魔人の息子   作:ヒラメもち

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第12話 ステップバイステップ

弄した言葉に戸惑い、戦意を失っている。やはり年相応に優しく、割り切れないということだ。アールスハイド王国は、15歳で成人扱いなのはやめた方がいいと思う。各国の議論で俺たちは悪者と決められているのだから、たとえそれがまちがっているとしても、軍属なら納得しなければならない時はある。

 

「さて。今から俺たち魔人が行うのは、道理にかなった正当防衛だ。」

 

俺に対して戦意のあるメンバーはそう多くはない。

 

魔人を人間と認識したことで罪悪感に染まっているメンバーがいる。それでも、戦うことを選ぼうとするメンバーがいる。クラスメイトという、アルティメットマジシャンズ12人の関係は、脆いものだった。

 

「……オーグ。みんなを連れて、他のところへ。」

 

「いいのか?」

 

「ああ。こいつは俺が引き受ける。とりあえず今は、災害級の魔物を討伐に専念しよう。みんなもそれでいいか?」

 

場数を踏んでいるだけあって、貫禄あるなと感心する。

標的を魔人から、魔物へと変えたのだ。

 

何とか持ち直した彼ら彼女らは、各自ゲートを開いた。

 

「規格外のお前ならやれるさ。健闘を祈る。」

 

「ああ、やってやるさ。」

 

賢者の孫の肩を軽く叩き、王太子様もゲートへ。

 

「シン君、がんばってください!」

 

ここに残ったのは賢者の孫とクロードの、たった2人。クロードは見届け人ということだろう。アルティメットマジシャンズがまた12人で心から笑い合えるのどうか、そんなことは俺の管轄外だ。

 

まあ、本物の友達なら仲直りするだろう。

 

「さて。始めるか、転生者!」

 

「お望み通り。1対1で戦ってやるよ!!」

 

お互いに一番に脅威なのは、転生者である。

 

 

「殺す気で来いよ!」

 

「当然だ!やっぱりお前がいるとこっちは迷惑なんだ!!」

 

「いろいろと迷うのは、年相応で別にいいじゃないか。」

 

蒼炎がぶつかり合って相殺。

さらに、浮遊魔法で距離を取る。

 

お互い無詠唱で即死級魔法をポンポンと放てるのだから、武器を用いた近接攻撃はしない。知識チートという点ではほぼ同条件である。だから、この世界で身に着けた『力』をぶつけ合うことになるだろう。

 

どれだけ強い意志を持っているかで勝負は決まる。

 

「もし俺が勝ったら魔王の称号は俺が貰おう。」

 

「欲しいんだったらやるよ、中二病!」

 

「まじかよ、無自覚系中二病!」

 

1発で街を破壊できるような、炎や雷が空中で飛び交う。お互いに自動治癒は欠かせなかった。

 

 

「賢者に、導師に、ずいぶんと恵まれた環境だったんだな!?」

 

「まあな! それで、お前はなんで魔人に付くんだ!?」

 

「がはっ!?」

 

 

魔法を切り裂いて白い炎の槍が、俺に刺さる。

 

赤から蒼、そして『白炎』ヘ。

超高温の魔法は、竜人の身体でも苦しいものだ。

 

 

「「はぁはぁ...」」

 

死を目の前にして、精神を蝕む。

お互い平和な日本を知っているからこそ。

 

お互いに、集中力に綻び。

((俺たちの今やっていることは一体何なんだ?))

 

言い訳したくて、戦いから逃げたくて、疑問を抱いてしまう。俺は転生して弱音を吐いても立ち上がってきた。

 

それは、なぜか。

 

「……なんでって、大切な家族だからな!!それも前世の両親に負けないくらい大切なんだよ!どんな犠牲を払っても幸せにしてやりたいと思うのは!俺はオリバーとミリアさんの義息子で、あの子の義兄で、そしてソニヤの1番『大切』だからだ!!」

 

俺は水の槍を撃ち込み続ける。

賢者の孫は障壁魔法に切り替え、防御に徹した。

 

「家族……。くっ……俺は、……デスクワークだけで人生を終えるはずの俺が、この世界の未知に触れて楽しかった。その『力』が誰かの役に立つんだっていい気になった。本当は戦いたくなんかない。でもオーグたち、爺ちゃんと婆ちゃん、そしてシシリーを守るためなら戦うって決めたんだ!」

 

「そうか、守りたいのか。一方的だな、ほんと。俺の奥の手、見せてやる。」

 

ポケットから出すのは、『魔石』。

魔力の結晶を嚙み砕く。

 

「やべぇ、あいつの魔力がっ!!?」

 

異世界の魔法、その障壁魔法で耐えられるかどうか。

 

「シシリーィ!障壁魔法を展開しておけぇ!!」

 

求めるは、最強の爆裂魔法。

莫大な魔力量を限界ギリギリまで使い果たす。

 

つまり、死を目の前にするということだ。

 

「別に俺が魔力不足で倒れても、ソニヤが拾ってくれる。だって、俺がソニヤを守るように、ソニヤが俺を守ってくれるからな。それが、俺たちとお前たちの違いだ。」

 

 

この世界に来て彼女に出会えた奇跡。

 

 

「空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼。我が前に訪れた静寂なる神雷。時は来た!今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ!!」

 

 

 

黒い魔力が渦巻き、1つの魔法陣に吸い込まれていく。

片手を翳せば、夜に星が輝くように魔力が煌めいた。

 

 

 

「あの詠唱、どこかでっ!?」

 

「穿て!―――エクスプロージョン!!」

 

ほんの一瞬、風が止まる。

 

爆音が、魔人領に響き渡った。

声すらかき消し、太陽のごとき爆炎が空に生まれる。

 

 

 

 

着弾したのは魔力障壁。

そこを爆心地として、空中に爆炎の球体が創り出された。

 

 

 

「シン君、いやぁ!!!」

 

 

クロードは拒絶する。

耐魔の戦闘服をほとんど焼き焦がし、重傷患者が地面に落ちていった。

 

 

 

「シン君!シン君!!シン君!!!」

 

戦地において自分自身の戦闘服を脱いで彼に被せて、クロード自身も必死に回復魔法をかけ続ける。涙を流しながら、唇を噛みできるだけ多くの魔力を捻り出しているが、足りない。

 

 

「シン君を助けられるなら、守れるのなら。私、なんだってやる……」

 

魔人化した。

その『力』なら、彼を救えるだろう。

 

「……シシリー、ごめん。」

 

「愛していますから、シン君。」

 

「ありがとう……あい、してる……」

 

2人の涙が、俺が歩くスピードをどんどん落とす。

 

 

もちろん、今ここでこの2人を殺すことなど容易いことだ。俺たちの未来のためにそうしなければならないとも思う。

 

 

「お前らは……?」

 

2人の実力者が、立ち塞がった。

ちゃんと止めてくれたことに喜びを感じた。

 

「……シンが勝てなかった魔人に、決して儂らは勝てんじゃろう。儂らはとんでもない魔人を敵に回してしまったのじゃ。あいつよりずっと強い魔人をな。」

 

「今はしっかり休みな、シン。」

 

「じいちゃん……、ばあちゃん……にげて。俺はだいじょうぶだから。」

 

家族を安心させたいと思うのは、家族を愛しているからだ。

 

 

「それで、何が望みだ?」

 

「「どうか、この子達だけは見逃してほしい。」」

 

両膝をついて頭を下げる、お爺さんとお婆さん。

年老いてなお輝きを見せる、賢者と導師。

 

 

「爺さん婆さんはさっさと隠居しな。―――お互い家族を大切にしような、転生者。」

 

涙を流して生を喜ぶ、1つの家族。

 

 

普通の家族だ。

それはとても眩しく見えた。

 

 

 

「はぁ……」

 

勝った喜びは感じない。

虚しい。

 

ゲートですぐ帰れるし、浮遊魔法だって使っていい。

でも時間を噛みしめるように、ゆっくりと歩く。

 

「おかえり、ジン」

 

「……ただいま」

 

雪のように綺麗な銀色の髪と、ルビーのように輝く瞳。

小さな手を、異形の手が優しく包み込む。

 

そうして、歩調を合わせて歩く。

俺が感傷的になっていることくらいお見通しなのだ。

 

「私はいなくならないから、大丈夫。もしあなたがどこかへ行っても探しに行くから。」

 

また大切な人を失うことを俺は恐怖している。生きると言うことを異世界転生というものは、前世の繋がり全てを捨ててくるということだ。そのトラウマは時に蝕み、甘えるということを踏みとどまらせる。

 

「ほんと、嬉しい……、幸せ者だ。もうソニヤなしでは生きていけない。」

 

「それは私も同じよ。」

 

「ごめん、重くて。ごめん、面倒な男で……」

 

「いいえ、足りないくらいだから。もっともっと愛していいわよ。」

 

支えていたつもりだったのに支えられていた。

世界を拒絶し、愛に飢えていた少女はもういない。

 

「ミリアやみんなが待っているわよ。」

 

「ああ、行こう。」

 

手招きしている家族たち。

隣の女の子は、いつのまにか女性へ成長していたらしい。

 

 

「ありがとう、ソニヤ」

「どういたしまして。」

 

 

身体、魔法、知識。

借り物だらけの俺だけど、この感情だけは『本物』だ。

 

 

『全ての魔法は愛から生まれた』

そう、ミリアのお母さんは言っていたらしい。

 

 

*******

 

大陸とは離れた場所に、1つの島がある。かつて秘境と呼ばれていた島は、大陸とは異なる生態系を持っていて人の住めるような場所ではなかった。やがて屈強な『人間』が集まり、開拓を始めた。

 

この国には『去る者は追わず来る者は拒まず』というコトワザがあり、少しずつとはいえ新天地を目指して人々が集まってきた。そして、初代『魔王』の座に就いたジン=シュトロームは、ストラディウス民主主義国として建国を行った。

 

今では珍しい特産物を大陸の各国に輸出し、他国との交流を深めている。

 

「うーん。コトワザって?」

 

「シルベスタ、お勉強してるのね。えらいえらい」

 

「お兄様!お姉様!」

 

黒い髪の背の高い男性と、白い髪の美しい女性は、この国の『魔王』と『魔王妃』です。なにかと個性的な人の多い国民みんなから慕われています。カートのおじさんたちのように、優秀な人たちに支えられています。

 

お姉様に抱かれているアイちゃんの白くて小さな手が、近づけた僕の指を包み込んだ。

 

「幸せな顔してるな~」

 

みんなが家族を大切している、そんな平和な国です。

 

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