~家~
~リビングルーム~
『音夢ってドラマが好きじゃなかったか?』
『そうだけど……、ニュースを見るのも悪くないし』
『…、そっか』
恐らく、ニュースを見たいというのは嘘だろう……
ドラマで恋愛が展開されたら、今の俺だと嫌でも意識してしまう。
挙動がおかしくなる。音夢を見てしまう。
告白して以来、気まずさが完全に払しょくした訳ではなかった。
俺は病の様なものを抱え込んでいるし、音夢は常に気を使っている。
……自分の部屋に戻るのが一番気が楽になりそうだ。
『部屋に戻るよ。おやすみ』
『もう寝るの?もっとテレビ見てようよ』
『すまん、課題もあるし』
『そう、じゃあ早いけどおやすみ』
俺の方も気を使わざるを得ず、お互いに微弱なギクシャク感を持ってしまう。
以前の様な、自然体の2人で戻りたいが、当分先になりそうだ。
俺が気づいてはならない想いに、気づいてしまった為に……
リビングのドアを閉めようとすると、音夢がずっと自分を見ていた。
そのままドアを閉めれば自然だったのかも知れないが、無言で見返していた。
『兄さん』
『………』
『大丈夫?』
『………』
『………』
『うん、問題ないよ』
ワンテンポ遅れて、レスポンスを返す。
俺の異変を既に感じ取っているのだろう。
多分、自分が悩んでいる問題も……
このままではいけない。
何とか、自分なりの答えを探して行かないと……
~学校~
~屋上:昼休み~
『はぁ……』
正直、これだけ恋愛感情が大きくなれば、どうやって対処すればいいのか分からない。
どれだけエネルギーを消費しても、想いは想いのまま残っている。
認めては、否定しての繰り返しが続くばかりで、どうすればいいのか分からない。
考え事をしていると、不意に足音が近づいてきたので、ふと振り向くと眞子が見ていた。
『何やってんのよ』
『眞子か。お前も屋上で休憩か』
『そういう訳じゃないけど』
『そうか。ここで休憩していけば?風が気持ちいいぞ』
『昼ごはんを食べた後は、いつもここに居るの?』
『そうだな。最近はずっと』
『今まで教室に居たじゃない。どうして突然』
『色々とね』
『最近は音夢も寂しそうだよ』
『そんな訳ない!』
……思いっきり否定してしまった。
眞子は驚いた様子だ。
ハっと気づいたが、口にした後だった。
俺がいないと寂しくなる事。
それがそのまま、音夢は俺に居てほしいと直結してしまう。
俺にとっては、音夢も恋愛感情を持っているのでは?と希望を持とうとしてしまう。
そして、そんな訳がないと絶望感に満ちていく。
その希望と絶望の行き来が、俺にはひどくツラかった。
『あ、朝倉?』
『大きな声を出してすまん。でも何でもないんだ』
『ケンカでもしたの?』
『そんなんじゃないんだ』
ケンカならまだ良かった。
いつかは感情が消え失せ、お互いに仲を取り持つ事もあるだろう。
だが、今のこれはどこに終わりがあるのか全く分からない。
単に音夢が好きだけならともかく、一途な性格が災いしている様にも思える。
『先に教室に戻るけど、朝倉は?』
『もう少し、風に当たっているよ』
『じゃあ、後でね』
『ああ、また』
俺が眞子をぼんやり見ていると、ドアノブに手をかけた所で、何か気づいたかの様に立ち止まった。
すぐにこちらに小走りで駆けて来る。
『忘れてた。女の子が一人、あんたを探してたよ』
『女の子?』
昨日の桜公園で会った子を思い出す。
あの子たちの、誰かだろうか。
もう、用はないはずだが……
『礼儀の正しそうな人だった?』
『そう、だと思うけど』
『もしかして、思った事を素直に口に出す子?』
『どういう例えよ。そんな事わかる訳ないでしょ』
『そっか』
『伝えたからね。じゃあ』
俺を尋ねるとか、珍しい事もあるものだ。
3人の内の誰かか。あるいは全く別の人か。
あんまり良さそうな話は期待できないし、その話は忘れて、大空を見上げる。
そして、思いっきり息を吸って、深呼吸をする。
……よし、そろそろ教室に戻るか。
~桜公園~
~放課後~
『………』
最近は、真っ直ぐ家に帰る事もせず、こうしている事が多い。
桜公園の絶え間なく人が歩いている姿は、見飽きないものだ。
この近くにクレープ屋さんがあるが、女が騒がしいので、俺はいつも離れのベンチで座っている。
……想像すると、食べたくなってきた。
500円玉がポケットに入っていたので、勢いで買ってみる事にした。
……
…
クレープの種類がすごいな……
バナナチョコ、イチゴ、ブルーベリー、抹茶、アーモンドのクリーム。
色々ありすぎて、どれを選んでいいのか分からない。
とりあえず、最後尾に並び直す事にした。
……イチゴクリームがシンプルで無難そうなので、それを注文する事にした。
『??』
いきなりクレープ屋の人が吹いたので、何かなと後ろを見た。
……なるほど、俺も気を付けないとな。
子供がしっかり握っていなかったのか、クレープを地面に落としたようだ。
親が何とか、汚れた箇所をハンカチで拭いている様だが……
『ご注文は?』
『……あの子が落とした物と同じ物を作って下さい』
『あー、中々優しい人ですね』
『そんな事ないです。ただの気分です』
スタッフに作ってもらうと、すぐにその親子の元へ歩いた。
叱られているのが可哀想だったので、すぐに声をかけた。
何だか、素直に貰ってくれそうにないので、別の言葉を使う事にした。
『あの、すいません』
『あ、はい』
『落としたから、スタッフがもう1個作ってくれました。こっちをどうぞ』
『……申し訳ありません』
何度もスタッフに頭をペコペコ下げている。
スタッフは何があったのか分からず、軽く会釈をしていた。
俺は完全に食べ損ねたが、心は充足感が満ちていたので、返って今のハプニングが良かった気がした。
離れのベンチに向かい、腰をかけて時間が過ぎるのを待った。
『なんで、またここに居るの?』
『………』
昨日、出会った3人だった。
みっくんという子は、面倒くさそうに話すので、さすがに疲れを感じてしまう。
帰り道ならさっさと通ればいいものを……
立ち止まっては話そうとするので、立ち去る事にした。
『無言で行かないでよ』
『……昨日、3人の方が助かると言ったんじゃなかったか』
『あ、あれは……、まぁ忘れてください』
『政治家並みの記憶力なら可能だが、俺には無理だ』
『話は変わるけど、昼休みはどこへ行ってたの?』
『………』
眞子が言ってたのは、この子の事か。
素っ気なく話すし、俺に関心を持ってそうにない。
何の用もないはずだが、なぜ俺を尋ねたのか気になる。
『ちょっと外で空気を吸いに。何か用だったの?』
『タバコじゃなくて?』
『みっくん、君は悪い方に勘ぐりすぎ。で、用は何?』
『私じゃなくて、ことり』
……初めて対面したが、何だかものすごく癒される。
女性のかわいい、綺麗とは全く別の魅力を感じた。
『初めまして、だよね?初めまして』
『そんな畏まらなくてもいいよ。昼休み、何か用だったの?』
『帽子を拾ってもらったのに、お礼を言い忘れてたから。それで』
『律儀にありがと。別にいいのに』
『昨日もここに居てたけど、いつもここに居るの?』
『家に居ると、今はちょっとしんどくて』
『家に居るとしんどいの?なんで?』
『色々理由があって。詳しくは言えないが……』
『妹の部屋に入っている所を、見られたとか?』
………。
この子、普通の人と勘ぐり方が違う気がする。
毎回、こうやって和やかな空気を破壊しているのだろうか。
他では、そうではないと思いたい所だ。
構っていたらキリがない気がしたので、スルーを通す事にした。
『名前は朝倉純一だよ。よろしく』
『白河ことりです。それからともちゃんとみっくん』
『今まではアイドル、礼儀の正しい子、思った事を口にする子で覚えていた。名前が分かると助かるよ』
『面白い覚え方するんですね。でもアイドルじゃないですよ』
『礼儀、正しかったかな』
『私一人だけひどくない?』
ともちゃんは、照れ隠しで口を隠す。
みっくんは下を向いて、口を尖らせる。
一人一人が個性豊かでいいなと思ってしまう。
『朝倉君の中で、私だけひどいイメージなんだけど』
『だって、勘ぐり方が……』
『それは、今までことりの追っかけをしている人だと思ってたから……』
『俺はしないって』
ちょっとストレートに言いすぎたか。
追いかけとか、男子生徒の大多数がしていないはずだが、意外に多いのだろうか。
性格上、あまりに可愛い人だとライバルが多すぎて望み薄になるので、すぐに諦めてしまう。
そして、余計な肩入れをしてしまうと、その人に恋人が出来た時、結構ショックだと思うので、特別に可愛い人だと自分から見ない様にしている。
『朝倉君って呼んでいいかな?』
『ああ、俺も白河さんで呼ぶよ』
『ことりでお願い』
『名前で?しかも呼び捨て?呼びにくいから白河さんで呼ぶよ』
『ことりで』
『………』
俺はつい、ともちゃんとみっくんを見た。
いつもは名前で呼んでもらっているのか、と不思議そうに見た。
俺が見ても、二人は黙ったままで喋ろうとしなかった。
俺の視線も一向に無視されてしまった。
『ことり、さん』
『さんは要らない。ことり』
『こ……、照れてしまう』
『照れない。ことり』
もう一度、彼女らを見た。
何だか、白河さんがさっきと様子が違って、やたらと親しんでくる。
俺が見ても、二人はさっきと変わらない。
ずっと黙ったままだ。
しかし、何か言って欲しかったので、視線を外さずに二人を見た。
あまりに沈黙が続いたので、ともちゃんが口を開いた。
『朝倉君って、物腰が柔らかいって言われない?』
『さぁ……』
不思議な一面を持つ子なんだな。
さっきより、ずっと強く出て来るので、とりあえず逆らわずに名前で呼んであげる事にした。
『ことり』
『何かな?』
『名前で呼んでって言ったから。用なんてない』
『冗談です。名前覚えて下さいね』
挨拶もなく、そのまま帰っていった。
二人共、軽く頭を下げてことりの後を追って行った。
……俺はドキドキが収まらなかった。
皆にあんな風に接しているのだろうか。
そうだとしたら、勘違いして追っかけも出来てしまうよ……