再び欲望に溢れたこの世界に   作:ソルティーナ

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第二話 謎の会社とヤミーと駅前の襲撃

 

 

 

 

 

「...素晴らしい。」

 

 

 

 白いスーツを着た1人の若々しい男は小さな個室の中、回転する椅子に座り左右にゆらゆらと揺れながら目の前にある6枚のモニターに目を通し、にやりと薄気味悪い笑みをしていた。

 モニターの映像内には、とても大きな白い空間の中に人ではなく、2本の足で立ち小さく唸り声を鳴らし、姿はまるで猫のような姿をした異形ーー『グリード』が佇んでいる映像が6つのモニターにそれぞれ別の方向のカメラ映像が流れていた。

 

「第二段階が終えた...この調子で残りのグリードも復活させて、ようやく新たな領域の第三段階へと足を踏み入ることが出来るというわけか...フッフッフッ...。」

 

 男は再びモニターを観ながら、今度は声に出して笑う。すると、後ろの自動ドアが開き1人の研究員が部屋に入ってくる。

 

「リーダー、先程黄色のメダルのグリードの作成に成功しました。」

 

「あぁ...観ていたよ全て。」

 

「現在は緑、白、青のメダルを使い新たにグリードを作成する準備を行っています。」

 

「そうか、そのまま続けろ。それと...赤のメダルの件はどうなっている?」

 

赤のメダルーー

 コアメダルと呼ばれる色が入ったメダル。グリードを生み出す際に無造作に置かれていた多くの銀色のメダルはセルメダルと呼ばれる。この2つを組み合わせることで、セルメダルが身体を形成し、やがて意志を持たず生み出したものの欲望のままに従う怪人が生まれる。

 コアメダルには通常のメダルと特有の意志を内包したメダルの2つがあったが、数年前内包したメダルが何者かにより破壊されてしまい、意思を持ったグリードを生み出すことは不可能となった。誰によって破壊されてしまったのか…。

 それを含むメダルに関する話は、まだ先の話...…。

 

 男は、赤のコアメダルについて聞くと男は少し躊躇うような顔をしてから口を開く。

 

「赤のメダルですが...未だに発見することは出来ておりません。」

 

「......そうか。もういいぞ下がれ。」

 

「はっ。」

 

 研究員が部屋から出ると、男は新たにグリードを出現させようとしている映像を観ながら呟く。

 

「こちらもそろそろ、動いた方がいいか...。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこの度は本当にありがとうございました...なんとお礼をすれば良いか...。」

 

「あ、いえいえ!お礼は結構ですよ。別に見返りを求めて助けたわけじゃないですし。俺はただ、この子を助けたいと思って助けただけですから。」

 

 迷子になっていた少女と2人で母親を探しに行ったあの後、無事に母親を見つけることが出来た。俺と迷子の女の子は町の中心に移動して一緒に大きな声で「おかあさーん!!」と叫んだ。すると数十分後に母親らしき人が来て、女の子がその人めがけて走り出して2人は抱き合い、再開した事を泣いて喜んでいた。そして今に至るって感じ。

 

「それじゃあ、俺はこの辺で。もう、お母さんからはぐれちゃダメだよ。」

 

 俺は母親と女の子に別れを告げ、もう迷子にならないようにと注意する。それを聞いた彼女は首を縦に大きく振り「うんっ!」と強く声に出してにこやかに笑った。俺は返事を聞くと微笑み返して、頭のてっぺんに手を置き優しく撫でる。撫でられた女の子は気持ちよさそうに再び笑顔になる。

 

「それじゃあ、またどこかで。」

 

 俺は撫でていた手を離し立ち上がり、2人に背を向けて歩き出す。

 

「バイバーイ!!」

 

 そう言って女の子は大きく弧を描くように俺に手を振る。俺も女の子に手を振り返して、止めた足を再び歩き始めさせた。

 

 それにしても、案外早く見つかってよかったなぁ...多分、はぐれてからそんなに時間が経っていなくてそんなに遠くにも行ってなかったから俺達の声が届いたんだろう。

 

 

<ぐすっ...うえぇぇん......。>

 

<うぅ...ぐすっ...。>

 

「......。」

 

 

 今、彼の頭の中に先程迷子になって泣いていた女の子と崩れた村の真ん中で泣いていた女の子が浮かんできた。何故今その2人が浮かんできたのか、それは2人の泣いている姿が重なったからである。

 しかし、2人の状況は同じではなくもう1人の女の子の記憶の方は、彼が学生の頃旅していた頃の記憶。再開を果たした子供が迷子になっていたあの時、迷子になった子を考えるより先に動いて助けた理由としては今の記憶にある。というよりかは、彼が人を助けるようになった理由というべきか。どうしてかというとーー

 

 と、ここで青年はあることに気づく。

 

 

「あれ?あれ、あれ!?無い!無い!!俺の明日が無い!!」

 

 突然、明日が無いと意味不明な事を言う青年。しかし、彼の言う明日はとても大切なもので昔、彼の祖父に『男はいつ死ぬかわからないから必ず持っておけ』と言われ、生きてから肌身離さず持っている物。それほど大切なのである。

 彼は周りを見渡すと上空で風に乗り飛んでいくハイカラな柄の布が1枚。

 

「あ!!俺の明日!!」

 

その彼の言う明日というのは、

 

 

 

 

 

「待ってぇぇぇぇ!!!俺の明日(パンツ)!!!」

 

 

 

 

 

......パンツであった。

 

 

 

 

 

 

場所は代わり再び日本

 

 

 

 

 

 

 ここは都心の中心部。街を見下ろすことができる日本で一番高い展望台、何階建てかもわからないほど高く積み上げられた高層ビルや高級タワーマンションが数多く立ち並ぶこの場所。その中でも一際目立つビルが一つ。ビルの高さはもちろんだが、敷地の広さも桁違いだ。それは通常の株式会社や、大手の企業や会社でも成し得ることのできないほど。

 

『鴻上ファウンデーション』

 

 それがこの町で一位二位を争うほどの財力を持つ財団だ。しかし事業内容は表向きに公表されておらず、実際のところ何を行われているか、何を製作しているのかいまいちわかっていないが、この街をよーく見渡してみると至る所に黒い自販機が設置されている。その黒い自販機は鴻上ファウンデーションが開発したもの。

 ただ、その自販機は通常の自販機と異なり、小銭を入れる投入口が二回り以上大きいのと、千円が入れられないなど、自販機としての役割を全く果たしておらずやはり何をしているのかわからない。

 その謎の雰囲気に興味を惹かせたからかわからないが、最近若者の就職率が上がっているらしい。しかし、雇用した人数の8割以上は解雇、又は退職しているらしい。

 話を戻して、1人の女性社員が廊下を止まることなく歩く。ビルの最上階にある部屋の前に立ち止まり、片方の扉をノックして

 

「失礼します。」

 

 と一言告げてからドアを開ける。入った部屋の中は、広々とした空間で大きな窓ガラスに囲まれていて、中には高級なソファーやテーブル、テレビや絨毯、冷暖房完備で音楽をかけるジュークボックス、ピアノなど広々とした空間を有効活用されていた。

 すると彼女は手に持っていたバインダーを広げ、中にファイルしていた資料をめくり大きなデスクの前に立つ。

 

「会長、今月誕生日を迎える社員は5名で開発部署の武田さんと石田さん、生態研究所の佐野さんと田中さん、そして博物館の太田さんでもうすぐ誕生日を迎えるのが5日の佐野さんです。」

 

「腕がなるね。ご苦労、里中くん。」

 

「いいえ、これも仕事ですから。」

 

 そう答える彼女の目線の先、まじまじとガラスの向こうの空を眺めている。会長と呼ばれ、赤という派手なスーツを着こなす大柄の男性。振り返って見えた表情はとても和かな顔をしていた。だが、元々強面だったためあまりそうには見えないが。

 彼こそ『鴻上ファウンデーション』の創設者であり会長の『鴻上光生』である。

 鴻上は振り返って机の引き出しを開ける。大事な資料を出すのかと思えば、何故か料理を行う際に使用する銀色のボウルに、その中にはゴムベラや薄力粉などお菓子作りに必要なツールが揃っていた。

 そう、彼は今ケーキを作ろうとしている。しかしこの会社がお菓子会社だからというわけでなく、ただ単純に鴻上光生はケーキ作りという、見た目とのギャップがありすぎる趣味を持っているのである。彼は何かの記念日や誕生日を迎える度にケーキを作り贈呈する謎の風習があるのである。先程、里中が鴻上に伝えていた内容がそのことである。

 と、ケーキ作りを始めていた鴻上は、ピタリと時間が止まったかの様に急に作業を止める。

 

「そうだ、里中君。君にもう一つ頼みたい仕事がある。」

 

 と少し顔色を変えて里中に話しかける。

 

「近々、予期せぬ事態が起こりうるかもしれない。数年前の悲劇の様に…」

 

 里中は「数年前の悲劇…」と呟き、顔が少し険しくなる。彼女は鴻上が次に何を言いたいのかを悟ったのかおもむろに携帯電話を取り出す。

 

彼ら(・・)のフォロー頼んだよ。」

 

 そう伝えて、鴻上はケーキ作りを再開し里中は一礼をして部屋を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅前近くで人が沢山訪れる中心街、1人のスーツの男は人々が行き交う歩道をジュラルミンケースを持ちながら歩き、方向転換をして道中の路地裏の方に入る。

 男が入った数秒後、路地裏の入り口付近は一気に絶叫が響き渡りパニックに陥った。その原因はすぐに理解できるであろう。街中を歩いていた人達が一斉に同じ方向に視線を向け、同時に見ているものから避ける様に後ろに下がる。

 人々が絶叫しその目に映したものはー

 

 

 

 

 

 

 全身に包帯を巻きよろよろと二足歩行で歩く謎の生物であった。

 

 

 

 

 

 

「ウゥ…」

 

 見た目はミイラに似ていて、大きさは一般男性と同じぐらいで呻き声や動き方はまるでゾンビの様であった。現代のましてや都心部の中心に今まで確認されていなかった生物がどうしてこのタイミングで現れたのか。

 すると、後ろの路地裏から目の前にいる生物がゾロゾロと湧いて出てきたのである。その数は5体、10体、それ以上。

 その光景を見た人々は再び叫び、その場所から逃げ惑う。謎の生物達は逃げ惑う人達を追いかける様に走り出す。先程まで人が溢れ返っていた歩道が、そこには元から人は来ていなかったかの様に急激に人の姿を見せなくなっていた。

 そして、謎の生物が出現する前に路地裏に入ったスーツの男性が、誰もいなくなった歩道に出てくる。

 

「…まずは、量産型のヤミー(・・・)で誘い出しましょうか。」

 

 そう言って、彼は一人歩道を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ハロハピ一行は…。

 

 

 

「うーん…いないわねぇ…」

 

「やっぱり、お婆さん達の見間違いか何かだってこころ。」

 

 私達は笑顔パトロール隊と称して、笑顔のパトロールをついでに、こころが商店街のお婆さんに聞いた数年前に目撃したミイラの様な生き物を、ここ数時間CiRCLE周辺をぐるっと一周したが見つからず、場所を変え商店街やショッピングモール前など、人が賑わっていそうな場所を手当たり次第に探してみた。

 が、それでも未だに見つかっていない状態でこころとはぐみと薫さんの3バカを除いて、私と花音さんは歩き疲れ公園のフェンスにもたれかかっていた。

 はぐみは「ミイラは見つかってないけど、街の皆の笑顔が確認できて嬉しい!」と、薫さんは「シェイクスピア曰く、備えよ。たとえ今ではなくても、チャンスはいつかやって来る。つまり、そういう事さ...」と、いつも通りの反応をするが私は今、それにツッコミをする気力はない。

 すると突然こころは、ある事に気づきだす。

 

「あら?」

 

「どうしたのこころん?」

 

「何かあったのかしら、皆走っているわよ?」

 

 こころが向いている方向にいる人たちが、真逆の方向に走っているのである。それも、走っている人たちは額に汗を垂らしながら。

 

「お、鬼ごっこでもしているんじゃないかな…?」

 

「花音さん…それにしては人多すぎです。というか、絶対違いますよ。」

 

「だ、だよね…。」

 

 休憩していた私と花音さんがこころの発言に返答する。さっきの言う通り、鬼ごっこと言うには走っている人数が多すぎる。それと走っている人全員、険しい顔をしていて、とても遊びとは思えない。

 

「そういえば、まだ駅前を確認していなかったね。」

 

「これは、笑顔パトロール隊としては見逃せないわね。皆、今すぐ行きましょー!」

 

 薫さんが駅前に訪れていないことを指摘し、こころがすぐさま駅前に向かおうとする。と、突然横から、駅前の方向から走ってきた中年の男性に呼び止められる。

 

「お嬢ちゃん達、今駅前に近づくのはやめときな。早くここから逃げたほうがいい。」

 

 とだけ私たちに伝え、男の人は再び走り去っていった。私達は言われたことがよく理解しておらず、何が起こっているのかわからないが、とりあえず男の人の発言から今駅前は危ないってこと…なのかな?

 とりあえず、あの人が近づいたらいけないって言ってたんだし駅前の方向に向かうのはやめときまー

 

「…ってあれ、こころは?」

 

 先程まで私たちの前にいたこころの姿が見当たらない。ここで私は一つの最悪な答えを導き出す。もしやと思い、駅前につながる方向に視線を合わしてみると、

 

「皆ー!早くしないと置いて行くわよー!」

 

数メートル離れた場所にこころが立っていた。やっぱり…いつのまにあんな遠くまで…、しかもあっち駅前じゃん!

 

「こころー!そっちは今行ったらダメだって!」

 

 私はこころに戻ってこいと伝えるが、こころは聞く耳を持たずにそのまま駅前へと走り去ってしまった。

 これはまずい…。もし、こころに何かあったら…。とりあえず、こころの暴走を止めないと!

 そう思った私は考える間もなくこころの後を追いかけた。後ろから花音さん達の呼ぶ声が聞こえた気がしたが、反応する暇も無く全速力でこころを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

ー駅前ー

 

 

 

 

 

 

「……何……これ。」

 

 今、私が見ている景色は本物なのだろうか。視界に広がる現実を受け入れたくない程に、おぞましい光景が私とこころの前に映し出されていた。

 

 こころを追いかけたあの後、猛スピードで走ってたこころが止まって私に「美咲!やっぱりミイラさんは本当にいたわ!」と伝えてきた。流石のこころも驚いた表情を見せたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 そんなわけないと、走り疲れて下げていた顔を上げると、包帯を全身にグルグルと巻かれ、まさしくミイラの様な化け物が人を襲っている光景が目に映った。しかも30体ぐらいの大群で。

 襲っているミイラの周りには倒れている人の姿や、遠くな壁に何かを打ち付けられた様なヒビがあり、その付近には人が倒れていたりと、明らかに普通ではないことがわかる。

 あの男の人が言っていた通りだ。ここは今危険すぎる。ここにいたらそのうち私達のところへもやってくる。そうなる前に急いでこころを連れて皆と逃げてーー。

 

「まぁ、あのミイラさんあの人達を虐めてるのかしら?ちょっと虐めるのはダメって伝えて来るわね!」

 

「はぁ!?ちょ、こころ!?」

 

 何してんの!?なんで襲われてるってわかんないの!?ていうか、伝えに行くって多分反応しな…。

 って言ってる場合じゃない!早く止めないとーー。

 

 

 

 あ、あれ…。足が…動かない?なんで?

 

 美咲は笑顔のパトロールとミイラの捜索、そしてこころを呼び止めるために全速力で駆け抜け、さらに包帯を巻いたミイラ、通称『ヤミー』が人を襲っている場面を目撃してしまい、疲れと共に足がすくんで動けなくなってしまった。

 

 は、早くこころを止めないといけないのに…、このままじゃこころが…!

 

 美咲はこころを助けなければいけない、しかし恐怖心に負け動けない状態が続き、顔が真っ青になりパニック状態になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

ー後ろから、激しく走行音を鳴らしながら何かが近づいていることも気づかないほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達、虐めはやめなさい!」

 

 こころはヤミーを目の前に腰に手を当てて、怒ったような言い草で語りかける。ヤミーはこころの言葉に反応するが、もちろん返事をすることはなくただ、こころの方に振り向くだけ。そして、ヤミーは手を前に持ってきてゾンビのようにゆっくりと、ゆっくりとこころに歩み寄りこころに危険が迫る。

 しかし、こころにそんなことは気付くはずもなくただただ、ヤミーに虐めるなと注意するだけだ。

 

「そんなことしてたら、下の人たちが可哀想だわ。虐めるより、もっと楽しいことしましょ!そうすれば、この人もそれに貴方もみーんな笑顔になれるわよ!」

 

「ウゥ…」

 

 返ってくるのはヤミーの呻き声のみ。そしてとうとう、ヤミーの手があと一歩でこころに手が届きそうなところまで近づかれてしまった。

 

「こころッ!!逃げてッ!!!」

 

 動けずにいた美咲は、今出せる最大の声量でこころに逃げてと叫ぶ。こころは美咲の声に気付き声の方向に振り返る。

 その瞬間、ヤミーはこころに襲うと掴みかかろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

絶体絶命のピンチー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのピンチは、ヤミーがいた場所から聞こえた何か衝突したような鈍く重い打撃音と、一人の男性の声によって消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

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