(理由は第二話に書いてあります)
成長報告。レベル上限3
リツコ=ハズウェル
マギテック2 ファイター2 エンハンサー1 セージ1 プリースト2
残り経験値180点
マコト=ゼファーランス
ライダー1 ファイター3 セージ1 プリースト2 スカウト1
残り経験値180点
ヤヨイ=ラングストン
レンジャー2 シューター2 スカウト2
セージ1 エンハンサー1 プリースト2
残り経験値180点
ユキホ=コナー
セージ3 コンジャラー1 ソーサラー1 プリースト2
残り経験値680点
上記の状態からリーゼン組は開始します。
リーゼン地方・1
――――なにかがおかしい。
ヤヨイ=ラングストンとマコト=ゼファーランスが違和感を覚えたのは、視線の先にいるウルフの群れだった。
ウルフの群れは大体が3頭から5頭ほどで行動する。しかし、二人が目撃している群れの数は誰がどう見ても10頭以上いると答えるほどに多い。
「問題が起きる前に、お店に知らせないとっ! 行こうマコト」
「ええ! 急ぎましょう!!」
幸いにも二人がいる位置とウルフたちとの距離はそれなりにあり、風下にいたおかげで特に匂いを感知されることはなく、無事に撤退することができた。
リーゼン地方、デュポール王国。ドラゴンと盟約を交わすこの国は、最強の生物と言われているドラゴンと共に戦う5人の竜騎士がいる。
この国では、竜騎士となった者のみが国王とその王位継承権を得ることができる。
竜騎士を名乗ることが出来なければ、例え国王の子であっても王位継承権を持つことが出来ない。それだけ人とドラゴンの間には深い繋がりがあると言ってもいい。デュポール王国は街の地区などにも竜に関連した名前をつけおり、西の竜翼、東の竜翼などと呼んでいる。
そんな西の竜翼にある通りをフラフラと歩いている女性がいる。
彼女は、自分の視線に入るもの全てが気になると言わんばかりに、前にではなく横に移動している。右手側に気になる物があれば右に。左手側に何かあれば左に動いている。朝家を出たのに、昼近くになっても目的地に到着していないことを考えると、相当遅い。
「ユキホ。いつまでも疑問を持っていないで早いところお店に行きましょう。また依頼を一つもやらずに帰るなんて嫌よ?」
「ええ、分かってる。でもねリツコ、周りには沢山の不思議があるの。興味が尽きないわ。ほら、あそこのご自宅に飾っている花壇。一部の花が変わっているわ、昨日の朝の時点では何も無かったもの」
「……それが?」
「もしかしたら酔った人が元々あった花を踏んだかもしれない。それで入れ換えるために昨日は何も無かったのかも」
「ただ植え替えたかったから。とは思わないの?」
「そうね。それもあり得る。だから直接聞いて来るわ」
「止めなさい」
「あ、離してリツコ。まだ疑問が……」
「そろそろお店に行くわよ。いい加減仕事しないと」
「あら、あそこのお店……」
「ほら!! 行くわよ!!」
「ああ、気になるのに……」
リツコに強制的に連れられるユキホの表情は悲しそうだった。
「こんにちはー」
中へ入ると、昼前ということで相当賑わっていた。
リツコとユキホが所属している冒険者の店――〈竜の鋼翼亭〉はデュポール王国最大規模を誇る。訓練場も併設されていたり、本来ギルドが運営をしているライダーたちが乗る馬やヒポグリフらを収容する店専用の厩を国の許可を得て持っているほどである。
「おう。来たな二人とも」
店主のベルン・エレストンが一人の女性を相手にしていたようだが、リツコとユキホが来たのを見ると笑顔で迎えてくれた。
「相も変わらず遅かったな。またユキホの癖かい?」
「ええ、いつものです」
「ひどい言われようだわ。私は気になったことを――」
「マスター!!」
ユキホが反論しようとしたが、そこへ店の中へとやってきた二人の女性の姿があった。
「おお、ヤヨイにマコトじゃねぇか、ん? お前さんたち、依頼はもう少しかかると思ったんだが、どうした?」
「ハァ……ハァ……マスター、その件なんですが、少々困ったことに……」
息を切らしながら、二人は自分たちが見てきたウルフの異常な群れのことを話した。
「……そうか、よく報告してくれたな。お前さんたちのウルフ討伐依頼がまさかそんな数だったとはな」
「……興味深いわ。ねぇ、そのウルフたちはどんな様子だったの? オスとメスどちらが多い印象だった? まとめ役のようなウルフはいた?」
「え、ちょ、あなたなに?」
話を聞いていたユキホが突然マコトに質問する。
「ユキホ! ごめんなさい。うちの連れは気になることがあるとすぐに知りたがるから」
「そ、そう。ここの所属よね? 見たことないような……」
「ああ、ユキホがすぐに店に行こうとしないからもしかしたらすれ違っていたのかも」
「そんなことは今はいいでしょうリツコ。今はそのウルフたちがとても気になるわ。マスター、その依頼私とリツコも行くことは可能?」
「ちょっとユキホ!!」
「数が十体以上もいるウルフの群れに彼女たち二人では対処は難しいわ。それにお店をよく見てリツコ」
ユキホに言われるまま店内を見渡すリツコはあることに気が付いた。
「ほかのみんながいない……?」
最大規模を誇る冒険者の店となると、所属冒険者の数も群を抜いているが、同時に依頼の数も多く舞い込んでくる。
「……さすがによく見てるじゃねぇか。今、うちにいる冒険者はお前さんたち四人だけだ。ほかのやつらは依頼を受けたり遺跡の調査だったりで、今日の朝には出ちまった。夜になりゃだれか戻ると思うがな」
「さすがにそこまで待つわけにはいきません。あれほどの数は危険です」
マコトは必至に訴えかける。
「そうだな。おし、依頼主には俺から話を通しておく。お前たち四人でそのウルフたちを追いかけ、可能であれば撃破または数を減らしてくれ、ほかの連中が戻りしだい援軍として送る。ヤヨイ、ウルフを確認した場所はどこだ?」
「はい。地図でいうと……このあたりです」
「よし。じゃあそこからマーキングとかをしといてくれ。援軍のやつらがどこに行きゃいいかわからねぇなんてことはしたくねぇしな。緊急の案件だ。ちょっとばかし道具を多めに渡しておく。遠慮なく使え」
「ありがとうございます!」
マコトは道具を受け取ると、リツコとユキホの方を見る。
「ええっと、急がなきゃいけないけど、パーティを組むなら挨拶しなきゃね。マコト=ゼファーランス。武器はこの槍で、シムルグという神を信仰しているの」
「シムルグ? 聞かない神ね」
「私が生まれたっていうプロセルシアでは有名らしいわ。まぁ、私自身は記憶がほとんどないころにここに来ていたからよくわからないけど」
「プロセルシア? 南東にあるといわれている場所ね? すごく興味があるわ」
ユキホはわかりやすいほど瞳を輝かせてマコトに近づく。
「ユキホ。今はやめなさい」
「……はいはい」
「アハハ、仲がいいんだね。ワタシはヤヨイ=ラングストン。武器はこのクロスボウ。後方からの援護射撃なら任せてね。樹神ダリオン様を信仰しているわ」
「ダリオン……ここから北にあるアルフォート王国では多くの人が信仰していると聞くわ」
「じゃ、次はこちらね。リツコ=ハズウェル。武器はこのアックスで、ほんの少しだけマギテックが使えるわ。それとグレンダール様を信仰しているの」
「グレンダールを……あの、さっきから気になっていたけどあなたは……」
マコトは言いよどんでいるが、目線はリツコの頭部に向けられていることから、何を言いたいのか、リツコにはすぐに理解できた。
「ええ、私はドワーフの両親から生まれたナイトメアよ」
リツコの頭部には二つの角が小さくある。リツコはナイトメアと呼ばれる種族で、ごく稀に人間、ドワーフ、エルフ、リルドラケンなどから生まれる。ほぼ人間と変わらない見た目であるが、頭に現れる角のせいで生まれる際に母体を傷つけて命を奪ってしまう事、人族でありながら穢れという蛮族たち同じものを内包している事などが原因で一部の国、辺境の村などではまず生きていけないほど嫌われている。特にダグニア地方のセフィリアという国の人間からしてみれば、まず人として扱われない可能性が高いほどでナイトメアであるというだけで殺されることもある。
しかしながら、ナイトメアは成人後(成人は15歳)見た目が変わらず、寿命も定かではなく、実質の不老不死ということから冒険者として適正が高い。そして竜の鋼翼亭ではナイトメアの冒険者もそれなりにおり、重宝されておりデュポールに住む市民たちも嫌う者もいるが、多くの者たちが信頼している。
ナイトメアであることを隠す者もいるがリツコをはじめとしたこと店に所属している者たちは生まれを恥じることなく兜などを被る以外は隠すことをしていない。
「そう……そうなるとちょっと面白いかも」
「面白い?」
「ええ、私はヴァルキリーなの」
ヴァルキリー。ナイトメアとは真逆で神に祝福された種として愛される種族である。背中や足のくるぶし辺りに翼を出すことができるため神の使いと言われている。そのため生まれてすぐに両親が信仰している神殿で神官として育てることもある。
「ヴァルキリー……興味あるわ。中々会うことないし……ふーん」
ユキホはマコトをジロジロと見る。
「やめないさいよユキホ。私は気にしないけど、マコトはいいの? ナイトメアと一緒なんて」
「このお店に所属しているならナイトメアと話すことなんてよくあることだし、そんなことを気にしていたら冒険者なんてやっていないわ」
「そう。じゃあ、これからよろしくね。ほらユキホ。そろそろ自己紹介くらいして」
「ユキホ=コナー。コンジャラーとソーサラーを少々嗜むクスを信仰しているしがない神官よ。それよりヴァルキリーというのは羽を出すことができると本で読んだわどういうものか見せてくれないかしら?」
「ユキホ、それよりも出発の支度をするわよ。急いで現場までいかないと」
「……分かった。あとで見せてもらうわ」
「見るのは確定なのね……まぁ、いいか。じゃ、支度が終わり次第北の城門で落ち合いましょう」
マコトの言葉に頷く三人はそれぞれの支度を終えて、一時間後に北の城門前に集まった。
「さあ、行きましょうか。急がないと被害が出てしまうかも」
城門から出た四人は急いで、ヤヨイとマコトがウルフの群れを見た地点まで向かった。しかし、昼を過ぎた時間から行動を開始したために、現地に到着するのは翌日になってしまうことは確定的だった。元々二人が戻ってくるときも一日かかっているのだから致し方ない。
交代で夜襲に備えて警戒をしつつ、翌日の朝には現場に無事到着した。
「ここがウルフを見た場所なのね?」
「ええ。当然とはいえ、姿はないわね」
「あるのはウルフたちの足跡だけか……」
リツコ、ヤヨイ、マコトの三人は周囲を見渡しながら現場の確認をしている。しかし、ユキホはというと、
「すごいわリツコ。こんなにもウルフの足跡があるなんて。通常の群れよりも圧倒的に多い。これほどの数がどうしてひと塊で行動できているのかしら……新しい環境への適正? それともリーダー格のウルフがよほど優秀? いえ、もしかしたらリーダーを失ったウルフたちの集まりなのかもしれない。様々な可能性が考えられるわ……」
ぶつぶつと呟きながら足跡を眺めている。
「あー始まっちゃったか」
「ええっと、ユキホはどうしたの?」
少々引いているマコトがリツコに問う。
「気になることがあるとああやって色々な可能性をぶつぶつ呟くのよ。それでも答えがでないと……」
「さぁ、早くウルフの群れを見つけましょう!!」
「ああやって、一気に行動力が増すのよ」
「へ、へぇ……」
ヤヨイもユキホがズンズン進む姿に、少々たじろいでいる様子だった。
「さ、私たちも行きましょう。こらユキホ! 後方型の貴女が前に立ってどうするのよ!」
「なんだか姉妹みたいね」
「親子みたいなところもあるかもね」
マコトとヤヨイの二人はリツコとユキホの関係に笑みを零し、二人を追いかけていった。
足跡はデュポールの西から北西方面に広く広がるティラの樹海へと続いていた。仲間が来るかもしれないことを考慮し、マーキングを忘れずに行いつつ、探索を続ける四人。
しかし、ティラの樹海は巨大生物や大型植物の住みかとなっており、実力がなければ樹海の奥に進むのは危険である。しかし、ここには魔法文明の遺跡があると言われており、それを探しに多くの冒険者がこの樹海に挑み痛い目を見てきた。広大な樹海を完全に走破したものはいないと言われている。
そして四人は樹海の外輪部付近までやってきた。
「樹海の中に今の私たちが入るのは危険ね」
「ええ、正直に言えばそれほどの実力はないしね」
「となると、私たちの仕事はもっと実力のある人たちに引き継いでもらうことかしらね。できれば見つけたかったけど」
リツコとマコトが今後のことを話していると、足跡をユキホと共に調べていたヤヨイから声を掛けられる。
「二人とも! この足跡おかしいわ」
二人を呼び寄せるヤヨイ。
「どうしたのヤヨイ?」
「見て、少し先の足跡」
リツコとマコトはヤヨイが指さす方を見ると、一匹分の足跡だけになっていた。
「これは、一匹分?」
「どういう……こと」
「…………相当賢いリーダーね」
足跡を見ていたユキホがそんなことをつぶやく。
「どういうことユキホ」
「リツコ。多分だけれど、私たちは少し前から連中の罠の中にいるのよ」
「これが、罠?」
「ええ、おそらく連中のリーダー……ウルフリーダーとでも呼びましょうか。そいつは多分だけれどヤヨイとマコトが自分たちのことを見ていたことを知っていたのよ」
「そんなはず! だって、ワタシたちは風下に」
「鼻ではなく目よ。原因はわからないけれど、ウルフリーダーは知能が通常のウルフのそれとは違う。二人が見ていたことも気が付いていて、また来ることも分かっていたのだと思うわ。そしてここに連れてきた」
「どうしてここに?」
「このあたりの草木はやや長い。ウルフほどの生き物であれば姿を隠すのは可能でしょう」
「っ!! みんな気を付けて!!」
気配を察知したヤヨイがクロスボウを構える。三人も遅れて臨戦態勢をとる。ティラの樹海方面を見ると、一匹のウルフがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「あいつ、明らかに普通のウルフじゃない!」
ヤヨイが声を荒げて言うが、ほかの三人も理解していた。通常のウルフは黒か白、時期によっては茶色の毛を持っているというのがウルフに対する認識であったが、現れたウルフの毛の色は白みがかった青だった。本にも載っていないような色をしており、異端なウルフであることがわかる。
「奴がウルフリーダーで間違いないでしょうね」
ユキホの言葉をほかの三人は信じた。否、信じざるを得なかった。それだけ奇妙な雰囲気を持っていたからである。
『AAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』
ウルフリーダーは遠吠えのように声を発すると、周囲からその声に対するウルフたちの声が聞こえた。
「これはっ!?」
「完全に待ち伏せされたわね」
「くっ、迎え撃つしかないわね、ユキホ、指示して。貴女の言葉を信じる」
「リツコはウルフリーダーの正面を見ていて、ヤヨイとマコトはそれぞれ左右と後方を、私は支援に集中する。お互いにカバーしていきましょう」
「分かった!」
「任せて!!」
マコトとヤヨイは武器を構え、茂みから現れるであろうウルフたちを警戒した。
「GAAAAAAAAAA!!」
「はっ!!」
飛びだしてきたウルフをマコトの槍が一突きした。
「ギャン!?」
上手い具合に当たったのかウルフは絶命した。
「よし、あのウルフリーダー以外は大したことないのかも」
「油断は禁物よマコト!!」
ヤヨイがマコトの左から襲ってくるウルフに矢を当てた。
「ありがとヤヨイ!!」
「まだまだ、来るはずよ! 油断せずに行きましょう!」
リツコもアックスを振り回し、ウルフを一匹蹴散らした。
「エンチャント・ウェポン。三人の武器を強くして……」
ユキホの唱えた魔法によって三人の武器は強化され、これによってウルフをやや倒しやすくなった。
「ありがとうユキホ! これなら!!」
ウルフの頭部にヤヨイのクロスボウから放たれた矢がしっかりと命中。一撃で命中。矢の本数も考えなければならない中で、確実に倒せていることにヤヨイはほっとしていた。
「やるじゃないヤヨイ! こっちも……やぁあ!!!」
「負けていられないわね!」
マコト、リツコも次々とウルフを打倒していく。
しかしながら、ウルフリーダーはなぜか動いていない。まるで観察しているかのように、四人を見ていた。
そして、十三体目のウルフを倒されたところで、ウルフリーダーは再び吠える。
「ROOOON!」
先ほどとは違う叫び方に四人は疑問を持つが、すぐさま、謎が解けるものの、別の疑問が発生した。
「な、どういうこと、なんで……なんでジャイアントアントがウルフに従っているの!?」
「それだけじゃない、ジャイアントリザードにキラービーも少量だけど確認できるわ。……なるほど、まさにリーダーなのね」
「どういうことなのユキホ」
「やつは知能が高いだけではなく、なんらかの方法で、ウルフ以外の生物を自分の支配に含めることができるんじゃないかしら」
「そんな力はウルフにはないはず!」
「ええ、だからこそ気になるわ、いったいあのウルフになにがあったのか……ね」
「でも、今はそんなことを言っている場合じゃないわ!!」
「そうね、ジャイアントアントは洞窟などに生息している種なのにウルフが原因でここまで来ていると考えるととっても気になるけど、今は撃破を優先させましょう」
ジャイアントアントは蟻ではあるのだが、1メートルほどの体格をしているため、人族からしてみれば脅威である。
ジャイアントリザードは肉食のトカゲであるし、キラービーは毒蜂で50センチもの大きさで、生物の血液すら吸収して巣に持ち帰る習性がある。
ウルフリーダーはその場で声を出して指示を飛ばしているかのようだが、動くそぶりは見せない。
四人は向かってくる敵を倒すことに集中する。
「やぁ!!」
マコトの槍がジャイアントアントの首を貫けば、
「だあああああっ!!」
リツコはジャイアントリザードの頭をアックスで叩き潰す。
「エネルギーボルト!」
ユキホが魔法を駆使すれば、
「そこっ!」
ヤヨイは飛んでいるキラービーに的確に矢を当てる。
しかし、やはり数の力は強力であった。徐々に押され気味になる四人。ウルフリーダーはそれを見ているだけだった。
「まずいわ、もう矢の数が……」
「魔晶石の数も底を尽きるわ」
「はぁ、はぁ……そうね、練技を使うマナも無くなりそうだわ、魔晶石でごまかしてきたけどね」
「どうする? 逃げられそうにはないけど……」
マコトの言葉にリツコはすぐさま答える。
「当然、勝つわ。まだまだ死ぬわけにはいかないもの」
「そう、ね。私も一度くらい生まれ故郷のプロセルシアに行ってみたいし」
「うん。諦めるわけにはいかないね」
三人が気合をみなぎらせていると、言葉を発していなかったユキホが口を開いた。
「三人とも、少々無理をする覚悟はある?」
「え?」
「どういうこと?」
「……なにか閃いたのユキホ」
「ええ、まぁ。でも危険でもあるわ」
「いいわ、やって」
「リツコ!?」
即決するリツコに驚くマコト。
「ちょ、いいのそんな簡単に言って」
ヤヨイも敵を攻撃しながらも動揺を隠せずにいる。
「ユキホがそういうならなんとかなるわ。ユキホお願いね」
「ええ、ならやるわよ。―――スパーク!!」
ユキホはコンジャラーが扱う魔法スパークを詠唱。敵がいない場所を攻撃した。
「ちょ、なんで敵を狙わないの!?」
「まだまだ、スパーク!」
ユキホはヤヨイからの言葉を無視して続けざまにスパークを放つ。すると、ユキホが魔法を使った場所から煙が発生した。
「もう一度、スパーク!!」
三度魔法を同じ場所へと使うユキホ。スパークは半径三メートルの空間に影響を及ぼす雷の魔法である。
「いったい何を……」
「この冬の時期のリーゼン地方は南のフェイダン地方なんかと比べると寒さはマシと言えるけど、乾燥はするわ」
「乾燥……あっ!」
ヤヨイは何が言いたいのか理解したようで、驚いた表情をユキホに向ける。
「ええ、少々無理矢理だけど、火を作ったわ」
煙は次第に勢いを増し、数秒後火が生まれた。
「これを広げるわ、スパーク!」
さらに火元周辺にスパークを打ち込むユキホ。さらに火は勢いを増した。
これに驚いたウルフリーダーをはじめとする敵たちは火を恐れて逃げ出したモノたちが現れる。ここでウルフリーダーが初めて慌てているかのように周囲を見る。
「初めて焦った様子ね……」
「!!」
火はどんどん広がり、ウルフたちも数を減らしている。
ウルフリーダーは怒っているかのように、唸っている。
しかし、リツコたちはまだウルフリーダーの底力を見くびっていた。
「BARUUUUUUUUU」
ウルフリーダーがまたもや吠えると、逃げ出さなかったウルフやジャイアントリザードらが、ウルフリーダーを守るかのように密集、本体の姿を隠した。
「な、そんなことも」
「まずいわ、奴は逃げるつもりよ!」
「な!?」
「っ、どきなさい!!」
マコト、リツコが敵を払うが、ユキホの言葉通り。ウルフリーダーは姿を消した隙をついて、後方の樹海へと姿を消していた。
「くっ、やられた……」
「落胆している暇はないわよリツコ、こいつらを倒さないと!!」
「ええ、そうね!」
「と、いっても、ワタシそろそろ矢が無くなるから、石でも投げるとするわ!」
落ちていた石を拾い投擲するヤヨイ、数が少なくなった魔晶石を使い、魔法を使うユキホ、最後の力を振り絞り武器を振るうリツコとマコト。
倒した数が三十を超えたころには、四人は限界を迎えていた。
「さすがに……きついわね……」
「ええ、ちょっとまずいかな……」
「石を投げるのも大変だわ」
「…………いいえ、どうやら私たちは運がいいわ」
「え?」
ユキホの言うことがわからなかった三人は少しだけ油断してしまった。そこへ残っていたジャイアントリザードが襲い掛かるが、遠方からの攻撃によって絶命した。
「な、なにが……」
「おーい、大丈夫かー!!」
「あれは!」
声がするほうを見ると魔動バイクに乗った集団を見つけた。彼らはリツコたちと同じ冒険者の店に所属するトップクラスの実力者たちの姿だった。
「よく頑張ったな。あとは俺たちに任せて休んでくれ! 若手のお嬢ちゃんたちが頑張ったんだ、俺たちも気合を入れるぞ!!」
『おお!!』
五人組の彼らにしてみれば今更ウルフなどの敵に苦戦するはずもなくすぐさま終わりを迎えた。
「すごい……」
「ええ、まだまだ未熟だと思い知らされるわ」
「そんなことないわよ、これだけの数を四人で倒しただなんてすごいことよ? もっと胸を張りなさい」
女性の冒険者から励まされる四人。気が付けば雨が降り、周囲の火は鎮火へと進んでいった。
「いやー煙が見えたときは何事かと思ったけど、その場にいたなんてね。一応見に来て正解だったわ。ついでにうちにはフェトル神官がいるから雨を降らせることもできるしね」
「フェトル……確か、雨と雷の女神でしたね」
「ええ、頼りになるのよ。さ、ヒーリングポーションを飲んで少しでも元気を出してちょうだい」
女性からポーションを受け取った四人は一気に飲み干した。
「よし、こっちは片づけたぞ」
「こっちもだ。まぁ、俺たちも実力はあるはずだからな。これくらいはできないと」
敵を倒し終えた男性陣たちが近づいてくる。
「疲れているところ悪い。一応情報を共有したいんだが、いいか?」
「はい。じゃあ私たちが見たことをお話しします」
リツコたちはウルフリーダーのことを分かった範囲で包み隠さず話した。
「むう、樹海の中に逃げたか……俺達でも樹海内部では危険だろうしな。今は手出しできんか」
「すみません。私たちが逃がさなければ……」
「いや、聞くところによるとマスターからは撃破または数を減らすことを依頼されているんだろう? 十分な成果さ。それにウルフリーダー1匹になったんだ。当分はおとなしくなるはずだ」
「ですが、脅威がなくなったわけじゃないですし」
「確かに。けど、こんな数の敵と戦うなんて誰も予想してなかったはずだ。君たちはまだ若手だ。これから成長すればいいだけさ」
「はい……」
「じゃ、剥ぎ取り作業をしたらゆっくり帰ろう。君たちが倒した敵の数は多いからゆっくりでいいよ」
「ありがとうございます」
リツコたちは自分たちが倒したウルフらを剥ぎ取り、しっかりと供養した。
その後は魔動バイクなどに乗せてもらいながらデュポール王国へと戻った。
「とりあえずはお疲れさん。増援に送った連中から話は聞いたよ。相当な数倒したんだって?」
店に戻った四人はマスターから酒を奢ってもらっていた。
「ええ、とても大変で、とても未熟であることを理解しました」
リツコはがっくりと肩を落とす。
「ま、連中とは経験の数が違うからな。仕方ないところもあるさ」
「でも、弱いことは確かです。もっと鍛えないと」
「そうね。狙撃の腕をもっと高めれば、矢を無駄にしなくて済むし」
「………………」
「ユキホ? どうしたの??」
「マコト、ヤヨイ。これからも私たちとパーティを組まない?」
「え?」
「……いいの?」
「ええ、感というものに頼りたくないのだけれど、あのウルフリーダーは間違いなく私たちを目の敵にしている可能性があるわ。もし、バラバラになっていたら、今回以上に大変なことになるかもしれない。だったらひと塊のほうがいい。それにバランスも悪くないし。どうかしら?」
「そりゃ、こっちからお願いしたいくらいよ。ね、ヤヨイ」
「ええ、こちらからも頼りにさせてもらうわ」
「ふふ、よろしくね二人とも」
「はっ、こいつぁいい。新しいパーティの誕生か。よし、今日は全部奢ってやるからなんでも注文しな!」
『ありがとうございます!!』
新しく酒を注文した四人はジョッキを持って各々を見つめる。
「じゃ、乾杯!!」
リツコがジョッキを持ち上げ音頭をとる。
『乾杯!』
それに答えるように三人がジョッキを持ち上げる。
ここに新たなるパーティが結成された。
リザルト
基本経験値1000点
GM(プロデューサー)からのボーナス経験値1000点
ウルフ レベル1 16体撃破 160点
ジャイアントアント レベル1 9体撃破 90点
ジャイアントリザード レベル2 5体撃破 100点
キラービー レベル2 5体撃破 100点
計 2450点
名誉点獲得
因縁の始まり(30点)
奇妙なウルフことウルフリーダーとの因縁が始まったことを予感する。
依頼を達成した四人は若手冒険者として一部の冒険者から期待されることに。
しかし、まだまだ所属する冒険者全員に知られるほどではない。
次回のザルツ組はダグニア組の経験値+リーゼン組の経験値を合わせた分を事前に獲得(何らかの依頼などを受けて)した状態で始めます。