めるのを振り切り、本来白式が持ちえない筈の大型Eウィングを展開し進路を引き返すように飛び始めた後。

 私達は当然弟を追おうとしたが、まるでそれを遮るかのようにハイパーセンサーのレーダーが新たな敵の接近を捉えた。

 

 ――――サイレントゼフィルス。

 セシリア、箒、あと四組の……布仏、だったか?

 彼女ら三人の代表候補性及び専用機持ちの、三機のワンオフISを同時に相手して尚撃退してのけた強敵。

 私達は当然油断することなく、シャルロットを除いた全員で迎え撃つことを選んだ。だが――――

 

 「話には聞いてたけど……ダメージが回復するってどういうことよ!?」

 

 「くっ……! そもそも、本当に前回と同じ搭乗者ですの!? 以前より、格段に動き、が……!」

 

 「私達の動きを学習した……? 馬鹿な、早すぎる……! 鈴、もっと前に出ろ! 奴に砲撃は当たらん、奴は明らかにまだお前とラウラの動きに対する勘が鈍い!」

 

 「! 出れるもんなら出てるわよっ! でもこの変な虫が一々邪魔で……! うざったいっ! どけえええぇぇぇぇぇ!!!」

 

 「凰……いや、鈴! 無理をするなっ! みすみす弾幕の中に飛びこむようなものだぞっ!!」

 

 「あぐっ……!? くぅっ、こんな、ところでっ……!!」

 

 虹のような七色の翅を持つ、七匹の蝶。

 奴らは実体こそ持たないが、自身を無数の七色の凝集光(レーザー)へと変化させて撃ち出すというあまりに変則的な動きで、縦横無尽に動き回り攪乱と攻撃を同時に行う面倒極まりない兵装だ。

 これにより多対一の不利を埋め、敵本体も未来予知の如き勘の様さでこちらの攻撃を尽く回避しつつ、高出力のレーザーライフルで隙を見せた相手を的確に狙撃してくる。

 極めつけは――――こちらが敵機にダメージを与えても、破損部位に光の蝶が集まっていき、瞬く間に損傷を回復させてしまうという不可解な現象が起こる。

 

 これらの敵の特性と戦闘技術により、私達は四人がかりで尚苦戦を強いられていた。

 ……他の特性は一度置いておくにしても、あの即座に破壊された部位が修復する現象はどういうことだ?

 いや、CBFでの鈴との戦いで一度中破したレーゲンが、あの整備課のたれ目の生徒のISによって目の前で修理された時も似たような不可解さを味わったが……あれにしたって、他のISの干渉による修理という過程があった。

 確かにISには自己修復機能が備わっているが、あれはそういう次元じゃない。自己進化の結果といえ、いずれ全ISがあんなことができるようになるなら、少数のISがとっくの昔に世界を席巻していてもおかしくない。

 絶対に何かタネがある……現にこういう感覚を、一度どこかで覚えていた。

 目の前で起きている現象は、()()()()()。どこか見落としているような、騙されている、ような――――そうだっ!!

 

 「……『ミステリアスレイディ』の時と同じ……! 空間投射映像による光学迷彩だ! あの見えている敵IS本体に騙されるな! ハイパーセンサーの位置情報を見て戦え!」

 

 「っ!?」

 

 オープンチャンネルで全員に呼びかけた私に、明らかに敵が注意を向けてきたのを感じた。

 それを即座に好機と読んだか、箒が一瞬の内に瞬時加速で間合いまで踏み込み、即座に一閃。

 空裂による袈裟斬りは確かに敵機を捉えたように()()――――次の瞬間、サイレントゼフィルスは無数の光の蝶へと変じて幻のように消え去った。

 

 「なっ……!?」

 

 妖精か何かに化かされたかのような光景に、斬りつけた本人から驚愕の声が漏れる。

 ……やはり当たりか。小癪な真似を……!

 だがISが破損するところから修復していくところまで違和感なく再現して見せる辺り、ミステリアスレイディのそれとは比べ物にならないほど高度な空間投影技術だ。あちらと違い光子そのものを操れる能力故ということなのだろう。

 

 だがそうだとわかっていれば、取れる手はあるぞ……!

 ハイパーセンサーのサーモグラフィを確認。いくらこちらの目をごまかそうが、赤外線による熱探知は躱せまい。

 

 予想は的中、視覚的には何も見えていない場所に、赤い熱反応を検知する。

 

 「そこかっ……!」

 

 即座にそちらへレールカノンを向け発射。

 だがこの状況で尚敵本体も未来予知染みた反射神経を見せ砲弾を回避。

 そのまま展開している光の蝶の群れの中に逃げ込もうとする動きを見せたため、とっさに追いかける。

 

 「逃がすかっ――――!?」

 

 『ね、ね、熱探知による本体検知です! ば、バタフライビット、フォーメーションθ(シータ)!』

 

 が……飛び込んだ途端視界に何処からともなく少年と思わしき声が響き、虹色のノイズが走った。

 視界を妨害された時間は一瞬だったが――――ノイズが晴れた瞬間、再び予想外の事態が眼前に迫っていた。

 

 「……は?」

 

 ――――私を取り囲んでレーザーライフルを構えている、《七機》のサイレントゼフィルス。

 その全てが――――同じ熱反応を発していた。

 

 そんな、筈は……!?

 空間投射映像ではない……? まさか本当に、無数に本体がいるとでも……!?

 

 「ラウラ!」

 

 「っ……!?」

 

 飛龍によって飛び込んできた鈴によって、一斉に掃射されたレーザーから間一髪のところで救い出される。

 くっ、不甲斐ない……!

 

 「すまんっ!」

 

 「たるんでんの? って言いたいとこだけど……あたしも同じことやられたら固まるだろうからあんま責めらんないわね。なにあいつ、なんでもありじゃない?」

 

 七機に増えたサイレントゼフィルスは、その全てがスターイレイザーの射撃と遜色ないレーザーを放ち一時離脱を図る私たちを容赦無く追撃してくる。

 あの非常に対応が難しい偏光射撃を使用してこないのはせめてもの救いだが、回避行動を優先しているうちに最初に確認した本体の位置が再びわからなくなってしまった。

 改めてサーモグラフィを確認しても、全てのサイレントゼフィルスがほとんど同じ反応を返してくるだけだ。

 

 「馬鹿な、物理的に分身できるISなどあるわけが……」

 

 「目の前で起きてる現実が全て……ってわけでもないみたい。あんたの見立て、多分正しいわよ、ラウラ!」

 

 殺到するレーザーを、空間圧縮によって周辺空間の()()()()()()ことで無理矢理再度偏光を行い、尽く逸らしていくという離れ業を見せながら、鈴がハイパーセンサーを叩くような仕草で己の頭を指した。

 すぐに意図を察した私は自らのハイパーセンサーを確認――――レーダーに映る敵影は増えて()()()ことを確認する。

 

 「これは……! そうか、凝集光によって近赤外線を発生させて疑似フレアを形成することで、赤外線走査すら騙している……! あれらはやはり幻の類か。だが……」

 

 「有視界情報がほぼ役立たずってのはしんどいわね。レーダーの位置情報だけであいつの本体を割り出せる?」

 

 「……出来なくはないが、こうも徹底的に逃げ回られた上に妨害まで受けてはな。それに悔しいが、これだけ広域における空間認識能力は私よりもセシリアの方が上だ」

 

 「そ。なら――――!!」

 

 「ぬおっ!?」

 

 鈴の駆る甲龍が、前触れもなく勢い良く私とレーゲンを掴んだ腕を振りかぶる。

 レーゲンは数あるISの中でも重量機に分類される機体だが、軽量機でありながら第二次形態移行(セカンドシフト)を果たし重量機並みの出力を手に入れた甲龍には軽々と投げ飛ばされ。

 

 「きゃあ!?」

 

 徹底した偏光レーザーによる波状攻撃により、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を発動する機会を伺いながらも逃し続けていたセシリアのブルーティアーズに衝突させられる。

 

 「何のつもりだ鈴!?」

 

 「鈴さん!? 何をっ!?」

 

 私たちの抗議を、鈴は聞く耳を持たないといった様子で、龍咆の発射態勢を取りながらこちらの声を上書きするように叫ぶ。

 

 「セシリアは敵の場所を特定! ラウラはAICで二人を守って! 箒はラウラの近くに寄りなさい!」

 

 「お前は何をするつもりだ!?」

 

 「そんなの――――姿誤魔化してコソコソ殴ってきてる陰険毒蛾女に、いい加減一発かましてやるに決まってんじゃない!」

 

 言い終えたところで、鈴は自ら生成していた龍咆の砲身を、発射直前で無理矢理差し止めるかの如く自らのISの拳で()()()()()。あれは……!?

 

 「『龍咆・豪』……!!」

 

 「っ! 箒! 今すぐ私の後ろに!!」

 

 「むっ!」

 

 私の声に応えて紅椿が私のレーゲンの後方に移動し、AICを展開するのとほぼ同時。

 空間圧縮により極限まで圧縮された空気の砲弾が、直前で自らが進むべき道……砲身を失い暴発。

 制御を失った砲弾は逆巻くような爆風を巻き起こし、甲龍を中心に全方向へ生成途中で砕かれた空気の刃の破片が散弾のようにバラ撒かれる。

 

 「くっ……!」

 

 無数の風の刃は龍咆の例に漏れずその尽くが不可視だが、質量を持った攻撃である以上AICが効く。

 押し寄せる暴風ごと受け止め、背後に庇った二人を守る。

 だがAICを持たない敵はそうはいかない。

 

 「ふにゃああぁぁぁぁぁ!?」

 

 敵ISの搭乗者の悲鳴と思わしき奇声が響いた。

 本体がダメージを受けて幻の空間投射を維持できなくなったのか、七機に増えたサイレントゼフィルスが一斉に掻き消える。

 だがそれでもなんとか本体が纏う光学迷彩は維持したらしい。相変わらずその姿を目視で捉えることはできないが――――

 

 「――――そこですわっ!」

 

 ――――七機のサイレントゼフィルスの猛攻が一時止んだことで、セシリアがレーダーの位置情報から敵の居場所の逆算に成功。

 自らスターライトでそこを攻撃するに留まらず、私たちのハイパーセンサーにも敵の予想位置と行動予測が表示されたガイドマーカーを送ってくる……流石はIS学園入学以降ずっと主席の座を堅持し続ける秀才の仕事だ、これならば……!

 

 「畳みかける……!」

 

 「もう逃がさん……!」

 

 瞬時加速で敵に肉薄する紅椿を援護するようにワイヤーブレードを展開。

 今から逃げようにも、ブルーティアーズのビットも含めたレーザーの一斉射撃により敵は既に釘付けにされている。これで詰めだ――――

 

 「――――()()()()()。お願いしますっ、ドゥくん」

 

 『は、は、はいっ!! バタフライビット、フォーメーションΔ(デルタ)!!』

 

 再び少年の声が響く。

 するといつの間にか、光速で敵の眼前に集結した七匹の光蝶が、一斉にレーザー化し虹色の熱線となって先鋒の紅椿に殺到する。

 

 「っ!?」

 

 いきなり至近距離で放たれた不可避かつ強烈な一撃を、それでも紅椿……箒は驚異的な勘と反射によって躱してみせた。

 普通であれば、この結果により既に趨勢は決した。

 箒は多少体勢を崩しながらも、既にブレードを引き抜き敵を己の間合いへ収めんと迫っており、一方で敵は起死回生の一手を凌がれ後がない、筈だった。

 

 ――――紅椿の背後を通過した、七色の極太レーザーのうちの()()光線が収束レーザーから分離、依然見た直角に二回曲がる動きで引き返し、紅椿の無防備な背中を刺さなければ。

 

 「!」

 

 光の軌跡が見えた時には既に遅い。

 気づけば私の放ったワイヤーブレードも縦横無尽な軌道で動く緑と黄と藍色の光によって尽くが撃ち落とされ、橙色のレーザーがレーゲンのスラスターを射抜いていて。

 

 「あっ……!?」

 

 「そん、な……!?」

 

 ブルーティアーズと甲龍にもそれぞれ青と紫のレーザーが直撃、その片翼が火を噴いているのが見えた。

 

 ――――馬鹿、な……!

 一本のレーザーを途中で七本へ分岐させた挙句、同時に偏光操作した……!? 先程の七機分のサイレントゼフィルスの幻を同時に違和感なく操作した時点で片鱗は見えていたが、いくらなんでも人間に可能な情報処理能力の上限を明らかに上回っている……!

 遺伝子的に強化されている私でもできないことを当然のように、平然と行っているあの敵はなんだ……!?

 

 「おしまい、です」

 

 ひらひら、ゆらゆらと。

 彷徨うように、揺蕩うように。

 最早姿を隠すまでもないとばかりに姿を現したサイレントゼフィルスが、私たちに向けて構えているスターイレイザーの銃口の周辺を、七色の翅持つ七匹の蝶が、花に惹き寄せられるかのように漂い始める。

 

 不味い、先程のレーザーをまた……!

 幸いスラスターをやられたとはいえまだ飛べるが、最早十全な回避機動は見込めない。

 それに……仮に万全だったとしても、先程のような規格外の攻撃を仕掛けられたら対処できる自信はない。

 越界の瞳を開いたところで、EN攻撃である敵のレーザー攻撃はAICで対処できないのだ。

 

 どうすればいい……!?

 必死に頭を回転させるも、答えが出るより先に。

 敵のスターイレイザーの引き金が、無情にも引き絞られた。

 

 

 

 

 「!?」

 

 止めとばかりに、サイレントゼフィルスの虹色のレーザーが放たれそうになったその瞬間。

 

 ――――純白の閃光が、敵が纏う虹色の色彩を白一色に塗り潰した。

 

 ()()

 まさに青天の霹靂ともいえる状況、雲一つない快晴の空に突如走った白い雷を、それでも敵は間一髪のところで避けた……ように見えた。

 

 「あらぁ? 避けはったんですか? 見えたところで避けれるようなもんちゃうんですけど……成程なぁ。この子の相手はちょいばかし、わちきの教え子達だけじゃ荷が勝ちすぎたみたいやね」

 

 「!」

 

 そして強烈な閃光により一瞬だけハイパーセンサーが遮光モードになり、瞬きの間に元に戻って視界が確保された時には。

 まるで最初からそこにいたかのように。黒を基調に稲光を思わせる黄色いペイントが全身に施された、第二世代機の初期ロットを思わせる比較的装甲の多い金属の悪魔のようなISが、私たちを守るようにサイレントゼフィルスの前に立ち塞がっていた。

 

 「ジョセスターフ教諭……!」

 

 「アーリィでええってゆうてますのに……ラウラちゃんは最後まで固いままやったね。でも、よう保たせてくれました……あとは、わちきに任せはっておくれやす」

 

 彼女のIS、『ディアベラ』の手元に、マゼンタ色のノイズが走り、武装が呼び出される。

 それは『鞭』。それも普通の鞭ではなく、かつて『九尾の猫鞭(cat o' nine tails)』と呼ばれていた、拷問用の枝鞭の類だ。

 ……尤も。それから繰り出される一撃は、拷問等という生易しいものとは程遠いのだが……

 

 と、アレで散々痛めつけられた一か月間を思い出し、つい遠い目になるが、鞭特有の乾いた撓り音が急遽響き思わず肩が跳ねる。

 ハイパーセンサーを確認すると、同じ訓練を共にした皆も私と全く同じ反応をしていたようだった。

 

 「ほな……お痛した子にはお仕置きです。ゆうてわちき、手加減とかできひんよって……死にとうないなら、どうかお気張りなすってくんなはれ?」

 

 一見透けるのではないかと見紛う程薄い金属によって編まれた、白雷を纏った九本の鞭が、それぞれ意思を持ったかのように空中に漂う。

 対峙するサイレントゼフィルスの搭乗者は……相変わらず、バイザーで顔を隠しているため表情は伺い知れないが。

 その額から汗が流れ落ちたのが、見えた気がした。

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