機動戦士ガンダムUC101 エピソード・オブ・アンジェロ   作:なゆ太

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最近やっとUCの原作小説を半分ほど読み終えたのですが、アンジェロが予想以上に等身大のキャラクターに描かれててびっくりしてます。


アストライアの戦い(後編)

「巡洋艦ナイロビ被弾、後退します。」

「第58モビルスーツ中隊、戦闘宙域に進入しました。」

「D3からD5に展開している部隊を下げさせろ、突出しすぎだ!」

 報告と命令が絶え間なく飛び交う中央司令室で、ユイミンは手持ち無沙汰に状況を眺めていた。戦闘が始まれば、素人の自分に口出しできることは何もない。いざという時のためにここに控えているが、現状ではほぼ置き物に近い存在だった。邪魔にならないよう黙って見守っているが、正面のスクリーンを見る限り戦況は悪くはないようだ。敵軍を示す赤の光点が減ってくれと念じていると、オペレーターの報告の一つが関心を引く。

「シエラセブン、敵戦艦を撃破!」

 オペレーターが読み上げたコードネームは、アンジェロ機のものだった。さすがだね、と内心で賛辞を送るユイミンの横で、将軍が声を張り上げる。

「よし、第7戦隊をC6に前進させろ。第25、38モビルスーツ中隊は火力支援。急げ!」

 将軍の叫び声に応じて、味方を示す青の点の一部がゆっくりと動き始める。スクリーンで眺めるその光景はどこまでもリアリティが乏しく、どこかビデオゲームじみていた。

 

「エメット、敵機が一機、船の残骸の影に隠れている。ミサイルで誘き出してくれ。」

「了解。フォックスワン!」

 エメット機から発射されたミサイルは先ほどアンジェロが落とした戦艦の残骸に吸い込まれていき、着弾と同時に爆炎が上がる。その衝撃を浴びて、潜んでいた敵のジェガンがほぼ予測通りのポイントに飛び出してくる。アンジェロは正確な連射で敵機を仕留め、微かに安堵する。敵の戦艦に付いていた直掩機は、これで全て片付けたはずだ。

「お見事でした、少佐。懐に飛び込んでゼロ距離射撃で敵艦を撃沈、まるで赤い彗星ですね!」

 憧憬混じりのエメットの声に、アンジェロは思わず苦笑する。赤い彗星の再来と言われた男に仕えた自分が、こんなことを言われる日が来るとは。

「軽口はその程度にしておけ。まだ戦いは始まったばかりだ。」

「は、はい、失礼しました。」

 慌てて謝るエメットの声を聞き流しながら、「本物」はこんなものではない、と微かに感傷に浸る。一瞬で意識を戻すと、戦況を確認して指示を出す。

「だいぶ本隊と離れてしまったな。合流を急ぐぞ。」

「了解です…待って下さい少佐、前方より敵機が二機接近!」

 エメットの言葉通り、モニターに敵機の姿を認める。その姿を目にした瞬間、画面越しにも関わらず殺意のような圧を感じ取り、アンジェロは思わず叫ぶ。

「下がっていろ、エメット。あれは私が相手をする。」

「しかし少佐、二対一では…」

「命令だ、分かったな!」

 有無を言わせず押し切ってから、二機を見遣り思わず息を飲む。敵機の放ったミサイルが、光の矢のようになってこちらに向かってくるのが見えた。

 

「あの敵機、奴だと思うか?」

「さあな。すぐに分かるさ。」

 カナメの問いに、レオナルドは普段通り落ち着いた声で応える。デブリ帯での混戦の中、敵の手練が戦艦を一隻落としたと聞いて、先日会敵した「奴」ではないかと直感して急行したのだ。この戦いの元凶、平和の敵、ザビ家の復活を狙う悪魔の手先。今度こそ俺が、引導を渡してやる。カナメは決意と共にレバーを握り直し、モニターを見る。果たして敵機は、想定通りミサイル近くのデブリを狙い撃ちし、爆発で四散したデブリの欠片でミサイルの大半を仕留める。

「あの動き、奴だ…!」

 思わず確信を持って言うカナメに対して、レオナルドも同意の声を上げる。

「同感だな。あのデブリの使い方、間違いない。見ろ、奴がスモークの中に突っ込むぞ!」

 固唾を飲んで見守る中で、敵機の推力が急速に落ちる。罠にかかった!

 先ほど放ったミサイルのうち数発には、スラスターに吸着して推力を下げる特殊な溶剤が詰まっている。拡散範囲が狭いので普段は滅多に使われないが、相手が「奴」ならデブリを使った戦い方をするだろうと読んで、罠を張るのに用意したのだ。

「奴はしばらくまともに動けない。一気に仕留めるぞ、ついてこいレオ!」

 

「くそっ、こっちは完全にダメか。なんだと言うんだ!」

 スラスターの推力低下を警告するアラーム音が鳴り響くコクピットで、アンジェロは何とかコントロールを取り戻そうともがきながら悪態をつく。機械の故障なのか敵の罠なのか、原因を考えているヒマは無かった。機体の動きを制御する多数のスラスターやバーニアの状況はばらばらで、制御コンピュータも機能不全を起こしている。経験の浅いパイロットなら、まっすぐ飛ぶ状態に戻すことさえ難しかっただろう。鈍足ながら最低限の戦闘機動が出来る状態まで短時間で戻せたのは、経験とセンスの賜物だ。

 だが、アンジェロが何とか態勢を立て直しかけたところで、敵機のビームが降り注ぐ。満足に動かない機体を操り何とか凌ぐが、長くは持たない。何とか手近なデブリの陰に逃げ込むが、敵は挟み撃ちしようと別れて回り込んでくる。自分の悪運もここまでかなという、妙に達観した感情が脳裏を掠めた次の瞬間、敵機の片方にビームが降り注ぐ。モニターに見えた機影は、エメットのものだった。

「エメット、下がれ!」

「何言ってるんです、いくら少佐でも、機体がそんな状態で二機落とせるわけないでしょう!!」

 思わず言葉に詰まるアンジェロに、エメットは落ち着いた声で言う。

「一機、俺に任せて下さい。落とせるかは分かりませんが、時間稼ぎくらいなら出来ます。信じて下さい。」

 そう言った声には、先ほどまでの不安げな雰囲気はない。こいつは本番に強い奴だったのかと驚きながらも、ゆっくりと考えている暇はなかった。

「信じよう。頼んだ、エメット。」

「りょーかいですっ!!」

 元気よく答えたエメットの声を聞きながら、心がざわつくのを感じる。だがそのざわつきの理由を探る余裕はなかった。敵機の片方はエメットの方に向かったが、もう一機は尚もアンジェロの方を狙っている。機体は相変わらず満足に動かないままだ。

 上等じゃないか、袖付きの親衛隊長をなめるなよ。そう内心で呟いて気持ちを奮い立たせ、デブリの陰を微速で動きながら、慎重に相手の出方を伺う。敵機の動きは若かった。直線的で、無駄が多く、絶対零度の真空越しにも気持ちの焦りが感じられる。向こうも同じ「ジェガン」だ。それを利用する。

「5、6、7!」

 数え上げると同時にアンジェロは物陰から一気に飛び出す。一瞬反応が遅れた敵機に、連射を浴びせる。頭部と脚部に一発ずつ当たり、バランスを崩した敵機はあらぬ方向へと飛んでいく。

 ジェガンのビームライフルは連射を繰り返すと冷却やエネルギー充填のために一瞬リミッターがかかる仕様になっている。ベテランのパイロットなら、そうならないよう調整して撃つものだし、敵のパイロットも講習で習ってはいるのだろうが、それを生かせるほど余裕がなかったようだ。

 大破した敵機を救助するため、もう一機の敵機が慌てて飛んでいくのが見える。急いで確認すると、エメット機は無事なようだった。安堵しながら、通信を送る。

「深追いするな、エメット。我々も一度退くぞ。」

 了解、という声を聞きながら、急速離脱する敵の機影を見送る。また死神の腕から逃れたようだった。

 

 それを発見したのは、偶然だった。機体に障害が出て、敵機と邂逅しないよう主戦場から離れたコースを迂回飛行していた時、かつて小惑星であったデブリ帯、アストライア宙域に差し掛かった頃だった。アンジェロの機体に積まれた偵察用機材に反応があったのだ。

「なんだ?デブリにしては熱源反応が高いな。」

「どうしました、少佐。」

「少し気になる反応がある。解析してくれないか。」

 同行するエメット機と接触回線でデータリンクしながら情報解析を頼む。フォン・ブラウンの時もそうだったが、エメットはこの手のことが得意だった。間を置かず、解析したデータが送られてきて、同時にエメットの驚いたような声が聞こえる。

「ビーム砲台と管制用モビルスーツがこんなに。これでこちらの側面を攻撃されたら、大変なことになりますよ!」

その言葉通り、スクリーンには多数のビーム砲台とそれを管制するモビルスーツが映っている。図らずも発見した、敵の別働隊だった。

「なるほど、これがサイド2の切り札というわけか。…エメット、この情報を大至急、司令部に送信しろ。戦いの帰趨に関わるぞ。」

 アンジェロの言葉にエメットは慌てて復唱を返し、暗号通信を送る。

「司令部より返電がありました。状況確認のため偵察機を送る、その場で待機されたしとのことです。」

「なにを悠長なことを…。」

 思わず呻くが、幾らなんでも二機で突っ込むわけにはいかない。焦りを抑えながらモニターを見ると、そう遠くない宙域を進行中の味方部隊が見える。

「エメット、あの部隊の所属は分かるか?」

「は、はい、ええと…第55モビルスーツ中隊です。」

 それは驚くべきことに、ハロルドが隊長を務める部隊だった。

「偶然も二度続くと、恐ろしいな。」

「は?」

「いや、こちらの話だ。隊長機と通信を繋げるか。」

 エメットが数秒でレーザー通信を繋げ、インカムから耳慣れた声が聞こえる。

「ようジョルジュ。お手柄だったらしいな、おめでとう。」

「ありがとう。急だが、話したいことがある。」

 そう言って、敵部隊のこと、司令部からの来援が期待できないことを伝える。話を聞き終わったあと、ハロルドは分かったと言って一瞬黙りこくった後、真剣な声音で言う。

「敵の情報、絶対に確かだろうな。」

「絶対に間違いない。保証する。」

 また僅かな間があった後、ハロルドはいつもの陽気で楽天的な声で言う。

「よし、分かった。お前の言葉を信じる。そちらに急行するから、待っていてくれ。」

 その言葉に安堵してから、自分がやったことの意味を考えて少しぞっとする。ハロルドにとっては命令を無視した行動になるだろうし、それは単に彼が罰せられる可能性があるだけでなく、一個中隊が勝手な行動をすることで戦局に影響を与える可能性もある。それでは彼は、自分の言葉を信じると言ってくれたのだ。

 そういえばさっきは、自分がエメットに信じると言ったなと思い出し、さっき抱いたざわつきの正体に気付く。信じる、信じられる。そんなことが本気で出来る相手は、生涯で「大佐」相手だけだと思っていた。気が付いたら、随分と周りの風景が変わったものだ。そのことは違和感もあったが、アンジェロはそれを不快には感じなかった。

 

「遠距離攻撃用のハイパーメガビーム砲が50、いや60基はあるな。戦艦20隻分の火力か。なるほど、こいつは…。」

 デブリの一つに身を潜ませながら、アンジェロ機と接触回線を開いたハロルドは興奮を抑えきれない声で言う。

「モビルスーツは三個中隊。だが、うち二つは管制用で、護衛部隊は一つだけだ。数で見れば互角か。」

「同じ数なら絶対に負けない。こっちはサイド6でも随一の精鋭揃いだ。俺の部下も、お前達もな。」

 陽気な笑みが見えるような声音で、ハロルドが自信を持って言う。実際、演習でも彼の部下は精鋭揃いだった。

「それに向こうはまだ、こちらの存在に気付いていない。奇襲をかければ勝利は疑いない。」

 冷静な声でアンジェロが言うと、ハロルドは楽しげな声で言葉を返す。

「俺達が来るまで素数を数えてたってわけじゃないだろう。襲撃ポイントの目処はついてるんじゃないか。」

「話が早くて助かる。いま、データを送った。この三つのデブリの陰に潜んで、ミサイル発射と同時に突入する。十字砲火で一気に敵を狙えるはずだ。」

「なるほど、手堅い案だ。これで行こう。」

 ハロルドはそう言うと、部下にも接触回線で指示を出す。アンジェロはエメットと共にデブリの一つに移動しながら、どこか開き直った気分で言う。

「私の方は相変わらず、機体がまともに動かない。援護してやるから、手柄を立ててこい。」

「…っ、はい!少佐の分まで落としてみせます!!」

 エメットは妙に感激したような声で元気に答えてみせる。よく分からない奴だと思いながら、アンジェロはそろそろと予定地点に移動する。やがて味方の全機が所定の位置についた。

「3、2、1、0!」

 カウントと同時に一斉にデブリの影から飛び出し、ミサイル発射と同時に射撃を開始する。三連射で敵陣が大混乱になり、敵機が次々と爆発する中、エメット機とハロルド機が先頭に立って10機のモビルスーツが敵陣に突入する。数だけ言えば数倍の敵に対して、その活躍は一騎当千と言っていいものだった。正確な射撃で管制用モビルスーツと砲台を次々と薙ぎ払い、すれ違いざまに護衛機をビームサーベルで一刀両断する。それでも何とか反撃に転じようとする敵機を、アンジェロ達が後方からの狙撃で仕留めていく。戦闘というより一方的な破壊行為で、ものの数分で敵は殆ど戦力を喪失していた。

 残った敵のモビルスーツが撤退していくのを見ながら、アンジェロは放棄された敵陣に残った物資を目ざとく見つける。

「ハロルド、敵陣に大量のエネルギーパックが残っている。使えないか?」

「軌道変更して、敵艦隊の近くで爆発させれば、陣形を崩せるかもしれないな。やってみよう。」

 ハロルドの行動は早かった。配下のモビルスーツを集めて、敵陣となっていたデブリを牽引し始める。さほど大きなものでなかったことが幸いして、軌道を外れたデブリが敵艦隊の方へと向かっていく。慣性飛行で敵艦隊に接近しながら、アンジェロ達は息を飲んでデブリの動きを見守る。デブリはゆっくりと艦隊に近づき、外周を守るピケット艦が迎撃のための艦砲射撃を浴びせる。

 次の瞬間、モニターが焼き切れそうな光量が視界に広がる。大量のエネルギーパックが艦砲射撃で引火し、一斉に爆発したのだ。敵はどうやら、自分達が攻撃したデブリの正体に気づかなかったらしい。

 爆発が徐々に収まり、視界がクリアになってくると、予想以上の成果が分かってくる。ピケット艦と直掩機で外周を固め、鉄壁の防御を誇った敵の主力艦隊は、陣形の一画が完全に崩壊し、防御態勢が機能しなくなっていた。チャンスだな、と考えた瞬間、ハロルドの声が飛ぶ。

「全機、俺に続け!敵艦隊を蹂躙する。」

 決断が早い!ハロルドの言葉に思わずゾクリとするのを感じながら、自分の役割も忘れない。

「私は司令部に状況を説明して増援を要請する。ハロルド、エメットを頼む。」

「分かった。最高司令官によろしくな。」

 軽口を叩くハロルドに思わず苦笑が漏れる。最高司令官とは、言うまでもなく市長のことだ。今だけは、ユイミンとの繋がりを利用したい気分だったが、そう上手く転ぶか…。

 

「なんだ、あの光は!!」

「敵主力艦隊付近で巨大なエネルギー反応を検知しました。大規模な爆発と思われます。」

「偵察機を向かわせろ。映像を送らせるんだ。」

 怒号が飛び交う司令部で、ユイミンは何となく予感じみたものを感じる。あそこにきっと、彼がいる。思わず身を乗り出しかけたところで、オペレーターからの報告が入る。

「シエラセブンより入電!第55中隊と共同で敵秘匿陣地を撃破後、敵主力艦隊への攻撃を敢行せり。至急増援を求む、とのことです。」

「それだけでは状況が分からん。敵艦隊の損害状況はどうなっている?偵察機はどこだ。」

アンジェロの要請を取り合おうとしない将軍の態度に、ユイミンは殆ど無意識に反応していた。将軍のもとに足早に歩み寄ると、これまで出したことがないような厳しい口調で命じる。

「将軍、動かせるだけの兵力を増援に差し向けるんだ。今すぐ。」

 さっきまで置物のような存在だった「最高司令官」の言葉に将軍は一瞬ポカンとした顔をしてから、赤子をあやすような口調で言う。

「市長、まずは情報収集、状況の確認が必要です。これは想定外の事態です。敵の罠の可能性も…」

「いいから、さっさと、やるんだ!反逆罪で銃殺されたいのか!?」

 冷静に考えれば、サイド6にそんな法律はなかったし、市長にそんな権限も無かった。だが、温和で人畜無害なことだけが取り柄と思われていたお坊ちゃん市長が突然見せた気迫に、将軍は確かに呑まれたようだった。僅かに狼狽の表情を見せた後、頷いて指示を出し始める。

「わ、分かりました。…第3、第5、第6戦隊を向かわせろ。そうだ、直掩のモビルスーツも全部だ。」

 味方を示す青の光点がスクリーン上で大挙して動き出すのを見ながら、ユイミンは思わず腰が抜けそうになる。本当にこれで良かったのか、という不安が脳裏をかすめる。だが、懸命に戦う紫の美しい騎士を見捨てることは、彼には出来そうもなかった。

 

 爆発と奇襲で大打撃を受けた敵主力艦隊だが、それでも残った戦力はこちらとは比較にならない。モビルスーツだけでも、こちらの10倍近くいるのだ。いくらこちらが精鋭揃いとはいえ、向こうが態勢を立て直せばいつまでも優勢を保つことは難しい。味方機はなんとか間合いを保って取り囲まれないようにしていたが、いつまでも続けられるものでもない。

 やや離れた位置で火力支援に徹していたアンジェロのもとにも、敵機が2機接近してくる。機体が万全ならともかく、相変わらずスラスターは不調で、弾薬も残り少ない。

「やれるだけ、やってやるさ…!」

 そう呟き、残りのミサイルを全て発射すると同時にビームライフルを撃つ。一機を中破させ後退させるが、もう一機は着実に距離を縮めながら攻撃してくる。敵機のビームでシールドを半分吹き飛ばされ、いよいよ万事休すかと覚悟を決めた瞬間だった。敵機の足元を別方向からのビームが過ったかと思うと、数本のビームが敵機の全身を穿ち、四散させる。ビームの発射された方向を見ると、無数の機影、艦影が見える。

「こちらデルタスリー。ここは我々に任せて、君達は一度下がれ。よく頑張ってくれた。」

「シエラセブン、了解。」

 そう返しながら、味方部隊の動きを見る。陣形の崩れた敵主力艦隊に突入し、思うままに戦果を上げていく。どうやら勝ったな、という安堵が胸の中に広がった。

 

 敵の後衛部隊が退却を開始したのは、それから30分ほど後のことだった。こうなると、残った敵の判断は早かった。降伏を告げる発光信号が次々と上がり、こちらの命令に従って機関を停止する。元々、同じ軍隊だ。捕虜としての権利を認められぬジオン残党とは違い、絶望的状況でも抵抗を続ける理由も必要も無いようだった。

 機体の状況から先に基地に帰投したアンジェロがハンガーで整備を見守っていると、戦いを終えたエメット機が帰ってくる。小さな傷はあるが、おおむね無事なようだ。ハッチが開き、初の大規模会戦を戦い抜いた若いパイロットの興奮した姿が見える。

「エメット・キャラハン少尉、ただいま帰還しました!」

「ご苦労。クラップを一隻、沈めたそうだな。お手柄だ。」

「い、いえ。まぐれのようなものです。」

 そう言って照れ臭そうに頬を染めるエメットの表情は、まだ初々しい。思わず微笑してから、こっちまで気恥ずかしくなってきて話題を逸らす。

「ハロルドは3隻落としたそうだ。大したものだな。」

「少佐も機体が万全なら負けていなかったと思いますよ。」

 他愛ない会話を交わしていると、エメットが突然黙り込む。どうした、と声をかけると、震える声で言う。

「少佐。俺達、勝ったんですね。」

「ああ。大勝利だ。」

「良かった…。」

 それだけ言って、エメットはその場にへたり込む。初の本格的な戦いの後だ、無理もない。

「エメット、お前はよくやった。自分を誇っていい。それから…」

 一瞬躊躇ってから、言葉を継ぐ。

「さっきは助かった。ありがとう。」

 言われた方は、ぽかんとした顔をしている。まだ気が抜けているのか、それとも自分が礼を言ったことがよほど意外だったのか。どちらにしても、アンジェロにとっては、戦場で誰かと確かな繋がりを感じたのは、数年ぶりのことだった。

 周りを見渡すと、続々と帰投する味方機から、パイロットが歓声を上げて飛び降りてくる。それを出迎える整備兵達もお祭り騒ぎだ。戦艦の艦橋でも、基地でも司令部でも、同じような歓声が上がっているだろう。頭の痛いことはまだ山積しているが、今日は勝利の美酒に酔いしれる時だった。

 最終決戦の場となった宙域の名から「アストライアの戦い」と呼ばれることになるコロニー同士の総力戦は、こうしてサイド6の勝利で幕を閉じた。




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