ラウラがあからさまに曇ってる理由は、一組で少し聞き込みをしただけですぐにわかった。
それぐらい、一か月間IS学園にいなかった俺を除いた面々には公然の事実だったということでもあるが――――
かつては学園内のランク戦において圧倒的な勝率をマークし、一年最強の名を欲しいままにしていたラウラ。
そのラウラが……気づけばその座から転がり落ちていた、という話だ。
一応断っておくが。
本来成績不良者しか対象にならない、千冬姉の特別補修プログラムを自ら志願し、他の参加者と一緒では訓練にならないと、特別メニューを千冬姉に組んでもらう程、自身を鍛えることにはストイックなのがラウラだ。
今は千冬姉がいないからといって鍛錬をサボる筈もなく、寧ろ本来一つの対象しか停止できないAICの捕捉数を増やすなど、一年最強の称号に慢心せず着実にその力を磨き上げていた。
だが、この一か月間で。
それ以上に、急激に伸びた奴らがいた。
CBFでISが
シャルが言うにはこの二人、最初の頃こそ亡国機業襲撃で俺が連れ去られたことによる焦りや余裕の無さから、
俺も戻ってきてから何度か模擬戦をしてみたが……正直、二人揃って出る作品を間違えてるんじゃないかってくらいトンデモ能力に目覚めてた。
鈴は前から、機体の名前が意外となんでもは叶えてくれないドラゴンっぽいな、とは思っていたが……
なんだよあの瞬間移動。思いっきり〇空術じゃん。自分でぶっ飛ばした相手に平然と追いついて追撃してくるの怖すぎるだろ。
それに加えてあの新装備である、ドラゴンの翼を思わせる一対の可変ウィングスラスターと、腰下辺りから伸びるテイルスラスターだ。これらのスラスターは非常に可動域が広く、白式の四肢のスラスターを活用した急制動に迫る高機動を可能としている上に、尻尾状のテイルスラスターは対IS仕様の実弾を無傷で弾き飛ばす程の剛性を持ちながらもしなやかに動き、白式の蹴り同様に推力をそのまま乗せた武器としても機能する。
鞭のような尻尾の薙ぎ払いは、かの対IS仕様パイルバンカーすら耐えると言われている防御を固めた打鉄を一撃で伸してしまう程の威力がある。
さらに今までは精々怯みかノックバックを誘発する程度の威力に収まっていた龍咆が、以前更識先輩のミステリアスレイディ戦で見せたような風の刃を纏うようになり、とんでもなく威力が上昇していた。
バリエーションも時間差で飛んでくる奴や、広範囲に風の刃を撒き散らすクレイモア型みたいのが増えており、どうせ前みたいに牽制だろうと思って迂闊に対応するとISを細切れにされる。
これらを存分に活用した甲龍の白式との対戦は、傍目から見ているとガチで例の龍玉漫画の空中戦さながらだったようで、一組の見学者からはとても好評だった……俺は疲れるのでもうあまりやりたくないが。
まぁでも相手が鈴だけあって割とすぐ動きに目が慣れてきたので、いよいよ反撃しよう思ったら、今度は急に動きが止まって……ならこっちからと攻め込もうとした途端、いきなりファイナル〇ラッシュみたいなのぶっぱなしてきて、危うくデデーンされかけた。
次元断層すら容易くブチ抜く破壊光線を人に向けて撃ってはいけないと学校で教わらなかったのか?
幸い俺は避けれたものの、アリーナの一部が跡形もなく消し飛び、
「――――
直後ピットから出てきた
全く非常識な奴だ。天〇一武道会に帰れ!
セシリアは……何? あの
ズルくないかアレ、実質一対二じゃんよ。ビットの癖に
おまけにレーザーギュンギュン曲げてくるし、レーザーの結界みたいの張って閉じ込めてくるし。
半径二十メートルエメラルド〇プラッシュかよ。第二形態ブルーティアーズのレーザーってエメラルドグリーンっぽい配色だからますますそれっぽい。
こっちはD〇O様みたいに時止められる筈もないから、まぁボッコボコにされたよね。
許さんぞ花〇院……次対戦で会ったら絶対にD〇O様で腹パンしてやる。
見た目が派手過ぎてどうしても
スターライトのレーザーを自力で曲げられるようになったため、強力な前衛の存在を併せると奇襲性が桁違いにあがっているし、なんか軍刀のような、豪華な剣みたいなデバイスを通じてナイトビットから武装を借り受けたり視界を共有したりもできるらしく、そこにセシリア自身の優れた空間認識能力が加わるとガチで死角が存在しない。
セシリア本人からは見えない位置にいてもナイトビットから視認できる状況ならば、ブルーティアーズ本体がノールック射撃で当ててきたりする。意識が一切こちらに向いていないのに、銃口だけは着実にこちらを捉えているのだから恐ろしい。
ビットはブルーティアーズ本体がスマートな外見になったのに伴い小型化したが、レーザーの威力はむしろ向上し、それぞれがIS本体が纏うそれと遜色ないEシールドを展開していてより硬くなった。速度も増し小回りが利くようになって、以前にも増して展開の仕方が嫌らしい。今のセシリア相手に攻め込むのに時間を掛けすぎると、必ず絶え間なく周囲から十字砲火を受け続ける羽目になる。
おまけに六基のビット一つ一つが、なんと小容量とはいえ拡張領域を持つ。
その大半はナイトビットの変形機構を収納するために使用されているものの、それでも一、二個くらいの追加武装を積む余地はあるようで、今までのようにレーザー一辺倒だと思い込んでいるといきなりマシンガンで弾幕を張り始めたり、ミサイルを死角からブッパなしたりしてきて、ナイトビットなしの立ち回りでさえ一切気が休まらない。
……武装共有能力の一つと言っていたが、スターライトから同時に五本レーザーが出てくるのはズルだろ。あんなのどう避けろというのか。
――――ってな感じで少し私怨が混じったが、実際どっちも強かった。
仮に今一年最強トーナメント的なのをやったとしたら、決勝はほぼ間違いなくこいつ等のカードになるだろうってくらいには。
事実もう二人は一年どころか上級生すら軽く捻れるくらいの実力だそうで、最早代表候補生か先生相手じゃないと試合にならない。
一般生徒相手なら、一対五という、以前の更識先輩戦を上回る数の差でも、一方的に勝利したこともあるそうだ。
お陰で一時は調子に乗りかけた時期もあったようだが、今回サイレントゼフィルスとパスカルに四人がかりで戦って尚ボコられたことで気を引き締め直したらしい。今も、別のアリーナで訓練に勤しんでいるはずだ。
サイレントゼフィルス……俺も奴には臨海学校の件で散々苦渋を舐めさせられたが、結局見たのはあの曲芸レーザー狙撃だけで直接会ったことはないんだよな……今の鈴とセシリア含めた四人を相手にしてほぼ無傷で完勝っていったいどんな奴なのか……
――――ふと、ボンヤリした顔で微笑む、ボサボサの黒髪の少女の顔が何故か頭を過った。
そういや、最近めっきり連絡寄越さなくなったあいつも亡国機業のエージェントだったという、衝撃の事実が判明したわけだが……
いや、まさか。あいつがなぁ……ISなんかに乗せたら数秒後には墜落してそうな奴だ。どうせ、裏方の雑用係かなんかだろ。
まぁ、サイレントゼフィルスの搭乗者のことは置いといて。
亡国機業相手には通用しなかったとはいえ。あの二人は、確かに強くなった。
けど、俺も初見こそボコられたが、案外何回かやっているうちに思っていた以上に戦えた。
……多分これは白式の自意識だったあの『俺』が消え、機体が完全に俺に順応したのが大きい。今じゃ自身の体を動かすのと同然に白式は動くし、自分でもビックリするくらいハイパーセンサーの感度が跳ね上がった。今なら銃弾も発射されたのを見てから余裕で躱せるし、強気で攻めてきた相手に居合零落白夜を差し込むことも容易になった。
零落白夜の対ISメタ能力は本体相手でなくとも健在で、ナイトビットも当たれば一撃でKOできる。
セシリアとの再戦時は出現したナイトビットに、初戦でボコられた恨みもありCBFで箒相手に使った零落白夜羅雪斬りを敢行。
セシリア相手には初見だったのもあり見事に決まり、何も出来ずにバラバラになって落下していくナイトビットを見てドヤ顔のまま表情が固まったセシリアは中々見ものだった……その後の消沈ぶりは、いっそ哀れですらあった。ごめんて。
後は――――とうとう、念願の飛行能力を手に入れた。
『騎士剣』。元々白騎士に搭載されていた武装で、白式背部にあるハードポイントと連結することでEウィングやEブレード、荷電粒子砲塔といった複数の機能を発揮する。
今のところ俺が使えるのはEウィングとしての機能だけ、展開できるのも四基だけだが、全盛期の白騎士は一度に十二基の騎士剣を同時展開し、完璧に使いこなしたと白煉は言っていた。
そんなことができるIS搭乗者なんて、俺には一人しか心当たりがない。その可能性に思い至ったことがないと言えば噓になるが、まさか白騎士の搭乗者は本当に――――いや。今は、その話はいいか。
で、Eウィングという、スラスターとは若干勝手が異なるものの、ちゃんとした翼を得てやっと飛べるようになった白式だが。
如何せん今まで長いこと空中戦といえば、雪蜘蛛を利用した多段跳び一本でやってきたため、なかなか慣れるのに時間が掛かっている。
でも、いざって時に雪蜘蛛という保険なしで空中で踏ん張れるだけでも、やっぱ安心感や安定感が違う。
雪蜘蛛はあれはあれで便利なんだが、常に足場を意識しないといけない分、どうしても普通に飛べるのに比べると、攻め込むまでに一拍かかる。
最初の内はその一拍が本来の空中戦には存在し得ない
来るのが分かっている一拍など、ただの隙でしかない。正直困っていたところに、新しい
まあこの使い方だけでは変な癖がつくと周りに言われているし、俺自身自覚があるので今後も飛行訓練は続けるつもりだ。
とはいえ、俺、というか白式が強くなったのは事実な訳で。
一か月間ほぼ何も出来ていなかった俺が、今の学園の上位陣である二人に善戦できていて、ランク上位に食い込み始めている事実が、どうも余計にラウラを追い詰めてしまったところもあるようだ。
――――いちかー。新技甲龍と合わせたいから組手一緒にやってよ。
――――あいよー。
――――一夏さん。新しいビットの布陣構築を試したいんですの。シュミレーションにお付き合い頂けませんこと?
――――的になれってか。まあ、雪蜘蛛の練習ついでならいいぜ。避けの練習したいからミサ積んできてくれ。
あの二人とはCBF以前からISの調整がてら気軽に戦っては勝ったり負けたりする間柄だったので、戻ってきてからもずっとそのノリを通してしまい、その裏で逐一試合結果を気にしている奴がいるのに気づくのが遅れてしまっていた。
つーか、これについては俺も悪いがあいつらも気づけよ……!
あの二人も上昇志向の塊なので、妙に足元が見えてないというか、自分が背中を追われる側になったという自覚が今一つない気がする。これも突貫で強くなったことの弊害だろうか?
更に言わせて貰うなら、ラウラの実力で勝てないという事実が信じ難かったのもあるのだが……
模擬戦で何度も辛酸を舐めさせられた結果ISが学習したのか、甲龍もブルーティアーズもAICメタっぽい能力を行使しているのが、試合を見ている限りではわかった。
鈍重な機体を操縦者の技量と瞬時加速でブン回すラウラのスタイルはAICありきの部分も大きく、それを無効にされてしまうことで決め手に欠くようになっている。
特にセシリアのナイトビットが佩いている剣……アレがヤバい。
ただでさえ、相手のシールドからSEを吸収して防御力を下げ、獲得したSEで特大ブレード光波を発生させて薙ぎ払うというエグい武器なのだが、このSE徴収はAICや俺の雪蜘蛛のような、SEによって精製される力場からも行われ、そのせいで所謂力場の強度パラメータに、あのシルバー〇ャリオッツ・レクイエムみたいなロボが剣を抜刀しているだけで強烈なデバフがかかる。
俺の場合はまだその辺りを踏まえた上で精製すれば足場とかには活用できるので、まだカバーできる範囲ではあるのだが(それでもSE徴収量が増えてブレード光波が飛んでくる頻度が上がるので大分キツい)……
AICは大幅に拘束力を失うため、実質無力化されたに等しい状態になる。
ただでさえAICで止められないレーザー攻撃がメインのセシリア相手にこれは大分辛い。事実、今のセシリア対ラウラのカードはいかにセシリアに単一仕様能力を使わせないかの勝負になり、ナイトビットが一度出てきてしまうと、本当に可哀そうなくらい一方的な展開になっていた。
何度もあんな負け方をしてるなら……ことISについてはプライドの高いラウラは、心が折れても仕方ない。
鈴は鈴で、AICが展開された空間を能力で圧縮して未成立にするとかいう、何気に凄い難しそうなことをして対処している。
と思ったら、どうも鈴のIS、甲龍の自意識が動きを制限されるのが嫌いで、AICを感知すると勝手にやってくれると言っていた。
……ISの自意識が力を貸してくれるってのも、何気にアドだよな。俺の白式は
ちなみに興味本位で甲龍の自意識がどんな奴か聞いてみたところ、鈴曰く『お高く留まってるだけのアホ』というあんまりな回答が返ってきた。
仮にも相棒にお前……でも俺も白式が
そういえばあまり話題になったことはないが、セシリアのブルーティアーズも自意識が目覚めているんだろうか? ……あのナイトロボセシリアの指示なくても自身の判断でビュンビュン動くし、まぁそういう事なんだろうなぁ。
「――――ってことだから……やっぱり
「う……やはり、そうなってしまうか……」
と、そんなこんなで、形的には置いていかれる形になった残りの面々が、あいつら最近調子乗ってるから見返してやろうぜ、と、少し乱暴に言ってしまえばそんな話になり。
なし崩し的に俺もその集会に参加することになり……今は、シャルにアドバイスを受けているラウラを雪蜘蛛の展開の練習をしながら眺めている。
……あの二人、本当に仲良くなったよな。
寮で同室というのがやはり大きいんだろうか。傍目から見ていて微笑ましい。
それにシャルは鈴やセシリアのような最初からIS適正Aだった天才と違い、適正Bからコツコツと修練を積んで今の練度まで辿り着いた経緯があるので、あいつ等と比べると明らかに人に教えるのが上手い。
伸び悩んでいるラウラの指導役としては最適だろう。
……鈴とか酷いからな、マジで。教えて貰いに来た二組の娘に震脚やらせてるの見たときは、後ろから頭を引っ叩いてやった。
いや、箒みたいに速攻でIS流震脚パワーアシスト習得できるんならまぁギリ理に適ってると言えなくもないが……あいつは例外だからな色々と。
普通の娘に無茶をやらすんじゃない、お前みたいな野菜人の末裔じゃない人類には半年で中国拳法の奥義なんて習得できないんだ、と至極当然のことを注意したら殴られた。なんでや。
と、今は鈴じゃなくシャルの話で……シャルは一年の中でも、今のトップ層であるあの二人に対する勝率が大分高い方だ。
連装リボルビングライフルから弾倉ごとに違う弾が出てくるってどうなってんのアレ……後ロケランを当然のように連射すんじゃねえよ一人パトリオットかよ。それに冷凍弾ってどういう原理……? ご本尊みたいに液体窒素ぶちまけてる訳でもなさそうだし……散布型ナノマシンによる気化冷却? 更識先輩のISといいもうナノマシンって言えば何でも許されると思ってない?
最近じゃあのレイシィのソレイユが搭載していた、圧倒的暴力兵器のコピーすら試している節がある……あんだけトラウマになった様子だったのに、割り切るの早いなオイ。
シャル本人は毎回考えて作るの大変なんだよ、とボヤいていたが、上手くハマれば普通に格上を喰える
実際、CBFでも学園内でもトップ層の実力者であるダリル先輩を、学園内では彼女しか扱えない特殊技能を目の前で完コピしてみせ怯ませた隙に致命打をブチ込むという、えげつないやり方で下していたらしい。
今のラウラが欲しいのはこの
一応、俺の救助にハワイ沖まで来てくれた先日の一件で、『俺』がレイシィを助けるため海中素潜りを敢行している間に亡国機業のパスカルの襲撃があったそうで、その際に覚醒の兆候のようなものはあったらしい。
しかしそれ以降はISが応えてくれることはなく、今日にまで至るそうだ。
う~ん……方法は見えてるとはいえ、もう一回死ぬような目に遭えとは流石に言えんよなぁ。つーか、万一やるなんて言い出したら絶対に止めるし。
その時はラウラの力がなければ、アリーシャ先生以外全員死んでたって話だし……パスカル。これから亡国機業とことを構えるに当たって、やはりあの女が一番の鬼門になりそうだ。
「ってことだが白煉。何か手は思いつくか?」
『シュヴァルツェア・レーゲンのコア情報について把握していることは少ないので、私からは何も。ただ……』
「? ただ?」
『これだけ刺激の多い環境にあって自意識が目覚める気配すらないのは、少々珍しいかもしれません。個体としてのコアの意識がそもそも希薄か、若しくは……いえ。これ以上は憶測になってしまいますね』
「自意識が希薄……それだと、やっぱり
『個体による、としか……レーゲンの搭乗者のIS適正の影響もあるかもしれません。彼女のIS適正は、本来専用機を与えられるような水準に達していないので』
「ああ、そういや適正Cなんだよなあいつ。それであんだけ強いんだからビックリだわ」
ラウラはIS適正よりも、本人の戦闘センスと情報処理能力を買われて選ばれた搭乗者だったと以前千冬姉が言っていたことがある。
ぶっちゃけ動かすだけなら、適正はそんなに関係ないっぽいからな。実際IS学園内でも、ランク戦での強さとIS適正の高さは必ずしもイコールで結ばれてない。
CBFで全体四位という成績を残した谷本さんは適正Cだったし、逆に眼鏡の岸原さんとかは適正はセシリアたちと同じAだけど、実技は全然だった筈だ。
適性があったところで、そもそも軍律通りに動ける奴じゃないと話にならないということなのだろう。あのアメリカの代表候補生二人もだが、多分似たような理由なのか軍出の生徒は割と適性が低めの娘が多かったりする。
ただ、それでもラウラは尚千冬姉が拾い上げるまでは、軍内でも落ちこぼれとして扱われていたそうなので、IS搭乗者というのは本人の操縦がいかに巧みで戦闘能力が高くても、それだけでは上手くいかない部分がなにかしらあるのかもしれない。
でも正直、その一部であるであろう適正も高ければいい、ってわけでもなさそうなんだよな……IS学園には境界性なんとかに対する共感耐性なんたらとかいう、やたら長い名前の科目があって、これは適正
セシリアは主席らしく真面目に受けているようだが、鈴は毎回滅茶苦茶嫌そうな顔で受けに行く。
なんなら千冬姉でさえその科目について、
「アレは昔受けた免許の教習が頭をチラつく。猿並みの知能と記憶容量さえあれば五秒で結論に行きつく話を、それらしいデータを提示しつつ言葉を変えて繰り返しているだけだ。世の中にはその猿以下の輩があまりに多いから必要なことだとはわかっているが、それでもやっていて不毛だと思ってしまうのは私が狭量だからだと思うか? なぁ一夏」
と、テキーラをエナドリで割るという、酔いたいのかキメたいのかわからないコー〇ルのような劇物を調合しながら、据わった目で言っていたのを覚えている。
……なんで聞いちまったんだよ俺は……! 千冬姉が無言で酒呑みだしたら危険信号だっつー、中学時代の教訓はどうした!?
後あの姉昔仮免試験中に教官に肘鉄かまして不合格にされたの根に持ちすぎなんだよ! イヤミババアにネチネチやられて相当腹に据えかねたのはわかるが、ISの授業と私怨を一緒くたにするなよ……!
と、兎に角あれだと多分、授業内容もそんなに面白いものではなさそうな感じがする。
最近あまり姿を見せない箒も、適正Sという殆ど前例のない適正に加え専用機まで与えられたせいで、この科目に縛られる時間が増えてきたからだ。
ISには、多分まだ俺には知らされていない闇の部分がある。俺個人で、下手に踏み込み過ぎるのはきっと不味い。
そうなると、もう一度千冬姉に見て貰うのが一番いいのかもしれないが……
IS委員会の査問なんてとっくに終わってるはずなのに、戻ってきてないんだよな千冬姉。
箒が謎科目に縛られる時間が増えてるのも、この学校では他の唯一の適正S持ちである千冬姉が不在なのも大きいらしいし。
全く我が姉は、どこをほっつき歩いてるやら……戻ってきたら、一発ガツンと言ってやらねばな。
でも、待てよ……
「確か……簪も適正Cだったよな? あいつも
前の亡国機業からの俺の救出作戦には加わっていなかった上に、未だIS学園に不在の簪だが、後日黒煌が入ったあのバレリーナ型無人機がコッソリ届けにきた俺の携帯に無数のメッセージを送ってきてくれていた。
内容はそこそこ長いので要約すると、
・後日決行される予定の救出作戦に加われないことに対する謝罪
・詳細は書けないが、表向きは今休学ということになってる、更識先輩を迎えに行くために別の作戦に参加していること
・上手くいったら必ずまた会いにいく
・あなたのお陰で私も実質
みたいなことが書かれていた。
それを信じるのであれば、簪はラウラと同条件ながら一足先に目標を達したことになる。
『簪さんの場合は間接的ながら、IS『打鉄弐式』と情報をやり取りできる『識武』の存在があります。レーゲンの搭乗者とは条件が大きく違います。参考にはならないかと』
「でも識武は、倉持技研の開発品だろ? 所長に頼めば、似たようなの作ってラウラとレーゲンが情報交換できるようにしてくんないかな?」
『倉持技研の技術ということは、日本の先行技術でもあるので……同じ日本のISが対象であるならまだしも、ドイツの第三世代機に、というのは流石に許可が下りないのではないでしょうか?』
「う~ん……一応、相談はしてみるか。ダメだったとしてもなにかしらアドバイスはくれるかもしれないし」
ってわけで、その後電話で所長に連絡してみたところ、なんと二つ返事で了承が返ってきた。
あまりに軽いノリで返ってきた返事に、思わずこちらから大丈夫なのか聞き返してしまったが、
「アンタがいない間、あの一組の子等と二組のチビの間で色々機体の情報交換や改良をやっててな。そいつに伴う改造や改修を一通り
と、そんな答えが返ってきて、最後には次はシンの助と一緒にこっちに顔出せ、とだけ付け加えて電話を切られた。
――――そこからはIS学園に倉持技研から機材なりなんなりが次々と入ってきて、話はトントン拍子に進んだ。
ラウラは矢継ぎ早に所長に質問を受けて目を回していたが、一応その変人は日本国内では屈指のIS開発の権威……ってことらしいから勘弁してほしい。
俺みたいな素人に毛が生えた程度の奴が知ったかで口を出すよりは、上手くいくだろう。
――――と、思っていたのだが。
この結果がどうなったのかを、俺が知る日は来なかった。
――――最悪のISを起こそうとしてる連中がいる。備えろ。
あの『俺』の言葉を、忘れた訳じゃない。軽く考えていてもいなかった。
この時ラウラの力になれないかと動いたのも、いずれ来る亡国機業との対決に向けてのことを考えて、というのも当然あった。
自分にできることは、していたつもりだった。
だが――――
――――あいつの警告が示した『敵』は、俺なんかの想像じゃ遥かに及ばない程強大で。
それも……既に、すぐ傍まで迫っていたのだ。