各方面から、アルティメットマジシャンズ数名ずつを加えた、魔人討伐連合軍が進行していた。後方支援も含めれば、その数は数十万人に上る。好都合なことだが、連合軍はいまだ魔人領に巣食う魔物に足止めを受けている。帝都に近づくにつれて、災害級の魔物も多く巣食っているのだ。
こちらの本拠地である旧帝都へ入る事すらさせないように、俺やローレンスたちで各隊の進行方向の市街に防衛へ向かった。
最も怖いことは、アルティメットマジシャンズによる空中からの帝都奇襲である。もしその兆候があればゼストさんが信号弾を打ち上げる手筈となっている。そして、転移魔法ゲートによって急行する。アルティメットマジシャンズに対応することのできるソニヤやオリバーがいるとはいえ、ミリアさんが傷つく可能性をゼロに留める。
まあ、ゲートを使って奇襲される可能性はない。
彼ら彼女らが帝国に行ったことがないからだ。
「出て来い、魔人!!」
先遣隊なのだろうか。
たった50人ほどの一般人並みの実力者が街に入ってきた。
「先遣隊……、それとも囮か?」
建物の陰から出たのは、15歳の少年。その風貌からは魔人には見えないだろうが、すでに俺の事は伝わっているらしい。宗教国家らしい装備の兵士50人が、一斉に槍を構えた。身体能力強化を使っていないことから察するに、個々の戦力は災害級を倒すことすらできない程度のようだ。
「おい、坊主! 他の魔人はどこにいる!?」
「別に。ここは俺だけで十分と判断しただけだ。」
「舐めるな!!」
魔人より激しい感情で激昂した。
先遣隊にしては冷静さの欠片もない。
沸点低すぎなのでは、と思いつつ周囲を探る。
「皆の者、突撃だ! 賢者の孫などではなく、我々こそが神の御使いであることを示すのだ!」
「「「おおーっ!」」」
魔法で戦うのかと思いきや、一直線に向かってきた。
「手柄が欲しいだけなのかよ……」
魔人は再生能力がある上に、身体能力も高い。
即死級魔法で対抗するのが、セオリーのはずだ。
「ッ!?」
「アァッ!?」
そんな彼らは俺の前で罠を踏んだ。
高威力の雷の網によって彼らは倒れ伏す。
「設置型の雷魔法、サンダーウェブだ。わざわざ罠にかかってくれるとはな。」
「な、なにをやっているんだ!?」
「いや、お前が命令したんだろう。突撃って。」
「グッ……」
一発の弾丸によって、彼の肩から噴き出す鮮血。
その痛みで彼はすでに戦意喪失である。
「はぁー……、ここにいると危ないぞ。」
「な、なにを……?」
俺は空を見上げて魔法を放つ。
範囲内にいる対象の、重力加速度gの値を大きくするだけだ。
「安直な名前だが、グラビティ」
「しまったっ!? みんな、大丈夫か!?」
「一体どんな魔法なの!?」
数十人の兵士が落ちてきて、足を骨折。
ずいぶん呆気ない。
「ていうか、数十人が飛んでくれば丸見えだ。そう簡単に奇襲なんかできるかよ。」
浮遊魔法を発動しているのは賢者の孫だけだ。だから、浮遊させられているだけの兵士の意表つくことは容易かった。ジェットブーツやバイブレーションソードという魔道具を装備しているだけで、魔法や魔道具の扱い方はまだまだ素人だ。
咄嗟に風魔法で対応できたのはアルティメットマジシャンズメンバーだけだ。
「さて。どうする、賢者の孫?」
「俺たちが相手だ!」
賢者の孫を先頭に俺の前へ降り立った。
12人全員ここにいることは喜ばしいことだ。
「シシリーたちは、皆を頼む!」
「はい!」
どうやら女性陣は、兵士の救護に向かったようだ。
「一応聞くが、降伏はする気はあるか?」
「ないぞ、王太子様。……そこの100人ほどのお荷物を抱えて俺と戦うのか?」
「この人数差なら、守りながら戦うこともできるぞ?」
「怖い怖い……」
表情には出さないが、ゲートを使って避難させるまでの時間稼ぎはしているようだ。
「まあ、待ってやるよ。別に俺は殺人鬼じゃないしな。」
「……お前はやっぱり魔人の味方なんだな。」
「ああ。譲れないものがあるからな。……ていうか、全員ここにいていいのか?」
「なんだと?」
「まさか……」
「アールスハイド王国、今はザル警備だろうな。」
そう言いつつ、転移魔法であるゲートを開いてみせた。
一度行った場所ならどこにでも行けるという魔法だ。
「「「「ゲート!?」」」」
「最近、いろいろな国の旅行を満喫させてもらったぞ?」
その危険性は、使用者ならよくわかることだ。
「そんな!?」
「卑怯でござるよ!」
「オーグ! アールスハイドにゲートを開くぞ!」
「いや待て! 必ずしもアールスハイドに現れるとは限らん!」
「でも! オーグはメイやエリーが心配じゃないのか!?」
「あいつらには護衛もいる上に、できるだけの魔道具を渡している。だが、トールは一応向かってくれ。」
「は、はいっ!」
その動揺に、内心ほくそ笑む。
アールスハイド王国は彼ら彼女らの故郷であり、家族がいて友達がいて、それぞれに大切な人がいる。そのアールスハイド王国が魔人に襲われてしまうかもしれないという恐怖が、冷静な判断力をなくしてしまっていた。
まだまだ15歳ということだ。魔人領に入った後に一度アールスハイド王国に戻って、お誕生日会をしていたらしいし、なぜか2人は魔法少女服着ているし。魔法の扱い方を重点的に鍛えただけで、熟練の騎士や戦士よりずっと強いと勘違いしている。俺も魔力量に頼らなければ、決してローレンスたちには勝つことはできないのだ。
ともかく、本当に戦争をしに来たのかと疑問に思う。
「ところで、賢者の孫。この世界で竜に会ったことはあるか?」
「……何の話だ?」
「海の向こうの秘境から竜を……、いや魔物化した『恐竜』をゲートで連れてきた。」
「お前、まさか他の軍に!?」
「ゲートをそんなことに使うなんて……」
「……いや、お前らはゲートをなんだと思っていたんだ?」
「いつでもどこでも駆けつけられるし」
「朝、寝坊しても困らないし!そんな魔法だよ!」
魔法少女服を着た2人組がそう言うが、俺は溜息をつくしかない。
賢者と導師や、実年齢40歳超えの賢者の孫は、一体何を教えていたのだろう。
「習った通り、魔法は使い方次第だろ。朝寝坊した時に遅刻を防ぐこともできるし、他にも物の輸送にも役立つ。その反面、どこへだって魔物を送り込めるし、簡単に重要人物の暗殺だってできる。そう考えるとゲートって便利な魔法だけど、恐ろしい魔法だろ。さて……、ここにいるメンバーは災害級を倒せるらしいが、災害級の肉食恐竜を一般兵が倒せるかな。」
「は、はやく助けに行かないと!?」
「だから、お前はここで私たちを足止めをしているのか?」
「流石、王太子様。俺1人で全員相手にするには骨が折れるというか、心が痛む。俺は魔力だけが取り柄の魔人なんだ。俺も戦争のことを何も知らない甘ちゃんだ。まあ、お前らが今まで戦ってきた人工魔人とは、……俺は一味違うぞ。」
魔人特有の黒い魔力を発する。
魔力だけで、1つの街を滅ぼせる存在なのだ。
「なん……だ? この魔力は……?」
「残念ながら、まだまだ魔人の本気を知らないんだよ。ガキども。」
「今までの魔人とは違うということか!?」
「当然だ。その気になれば、ゲートで王都に移動して単騎で核爆弾と化せる。『チートでバグで最強』の魔法使い、それが本来の『魔人』という人間だ。だが、そんな魔人の中でも俺たちは思慮深くて温厚だったんだ。何度蔑まれても耐えてきたし、今では全員が魔人の力をコントロールしている。―――導火線に火をつけてしまったのは、いつでも『国』だったんだ。かつてここにあった、帝国とかな。」
彼ら彼女らは苦虫を嚙み潰したような表情をする。スイード王国を襲撃した人工魔人たちの行動の意図を誰も把握していなかった。魔人の代表である義父さんを疑っていた。だから、魔人を敵として世界は見なしてしまった。俺たちはあくまで帝国の敵だった。
魔人は世界の敵になった。
別に世界征服をするつもりもなかった。もし『力』による恐怖で世界を支配すれば、それはオリバーたちが憎んだ帝国と同じことをすることになる。最強の魔法使いとなって強い『力』を得た俺たちがただひたすらに求めていたのは『安寧』だった。
みんなが安心して生きることを渇望している。
「なぁ、お前らが正義の味方って誇れるのか?」
「くっ、化け物が! 戯言を!!」
「よせっ、ユリウス!?」
微細振動する剣が振るわれ、右腕が斬られる。
やはり生物には危険すぎる武器だ。
人間と同じ、紅い血が噴き出す。
「あっ……」
「ちゃんと、痛いんだぞ……?」
筋肉質の少年から罪悪感に染まった顔を向けられる。
この緊張感に彼は耐えられなかったのだろう。
「1つ、スイード王国では人命救助をした。2つ、さっきのイース神聖国の兵士も誰1人殺してはいない。3つ、ゲートでお前らの家族を傷つけることをしようとしない。」
俺はすぐに、アールスハイドへ転移できるのだ。その気になれば、いくらでも非人道的行為を行うことができる。だがしかし、帝国のような非人道的な行いはできる限り選びたくはない。そうしてしまえば、魔に呑まれて人の心をまた失うことになる。
そしていつしか、大切な人たちを傷つけてしまう。
「ほら、どうするべきか話し合っていいぞ。若人ども。」
そして彼ら彼女らに、不和が生じ始めた。危険因子である魔人は討伐すべき、そうでなくとも捕縛すべきだという声もある。対して、スイード王国で助けたカップルには完全に敵意は感じられないし、もはや賢者の孫の嫁に至っては、魔人領進行をやめようと言ってくれている。
「だ、だがっ、みんなを襲っているじゃないか!?」
「魔物を誘導したのはあなたたちなんでしょう?」
「まあな。運よく、旧帝国領には魔物が棲みついているし。魔力に惹かれる魔物を、魔人である俺たちが誘導するのは容易いことだ。元々、肉食恐竜は増えすぎた魔物を減らすために投入した。もちろん、ゲートの使い手は俺以外にもいるぞ。……だがしかし、旧帝都に俺たちが留まったままで、中心地ちゃんと魔物を集めていたら?」
彼ら彼女らはお互いに顔を見合わせた。
年相応に、迷い始めていた。
間違えることを恐れている。
「もう一度聞いてみようか。―――なぁ、俺たちは悪なのか?」
「「「…………。」」」
時は、残酷に過ぎていく。