オリバー=シュトロームに指示された、魔人の集団がスイード王国を襲撃した。
世界各地では、そういうことになっている。実際は元平民100人の独断なのだが、この世界の政治体制も一筋縄ではいかない。魔人を悪と断定することで、絶滅させようとしているのだろう。
つまり、俺たちは世界の敵となった。
「ククッ……アッハッハッハ!!」
「……シュトローム様、少し落ち着いてください。」
腹を抱えて嗤い続ける彼を、ゼストは諌める。
「嗤うしかないでしょうに。魔人の力を過信して、策も弄することなく1つの王国を攻めて、賢者の孫によって無残に果てたのですから。いやはや、実に愉しい死に様。愚かな帝国平民には相応しい末路だと思いませんか!」
感情を見せることのなかった彼が今、感情豊かなのは復讐や愉悦のためだ。遠見の魔法で、今もなお走って逃げ惑う魔人たちを愉悦しながら観察していた。無事に帝都にまで帰ってくるのは、城壁でこまねいていた40人ほどだろう。
「……ローレンス、間近で見た感想は?」
「シン=ウォルフォード、恐ろしい敵です。俺たちを殺すと言う意味でも、その魔力制御の力量という意味でも。炎の魔法を中心として、即死級の魔法を躊躇いなく放ってきます。」
「……なるほど。前回よりも強くなっているということか。いくら魔法の使えなかった平民達とはいえ、あの12人が来なければスイード王国は制圧できていたはず。」
「賢者の孫、そしてその力を受け継いだ11人。無理に敵対するべきではないかと。」
「だが、ここ魔人領に攻めてくるのは時間の問題だろうな。」
「やはりそう思いますか、ジン様。」
「ああ。あいつらにとって、知性のない災害級の魔物はもう敵ではないだろうからな。だが魔人領を縄張りとした魔物の数は多い。だから今は、時間をかけて連合軍でも作っているんだろう。」
「人間とはいえ、途方もない数と戦うことになるのか……」
「まあ、賢者の孫以外は魔法と剣以外、まだまだ未熟なんだけどな。」
まだ15歳。
裕福な家庭で育った彼ら彼女らはまだ経験が浅い。
俺のような、無茶をしない限りそう簡単に強くはなれない。
「魔物ハンターと傭兵の、彼らを呼び戻すことも視野に入れなければなりませんね。」
「あいつら、秘境に籠っているんだったな。」
モンスターハンターのような暮らしを愉しんでいると思う。
まったく、精神的にくるものがある。
俺たちには知性があり非情ではあるが、殺人鬼ではない。
「おっと、そろそろミリアさんの元へ行かなくては。」
彼の興味は別のことへ。
常に座っている玉座から、立ち上がった。
ミリアさんとの実験は何度も続いている。
愛があるのかどうか、2人しか知り得ないことだ。
「そういえば、人助けをしたようですね、ジン。」
オリバーが振り向いた。
「俺が何をしようと、もうオリバーには関係ないだろう。」
「それもそうでしたね。」
親子ごっこはとっくに終わった。
愉しみを邪魔する者は誰であろうと叩き潰す、それが本来の魔人である。本能に従うのなら孤高の存在なのである。親子ごっこはすでに終わりを告げ、不干渉を貫いていた。そうした理由はただ1つ。
―――殺し合わないため
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標高が比較的高くて涼しい気候である。
浮遊魔法を解除して、のどかな高原に降り立つ。
「ここはカーナン王国か?」
「ええ、そうみたい。」
長距離移動を可能とする魔法、ゲートは一度行ったことのある場所かつ憶えている場所でないと使えない。ちゃんと行くべき場所をイメージすることができないからである。憶えているからこそ、俺はアールスハイド王国へいつだって奇襲ができるということだ。
しかしこちらから仕掛けるつもりはない。ここ数日はクロードの実家のある温泉街で過ごしていた。アルティメットマジシャンズもまるで旅行をしているかのように魔人領の隣国を訪ねているらしいのだ。聖女の生まれた街として多くの人で賑わっていた。
その帰りに、面白そうな国があったので降りてみたのだ。
「羊と小麦に囲まれる2つの国よ。隣国のクルト王国とは特に友好関係を築いているらしいわ。」
「博識だな。」
「本を読むことくらいしかやることなかったからよ。」
その境遇をあっけらかんと言ったが、俺に何かを教えられることをどこか喜んでいた。彼女はもう決して不幸ではない。
「なあ。あの羊飼い、ずいぶん鍛えてないか?」
「時々、羊が魔物化するのよ。魔道具としては極上の素材だけどね。」
「なるほど。」
魔物に溢れている世界では、安心して牧畜もできないらしい。
羊飼いが、魔物化した羊をハルバードで叩き切っている。
「古着屋店以外にちゃんとした服飾店があるし、服でも買うか?」
「別にいいわよ。この服気に入っているし。」
その境遇からか、彼女は贅沢をしない。
まあ、ブラウスとスカートという、ありふれた貴族の服装は彼女に十分似合っている。街で堂々していれば、俺たちはどこかの貴族の婚約者に見えるだけで、見た目だけでは魔人には見られることはない。
「ちょっとクセの強い味ね。」
「あまり食べ慣れない味だろうな。」
「うん、でも美味しいわね。」
羊肉の串焼きを食べ歩きする彼女は、今は普通の女の子だった。
「魔道具の販売店も多いんだな。」
「かなり高価だけどね。でも、織物業には欠かせないもの。」
産業と魔道具は、密接に結びついている。
導師が作成した魔道具は多くの国を豊かにした。
だから、この王国では導師を崇めているようだ。
昨日、導師の孫が訪れたという話で盛り上がっている。
「あの子達も観光をしたのかしらね。」
「一応ここも旧帝国領の隣国だし、あの王太子がここの王に謁見したんじゃないだろうか。知らんけど。」
つまり、戦争は近いらしい。
『緊急警報発令!』
「なんだ?」「なにかしら。」
『クルト王国との国境付近に魔人襲来!総員速やかに避難せよ!繰り返す、速やかに避難せよ!』
「オリバーじゃ……なさそうね。」
「ああ。気分屋だけど、わざわざこの国を選ぶメリットはない。闘争を求めるのなら、1番はアールスハイド王国だからな。」
避難していく人々とは逆方向に歩いていく。
時折り、俺たちを心配するように声をかけられる。
魔人襲来も予想していたのか、兵士の誘導に従って避難は迅速に行われていた。
城壁の下では魔人とアルティメットマジシャンズが戦闘している。魔人は平民の生き残りである。そして恐らく貴族の、金髪の少女と女の子がいたから俺たちはお話に来た。ソニヤの予想通りなら、女の子は王太子の実妹である。
魔道具で自動障壁を展開し、1人の魔人の脅威から女の子を少女が守っていた。
「へへっ、こいつらを人質にして……」
「邪魔よ。」
背中から、蹴り落とした。
ぎゃあああ、と叫びながら魔人は城壁の上から落ちていく。
「助けて下さったことは感謝いたしますが……、貴方達は?」
「魔人よ。」
「はわわ、魔人さんなのですか!?」
「……しかしどうしてお仲間を?」
冷静さを保ち、こちらの出方を伺ってくる。
『力』はないが、決して臆さない。
「魔人同士が仲が良いとは限らないわ。スイード王国のことも、今回のことも、あいつらが勝手にやってることよ。だから、あいつらが反撃されているのは自業自得。どう、信じるかしら?」
「信じるも何も、この程度の障壁など貴方たちならすぐに壊せるでしょう。」
「そうね。でも、お話をするだけなら問題ないもの。」
「信じましょう、貴方の言葉を。」
「わたしはメイと言いますです!」
「ふふっ、私はソニヤよ。こっちはジン。」
「メイったら……、私はエリザベートと申しますの。」
こちらに敵意がないことがわかった瞬間に、名を明かしたメイ=フォン=アールスハイドちゃんである。見た目的にもその表情も、まだまだ幼さが残っている。大人びているソニヤとはほとんど同い年であるのに、な。
エリザベートは王太子の婚約者、メイは王太子の実妹であって賢者の孫の従妹だと言う。防御の魔道具があるとはいえ、なぜアルティメットマジシャンズメンバーは誰も護衛をしていない。ゼストさんやローレンスたちなら容易く破壊して、背後から襲うことなど容易い。
まあ、腐った帝国に命令されたようなことは、もうしたくはないだろう。俺たち魔人は魔人になる前から、光を求めていた。
「それにしても、魔人はみんなあんな強さですの?」
「いいえ。一番弱い部類よ。」
「……そうですの。」
「ソニヤたちも、シンお兄ちゃんといつか戦うんですの?」
「さあな。一番強い魔人は3人とも気分屋だからな。」
少し情報を与えてしまったか。
まあ、俺たちに向かってくる敵は誰であっても潰す。
「今のところ魔人領からは仕掛けるつもりはない、とだけ言っておこうか。隣国がどうするか次第だろうな。」
「魔人の言うことよ。信じるか信じないかは貴方次第だわ。」
「……オーグにはお伝えしますの。」
それにしても、あの魔人たちも運がない。
偶然選んだ国に、アルティメットマジシャンズがいたのだ。
轟音が鳴り響いた。
賢者の孫、やっちゃったな。
「魔人を追撃するように、広範囲への爆発魔法か。」
「シンお兄ちゃんすごいです!」
「しかし、これは……」
「大変。小麦畑が吹き飛んでしまったわね。」
「はぁ……、オーグと一緒に謝罪しなくては……」
勝手に隣国に加勢して、コラテラルダメージをもたらしたのだ。国民にとっては正義の味方で英雄の孫なのだろうが、非は完全に賢者の孫にある。それでもたぶん許される。非常識なことを繰り返し、周囲へ影響を与え続けるあの転生者はこの世界ではまさに
「まさに魔王ね。」
「「魔法使いの王です!」」
「勇者じゃないのかよ。」