人物
佐藤十兵衛
下劣・卑劣・外道の三拍子揃った主人公。
友情・努力・勝利もキッチリ揃ってたりする。
照明が僅かに照らす薄暗い公園。夜も深まり日本における大半の人間は暖かいベッドの上で安眠をとっているであろうこの時間。
「いや……マジでヤバイ」
自分は寒空の下、なぜにこんな目に遭っているんだろうか。
「これは犯罪級……!」
喧嘩売ったのはこっちだし、負けたのもこっち。しかし、こんな事になるなんて想像もしなかった。
「僕がカッコ可愛すぎて辛いわ……」
こんなナルシスト野郎の茶番に付き合わされると思ってもみなかった。
「……もう帰っていいでしょうか……十兵衛君」
「ねえ、右と左のアングルだと妻○木聡と向○理のテイストがそれぞれ出てるじゃん?」
「いえ……」
「出てるじゃん?」
「いえ……」
「最初はどっち向ければ良いと思う?」
たすけて
◆◇◆
俺の名前は佐藤十兵衛、笑顔が素敵な17歳の独身。
「おい、もっと画質良いの無かったのかよ。これじゃあ練習にならなくて『佐藤君は格好いいけど映像ではイケてないね』って言われんだろうが!」
「えっと、なにかに出るんですか?」
「いつスカウト来てもおかしくないだろ、このキュートな顔面が目に入んねーのか?」
ただいま俺はこの身の程知らずのアホ共に制裁を加えたあと、大事なイベントに向けて経験値を貯めて、レベ上げに励んでいた。
「やっぱ視線は上目使いよね♪ 可愛さが違う、可愛さが」
「病気だよこいつ……」
「ヤバイ薬やってんじゃねえの?」
共学になった女子高に転校するのでビデオカメラによる挨拶の練習である。このダニ共にダッシュで買わせたのはいいが暗いところの映りが悪い。俺がカメラが欲しいと言ったならば、六桁の高性能マシーンと共にコーラでも買ってくるのが礼儀だろうに。
「つー訳で、俺はハーレム作ります。モテまくりのヤりまくりで、薔薇色の高校生活二年間を過ごしていこうというのが抱負ですね」
「頑張ってください。それじゃあ、お疲れ様です」
「まあ待てよ鳥取君」
「えっと……鳥居っす」
「そうそう、服部くんはさ、女子の比率の高い学校はどう思う」
「……まあ、可愛い子が居ればいいかなーとか思いますかね」
すぐ顔の話に入る……こいつはダメだな。
「そうだろうな、普通はそう思うよな。誰だってそーする、俺もそーする
──しかし、俺は同時にこう思う。男が少ないからヤり易いんじゃねーのかってな」
俺は近くの自販機から缶コーヒー(砂糖とミルクたっぷり)を購入して、思いっきり呷る。
このコーヒーはとても甘い味がした。
「なんせ連中は男に餓えてる、そこにこのイケメンマスクの登場だ。当然ながら話題になる。
さらに、頭が良くて気さくで、どこか可愛い雰囲気がある、モチロン惚れる女が出てくるわけだ」
「……」
「とどめに家に行ったら高級マンション、親はエリート、もち俺もエリートは確実。そこで好き! 抱いて! ってなる。
所詮は男を知らぬ小娘、このコーヒーみたいに甘いものだ」
「……こんな人間いるんだな」
「……静かにしろよ、殺されるぞ」
そんなこんなで夜は更けていき、寝不足は美容に悪いからと帰宅してさっさと寝た。
◆◇◆
転校初日、俺は自分の担任になる男と教室に向かっていた。
「いや、蒼開高校から生徒が来るなんて思ってもみなかったよ。それにしても東大合格間違いなしなんて流石だよ。
ウチも少し前から生徒数が減って共学化したとはいえ、もとはお嬢様学校だから偏差値もそれなりなんだけどね」
「いえいえ、学業は学生の本分ですからね」
「因みに顔面偏差値も中々高いから期待しててよ。彼氏持ち少ないし」
「え~本当ですか? 僕もしかしたら照れちゃって話できないかも知れませんね」
こんな風に当たり障りの無い会話をしてコイツのポイントを上げていこう。ていうかこの先公、女で生徒釣ろうとしてんだけどいいのかよ。
「ここが君の教室ね、佐藤君のこと皆気にしてたからさ」
教室に入ると案の定女子の比率が高い。なんか黒髪が少ない気もするが。
ここは一発、猛特訓したアレをかましてやろう。
「はい、お前ら静かにしろ。
それじゃ、とりあえず挨拶してよ」
「蒼開高校から転校してきた佐藤十兵衛です。
……よろしく」
ハニカミながらのよろしくが練習の通りに決まる。
これで何人か堕ちたな。
「……ナニ可愛い子ぶってんだか」
その呟きが聞こえた瞬間、思考が沸騰した。
音の発信源はこのオッサン、その音を止めてやろうかと思わず首に手をかけそうになる。
──いけない。こんなとこで殺せば人目につきすぎる。今度、富士の樹海にでも埋めてこよう。
コイツの心の臓から発する音は後々止めるとして、これから一大イベントが待っている。
「ではセンセ、ウチの席はどこどすか?」
そう、これから毎日の高校生活を送る場所の発表である。
「エリザベスはんの隣どすえ」
「エリザベス?」
担任教師が指差す方向、そこに唯一空いてる机を見たときに、俺の意識は再び沸騰、いや凍結した。
「エリザベス?」
「エリザベス」
驚いてるのはその席自体にではない。その場所は一番後ろの一番窓側、俺と言う主人公に相応しいポジショニングと言える。
しかしだ、問題はその隣。
窓際なので隣になるのは一人だけ、普通こういうのは話しやすい男子とか、学校のマドンナと相場が決まってるのだが
現在進行形で俺の目に飛び込んで来てるのは
とんでもない不細工だったからだ。
「……エリザベス?」
「エリザベス」
何回聞いてもエリザベス。
名前負けとか性別とか人種とかってレベルじゃない。雅様から血を貰って、邪鬼と化した感じの人外である。顔が全てを呑み込んで肥大化した怪物である。
笑顔で手を振ってきてるのが腹立つ。
「……俺の隣に来るべき美少女メインヒロインは何処?」
「エリザベス」
理想は今、脆くも崩れさって
「……輝かしくもエロエロなラブコメ生活は?」
「エリザベス」
非情な現実が表れた。
テメーちょっと
その呟きをこのくそったれにだけ聞こえるように小さく言い放ち、廊下へと呼び出す。
「お前殺すぞ!?」
「ビクトリアがなにか不満かね?」
「ハーフは美形って固定概念が吹き飛んだわ」
どこに納得しろと。世界の広さを無駄に知らされただけではないか。
「ふざけんなテメー……あんなドブスの隣にしやがって。殺意がムンムン湧いたわ。
こんな失礼な学校はもう転校します。島田先生、月の無い夜に気を付けろください」
そのまま家に帰ろうと踵を返す。
しかし、この教師の次の言葉に歩みを思わず止めてしまった。
「クラスの皆の顔をキッチリチェックしたかね。特に君の前の席とか」
含んだものがある物言いに思わず、引き返して教室を覗きこんだ。
「クリーム色が見えるだろ、見覚えがないか?」
「クリーム? 意味がわか……
瞬間、世界が真っ白に染まる。
「……ジーマーすか?」
「マジだ」
ここから見えるのは
「……アタックチャンスでは?」
「やめとけ! やめとけ! アイツはガードが固いんだ。
白鷺千聖、17歳独身、学業はまじめでそつなくこなすが人付き合いが悪い」
「独身は当たり前だろ」
ていうかそれならだめじゃねーかアホか。
「だから隣を狙うといい」
「いや、白鷺千聖見た後じゃあ、どんな女も霞むわ」
言われた通りに隣に座ってる女子を見てみる。ふんわり水色ロングで愛くるしい顔立ちをしている天使がなんかいた。明らかに人類の髪の色じゃないとか、そんなの関係無く惚れそうなくらいにマブイ。
「……まあまあじゃないかな」
「無理はせんでいい、なんせ私もムラッと……じゃなくてドキッと来るからな」
「どっちも問題だけどな」
「それよりもあの子は松原花音、17歳独身だ」
フム、俺様のお眼鏡に叶う女がいるのは誉めておこう。
「でも付き合える訳じゃないんでしょー?」
「しかし彼女は佐藤君が頭が良い事に対して凄いね、とか言ってような気がするが」
「いやでも……」
あの隣のペドロもとい不細工はいただけない。二重の意味でいただきたくない。それに佐藤十兵衛は男、口にした事を反故にするだなんて……
「そっか……あの娘押しに弱いからヤれそうなのに」
え
「処女なのに惜しいなあ」
なんかすごい情報が脳内に流れ込んできた。とりあえず聞いておくことがある。
「付き合えるの!?」
「それどころか突き合えちゃいます。上手くいけばどっちとも」
いや、でもこれはあからさまに嘘、ブラフ、罠。
俺を禁断の果実を食うように蛇が誘惑しているのだ。
「佐藤君──私を信じなさい。
女子高生に関しては誰より詳しい」
信じる者は救われるという言葉がある。
「し……し……」
ならば俺も信じよう。
「しまぶ○ろ先生ぇぇ~~~!」
「島田だ」
そう、全知全能の島田武先生を。
「というわけでエリザベスの隣でもいいかい?」
「
「
無事に和解を果たした俺たちは軽い足取りで栄光の待つ教室へ入っていく。そして自分の席に座り、目の前の少女たちに爽やかに挨拶をする。
「よろしこ」
「え……よ、よろしく」
「……よろしく」
若干引いてるように見えるが気のせいである。経験不足からなるネガティブ思考だ。二人のハートはガッツリである。
さあ! 俺の高校生活はこれからだ!
◆◇◆
無事に初日を終えて帰ろうとしたとき、クラスメイトの増田がカラオケでも行かないかと誘ってきた。予定も無いので了承したが、女子はいないらしい。使えない奴であるが俺の歓迎会らしいので我慢してやろう。
役立たず達と楽しく談笑しながら学校を出ようとすると、何やら校門に人だかりが見えた。
複数のバイクの音が止まっているらしく、エンジン音が周囲に鳴り響き、ビリビリと振動を伝えてくる。
「あ、居ました! アイツです! あのでかいツンツン頭が十兵衛です」
なんだか見覚えの有るような無いような奴が、痴漢でもされた女みたいに喚きながら近付いてきた。
「人違いです、僕はイマジンブレイカー上条当麻だよ」
「すぐバレる嘘つくな、昨日会ったろうが!」
ノリの悪い奴である、関西人ならムダに元気にツッコんでくるというのに。
「じゅ、十兵衛君……この人たちは?」
いけない、皆が怯えている。増田も肩を震わせて、小便小僧にクラスチェンジする三秒前だ。
とにかくなんて説明してやろう、それともさっさとぶちのめして差し上げた方が早いだろうか。
そうこうしてる内に道路に停めてあった黒塗りの高級車から、いかにもカタギじゃないですよって感じの大柄な男が降りてくる。
「お前らさっさと済ませろよ。こっちはそんな暇じゃねぇんだ」
コイツがケツ持ちか、おそらく傘下のチンピラがボコられて泣き付かれたって流れだろう、ならば話は簡単だ。
「まったくガリ勉野郎の一人、自分達でやれねえのか」
「いやすいません、この人数ならすぐに終わりますから」
喧嘩は先手必勝、そして数が多ければ頭を叩く
「花咲川に入る奴なんかに騒ぎやがって」
まずはあのデブを
──殺す
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