魔人の息子   作:ヒラメもち

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第7話 魔人は悪者?

帝国の滅亡からすでに2ヶ月ほど経ったが、いまだ近隣国に大きな動きはない。アールスハイド王国を破滅させる勢いだった、『最初の魔人』の脅威を知っている。だから、無理に手を出そうとは考えていないのだ。

 

「ふーん。これが賢者と導師の伝説? なんだか読んでて違和感が残ったわ。」

 

「美化して脚色されているからだろうな。」

 

「これだったら、ジンの話す物語の方が面白いわ。ねぇ、作家になったらどう?」

 

「いや俺が話しているのは、異世界の著名作家が書いた話だからな、全部。」

 

「へぇ、本当に愉しそうな世界なのね。いっぱいすごい人がいて、平和で。それに魔法も使わずに乗り物が空を飛ぶ世界かぁ~」

 

彼女は新しいことを知ることを最近愉しんでいて、俺に様々なことを尋ねてくる。もちろん俺も知らないことばかりなのだが、前世のことに彼女はとても興味を示していた。この世界で生まれた彼女にとって、異世界は未知である。

 

 

「スイード王国。ここも城塞都市なのか。」

 

「私からすれば、塀に囲まれていない国の方が珍しいわよ。」

 

「俺が生まれた国は海で囲まれていたけどな。」

 

「島国、なのかしら?」

 

「それ。」

 

魔人と魔物が溢れる旧帝国領は魔人領と呼ばれ、多数の近隣国がそれぞれの国境において厳重警戒態勢を敷いている。今もなお魔人の脅威を恐れている。そして、スイード王国もそんな国の1つである。

 

「なんだか苦戦しているな。」

 

「そうね。」

 

あくまで傍観しに来ただけだ。

ソニヤ以外を思いやれる感情は、今の俺にはない。

 

高い塀の上から魔法や弓矢が飛んできて、魔人は攻撃されている。魔法は得意ではないが、再生能力や高い身体能力を持つ魔人たちは壁をよじ登りながら応戦している。しかし本来、彼ら彼女らは普通の壁なら破壊できると思う。

 

「ちょっと失礼。」

 

浮遊魔法で塀の上へ。

俺たちの見た目は、一般的な魔人には見えないからな。

 

「な、何者だ!?」

「魔人……、なのか?」

 

「やっぱりこの人たちが持っているのは魔道具だわ。」

 

「支給品にしては、高級品だな。」

 

片手で持つことのできるワンドには1つの大きな魔石がついている。魔石とは魔力の結晶のことである。それぞれの魔道具には魔法が付与されているのだが、強力な障壁魔法を展開できるようだ。ちなみにここで魔道具自体にはその素材によって刻印できる文字数に制限がある。

 

「ねぇ、これってジンがたまに使っているヘンテコな字じゃない?」

 

「ああ。これは漢字だな。」

 

『対衝撃』『対魔法』『対銃弾』……、など。

魔人たちが攻めあぐねていた理由も納得できた。

 

賢者の孫か、それとも別の転生者か。

 

 

「行ってみましょう。」

 

「少年少女が飛び降りたぞ!?」

「いいから行くぞ!」

「あの子達に敵意はなかった。今は魔人だ!」

 

魔人たちは街の人々を襲い始めていた。知能や意思があるだけ、魔物より質が悪い。女も子ども見境いなく、自分達より幸せそうな人は憎んで殺していく。兵士たちは憤り怒り、必死に立ち向かっていく。

 

 

魔人の数は100人ほど。

この国で人工魔人に対応できる人は数人だろう。

 

 

『スイード国民に告ぐ! 私はアールスハイド王国、王太子アウグスト=フォン=アールスハイドだ!』

 

「拡声魔法かしら。」

 

 

街の屋根の上で呆然と見ていれば、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『我々は魔人を打倒する力を身に着け、この地にやってきた! 我々アルティメットマジシャンズが王国兵と協力し、必ずや魔人を打倒しよう。』

 

アルティメットマジシャンズって、なかなかませている。

 

『そして、魔人たち!絶望せよ!こちらには第2の魔人を討伐した、賢者の孫シン=ウォルフォードがいる!万が一に勝ち目があると思うな!!』

 

魔人は攻撃の手を止め、塔の上に立つ少年を見た。

隣国の王太子と賢者の孫、その直属部隊のご登場である。

 

 

「なるほど、いい策だな。」

 

「どういうこと?」

 

人々は歓喜し、魔人たちは新たな標的に愉悦した。

多数の魔人が塔の方角へ移動していく。

 

 

賢者の孫の学友たちは、2人1組になって各個撃破しているらしい。

 

 

「魔人の誘導だ。ずいぶんと自分たちの腕に自信があるらしい。」

 

「それなら、あっちの方に何かあるのね。」

 

人々が、逃げていく方向である。

つまり避難先か。

 

 

 

辿り着けば、すでに先客がいた。

 

「みっけ。救護所だ。」

「愉しそうだねぇ、ここは。」

 

「通さないぞ、ここは。」

 

2人の魔人に立ち塞がったのは、少年少女。

王太子と同じ戦闘服を着ているし、彼の部下か。

 

「ひゃっはー、女だ!」

「おい、坊主。どけ。今なら命だけは助けてやるよ。」

 

「マークは私が守る。」

「オリビアは俺が守る!」

 

「「はっ!!」」

 

「「ガハッ!!??」」

 

爆炎が魔人たちを包み込んでその身を焼いていく。

魔力制御を鍛えていて、なかなかの威力である。

 

「ぐっ、舐めやがってぇ……」

「もう超怒ったぞ!」

 

「くそっ。こいつら、再生してっ!?」

「マーク、こうなったらもっと強い魔法で!」

「周囲に被害が出るかもしれないっ!だからっ!」

 

2人は、頷き合う。

 

「なんだなんだ、イチャつきやがって!」

「正義の味方は。全く大変だなァ!!」

 

ピッチフォークを、彼は剣で受け止める。

少女に向かおうとした魔人は、障壁魔法で足止め。

 

「オリビア、準備できたか!?」

 

「うん! はぁっ!!」

 

「「ギャァーッ」」

 

蒼炎と化した爆炎が魔人を焼き尽くしていく。

賢者の孫譲りの魔法だろう。

 

少年は障壁魔法を、少女は爆炎魔法を発動し続ける。

 

「はぁはぁ……」

 

「「クッソがァ……ァ!!」」

 

「ご、ごめん、マーク。もうっげんかい……」

「オリビア!!」

 

連戦だったのだろう。

初めての対人戦で緊張感もある。

 

膝をついた少年少女は、もう魔力が限界だ。

支え合い、互いに守ろうとする。

 

「くそっ、魔人はほんと…タフだな……」

「でも、逃げるわけには……」

 

「お前らは絶対に赦さねぇ、か、ら、な……」

 

パンッパンッと、銃声が鳴り響いた。

俺が脳天を撃ったのは、2体の魔人の方だ。

 

「「な、なぜェ……?」」

 

「……本来の魔人は、気分屋なんだ。」

 

「あんた。あの時の……?」

「そ、その女の子も魔人なの?」

 

「そうよ。でも、私たちは何もしないから安心して。」

 

「うん、わかった。」

 

「……信じるのね。」

 

「だって、障壁魔法を手伝ってくれただろ? 俺苦手なのに、オリビアってばすげぇ威力が高くてさ。」

 

「でも、マークたちのおかげで救護所は守れたわ。」

 

「「だから、ありがとう。」」

 

「……まったく。魔人なのよ、私たち。」

 

人助けはするつもりは決してない。

でも、誰かを守ろうとする人の邪魔はしない。

 

 

救護所を守ろうとして満身創痍となった、騎士たちに話しかける。

 

「よう、おっさん。気分はどうだ?」

 

「最悪だ。」

「君たちに任せてしまった、騎士として情けないな……」

 

「さて、本題だ。憎いか?」

 

「ああ、憎い。魔人も俺たちの無力さも!!」

 

「あんた……、何を?」

 

「『力』は使い方次第。騎士のおっさんたちがどう使うかは俺の管轄外だ。」

 

「らしくないことをするのね、ジン。私は先に行くわよ。」

 

 

2人の肩に手を置いて、黒い魔力を渡す。

魔力が溢れ出て、目は紅く光った。

 

「「傷が、治って……」」

 

「まさか魔人化させたのかよ!?」

「そ、それって、大丈夫なの?」

 

「たぶん時間制限付きだがな。気分はどうだ?」

 

「「感謝する!!」」

 

さらに多くの人を救助しようと、2人は街に繰り出していく。

 

「「行っちゃった……」」

 

「まったく。俺たちは傍観者で。気紛れだけであって、ただの偽善で。別に感謝される立場にないのにな。」

 

救護所の中へ入る。

『力』を持たず、痛みに苦しみ嘆き、泣いていた。

 

「シシリー様! この子の怪我もお願いします!」

「私の夫をお助け下さい聖女様!」

「あ、あの俺の怪我も……」

 

「じ、順番に診ていきますから!」

 

この光景を見ても、魔人の俺は何も感じない。

 

そして、賢者の孫の想い人。

たった1人で、数百人を相手に1人ずつ回復魔法をかけていた。

 

 

 

「それで。なんで死にそうになるまで、がんばっているの?」

 

魔力も底を尽きかけている。

治癒効果のある自分の戦闘服を脱いで、手渡してすらいる。

 

「はぁはぁ……私、やっぱり戦うのが好きじゃなくて。でも、皆さんを守りたくて。まだまだシン君の隣には立てそうにないけど、私にできることをやりたいんです。」

 

「そっか。ねぇ、お姉さん。名前は?」

 

「シシリー=フォン=クロードです。」

 

「ソニヤよ。私たちは敵でも味方でもないわ。だから、気が向いたから、あなたを手伝うわね。」

 

「ありがとうございます!!」

 

「別に。感謝されるつもりはないわ。」

 

「前回のように、今度は敵として出会うかもしれないしな。」

 

「それでもです!もちろん、シン君を傷つけたことは許せませんけど、それは私個人の問題です。少しでも多くの人を救えるのなら、なんだってやります!!」

 

「「まったく……」」

 

クロードは本当に輝いて見えた。俺たちはクロードによる回復スピードには敵わないが、魔人の魔力総量は非常識的に勝っている。魔人に傷つけられ、魔人に癒されるなんて、なんて非常識的だろう。

 

そもそも魔人は悪なのかどうか、そんな疑問が人々に芽生え始めた。

 

 

「助かった!ありがとう!」

「おい、次はこっちだ! 坊主!」

 

人間に個人として見てくれたのは久しぶりなので、なんだかむず痒い。

 

 

「聖女様!お願いします!夫を、夫をお助け下さい!何でもしますから……お願いします……どうか……」

 

付き添いの女性が懇願した。

対して、クロードは暗い顔をするだけである。

 

「あの人は?」

 

「……私ではどうしても助けられなくて。魔力が足りないのもそうですが、あまりにも傷もひどくて。」

 

「なるほど。聖女でもなんでもない魔人だが、それでもいいか?」

 

この世界には、完全治癒魔法なんてものは存在しない。

もしゲームのHPで例えるなら、1ずつ回復させるだけ。

 

「はぁはぁ、魔人でも魔物でも……、妻を置いて、死ぬことより、怖いものはないッ!」

 

「上等、いい度胸だ。」

 

たぶん、内臓がかなりやられているのだろう。人体構造をある程度脳に浮かべる。膨大な魔力を使って、片っ端から治せばいい。身体の内側に向けて一気に回復魔法を使うべきか。

 

「魔人による全力の回復魔法だ。気をしっかり持てよ。」

 

「わか、った……ぐっ」

「あなたっ!」

 

愛する人の手を握り、支える。

強い『力』を持っている者ではないが、つよい。

 

 

「「ありがとう…、ございます…!!」」

 

まったく、今日は『らしくないこと』をした。

 

 

 

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