佐藤萌
兄から可愛がられてる妹
戸山香澄
これから十兵衛にちょくちょく利用されてく予定
花園たえ
十兵衛もビックリな不思議ちゃん
高野照久
最強の空手団体、進道塾の門下生
イケメンで童貞
初日の一件以来、どこかクラスメイトに距離を置かれている気がする。
あの後のカラオケでは流行りの曲を歌い、親しみ易さを演出してみたがそれでも崩れない心の壁というATフィールドが展開されてるようだ。
現に松原に、今日は一段と可愛いね興奮しちゃうよ、と声をかけたが、返ってきたのは曖昧な返事と白鷺からの侮蔑の表情。
あの女優の表情は残念ながらマゾではないため、そこまで股間に来るものはない。
しかし、松原が困った顔を見ると胸の方にキュンと来る。
しまぶーに相談したところ、それはお前あれだよ、恋の病だよ、と診断された。
そんな恋に生きる佐藤十兵衛は現在、ファミレスで一学年下の三人と一緒に昼食を取っている。
「それでお兄ちゃんさ、いっつもピーナッツ押し付けてきて、なら柿ピー食うなって言ってるのに」
「柿の種オンリーがないからしょうがないだろ、それに萌には大きくなって欲しいからあげてるんだよ」
「ピーナッツ食べれば大きくなるんですか? 私、毎日食べようかな……」
「香澄、お肉が一番美味しいよ」
「いや、そもそもお兄ちゃんはピーナッツ要らずでデカイじゃん」
俺の嫌いなピーナッツを食べてくれる優しい子は佐藤萌、俺のかわいい妹である。
ここ最近反抗期に突入したのか、この前ピーナッツをあげたら散弾銃を思わせる威力で投げてきた。
「じゃあ、私も柿ピーはピーナッツ残します!」
このやたらと元気のいい奴は戸山香澄といい、妹のクラスメイトで初日に仲良くなったらしい。なぜか猫耳が付いているが、人間の耳も付いてる。
話しているうちに気付いたが中々のアホ、夜空の星になって輝きたいと公言してる。
「香澄ちゃん、妹にピーナッツ食べてもらおうとか思って無いよね?」
「え! どうして分かるの!?」
「迷惑だからどっちも食べなよ……今やピーナッツと春菊見るだけでストレス溜まる体になっちゃったもん」
「ウサギはピーナッツ食べれない……オッちゃん食べたそうにしてたな……」
会話が噛み合ってない、というか明らかにこの場に居ない誰かへの思いを呟くクールビューティーが花園たえ。
見た目に反して思考回路はトチ狂ってるらしく、ファーストコンタクトで好みのウサギを聞かれた。
俺はそもそもウサギは臭いから嫌いなので、バニーガールが好きと答えてやったのだが、それに対する感想が
「メスがいい……変態?」
ウサギの性別に興味なんぞ無い。変態って言った方が変態なのでこいつこそ変態である。
そもそも何でこの三人とランチタイムを共有してるかというと、たまたま入った店にコイツらが居て、ご一緒しないかと誘われたからなのだが、お兄ちゃんは頭悪そうな友達が妹にできてるのが心配である。
フライドポテトをバカ食いする姿には微塵も知性を感じさせない二人。しかし、悪いやつでは無さそうなので最近の悩みを聞いてもらうのもいいかもしれない、俺を恐怖のズンドコに落とす
「お前らに相談があるんだが……」
「なに? 改まっちゃって。あれでしょ、女子に嫌われたとかでしょ」
「いや、そうじゃなくて、なんていうのかな……お兄ちゃん、ストーカーされてるんだ」
ここ最近、俺に非通知の謎メールが届き、男子の神聖な儀式の最中に変な画像を送り付けてくる、絡んできたチンピラぶっ飛ばすと賛辞の言葉を贈ってくる、何気なく呟いた言葉に返答が返ってくる。正直、ノイローゼになりそうだ。
人に見られてると思うと、おちおち自家発電も出来ない。
犯人が男、もしくはブスなら確実に始末してやる。
「心当たりとかは無いんですか?」
「強いて言えば、俺がイケメンだってことぐらいかな」
「お兄ちゃんナルシだから勘違いしてるんだよ。あれあれ間違いメール」
「違うわ! 俺の名前をご丁寧に書いて送ってくんだぞ!? これで人違いだったらビックリするぞ!」
「同姓同名探してみたらどうです? 私もジュウベーってウサギに付けようか迷ったことありましたし」
「人の名前をウサギと同等に扱うな……とにかく俺のハートがブレイクされる前に犯人を成敗せねばならない」
その時、ポケットからを感じた。スマホにメールが届いたようだ。
「どうしたの? メール見ないの?」
「このタイミング……奴か?」
「噂のストーカーですか!?」
「生のストーカー行為初めて見る」
なぜかはしゃぐバカ二人は置いといて、もしやと思いながら開いてみる。
『十兵衛君、フライドポテトが冷めちゃうよ?』
送り主不明、そしてこちらの行動をリアルタイムで把握してる精密さ……!
間違いない。コイツが俺の心の平穏を脅かす『敵』であり、姿を見せない『追跡者』……!
既に此処は、ヤツの射程距離内に入っていたらしい。
「お前ら、敵はおそらく単独! 一人でいる怪しい人間はいるか!?」
「え……全然いないけど」
「見当たりません」
「右に同じく」
見渡してみるが、それっぽい人間は見当たらない。どいつもこいつも複数人の客ばっかりだ。
相手はかなり頭がキレるらしく、簡単には見つかる場所にはいないらしい。
「ここは戦略的撤退だ。ヤツとて射程は無限ではなかろう。萌、戸山、花園さっさと店を出るぞ」
「まだポテトしか食べてませんよ?」
「おなかへった……ハンバーグ定食……」
「ていうか、萌たちは逃げなくてよくない?」
「お兄ちゃんは寂しいと死んじゃうんだよ」
「ウサギかよ!」
「ウサギなんですか? やっぱり番を探して……」
「ステーキでも寿司でも奢ってやるから来い、あと花園テメーはお口チャックだ」
そうして店から足早に立ち去った俺は、この三人を近くのバイキングへと連れていく。
しかし、食ってる最中にメールが13件送ってこられ、俺のすぐ後ろから撮られた写真が添付された時に確信した。
平穏はしばらく訪れない、コイツを『始末』するまで続くのだ。
この佐藤十兵衛はいつまでも逃げ回りはしない……
いつか絶対に正体突き止める、ストーカーの謎を暴いてやる!
◆◇◆
高野照久は充実した人生を送っていた。
歴史は浅いが名門校である羽丘学園に通い、幼少から習い始めた空手で全国大会優勝を果たし、同門の中でも最強と言われていた。
さらにルックスもあいまって女子からの人気も高い。今は空手に専念したい気持ちもあり色恋にかまける時間はないが、いつかは可愛い彼女に試合すごかったね、と言われたみたい……そんな思いが強くなっていた。
しかし、彼は物事をハッキリ言えない性質だった。
先程もファミレスで同じ学校の女子が、勝手に相席した時怒れなかったし、さらには自分が頼んだフライドポテトを取られても強く言えなかった。
空手がいくら強くなっても、生まれつきの性格だけは変えられなかったのだ。
「あ、高野君だ! 久しぶり~」
そんなことを思っている彼の背中に声がかけられる。振り返ると見知った顔がある。
中学の頃に同級生だったビクトリアだとすぐに気付く。
「羽丘どんな感じ?」
「……ぼちぼちかな」
高野はビクトリアが苦手だ。
彼女がフレンドリーで優しい性格なのは重々承知している。悪いことなんてしていない、別に嫌いではないはずだ。
しかし、顔が無理! オマケにワキガで、手を挙げる度に近隣に異常状態攻撃を仕掛けるのも無理!
かつて、席替えの時は好きな子の隣になるよりも、このモルボルにエンカウントしないように祈っていた程である。
同時に高野は同情していた。
ハーフなのにブサイクで、皆から避けられるビクトリアに。
「可哀想に……」
「今の……私の事言ったの?」
「全然! 恵まれない子供たちが可哀想だと思ってました!」
「隠さなくていいよ」
おもむろにバッグからカミソリを取り出したビクトリアは自分の手首に押し当てる。
「生きてても仕方ないから……来世ではせめてブルドッグ位のかわいさを期待します」
もうマジムリと、リストカットをしようとするビクトリアの体が抱き締められる。何事かと思った彼女が見上げると高野の顔がすぐ近くにあった。
「そんなことしちゃダメだ! 生きてれば君を受け入れる人がいつか現れる! ……たぶん」
「……なら、高野君は私を受け入れられる? ちなみにノーブラ」
「いやちょっと……ムリィ……」
「やっぱり死のう」
それから何度かの自殺を未遂に収めつつ、ビクトリアを傷付けないようにこの場を離れる方法を模索する。
「ビクトリアじゃん、何してんの?」
脇道から現れた花咲川の制服が半狂乱のエリザベスを見て、ドン引きしながら尋ねてきた。
周りには年下と思える女子が三人、不思議そうにこちらを見つめてきてた。
「佐藤君、その子達は?」
「妹とその友達」
「妹の佐藤萌です」
「戸山香澄です! バンドやってます!」
「花咲たえです。ギターやってます」
高野は可愛らしい少女たちと隣のモンスターを見比べる。
同じ格好、同じ性別、同じ生物。
どちらも人間という枠組みに入っているのに、ここまでの差が生まれてしまった理由はなんなのか。
そんな不毛な事を考えていると、佐藤と呼ばれた男子が馴れ馴れしく話しかける。
「どうも、ピーナッツ撲滅委員会取締役の佐藤十兵衛です。好きなお菓子は柿の種、ヨロシク」
にやけた面で自己紹介したその名前に聞き覚えがあった。
数日前にヤクザを半殺しにしたと噂になった男、悪魔の如き所業を平然とやってのける狂人と聞いた。
ガタイは確かにいいが特別何か感じるものはない。
「え~高野君だっけか」
いきなり肩を組んできた十兵衛が耳打ちしてくる。やけに真剣な顔だが。
「……ビクトリアと付き合ってんの?」
その言葉にたいして体が強い拒否反応を示すのが、高野にハッキリ感じ取れた。
「ナイナイナイナイ! すごく違うから!」
「そうかそうか……佐藤
なにやら集まって作戦会議をしているようで、それを眺めていると何故だか冷や汗が流れてきた。
今のうちに逃げようか考える。
だが、その前に十兵衛が高野の所に来る。向こうでは、女子三人がビクトリアに何かの交渉を行ってるらしい。
「俺に任せろ、バッチリプロデュースしてやるよ」
「なんのプロデュース!?」
やはり嫌な予感がしてきて、体の奥底から悪寒が吹き出るのを感じる。
やがてビクトリアは交渉されていた何かを了承したらしく、なぜか照れたようにチラチラと目線を向けてくる。
「オッケーですっ!」
「でかしたぞ戸山!」
両腕で大きな丸を作りこちらに駆け寄る猫耳娘、仲間とハイタッチしながらとてもいい笑顔でこう言い放った。
「ビクトリア先輩、高野先輩と付き合うって言ってますよ!」
ナニをいってんだ、高野には言われた言葉の意味が理解できない。いや、正確にはしたくなかった。
横を向くとこれまた笑顔のクールビューティー。
「中学から思い続けた人と結ばれる……感動しました、今度ライブに来てください」
ハイこれ、と渡されたチケットは二枚。
謎のストーリーが彼女の中で出来上がっているらしいが、別に一瞬たりとも思った事など無い。
「私、テルくんのお家に行きたいな」
いじらしくそう言ってはいるものの、恥じらう乙女より生者を貪るゾンビが似合うエリザベスに言われて嬉しい台詞ではない。
「いやお似合いだよ……マジで……ブホッ!」
「ベストカップルですね……ンフフゥ……グフ」
悪魔のような兄妹は、互いに身を寄せ合いながら顔を隠し、笑いに耐えきれずに体を小刻みに震わせている。
あっちの二人は有り難くない善意の行動だが、こっちの二人は明らかな悪意から来る犯行。
落ち着いたのか、再び真面目な顔に戻る。
「あとは若い二人だけで……いくぞお前らァ! 今夜は赤飯だ!」
颯爽と去っていく四つの背中を見ながら、一つ決めたことがあった。
あのツンツン頭をぶっ殺す、そう固く決意した彼の目からは大粒の雫が止めどなく溢れていた。
ここ最近、エリア会話で大和ちゃんが楽器屋にずっと出現してます。一日中店に入り浸って、意外に売れっ子アイドルは暇なのだろうか。