機動戦士ガンダムUC101 エピソード・オブ・アンジェロ   作:なゆ太

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気が付いたら前の投稿から2ヶ月も経ってました。時が経つのは本当に早い…。


接触

 どこか現実感のない輪郭のぼやけた空間の中で、黒髪の青年がびっくりした顔で話しかけてくる。

「君が袖付きの親衛隊長だったアンジェロ?びっくりした、調査部の女性が騒ぐわけだね。」

 そう言って黒髪の青年…ユイミンが座ったままの自分の顔を覗き込む。その声に反応してのろのろと顔を上げた自分の顔は虚ろで生気のない酷いものだ。そこでやっと、ああこれは夢だなと気付いてから、あの時の自分はこんな酷い顔をしていたのかと思うと不思議な気持ちになる。

 夢の中のユイミンはよそよそしい態度を示したかと思えば親しげな笑顔を見せたり、ころころと表情が変わる。だが、どれも確かに見たことのある顔だ。出会った頃からの記憶が走馬灯のように現れては消えていく。最後に悲しげな顔のユイミンの姿が浮かんでから、アンジェロは目を覚ます。

 枕元の時計を見ると、起床時間にはまだ1時間ほどあった。もう一眠りしようと目を閉じるが、一度目が覚めてしまうとなかなか寝付けない。ベッドの中で身じろぎしながら、さっきの夢の続きをぼんやりと考える。

 初めて会ってから暫くの間は、ユイミンとの関係はごく限られたものだった。ルオ家の一員で新型機開発プロジェクトの名目的な責任者だったユイミンと、テストパイロットの一人に過ぎないアンジェロは、滅多に言葉を交わすことはなかった。

 その関係が変わったきっかけは、「不死鳥狩り」と呼ばれる一連の戦闘でサイド6の学園都市コロニー「メーティス」が被害を受けたことだった。

 戦闘の嚆矢を放ったのはジオン側とはいえ、ルオ家の名を前面に出してコロニーに入った連邦軍との間で発生した戦闘だったため、補償などの事後処理のためユイミンが遣わされた。アンジェロはパイロットとしての腕と元袖付きの経歴を買われて護衛役兼現地のネオジオン系地下組織との連絡役としてユイミンに随行することとなった。アンジェロの命を握る端末が取り付けられたのも、この時のことだ。

 随員は他にも何人かいたが、ユイミンと歳が近いのはアンジェロだけだったため、食事などの際の話し相手として何度も呼ばれた。話し相手と言っても、経歴が違いすぎて共通の話題が全くない。最初はユイミンが殆ど一方的に話していたが、それではつまらないからとアンジェロの袖付き時代の経験を色々と話すことになった。

 アンジェロにすれば殺風景でつまらない話に思える経験だが、リアルな戦場の空気、ネオジオン残党という独特の組織の内実、連邦軍に追われながらの半ば漂流に近い暗礁宙域での暮らしなど、ユイミンにとってはフィクションに感じるような世界のリアルな体験談はことのほか興味深かったようで、すっかり気に入られてしまった。

 それでも最初は珍獣のような扱いだったと思うが、自分が袖付きに入るまでの経緯を問われて淡々と口にした時、ユイミンは聞いてはいけないことを聞いてしまった、という顔をしていた。この頃のアンジェロは、まだ自暴自棄で投げやりな気持ちが強かったから、今さら誰にどう思われようとどうでも良かったのだが、ユイミンはそうは思わなかったらしい。その後、何かと気を遣ってくるようになった。

 ところがその気を遣うというのが、御曹司のユイミンらしく、高級レストランで食事とか、リゾート地の別荘に行くとか、ショッピングの後に観劇だとか、スノッブなものばかりだった。最初は慣れなくてむしろ疲れたくらいだが、しばらく経つとそれなりに楽しめるようになった。アースノイドもジオン残党も、楽しいと思うこと、美しいと感じるものはそう変わらないらしい。その間も宇宙では小規模な紛争は断続的に起きていたが、地球は概ね平和で、アンジェロは豊かで平穏な暮らしをいつの間にか満喫していた。

 大佐を失った圧倒的な喪失感と無気力から多少なりとも回復できたのは、いつだっただろうか。傷は今でも確かにあるけれど、昔日のような自暴自棄な気持ちは今はない。大佐が変革しようとした世界がどうなっていくか、この目で確かめたいと思う。理由はともあれ生き続けたいと思うほどには、今のアンジェロは前向きだった。

 あの人に感謝しなければいけないかもしれないな。ユイミンの顔を思い浮かべながら、苦笑交じりに考える。地球の御曹司の遊び相手なんて、かつての自分が見たら最も唾棄すべき存在だっただろうに、そんな暮らしに仮初めでも安らぎと楽しみと見出してしまっている。

 それからふと、夢の最後に出てきたユイミンの悲しげな顔を思い出す。確かに見覚えのある顔だが、あれはいつだっただろうか…。

 

 その日は朝からコロニー外での実戦形式の訓練だった。小隊を分散させてから仮想敵のドローンを挟撃するというプランだったが、挟撃のタイミングでハプニングが発生する。エメットが集合地点に現れなかったのだ。訓練を中止して捜索し、どこかから流れてきたムサイ級の残骸の近くを漂うエメット機を何とか見つけ出す。ハプニングの理由は、計器の読み間違いによる遭難という初歩的なものだった。

 燃料が尽きかけていたエメット機を曳航しながら基地に帰還する。ジェガンのハッチから出てきたエメットは見るからにしょげかえっていて、怒る気にもなれない。

「そんなに気を落とすな。本番で成功するための訓練だ。次から気を付けてくれればいい。」

 そう言って励ますが、エメットは顔を上げようともしない。どうしたものかな、と思案していると、エメットが絞り出すような声で言う。

「俺、本当に役立たずですみません。いつも足引っ張ってばっかりで…パイロットとしての適性がないのかな。それとも、単に無能なのかな。」

 自嘲交じりの言葉に、アンジェロの方がびっくりしてしまう。現代の戦場の主役であるモビルスーツのパイロットは、誰でもなれるものではない。志願者は多いが、適性があるのは十人に一人もいない。適格者の中で更に選りすぐられた人間がパイロットになるのだし、エメットはその中でも優秀な方だった。実技だけでなく学科の成績も良く、士官学校の卒業式でも成績優秀者の一人として表彰されている。

「エメット、お前はパイロットとしても軍人としても優秀だ。フォン・ブラウン襲撃の時だって、お前が異変に気付いたから迅速に動けたんだ。」

「それはそうですけど…あれがジオン残党の攻撃準備って分かったのは少佐のお陰ですし。その後だって、少佐は敵機を何機も撃墜して活躍しましたけど、俺は殆ど後方支援しか出来なくて。それに今日はこんな初歩的なミスをしてしまって。もっと少佐のお役に立ちたいんですけど、力不足で。自分が恥ずかしいです。」

 エメットはかなり深刻な自己嫌悪に陥っているようだ。その感情はアンジェロにとっても身近なものだったから、ほろ苦い気分になる。だがその気持ちを表には出さず、諭すような口調で言う。

「さっきも言っただろう。フォン・ブラウンでは本当に助けられた。頼りにしている。これからもよろしく頼む。」

「少佐…ありがとうございます。期待に応えられるよう、頑張ります。」

 エメットはまだ完全には吹っ切れていないようだったが、上官のアンジェロにここまで言われて、ひとまず少しは元気そうな顔を見せる。アンジェロにしても、他人を励ます方法などよく分からなかったから、それ以上は深入りしなかった。いくつか残りの作業を指示して、その場を離れる。

 それからふと、エメットの暗い顔と、夢に出たユイミンの悲しげな顔がリンクする。そうだ、ユイミンがあの顔をしたのは、アンジェロがさっきのエメットと同じように自己嫌悪の言葉を口にした時だった。確か過去の、掃き溜めのような場所での日々を、それとなく話した時。アンジェロはぽつりと、私は汚れた恥ずべき人間です、と言った。それは紛れもない本心だった。忌まわしい過去を持つこと、しかもその境遇に自ら堕ちていったことが、何度も繰り返す偏頭痛のようにアンジェロを自己嫌悪に陥らせた。それこそ、自分という人間を消し去りたくなるほどに。

 そんな気持ちの一端を口にした時、ユイミンは悲しげな顔をして、そんなことを言わないで、と言ってから、今度は怒ったような顔でこう言った。

「本当に汚らわしくて恥ずべきなのは、君をそんな境遇に追いやった大人たちだ。君は馬鹿げた戦争と、歪んだ世界の被害者なんだ。それなのに、大人たちや世界に怒るより、自分を責めることを優先してしまうなんて、悲しすぎるじゃないか。」

 そう言われた時、アンジェロは自分が久しく怒りの感情を忘れていたことを思い出した。それは許したからではなく、怒る気力さえ失われていたからだった。自分は怒ってもいいのか。そう思った時、不思議と気分が軽くなったのを、アンジェロは今でも鮮明に覚えている。

 

 その日の夜、市長官邸にユイミンを訪ねたのは、そろそろ左腕の端末の期限が迫っていたこともあるが、昔日の会話を思い出して少し顔を見たいような気分になったことも一因だった。

 私邸にいた頃は警備も簡素なもので、会うのは簡単だったが、官邸となると警備も厳重になる。警備担当にしばらく待たされてから、ようやく荘重な雰囲気の官邸に足を踏み入れる。

 迷いかけながら市長の執務室にたどり着き、ノックして扉を開ける。部屋の奥の執務卓で書類にサインしていたユイミンは、アンジェロの顔を見て疲れた笑顔を見せる。

「ここで会うのは初めてかな。どうぞ、座って。」

 そう言って部屋の中央のソファーセットを見やったユイミンの言葉に従って腰掛ける。対面に座ろうとしたユイミンは、そういえばそろそろだったね、と言って左腕の端末の認証を行う。端末が緑に光ったのを確認したアンジェロは、躊躇いがちに尋ねる。

「市長のお仕事はいかがですか。」

「うんざりするね。早く解放して欲しいけど、議会も混乱してるからなかなか後任が決まらなくて。」

 ユイミンは肩をすくめながら、心底うんざりした表情で答える。

 市長は通常、議員の中から多数決で決まる仕組みだったが、議員の中にもジオン残党との繋がりを疑われている者が多数おり、身動きが取れない状態だった。捜査がひと段落するまで、少なくともあと数ヶ月はユイミンのこの立場は続きそうだ。

「アンジェロの方はどうだい?変わりないかな。」

「基本的には。ただ、ユイミン様が市長代行になってから、上官の態度が少し遠慮がちになったかもしれません。」

 冗談半分、本気半分といった気持ちで答える。臨時の代行とはいえ、今のユイミンはサイド6市長としての全ての権限を持つ。その中には当然、警備隊の人事権も含まれる。これまでよそよそしかった上官の態度が妙に馴れ馴れしいというか、部下の自分に対して気を使うような感じになったのは、実際に感じていることだった。

「ははっ、連邦軍の体質を受け継いでるだけのことはあるね。まあそれも一時的なものだよ。」

「早く次の市長が決まって、これまで通りの生活に戻って欲しいものですね。居心地が悪くて困ります。」

 そう言って素直な本心を口にすると、ユイミンが複雑な顔をする。

「これまで通り、か…。」

 少し寂しげな顔でそう呟いたユイミンに怪訝な顔を向けると、言い訳じみた言葉が返ってくる。

「いや、今度の事件でサイド6の自治権停止を求める声が連邦議会にあってね。特にサイド2と繋がりの深い議員が、強硬論を支持してるらしい。」

 フォン・ブラウン襲撃事件で市長を失ったサイド2は、サイド6に対する責任追及の急先鋒となっていた。合同調査委員会の設置や巨額の補償金の請求をサイド6側に求めて、連邦議会にも熱心なロビー活動をしているらしいとは聞いていたが、自治権停止まで話が及んでいたとは、さすがに驚きだった。

「万一そんなことになったら、僕もお役御免だから。でもまあ、さすがにそこまではならないかな。」

 笑って誤魔化すフリをするが、瞳の不安の色は隠しようもない。その揺れる瞳はユイミンの立場の不安定さを表しているようだ。

 ルオ商会はサイド6に巨額の投資を行なっており、その利権は地球圏でも最大規模のものの一つだ。万一サイド6の地位が不安定になれば、ルオ商会が被る損害は計り知れない。そうなれば、責任争いでユイミンは真っ先に責められ失脚する。単にサイド6市長の地位を失うだけでなく、恐らくルオ家の中で完全に力を失うだろう。

 そこまで考えた時、アンジェロの胸中に真っ先に浮かんだのは、自分の先行きへの不安だった。元袖付きの自分が罪も問われず生きているのは、ルオ商会の庇護のおかげだ。だがそれは、ユイミンが失脚してからも続くのだろうか?それとも連邦に売り渡されるか、あるいは都合の悪くなった存在として事故や事件を装い消されるかもしれない、そんな想像さえしてしまう。

 アンジェロは戦場で全力で戦って死ぬことは怖くはなかった。パイロットとしての本懐だとすら思える。だが地球の老人達の権力ゲームの駒として売られたり、チリ紙のように投げ捨てられるのは耐えられなかった。

「そんな顔しないで。大丈夫だよ、すぐにほとぼりは冷めるさ。」

 沈んだ顔のアンジェロにユイミンは励ますようにそう言うが、胸中のもやもやは晴れないままだった。

 

 ユイミンの言葉に胸がざわつき、寝苦しい一夜を過ごした翌朝。アンジェロが官舎のポストから無造作に郵便物を取り出すと、どこか奇妙な封筒が届いていた。一見すると普通の封筒で、消印もあるし差出人も書かれている。だが、その差出人はどこかデジャヴだった。

 アンジェロはしばし脳裏の記憶を辿ってから、何とか答えを見つけ出す。それはサイド6にあるジオン系地下組織が隠れ蓑としているペーパーカンパニーの所在地だった。その住所が差出人の名前の横に書かれているということは、この手紙は組織がアンジェロとの接触を求めていること、そして自分の身元が割れていることを示しているのだろう。

 アンジェロは、しばし目を閉じて考え込む。驚きは少なかった。来るべきものが来た、という感覚だった。末端の一兵士であればともかく、親衛隊隊長という幹部であった自分の行方が放置されるはずがないし、連邦の情報機関はもちろん、ジオン残党系組織が自分の正体を掴んでいても不思議はない。ジオン残党の一部が連邦の軍や治安機関と裏で繋がっている今の情勢なら尚更だ。

 部屋に戻り、ゆっくりとドアを閉めてから、緊張と諦念の混じった気持ちを抱きつつ慎重に封筒を開封する。中にはメモ用紙が一枚入っており、そこに時間と場所が書かれている。今日の夕方、繁華街にあるパブのテーブルの一つ。ご丁寧に、アンジェロの勤務時間や帰宅ルートを踏まえて、仕事終わりに立ち寄っても違和感のない場所が指定されている。

 自分は気付かないうちに丸裸にされていたということか。アンジェロは短くため息を吐いてから、メモを小さく畳んで内ポケットにしまった。

 

 その日の夕方、アンジェロは久々に繁華街の雑踏に立っていた。過去のどん底の日々の記憶から、アンジェロは盛り場というものに拭いがたい苦手意識を持っていたので、こういった場所に足を踏み入れるのはどうしても必要なときだけだった。

 それにしても、自分の服装はおかしくないだろうかと、目立たないよう着替えた私服を見る。パーカーにジーンズ、スニーカーという今の出で立ちは、いつも制服ばかりのアンジェロを見かねてユイミンが見繕ったものだが、まるで気楽な学生のような格好に思える。実際のところ、アンジェロは学生でもおかしくない年齢だったし、ルックスの良さも手伝って何でもそつなく着こなせるのだが。

 深呼吸を一回して気持ちを落ち着けてから、意を決して指定された店に入る。指示されたテーブルには、既に先客がいた。どこにでもいそうな雰囲気の、顔立ちも服装もごく平凡な三十がらみの男。アンジェロが躊躇っていると、早く座れ、と小声で囁いてくる。その声に従って対面に腰を下ろすと、男はニヤっと笑って言う。

「会えて嬉しいぜ、親衛隊長どの。」

 アンジェロの過去を知っている、と強調するかのような言い草にどことなく苛つきながら、冷静を装って尋ねる。

「そういうお前は何者だ?」

「ご想像通り、あんたの昔のご同類さ。と言っても、フォンブラウン襲撃に絡んでる一派とは毛色が違う。はっきり言えば、利害が対立してる組織の一人さ。さしあたり、ビネガーと呼んでくれ。仲間内ではそう呼ばれてるんでね。」

 男の正体にもジオン残党同士の対立にも驚きはない。だが、なぜ自分が呼び出されたのか、という疑問は残る。戸惑いを隠しながら厳しい口調で問う。

「私に何の用だ。」

「せっかちだな。あんたにとっても悪い話じゃない。」

 ビネガーはそう言うと、携帯端末を操作して、四十半ばくらいに見えるスーツ姿の男性の姿を提示する。

「ブライアン・キャメロン参事官。サイド6の連邦大使館のナンバースリーだ。こいつは他サイドの連邦当局との接触を担当している。つまり、サイド2の動向にも詳しい。こいつに接触して、情報を取ってきて欲しい。」

 そう言われて、思わず「なぜ私が」と疑問を口にする。アンジェロはパイロットであり、前線の指揮官だ。スパイや外交官ではないし、当然、諜報任務のスキルや心得もない。拒絶するより困惑が先に立つアンジェロに、ビネガーが畳み掛けるように言う。

「この参事官殿は堅物でね。平日は自宅と職場の往復、休みは自宅で過ごすか家族と外出。つまりお近づきになるのが難しいわけだが、一つだけチャンスを見つけた。仕事帰りに週何度か、とある高級ナイトクラブに寄ってる。そこでなら、奴と親しくなって情報を取ることも可能だ。」

「なら、そうすればいいだろう。私に何の関係がある。」

「最後まで聞け。このクラブは会員制でね、他の会員の招待があり、社会的な地位もないと入れない。あんたなら両方を満たせる。ルオ・ユイミンはここの会員だし、少佐殿なら文句もないだろう。」

 そこまで説明されて、ようやく少し納得する。とはいえもちろん、それだけで話を受けるわけもない。

「そちらの事情は分かった。だが、なぜ私がお前達に協力しなければならない?」

「分かってるだろう。サイド2の動向が分かれば、あんたの主人にも有益だ。ルオ・ユイミンはこのままだと失脚するぞ。」

「…私には関係ない話だ。あの方が失脚したら、他の方に仕えるだけだ。」

 内心の動揺を押し隠して答えるアンジェロに、ビネガーは意地の悪い笑みを浮かべて言う。

「ジオン残党が久々にやらかした今の情勢で、元袖付きのあんたが無事なのはご主人様が必死で庇ってるからだ。今回だけじゃない、利用価値が乏しくなったあんたがルオ家に切り捨てられずに済んでるのは、全部ルオ・ユイミンのお陰だ。気付いてるだろ。」

 そう言われて、アンジェロは思わず俯いて目を伏せる。ビネガーの言ったことは事実だ。ずっとユイミンに守られていると薄々気付きながら、そのことを見ないようにしてきた。それは誰かに借りを作りたくないというアンジェロなりの処世術でもあったし、誰かの好意を敢えて拒絶したいという子供っぽい反抗心の発露でもあった。ともあれ、いつかは事実を直面しなければならない時が来るのもまた必然であった。

「…私がそんなに愚かで鈍感に見えるか。そんな人間が、生き抜いてこれると思うのか。」

 俯きながら、どこか恨みがましいような気持ちを込めて言う。顔を上げると、ビネガーはすました顔をしながらも、どこか共感のようなものを湛えた目でアンジェロを見ている。それはジオン残党という困難な宿命を背負った者同士の、奇妙な連隊であるのかもしれなかった。

「…この参事官は、本当に有益な情報を持っているのか?」

「可能性は高い。奴の前の任地はサイド2で、今でも向こうの政府や軍に知り合いが多いらしいからな。非公式なルートも含めて、機密情報を入手してる可能性は高い。」

その説明を聞いて、しばし考え込む。およそ自分に向いているとは思えないが、もし成功すれば確かにユイミンにとっても有益だろう。昨日ああしてユイミンに会ったのも、何かの運命なのだろうか。

「…分かった。話を受けよう。」

 アンジェロの素早い決断にビネガーは一瞬驚いたような顔を見せるが、すぐににやりと笑って「話が早くて助かるぜ」と軽口を叩く。それから、ビネガーの持っている情報を元に打ち合わせを行い、アンジェロは2日後の夜に最初の接触を図ることになった。




第5話はあまり間隔を置かずに投稿したいです、はい…。
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