ダグニア編・2
ハルカたち四人が遺跡から当時の資料を持ち帰ったことはバルナッドで話題になった。しかしながら、新人冒険者ということが知られるとマグレだったという印象を受けて噂はすぐに忘れられた。
だが、アルフレッドやレミアは四人の活躍を誉め、アルフレッドはまた新しい仕事を持ってきてくれるほどだ。四人は蛮族退治やバルナッド近郊に現れた獣などを退治し、少しずつ冒険者として成長していた。
そんなある日のことである。
「商人の護衛ですか?」
「うん。ハルカちゃんたちも冒険者として色々経験を積んでみたほうがいいかなと思ってね。ツテを辿ったら護衛の仕事が来たんだ」
「マスターのツテってなんだか広すぎるような……」
「そーだね。前の蛮族退治の依頼とかもバルナッドの軍からの依頼だったし」
「そんなことはないよマミちゃん、ミキちゃん。冒険者の店としては駆け出しだから結構必死だよ?」
「余裕そうに見えるけどね~」
酒の入ったグラスを片手に笑うチハヤ。
「あ、チハヤさん。まだ朝なのに……」
「気にしない気にしない。これくらいじゃ酔わないわよ。ハルカもどう?」
「いいですよ。これから仕事になるかもしれないし。それで、店長。護衛の商人さんはどこまで行くおつもりですか?」
すると店の扉が開き、ハルカにとっては見知った顔が現れた。
「邪魔するよ店長」
「やあ、いらっしゃい」
「あ、あなたは!」
「元気そうだね嬢ちゃん。噂は聞いてるよ。それと初めましてだね。アタシはヒルダってしがない商人さ」
現れたのはハルカをバルナッドまで送り届けてくれた商人の女性だった。
「じゃあ、今回の依頼は……」
「そう。アタシたちを護衛してもらいたい。ラ・ルメイアまでね」
「太陽神ティダン様を主とした国ですね」
「そう。ちょっとした商談があってね。なに、そこのダークドワーフの嬢ちゃんのことも考えてすぐに終わるはずさ」
「っ!? なんで……知って」
「情報は商人にとって大事なんだよ? と、格好つけたいけど本当はマスターから聞いたのさ、ちょっと借りがあってね」
「……いいんですか?」
「普通のドワーフと少し違うだけだろう? それにこの嬢ちゃんとうまくやっているみたいだしね。それで信用できる」
「わわっ!?」
ヒルダはハルカの頭をくしゃくしゃと撫でる。
驚いたハルカだったが、嫌な感情はでず、温かい気持ちになっていたので好きにさせていた。
「んー。この依頼受けるってことでいい?」
ミキはほかの三人を見る。チハヤは酒を飲みながら空いている手で了承を示す。
「うん。構わない」
少し嬉しそうに笑うマミ。
「あ、うん。私も構わないよ。ラ・ルメイアか……本とかでしか知らないから、楽しみだな~どういうところかな」
「それじゃ、出発は明日の朝になるから南門で会おうじゃないか」
ヒルダはそれだけ言って店から出て行ってしまった。
「よし、それじゃ一通りの準備をして明日に備えましょうチハヤさん」
「そうね。とりあえず酒樽は「ダメです」ケチ……」
拗ねるチハヤを連れて四人は準備の為に市内へと繰り出す。
翌日。早朝からバルナッド共和国の南門で待機していた四人はヒルダ達と同じ商会の人たちと合流。ラ・ルメイアへと向かう。
「そういえばヒルダさん。チハヤさんは……」
「ああ、ソレイユだから夜に対して制限があるんだろう? ちゃんとマスターから聞いているさ。安心しな。男どもには手を出させないさ!」
「ずりぃぞヒルダ! 俺たちも姉ちゃんたちと仲良くさせろよ!」
「何言ってんだい、アンタたちが十万ガメル積んだって無理な話さ」
「ひでぇ!?」
愉快な笑い声がハルカたちを包み込む。
その時、
「っ!! みんな!!」
ミキの緊張感あふれる声が響いた。
その声を聴いた三人はすぐさま警戒。すると、一同の前に三体のウルフが現れた。
「なんだウルフか、これなら嬢ちゃんたちに頼らなくても俺らで「いえ、あれはただのウルフではありません」へ?」
簡単な武装をした男性の言葉を遮り、ハルカは険しい顔をした。
「あれはポイズンウルフ。尻尾に毒針が生えている種です」
「うえ!? 毒!?!?」
「はい。ウルフは基本的に灰色ですが、見てくださいあの尾の黄色を。あれがポイズンウルフである証拠です。下手をすれば命に関わります。私たちに任せてください」
「お、おう……すまねぇが頼むわ」
四人は襲い掛かるポイズンウルフたちに向かって走り出す。とはいえ、ハルカとミキは後方支援のため、商人たちの前に立つぐらいで止まったが、マミとチハヤは一気に距離を詰めた。
「大人しくしなさい!!」
先頭のポイズンウルフを掴んだチハヤは素早く地面に叩きつける。
「貰った!!」
そこへ息の根を止めるようにマミがメイスを振り下ろす。
二匹のウルフはチハヤとマミにそれぞれ襲い掛かるが、後方からのミキとハルカの攻撃によってひるんでしまう。そこへ容赦なく前衛二名が攻撃。素早く三匹のポイズンウルフを撃破した。
「いやーやるもんだねアンタたち」
ヒルダは拍手をしながら四人に近づく。
「ふむ、そのウルフから手に入れた素材はアタシ等で買い取ろうか? 勿論毒針なんかは悪用しないと約束するよ」
四人は頷き、相場よりも少々高めに買い取ってもらった。
夜はチハヤがすぐに寝てしまう為、安全をとって野営。三人で見張りをすることになる。事情を理解しているヒルダが周囲に簡単な罠を作ることをアドバイス。ミキが楽しそうに罠を設置した。
とはいえ月神シーンの加護があったのか、何事もなく翌朝を迎えた。
「うーん! よく寝た!!」
「ああ、おはようチハヤ」
「おはようマミ」
最後の見張り役だったマミに挨拶したチハヤは元気よくストレッチをする。その様子を見ていたマミは、仮眠を取るために眠りについた。
「さてと、朝食の支度をしないとね」
夜の見張りができない以上はチハヤが朝食係になるのはある意味では必然だったのかもしれない。
「よし、それじゃ今日もサカロス様に感謝の一杯っと」
……酒を飲みながらだが。
ぽつぽつと起床を始め、ミキや仮眠を取ったマミは起きたが、なぜだかハルカは起きてこない。
ミキが様子見に行くと、起きようとして、また寝たと思われる状態のハルカが視界に飛び込んできた。
「もう、ハルカったら。ハールカ! そんな状態じゃ体を痛めるよ!!」
「うーん…………もう少し……」
「もう、しょうがないなー。えい!」
ミキは物作りの趣味があり、簡単にできるものをいくつか持ってきていた。そのうちの一つである目覚まし道具は、二つの木製の棒をぶつけることで、高音を発生させることができるという代物であった。
「わあああ!? な、なに!?」
「おはよハルカ」
「え、ミキ……え?」
「もう、いつまでも起きてこないから心配したよ?」
「ご、ごめん……ラ・ルメイアはどんなところなんだろうな~って眠る前に考えていたら眠れなくなちゃって……」
寝癖がついた髪を直しながらハルカが恥ずかしそうに話す。
「気が早いよハルカ。まだサンスールにもついてないんだよ?」
「あはは、ごめんごめん」
サンスール。セフィリア、バルナッド、ラ・ルメイアの三カ国の中心にある都市であり、商業がバルナッドに次いで盛んである。中心にあることを利用した商魂の逞しい者たちが数多くいる。
現在はどこの国にも属していない都市ではあるが、三百年前の領土を持ち出して、サンスールは自国の領土であると主張するセフィリア、三カ国の重要な商業都市として発展させるべきであると主張するバルナッド、現在進行形で都市防衛に人員を割り当てているラ・ルメイアが自国の領地であると主張している。(ただし、ラ・ルメイアの現国王はバルナッドと同様の考えである。一部の重臣たちが領地であると主張をしているのである)
これを利用してサンスールの者たちの中には商売をする者もいる。
「おはようハルカ、さ、早く食べましょう」
「おはようございますチハヤさん。わぁ、美味しそう」
チハヤの手料理を食べ終えた一同は素早く支度をしたのち、サンスールへと向かった。目的地ではないにせよ、四人にとって楽しみなことであることには変わりはなかった。
ハルカたちの冒険はいまだ始まったばかりである。
・ポイズンウルフ
通常のウルフとは違い尻尾の先端が黄色くなっており、そこが毒針になっている。
危険な種でもあるため、ウルフだと思い込んで毒を使われ、解毒が間に合わず命を落とす者が年間で何人か出てしまう。