D.C. 〔3〕    作:消雪

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〔2〕

~家~

~リビングルーム~

 

 

 

『音夢ってドラマが好きじゃなかったか?』

 

『そうだけど……、ニュースを見るのも悪くないし』

 

『…、そっか』

 

 

 

恐らく、ニュースを見たいというのは嘘だろう……

ドラマで恋愛が展開されたら、今の俺だと嫌でも意識してしまう。

 

挙動がおかしくなる。音夢を見てしまう。

 

告白して以来、気まずさが完全に払しょくした訳ではなかった。

俺は病の様なものを抱え込んでいるし、音夢は常に気を使っている。

 

……自分の部屋に戻るのが一番気が楽になりそうだ。

 

 

 

『部屋に戻るよ。おやすみ』

 

『もう寝るの?もっとテレビ見てようよ』

 

『すまん、課題もあるし』

 

『そう、じゃあ早いけどおやすみ』

 

 

 

俺の方も気を使わざるを得ず、お互いに微弱なギクシャク感を持ってしまう。

以前の様な、自然体の2人で戻りたいが、当分先になりそうだ。

 

俺が気づいてはならない想いに、気づいてしまった為に……

 

リビングのドアを閉めようとすると、音夢がずっと自分を見ていた。

そのままドアを閉めれば自然だったのかも知れないが、無言で見返していた。

 

 

 

『兄さん』

 

『………』

 

『大丈夫?』

 

『………』

 

 

『………』

 

『うん、問題ないよ』

 

 

 

ワンテンポ遅れて、レスポンスを返す。

俺の異変を既に感じ取っているのだろう。

 

多分、自分が悩んでいる問題も……

 

このままではいけない。

何とか、自分なりの答えを探して行かないと……

 

 

 

~学校~

~屋上:昼休み~

 

 

 

『はぁ……』

 

 

 

正直、これだけ恋愛感情が大きくなれば、どうやって対処すればいいのか分からない。

どれだけエネルギーを消費しても、想いは想いのまま残っている。

 

認めては、否定しての繰り返しが続くばかりで、どうすればいいのか分からない。

考え事をしていると、不意に足音が近づいてきたので、ふと振り向くと眞子が見ていた。

 

 

 

『何やってんのよ』

 

『眞子か。お前も屋上で休憩か』

 

『そういう訳じゃないけど』

 

『そうか。ここで休憩していけば?風が気持ちいいぞ』

 

 

『昼ごはんを食べた後は、いつもここに居るの?』

 

『そうだな。最近はずっと』

 

『今まで教室に居たじゃない。どうして突然』

 

『色々とね』

 

 

『最近は音夢も寂しそうだよ』

 

『そんな訳ない!』

 

 

 

……思いっきり否定してしまった。

眞子は驚いた様子だ。

 

ハっと気づいたが、口にした後だった。

 

 

俺がいないと寂しくなる事。

それがそのまま、音夢は俺に居てほしいと直結してしまう。

 

俺にとっては、音夢も恋愛感情を持っているのでは?と希望を持とうとしてしまう。

そして、そんな訳がないと絶望感に満ちていく。

 

その希望と絶望の行き来が、俺にはひどくツラかった。

 

 

 

『あ、朝倉?』

 

『大きな声を出してすまん。でも何でもないんだ』

 

『ケンカでもしたの?』

 

『そんなんじゃないんだ』

 

 

 

ケンカならまだ良かった。

いつかは感情が消え失せ、お互いに仲を取り持つ事もあるだろう。

 

だが、今のこれはどこに終わりがあるのか全く分からない。

単に音夢が好きだけならともかく、一途な性格が災いしている様にも思える。

 

 

 

『先に教室に戻るけど、朝倉は?』

 

『もう少し、風に当たっているよ』

 

『じゃあ、後でね』

 

『ああ、また』

 

 

 

俺が眞子をぼんやり見ていると、ドアノブに手をかけた所で、何か気づいたかの様に立ち止まった。

すぐにこちらに小走りで駆けて来る。

 

 

 

『忘れてた。女の子が一人、あんたを探してたよ』

 

『女の子?』

 

 

 

昨日の桜公園で会った子を思い出す。

あの子たちの、誰かだろうか。

 

もう、用はないはずだが……

 

 

 

『礼儀の正しそうな人だった?』

 

『そう、だと思うけど』

 

『もしかして、思った事を素直に口に出す子?』

 

『どういう例えよ。そんな事わかる訳ないでしょ』

 

 

『そっか』

 

『伝えたからね。じゃあ』

 

 

 

俺を尋ねるとか、珍しい事もあるものだ。

3人の内の誰かか。あるいは全く別の人か。

 

あんまり良さそうな話は期待できないし、その話は忘れて、大空を見上げる。

そして、思いっきり息を吸って、深呼吸をする。

 

……よし、そろそろ教室に戻るか。

 

 

 

~桜公園~

~放課後~

 

 

 

『………』

 

 

 

最近は、真っ直ぐ家に帰る事もせず、こうしている事が多い。

桜公園の絶え間なく人が歩いている姿は、見飽きないものだ。

 

この近くにクレープ屋さんがあるが、女が騒がしいので、俺はいつも離れのベンチで座っている。

……想像すると、食べたくなってきた。

 

500円玉がポケットに入っていたので、勢いで買ってみる事にした。

 

 

……

 

 

クレープの種類がすごいな……

 

バナナチョコ、イチゴ、ブルーベリー、抹茶、アーモンドのクリーム。

色々ありすぎて、どれを選んでいいのか分からない。

 

とりあえず、最後尾に並び直す事にした。

……イチゴクリームがシンプルで無難そうなので、それを注文する事にした。

 

 

 

『??』

 

 

 

いきなりクレープ屋の人が吹いたので、何かなと後ろを見た。

……なるほど、俺も気を付けないとな。

 

子供がしっかり握っていなかったのか、クレープを地面に落としたようだ。

親が何とか、汚れた箇所をハンカチで拭いている様だが……

 

 

 

『ご注文は?』

 

『……あの子が落とした物と同じ物を作って下さい』

 

『あー、中々優しい人ですね』

 

『そんな事ないです。ただの気分です』

 

 

 

スタッフに作ってもらうと、すぐにその親子の元へ歩いた。

叱られているのが可哀想だったので、すぐに声をかけた。

 

何だか、素直に貰ってくれそうにないので、別の言葉を使う事にした。

 

 

 

『あの、すいません』

 

『あ、はい』

 

『落としたから、スタッフがもう1個作ってくれました。こっちをどうぞ』

 

『……申し訳ありません』

 

 

 

何度もスタッフに頭をペコペコ下げている。

スタッフは何があったのか分からず、軽く会釈をしていた。

 

俺は完全に食べ損ねたが、心は充足感が満ちていたので、返って今のハプニングが良かった気がした。

離れのベンチに向かい、腰をかけて時間が過ぎるのを待った。

 

 

 

『なんで、またここに居るの?』

 

『………』

 

 

 

昨日、出会った3人だった。

みっくんという子は、面倒くさそうに話すので、さすがに疲れを感じてしまう。

 

帰り道ならさっさと通ればいいものを……

立ち止まっては話そうとするので、立ち去る事にした。

 

 

 

『無言で行かないでよ』

 

『……昨日、3人の方が助かると言ったんじゃなかったか』

 

『あ、あれは……、まぁ忘れてください』

 

『政治家並みの記憶力なら可能だが、俺には無理だ』

 

 

『話は変わるけど、昼休みはどこへ行ってたの?』

 

『………』

 

 

 

眞子が言ってたのは、この子の事か。

素っ気なく話すし、俺に関心を持ってそうにない。

 

何の用もないはずだが、なぜ俺を尋ねたのか気になる。

 

 

 

『ちょっと外で空気を吸いに。何か用だったの?』

 

『タバコじゃなくて?』

 

『みっくん、君は悪い方に勘ぐりすぎ。で、用は何?』

 

『私じゃなくて、ことり』

 

 

 

……初めて対面したが、何だかものすごく癒される。

女性のかわいい、綺麗とは全く別の魅力を感じた。

 

 

 

『初めまして、だよね?初めまして』

 

『そんな畏まらなくてもいいよ。昼休み、何か用だったの?』

 

『帽子を拾ってもらったのに、お礼を言い忘れてたから。それで』

 

『律儀にありがと。別にいいのに』

 

 

『昨日もここに居てたけど、いつもここに居るの?』

 

『家に居ると、今はちょっとしんどくて』

 

『家に居るとしんどいの?なんで?』

 

『色々理由があって。詳しくは言えないが……』

 

 

『妹の部屋に入っている所を、見られたとか?』

 

 

 

………。

この子、普通の人と勘ぐり方が違う気がする。

 

毎回、こうやって和やかな空気を破壊しているのだろうか。

他では、そうではないと思いたい所だ。

 

構っていたらキリがない気がしたので、スルーを通す事にした。

 

 

 

『名前は朝倉純一だよ。よろしく』

 

『白河ことりです。それからともちゃんとみっくん』

 

『今まではアイドル、礼儀の正しい子、思った事を口にする子で覚えていた。名前が分かると助かるよ』

 

『面白い覚え方するんですね。でもアイドルじゃないですよ』

 

 

『礼儀、正しかったかな』

 

『私一人だけひどくない?』

 

 

 

ともちゃんは、照れ隠しで口を隠す。

みっくんは下を向いて、口を尖らせる。

 

一人一人が個性豊かでいいなと思ってしまう。

 

 

 

『朝倉君の中で、私だけひどいイメージなんだけど』

 

『だって、勘ぐり方が……』

 

『それは、今までことりの追っかけをしている人だと思ってたから……』

 

『俺はしないって』

 

 

 

ちょっとストレートに言いすぎたか。

追いかけとか、男子生徒の大多数がしていないはずだが、意外に多いのだろうか。

 

性格上、あまりに可愛い人だとライバルが多すぎて望み薄になるので、すぐに諦めてしまう。

そして、余計な肩入れをしてしまうと、その人に恋人が出来た時、結構ショックだと思うので、特別に可愛い人だと自分から見ない様にしている。

 

 

 

『朝倉君って呼んでいいかな?』

 

『ああ、俺も白河さんで呼ぶよ』

 

『ことりでお願い』

 

『名前で?しかも呼び捨て?呼びにくいから白河さんで呼ぶよ』

 

 

『ことりで』

 

『………』

 

 

 

俺はつい、ともちゃんとみっくんを見た。

いつもは名前で呼んでもらっているのか、と不思議そうに見た。

 

俺が見ても、二人は黙ったままで喋ろうとしなかった。

俺の視線も一向に無視されてしまった。

 

 

 

『ことり、さん』

 

『さんは要らない。ことり』

 

『こ……、照れてしまう』

 

『照れない。ことり』

 

 

 

もう一度、彼女らを見た。

何だか、白河さんがさっきと様子が違って、やたらと親しんでくる。

 

俺が見ても、二人はさっきと変わらない。

ずっと黙ったままだ。

 

しかし、何か言って欲しかったので、視線を外さずに二人を見た。

あまりに沈黙が続いたので、ともちゃんが口を開いた。

 

 

 

『朝倉君って、物腰が柔らかいって言われない?』

 

『さぁ……』

 

 

 

不思議な一面を持つ子なんだな。

さっきより、ずっと強く出て来るので、とりあえず逆らわずに名前で呼んであげる事にした。

 

 

 

『ことり』

 

『何かな?』

 

『名前で呼んでって言ったから。用なんてない』

 

『冗談です。名前覚えて下さいね』

 

 

 

挨拶もなく、そのまま帰っていった。

二人共、軽く頭を下げてことりの後を追って行った。

 

……俺はドキドキが収まらなかった。

 

皆にあんな風に接しているのだろうか。

そうだとしたら、勘違いして追っかけも出来てしまうよ……

 

 

 

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