マギアテイル   作:踊り虫

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今回も、グラムベル視点無し。

……なんかこの話、幕間として作成した方が良かったんじゃないか?とも思うけど、やっぱり仲間になる瞬間、みたいなのは事前に書いておきたい派なもので。

それと思ったより戦闘シーンで苦戦しました。うーん、難しい!

※スペルリィ君の投稿者様。なんかキャラ崩壊させてる気がしてしょうがないです。本当にごめんなさい。


第七話

 スペルリィ・ディードは一人だった。

 生まれもわからず、親の顔も知らない。物心のつく前にイロドーツに捨てられていた孤児だった。

 その時手に持っていたのは魔導書。本来なら誰かに盗られてしまうかもしれなかったソレを、しかし運命の悪戯か、神の慈悲か、盗られることなくその腕の中にあった。

 彼は一人だった。誰も彼を見ない、そんな孤独感を彼は知っていた。

 そして渇望した。

 

 ――私を、見てくれ――

 

 それが、彼を魔術――ひいては奇術の道へと歩ませる原点。

 彼は、捨てられた時から手にしていたという魔導書を紐解くこととなる。

 

 

◇◇◇

 

 

「【開演(スタート)――】」

「【世ヲ形作ルハ我ガ手ナリテ】!」

 

 詠唱は同時、されど先手はアルカトリ。

 僅か一節にて紡がれる詠唱はマナを掌握し、彼女の想像のままに魔術を顕現させる――生み出すは炎。地を奔り、刹那の間に勢いを増して襲い掛かる豪炎。

 

「――【魔力接続――剣(アクセス・ウエポン)】」

 

 されど、スペルリィは独特のステップを踏みながら踊るように容易く回避して見せた。カカカッ、と靴音が鳴った。

 

「――【術式起動『剣の7』(ウェルカム・セブン、)顕現(オープン)】」

 

 続けて巨大な火球を空から叩き込み、同時に床を凍結させるも、それすら靴音と共に回避される。

 であれば詠唱が完成するのは当然の帰結であろう。

 

「【――完了(レディ?GO)!】」

 

 完了と同時に宙に放り投げられた一枚のカード。

 それが一瞬にしてマジシャンの持つようなステッキへと変化した。

 

 ――アーティファクト!

 

 アーティファクト。

 それは魔術が施された様々な道具の総称だ。

 一般的な物は霊薬の類、危険な物は魔剣や妖刀などの事を示す。常に魔術汚染を撒き散らすため、その保存には慎重を要する物が大半なのだが、魔術師にとってはそれらも熟してこそ、ということもあって一般的に普及している。

 

 アーティファクトの中には触媒の代わりに魔術の補助を行うものもあれば、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 使わせない、と床から更に凍結範囲を広げ氷塊を生み出し、足を捕らえようとしたが、

 

「【術式起動『玉の7』顕現(ウェルカム・セブン、オープン)!】」

 

 小規模な爆炎に吹き飛ばされる。

 新たに魔術をけしかけようとして、こちらに向けられたステッキの先端に穴が見えた。

 

 ――仕込み杖!

 

 パン、という乾いた音と共に魔力で構築された光弾が放たれた。

 咄嗟に転がり――転がり様に床から岩壁を隆起させて影に隠れた。

 

 弾速が思ったより早い。初撃を回避することが出来たのはアーティファクトだと警戒していたためだが、それでも運が良かった。

 おそらくオドで形作られた無色の魔力弾を放つ仕込み銃か。呪いが込められていなければ物理的衝撃を与えるだけの物だが、そうである保障は無い。

 数発、岩壁に魔力弾が叩き込まれているが幸いなことにこの岩壁を貫通するほどの火力は備えていな――

 

「【開演(スタート)魔力接続――棍(アクセス・パワー)――」

 

 スペルリィが詠唱を始めた瞬間に壁から咄嗟に離れた。

 

「――術式起動『棍の8』顕現(ウェルカム・エイト、オープン)!、完了(レディ?GO)!】」

 

 詠唱が終わると同時に、岩壁が打ち砕かれ、その奥にステッキを振り下ろしたスペルリィの姿が見えた。肉体強化か、別の何かか――いや、今は()()()()()()()()()()ことを覚えておけばいい。

 

「【世ヲ形作ルハ我ガ手ナリテ】!」

 

 間髪入れず風の玉を叩きつけた。前にリーンとの出会い頭に放ってしまったソレ。

 だが今回は、炸裂と同時に打ち砕かれた岩塊を巻き込んでスペルリィに殺到する!

 

「おっと、It's dangerous(危ないなぁ)!」

 

 ――カカカッカッカカッ!

 

 しかしそれすらも如何なる奇跡か、奇術か。風の合間を縫うように、瓦礫の隙間を潜り抜けるかのように、奇術師は靴音と共に更に接近して見せた。

 やはりただのステップではない、あれもまた魔術だ。

 

「【開演(スタート)魔力接続――玉(アクセス・ジュエル)――」

 

 詠唱を妨害しようと更に続け様に魔術を放とうとして、しかしステッキの先端を向けられ魔弾が放たれた。どう足掻いても自分の異能よりあのステッキ(アーティファクト)の方が早い。

 魔弾はアルカトリの頬を掠め、更に腹に直撃――

 

「【世ヲ形作ルハ我ガ手ナリテ】!」

 

 ――しかし、なお迫るスペルリィの腹に直接風弾を叩き込んだ。

 

「ぐぅっ!」

「がふっ!」

 

 解き放たれた突風にお互い吹き飛ばされ二人は床を滑り、場外の手前で示し合わせたかのように飛び起きて見合った。

 

 ここまで僅か2分の攻防。互いに痛み分け、といったところか。

 

 

 

 ――うぇ、気持ち悪い……やっぱりただの魔力弾じゃなかった。

 

 先ほどの魔弾は衝撃をぶつけるだけでなく、意識を昏倒させる術式だったようで、殴られたような痛みと同時に軽いめまいを覚えた。だが幸い出血するような物では無い様で、水のマナによる解呪を施すとめまいはすぐに解消された。

 

 ――多分、数発受けたらそのまま昏倒するから回避と防御は必須……と、それと思った以上に厄介なステップね。私の魔術の尽くが()()()()()()()

 

 カカカカッカカカカッ、とスペルリィがリズムに乗って靴音を鳴らし踊るのを、アルカトリは目を細めて観察する。

 確かスペルリィの出身はイロドーツだったはず。とすればこれは――舞踏儀礼か。

 

 舞踏儀礼。

 北方の南国、と呼ばれる国、イロドーツにて発展した特殊な魔術。舞踏や音楽、歌を組み合わせ力を引き出し、様々な事象を引き起こす。

 特に有名なのはイロドーツの気候を北国のものから変貌させている結界魔術の動力として舞踏儀礼が使われていることか。

 イロドーツの国民はその全てが舞踏儀礼の使い手と言っていい。踊りや音楽を愛し、様々な催しの中でそれらを披露し、研鑽していくのがイロドーツの魔術師(ダンサー)達だ。

 

 そしてスペルリィのダンスは()()()()()()に存在するタップダンスに近い物。

 タップスと呼ばれる金属板を靴底の爪先(ボウル)(ヒール)につけて床を踏み鳴らしながら踊る()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ダンスの一種。

 イメージを重要視するのは魔術も同じこと、その踊りにどのような意味が込められているのかは想像できないが、しかし、アルカトリの魔術を寄せ付けていない現状がその完成度を物語っている。

 だが、弱点の無い魔術など存在しない。

 

 ――踊りが魔術の基点なら足を止めさせれば舞踏儀礼は瓦解する。それより問題はあの()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 詠唱からして武器の7と力の8は使った。おそらく氷を迎撃した炎はマジックショーの演出に用いていたものを戦闘に転用したものだろう。武器も力もそのままの意味だとして、残りの数字の意味は?

 あと、氷を迎撃した爆炎も7だった。詠唱を短縮することも可能らしい。

 

 あのカードを見れば何かわかるかもしれないのだが、スペルリィが簡単に種となる触媒を晒すとは思えない。

 

 

 ――それはそれとして、次はどんな魔術を見せてくれるのかな?

 

 

 闘争の中で好奇心が鎌首をもたげた。

 

 

 

 

 ――さすがアルカトリ・クライスタ。

 

 腹に受けた風弾のダメージを一切顔に出さず、その胸中でスペルリィは少女に賞賛を送る。

 

 アルカトリの異能は先天的なものだが、その異能を使いこなす判断の早さは後天的な物。

 手が多い分、どの手を切るか素早く、冷静に判断しなければならないのだが、それをほぼノータイムでやってのけている。

 特に序盤の上空で火球を発生させ視線を誘導し、床を凍らせるというのは見事だった。

 視線誘導(ミスディレクション)は奇術師にとって重要技能だ。そう簡単に嵌ってやるつもりは無いが、それをほぼノータイムで行う技巧こそ素晴らしい。

 素晴らしい、が。

 

 ――手加減されているな。

 

 アルカトリ・クライスタが()()()()()()()()の決闘を見てきた者たちであれば、誰もが気付くことだが、彼女の異能の力ならこの程度ではすまない。

 そもそも、彼女の一番の強みはマナを掌握することによる大規模な魔術の連続行使ではなかったか。

 もしかしたら模擬戦、という縛りが彼女にそうさせているのか。

 

 ――だとすれば好都合!私のショーは簡単に終わらずに済みそうだ!

 

 そんなことを胸中で零した。

 スペルリィは目立ちたがり屋である。手品だけでなく魔術を披露するのもその一環だ。

 模擬戦を挑んであっさり負けました、では魔術を披露できたとは言えまい。

 

 手品を披露した上で種を見破らせないのが奇術師であるならば、魔術を披露した上で見破らせないのもまた奇術師である。

 

 ――それに第一目標はクリアできたみたいだし、第二目標の達成を目指そうかね。

 

 アルカトリの目。好奇心に輝くその目を見て、スペルリィは不敵な笑みをより深くする。

 カードは()()()()()。十分すぎる枚数だ。口火を切ったのは、スペルリィだった。

 

「【開演(スタート)魔力接続――玉(アクセス・ジュエル)――」

「【世ヲ形作ルハ――」

 

 戦いは、詠唱から再開される。

 

◇◇◇

 

 アルカトリが引き起こした豪炎を、スペルリィは砂塵の嵐で以って迎え撃つ――そんな光景を目にして、フェイは口笛を吹いた。

 

「……あのスペルリィって奴、思ったよりやるね」

 

 フェイの言葉に、フィーも頷いて同意した。

 

「六大元素の制御は前からショーの演出で使ってたけど、身体強化、アーティファクトの生成――特にアーティファクトの生成を一つの触媒と数節の詠唱で完成させるのはすごい……」

 

 触媒ですらその生成には簡単な物でも一週間は掛かる。であれば、魔術そのものを内包するアーティファクトは更に掛かるのは自明の理。

 錬金術の中にはそうした技術もあるという噂も聞くが、それでも破格と言わざるをえない。

 

「多分、あの触媒がアーティファクトの設計図と材料を兼任してる…とんでもない物持ってるな。流通させたら人銀単位で売れるか?」

「系統次第。一つの触媒で広い範囲に手を出せる汎用性は素晴らしいけど、なんの系統か全くわからない」

 

 系統、とはすなわち魔術ごとに与えられた形式の名称だ。形式がある以上、魔術師は肉体や精神をその形式のために作り変えるし、魔術に使用する触媒はその形式にあったものでなければならない。

 だが、スペルリィの触媒に描かれたマークを視力強化で認識できたが、フィーの知りうる知識の中で該当するものが何一つ存在しなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も見たことが無かった。

 

 もしかしたら、新種の魔術なのかもしれない。

 

「やー、ここまで見せられてるのにわからない魔術っていうのも珍しいですね~……っと、どもども先輩方!」

 

 そんなことを言って一人の童女が歩み寄ってきた。鮮やかなピンクの髪に140cmほどの小柄な体の少女。

 リーン・イレフューレンだった。

 アルカトリが年下の友人、と呼んでいる以上は彼女にも当然この修練場に入る資格はあったのだろう。

 

「あ、リーンも来てたんだ。最初から見てた?」

「ええ、今回は模擬戦の手伝いをしていたから最初からいたんですよ」

「手伝い?」

「ええ、外にある即席のアーティファクトの準備に講師の皆さんに混ざってちょこっと、ですけど」

 

 それを聞いて、フェイとフィーは驚いた。確かに講師の手伝いを学徒がするのはよくある話ではあるが、あの見事なルーンの結界を作った一人に彼女も関わっているというのは驚きである。

 ――事実、彼女はルーン魔術科に所属しており、今回の結界は彼女の用いるルーン魔術を参考に組み上げられているのだが、二人がそのようなことを知るわけもなく。

 

「……研究のことといい、今回のことといい……実はすごい魔術師?」

「やだなぁ、そんなんじゃないですって――まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()んですけど、宛てが外れました」

 

 そんな現状に関わる情報を明確に出されてはそちらに話を向けざるを得ない。

 

「ディードがルーンを?でも、あれは」

 

 スペルリィがカードを放った。

 『術式起動『玉の騎士』顕現(ウェルカム・ジャック、オープン)――』

 

「ええ、全くの別物ですよ。あれは()()()()()()()()()()

 

 きっぱりと言い切り、リーンはスペルリィの放ったカード――そこからアルカトリの作り出した土石流を押し流す鉄砲水を見て、ぼそり、と呟いた。

 

「――それに、パパとママは……」

「何か、言った?」

 

 いえいえ!とリーンは慌てて答えたがフィーは眉を顰め問い詰めようとして――

 

「あ、危ないアルカ!」

 

 フェイの叫びに釣られて視線を広場に戻した。

 

 

 ――彼女が目にしたのは土石流を飲み込んだ濁流がアルカに襲い掛かるところだった。

 

 

◇◇◇

 

 スイゲツは土石流を水流が飲み込んだのを見て、彼にしては珍しく感嘆の声を挙げた。

 

「ほう、あの土石流を相手に()()するか!」

()()?何、ソレ」

 

 リリウムは戦況を見守りつつ、しかし聞きなれぬ単語にスイゲツへと説明を促した。

 

「知りたいのか?くくっ!本当に知りたいか?」

「あ、やっぱりいいです」

 

 リリウムは即座に聞いたことを後悔した。コイツ、うざい。

 

「くくくっ、()()とは五行思想における基本思想の一つだ。()()は相手を生み行く陽の関係。()()は相手を打ち滅ぼして行く、陰の関係。()()は逆相克と呼べるものでな、本来打ち滅ぼすという関係が逆転することを示すものだ。水侮土、水があまりにも強く、土の克制を受け付けず、土が水を侮った、とな」

「結局話すのね……」

 

 げんなり、とリリウムは相貌を歪めた。そういう性格の悪さを表に出すのがこのスイゲツという男であった。親の顔を見てみたいものである。

 もっとも、極東フソウの地で「こんな息子ですいません」なんて土下座させていたらこちらが申し訳なくなるので即座に頭を切り換えたが。

 なお、彼同様の()()()()をしているという考えは即座に斬り捨てた。こんな奴が何人もいて堪るか、というリリウムの心の叫びである。

 

 だが、要するに魔術の相性で不利なはずの魔術相手に、アルカトリ・クライスタが負けたということだ。

 

 

「……あ、防いだ」

 

 襲い来る濁流に、アルカトリは大量の木々とツタを生み出すことで瓦礫を絡めとリ、水を塞き止めて見せた。水生木に(木は水によって養われ)木剋土(木は根を張り土を締め付ける)。濁流すらも養分にして木を生み出しツタや根を絡ませることで土を塞き止める――五行思想における相生に相克をうまく使った防御であった。

 

「やはりアルカトリ・クライスタは五行の基本的な思想に通じていると見える。異能者でなければ陰陽師にでもなるつもりだったのかもしれんなぁ……くくっ!五行に愛されし娘か!フソウに居たならばそれだけで戦の火種だったろうに!」

 

 才ある少女を火種と呼び嘲笑う様には呆れて物も言えないリリウムであった。

 

 

◇◇◇

 

――術式起動『玉の騎士』顕現(ウェルカム・ジャック、オープン)

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?

 

 アルカトリはそれを聞いてようやく思い出した。

 

 ジャック。

 数字ではなくジャック、とスペルリィは言った。数字にジャックという言葉が混ざり、そして武器、力、宝石が存在するカード。

 そうか、と少女は理解し、そして混乱した。なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 存在しないはずのものに意味が与えられた、その理由まではわからない。わからないが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 おそらくそれぞれの()()()の意味を増幅し、それを応用しているのだろう。

 

 驚いた。

 驚きすぎて制御を失敗して相手の魔術に競り負ける、なんていつもはしないミスをして、カバーの為に結構な規模の魔術を行使してしまったが……スペルリィの靴音も途切れてしまった。果たして無事だろうか――

 

Great(すばらしい)Great(すばらしい)!だクライスタ!まさか私の魔術まで巻き込んで利用して見せるとは!流石の腕だ!Now I'm furiously moved!(今私は猛烈に感動している)!」

 

 思いっきり無事だった。アルカトリが作り上げた横倒しの木々の幹の上に汚れ一つ無い。無傷で降り立ったのだ。

 

 ――いや、無事、という言葉は訂正しよう。その顔は酷く青白い。

 

「余裕ぶってるけど、さっきのを凌ぐのでオドをだいぶ使ったみたいだね」

「ああ、全く持って恥ずかしいことにね!まさか私の魔術すら飲み込んで返して来るとは想定外だったのさ!おかげでダンスを途中で切り上げて今まで練っていたものを全部守りに注ぎ込んでしまったよ。ショーの最後に上げる花火用だったんだけどねぇ」

 

 HAHAHAHA!とスペルリィは陽気に笑った。笑って、言った。

 

「はてさて、私が使える魔術はあと一つだが――今回のショーは楽しんでもらえたかな?」

「……ショー?この模擬戦が?」

「YES!私にとっての魔術戦闘とは己のプライドをかける『戦い』などではNothing!私にとっての魔術戦闘とは――我が術をお見せするショータイムなのだよ!!」

「――」

 

 それは、とんでもない話だった。あまりにも魔術の戦いをそして命を馬鹿にした物言いだった。

 魔術戦闘は一歩間違えれば命を失う――いや、失うだけで済めばまだ御の字だろう。決闘により死してなお、尊厳を奪われる魔術師が今も存在するというのに、彼はその場は自身の魔術を魅せる場なのだと宣言したのだから。

 

 数多くの魔術師がその宣言に呆れ帰り、憤る――その中でただ一人。

 

「――そっか、真剣、なんだね」

 

 アルカトリだけが理解を示した。

 

「自分の好きなものの為に手を抜くなんてありえないモンね。君は目立ちたいだけじゃなくて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうとも!そうともさクライスタ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 そう言って、スペルリィは四枚のカードを放った。今度こそそのカードの模様を確認することができた。

 

 

 そのカードは――トランプだった。

 

 

 

 スペードの10。

 クラブの10。

 ダイヤの10。

 そして、ハートの10。

 

 

 

 その組み合わせは彼女の知識の中にあるトランプを使ったゲームにおける役の一つとして存在するもの。

 

「【開演(スタート)魔力接続――四天(アクセス・フォーカード)術式起動『四天の10』顕現(ウェルカム・テン、オープン)――完了(レディ?GO)!】」

 

 その詠唱の結果――アーティファクトが作り出された。

 

 どこかで「魔導式フリントロック!?」と驚く声が聞こえたが、アルカトリは更に驚愕することとなった。

 

ウィンチェスターライフル(M73)!?」

 

 ――ウィンチェスターライフル。

 アメリカの西部開拓時代においてウィンチェスター社が開発したライフル銃。特にM73はコルト社製リボルバー『コルトSAA(フロンティアシックスシューター)』と共に西()()()()()()()()と称されている銃だ。

 

 ウィンチェスターライフルはレバーアクション方式。()()()()()()()()銃がフリントロック式であることを考えればどれだけの差があるかご想像いただけるだろうか。

 

 アルカトリは銃口がこちらに向けられるより早く――横倒しになった木々からツタを伸ばしてスペルリィを拘束していた。そして拳を握って駆け寄り――

 

 

「そんなもん模擬戦で使うなバカァ!」

「ムガガ!?」

 

 

 鉄 拳 制 裁。

 

 

 ――こうして、模擬戦は、アルカトリの勝利で幕を閉じたのであった。

 

 

◇◇◇

 

 スペルリィ・ディードは、魔導書から様々な魔術や奇術を学び、それを披露することで注目を集めていった。

 しかし、人は目新しいことにこそ目を向けていく生き物でもある。彼が独学で解析できた奇術や魔術も、何度も見ては飽きが来てしまう。

 そこで彼は魔導書の解析を進めるため、そして新たなる観客を得るためにディーワ魔術学園へと進学したのである。

 

 そんな彼が入学初日、当時は酷く静かだった中庭で見たのは――微笑を浮かべて火の玉や光の帯を操り、戯れる、一人の少女の姿だった。

 素直に、美しい、と思った。

 

 いや、少女自身は眉目麗しいかと聞かれれば10人中何人かは「そうか?」と疑問を呈するだろう。(それを聞けば本人は憤慨するだろうし、では10人中全員に眉目麗しいと認められたいのかと問えば――それはそれで可愛らしい反応が見れそうではある)

 だから、スペルリィが美しい、と感じたのは魔術に対して向けられる純真無垢な瞳を見たからだ。

 

 ――魔術って、すごいなぁ。

 

 そんな声が聞こえてくるような、純真な眼。

 その眼に、スペルリィは惹き付けられた。

 

 

 その少女は、クラスメイトになった。

 どうやら少女は異能者だったらしい。しかも世界で唯一の『マナを掌握する』力を持つ少女。

 スペルリィにとって面白くない話だが、視線は彼女に集中した。

 

 だから、負けてたまるか、と簡単な手品を披露したりして皆を驚かせた。

 ――むしろこの国の魔術師たちの方がこうした娯楽に飢えていたようで、思ったより盛り上がったが、やはりそれだけで。少女、アルカトリ・クライスタに集まる注目とは毛色が違っていて、物足りない。

 

 数ヶ月も経つと、スペルリィはあの中庭で奇術を披露するようになった。

 思ったよりも盛況で、時折、アルカトリも観客として見に来るようになった。

 自分の使う奇術を見ては時折、郷愁を匂わせることへの興味もあったが、スペルリィからすれば見てくれていることへの喜びの方が勝った。

 ちょっと調子に乗って手品の手伝いをさせた時に大泣きさせてしまったことは反省している。

 

 その頃には少女は決闘を挑まれるようになっていたが、それでもあの魔術に対する憧憬は残っていた。

 

 それがある日突然変わってしまった。

 誓約だ。

 少女が自らの魂に誓約を刻み込み、決闘を繰り返す日々が始まったのだ。

 少女から憧憬は消え、友人たちを突き放し、決闘も鮮やかながらに容赦を無くしてしまった。

 

 その魔術の手腕は素晴らしかった。どこまでも綿密に編まれた敵を倒すための技術は、時に芸術にさえ映った。

 

 でも、それ以上に悲しかった。

 

 あの無垢な眼差し。魔術に対する憧憬を持つ少女の在り方。()()()()()()()()()()()が失われてしまったことが、とても、悲しかった。

 

 だが、スペルリィに出来ることは、ただ、奇術を見せてあげることだけだった。

 自分と彼女はただのクラスメイトだ。友人でも同郷でも親戚でもない、ただのクラスメイト。

 出来ることなど、自分の持つ技術で少しでも楽しませることだけだったのだ。

 

 幸い、少女がそうなってからも、自分のマジックショーを見に来ていることは知っていた。彼女はその間だけは平穏を享受していたのだと思う。

 ――いや、これはあくまでそうあってほしい、というスペルリィ自身の願望でしかないが。

 

 

 

 

 

 そして、始まりも唐突なら、終わりもまた唐突だった。

 白いインバネスを纏った褐色の男。

 彼が少女を打ち倒したことで少女の戦いは終わり――少女は決闘から解放された。

 

 それから数週間。少女は少ないながらも友人と仲良く過ごす姿が散見されるようになった。表情もあの頃のように柔らかいものへとなりつつある。

 

 だが、それでも、魔術への憧憬は戻っていなかった。

 

 

 なら、魅せてやらなければなるまい。自分の魔術で彼女に憧憬を取り戻すのだ。

 

 

 ――そしてスペルリィ・ディードは、アルカトリ・クライスタに模擬戦を挑んだのである。

 

◇◇◇

 

 スペルリィ・ディードは見慣れない白い天井を見上げていた。

 

「ん……ここ、は」

「医療魔術科の安眠室だよ」

 

 返事があったのでそちらを向くと、アルカトリ・クライスタが椅子に座って本を読んでいた。本のタイトルは『ディーワと魔法の世界』とある。

 このディーワ魔術学園とクアエダム自治区の成立に関わった古の魔術師、ディーワ・クアエダムが残した自伝を元に書かれた冒険譚だ。スペルリィも読んだことのある有名な本である。

 全二十刊からなる物語だが、彼女が読んでいるのは第三刊。終わりはまだ先のようだ。

 少女はこちらを向くことなく淡々と告げた。

 

「軽い精神(オド)欠乏に軽い脳震盪が合わさって云々かんぬん言ってたから一先ず寝といてね」

「その云々かんぬんの部分こそ重要だと思うのだがね……」

 

 スペルリィの言葉に、アルカトリはそっけなく「はいはい」なんて言う。

 やれやれ、とスペルリィが肩を竦め、しかし少女の忠告を聞き入れて起き上がることは諦めた。

 

「――で?なんで私に今更模擬戦なんて挑んだのさ。決闘で負けたから私が弱くなったとか考えてたわけじゃないよね?」

「まさか。君の強さをこれまで見てきてそう考える者はいないさ」

「じゃあ、なんでさ」

「……」

 

 スペルリィは沈黙した。

 話すのは簡単だろう。簡単だが……しかし気恥ずかしさが勝るのは当然だ。

 暫しの間の沈黙――アルカトリは溜め息を一つ零して本を閉じて立ち上がった。

 

「先生呼んでくる。おとなしくしててよ」

 

 そう言って彼女は立ち去る――

 

「……君に」

 

 ――筈だった。

 

「君に、魔術を魅せたかった。魅せて、()()()()()……」

 

 そこで、流石に気恥ずかしさが勝って、言葉を詰まらせた。

 奇術によって相手を手玉に取る奇術師にあるまじき失態だ。

 ――失態、だが、しかしここで黙ってしまうのは何かが手遅れになるような、そんな予感がしたのだ。

 

「……」

 

 少女は足を止め、そして戻ってきて、また椅子に座った。

 

「あのさ、ディードって馬鹿なの?」

 

 そして、発言は辛らつだった。

 

「な、なななな!?」

「まったく、マジシャンならマジシャンらしくしようよ。無理に戦う必要なんて――」

「だ、だが、私と君の接点なんてクラスメイトというだけだ!それに君は異性との関わりを避けていただろう!フィー嬢など私を毛嫌いしているし!なら、君に挑むぐらいしか私に選択肢は……」

「い、いや、まぁ、それは……確かになぁ……」

 

 思い当たる節があるのか、アルカトリは頭を抱えていた。

 そしてスペルリィはスペルリィで腹の割るという部分はあまり得意ではないためか、顔を真っ赤にしていた。暫しの沈黙の後、少女が切り出した。

 

「――ファンだった」

「……何?」

 

 聞き間違いか、とスペルリィは顔を上げた。少女が頬を染めたまま、再度、言う。

 

「君の奇術(マジック)のファンだった」

「な――」

 

 なんだってぇぇぇ!と絶叫した。

 

 確かに彼女が自分のマジックショーを見に来ていた。だが、ファン、なんて言われるなんて思ってはいなかったのだ。

 

「ディードの手品はすごかった。今でも種がわからないものもいっぱいあるし、それに、演出に使っていた魔術もとても鮮やかで、いつも見てて嬉しかった」

「嬉しかった?」

 

 うん、と少女は答え、そしてこう、続けたのだ。

 

()()()()()()()()、みんなが楽しむために使ってる人がいる。それがすごく嬉しかったんだよ」

 

 ――ああ、そうだったのか。

 

「君は、()()()()()好きだったのか」

 

 なんという勘違いか。スペルリィは笑いをかみ殺すのに必死だった。自分は彼女が魔術を嫌いになってしまったのだと思っていた。魔術への憧憬を失ってしまったのだと思っていた。

 

 それが、全くの見当違いだったのだ。奇術師が道化役とはこれは如何に。滑稽すぎて笑えてくる、恥ずかしくて泣きそうだ。そんな顔を見られまいと片手で目元を覆った。

 

「うん?なんでディードがそんなことを聞くのさ」

 

 そう言って少女はいぶかしんで、更に続けたのだ。

 

「そもそもディードも言ってたじゃん。()()()()()()()()()()()()って」

「ああ、そうだね」

 

 返答も投げやりであった。

 

 「変なの」なんてアルカトリは言って腰を上げようとした。今度こそ先生を呼んでくるつもりなのだろう。彼女に隠れて安堵の溜め息を零し――ふと、アルカトリはこんなことを(のたま)った。

 

 

「あ、ディード、私と友達にならない?」

「何がどうしてそうなった!?」

 

 

 スペルリィが慌てたのは言うまでも無い。

 ――なお、その結果は後日、二人が何やら手品の種を考えたりしている姿が見られるようになった、とだけ記すに留めておくとしよう。




 スペルリィ君がいつのまにか憧れの女の子が落ち込んでたからどうにかしようとして変な方向に頑張る男の子になってしまった。
 私にミステリアスな感じのキャラはやはり書けないらしい……うぐぐぐ難しい。

なんか恋愛的な雰囲気に見えないでもないな……

 ちなみにスペルリィがアルカトリのファンという設定は、投稿されてきた際の台詞より抜粋したものです。そこを色々と曲解しました(オイ)


Tips

・『奇々怪々術』
 スペルリィ・ディードの使用する魔術。彼が物心着く前から持っていた魔導書に記載されていた魔術であり、ジョーカーを除く52枚のトランプに非常に酷似した触媒を用いる。
 2を最低値としAを最上値として行使する魔術の規模が大きくなり、それに比例して消費するオドの量も大きくなっていく。

 厳密にはルーンでは無い別種の魔術。使い手は今の所彼のみである。

 スペードは剣。
 転じて武器を意味することから、数字ごとに定められた武器となるアーティファクトの生成を行う生成術式。【スペードの7】のステッキは彼がもっとも多用しているアーティファクトである。

 クラブは棍。
 力を司る増幅術式。身体強化に加え、他のスートと組み合わせることで込められたオドを増幅し、効力を上げることも可能とする。

 ダイヤは玉――すなわち宝石。
 様々な宝石にはその色ごとに6元素に対応するとされることから六元素の魔術を取り扱うことが出来る。
 実はスペルリィには元素に対する得手不得手が存在しない。そのため各元素の扱いに関して有利不利が無い。

 ハートは聖杯。
 聖杯に注がれた水には癒しの力が宿るということから治癒の術式として機能する。
 J以上の絵柄とエースであればその効能は死の淵から肉体を賦活させ、回復せしめると言う。

 スペルリィは後述する舞踏儀礼と合わせることで本来必要な詠唱の一部を省略したり、途中まで詠唱を終わらせて待機状態にしておき、必要な時に一節の詠唱で使用するなど、変幻自在にこの魔術を適せん使い分けている。
 ただし触媒となるカード一枚一枚が使い捨てとなるので一度使用したカードはその戦闘中扱えなくなるという欠点も。
 ちなみにトランプのセットを複数準備してはいけない。なぜなら原則に従うことこそが魔術に神秘性を与え、力とするからだ。

 なお、魔導書の作者は不明だが、この世界に存在しないはずのトランプやそこから生成されたウィンチェスターライフルの存在を踏まえると……


 余談だが「この世界にはトランプまだ無い」とアルカトリは認識していたが、実はアルガラント王国の一部の地域で娯楽用品として扱われており、それがまだ世界に出回っていないだけなのだ。その発明者は――


※裏Tips(裏話)
 トランプのスートをルーンに見立て考えられた魔術で、投稿されてきた時非常にテンションが上がりました。一目で気に入り、効果面の調整を行って採用。
 ただ、今回の執筆中に「小アルカナ」のワードを思い出しました。
 この魔術を小アルカナとしていたらいつか大アルカナに関係した魔術も使わせられたのに……とか、小アルカナならスートだけでなく数字ごとにも意味を持たせられたのでよりルーンに近づけられたな、とか、むしろ新しい魔術系統として扱えたんじゃないのか?とか――
 とにかく今回の執筆をしていて色々ともったいないことをしたな!という個人的後悔もあったり。

 ちなみに現実でのトランプと小アルカナの関係性ですが、どうもまったくわかっていないようです。


 そういえば、今回の投稿キャラにアルカナ(タロット)を使った魔術師が誰一人いなかったな……

 それと、実はクラブ、のカードについては効果を身体強化だけでなく魔術に込めたオドの増幅にも使えるように変更しています。


 実はグラムベルの天敵となりうる魔術その1。そもそも魔術的起源がわからず、完璧なメタを張りにくい。相手の魔術からその起源を予測し対抗術式を行使する混沌魔術では効力も半減してしまうというのが主な理由。


・『舞踏儀礼』
 大陸北方において気候を南国のものに塗り替えられた北国『イロドーツ』にて発展した魔術。
 その原点は神を楽しませるための舞であり、神への捧げ物であったが、今では多様化し、神への捧げ物としての側面は薄れている。
 それでもなお魔術として効力を発揮するのはイロドーツの神が踊り好きであったことが今も伝えられ、国を挙げた祭りが毎年開かれているからだろうか。
 中には武術の演舞を取り入れることで戦闘用に仕立てた舞踏儀礼もあるそうだ。

 スペルリィは舞踏儀礼を用いて上述の奇々怪々術の「魔術の出力強化」や「詠唱の短縮」の他に「魔術的加護」を自身に付与することで敵の魔術をいなし、呪術を避ける、といった使い方をしている。

 余談だが東洋の島国「フソウ」独自の魔術系統『巫覡(ふげき)儀礼』には神楽と呼ばれる文字通り神を楽しませる舞が存在する。しかしこちらは厳粛且つ厳格で「祓い清める」という一点に特化しているという。

※裏Tips
 踊りを用いた魔術、という発想は当初の時点で「神楽」という形で存在していたのですがイロドーツを頂いた際にその設定の面白さから完全に独立した魔術系統として考えたものでした。(なお個人的に命名)
 また舞踏「魔術」ではなく舞踏「儀礼」としたのは、その発端がイロドーツの神に捧げる物、という認識が根底にあったため(儀礼とは宗教的な儀式を指します。エルブズュンデの経典儀礼も似たような理由)

・アルカトリが五行思想にあやかった魔術を行使している訳。
 実はアルカトリ本人は魔術思想としての五行を認識していない。そもそも五行における相生、相克などの考えは自然現象に対する認識の仕方の一つでしかなく、そこに魔術的意味を与えるかどうかはまた別問題である。
 彼女は前世の知識と今生の知識が合わさって作り上げられた彼女個人の常識に当てはめて相性を想定し使っているだけであり、マナが彼女の常識に引っ張られ魔術的な五行相生などを行えているだけなのだ。

※裏Tips
 要するにポケモ○とかに出てくる相性とかを前世の知識で会得していてより「こうかはばつぐんだ」な属性を選んでいるだけなのです。
 プロローグでのアルカトリはツタという薪を用意して火を着けて風で仰いで火を強くしている、程度の認識でしかないですが。魔術的かつ五行説に当てはまる行為でもあるので同じ効果を魔術に与えている、という訳です。
 なのでそのような内情を知らなければスイゲツ君のように勘違いをする訳で
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