~学校~
~屋上:昼休み~
悩んでいる時は、意外に人とずっと接している事の方がいい。
一人で居ると常に考え事が絶える事がない。
気付いたら、途方もない時間を悩み事に費やしてしまう。そして、精神が病んでいくのだ。
そう、自分自身で上手くコントロールできないものだ。個人差はあるのかも知れないが。
それなら、友達となるべく一緒に過ごして、会話と遊びに集中している方がいいだろう。
俺の場合、そうしている間に音夢への想いも溶けていくだろう。
時折、強く吹く風を受けながら、授業時間を待ち続けた。
……音夢。
ドアの音で振り向いたが、屋上に来るなんて珍しい事もあるんだな。
『どうした?』
『ここ最近、会う時間が少ないから。調子はどう?』
『………』
『………』
元気と言えば嘘になるし、ノイローゼになりそうと言ったら心配をかける。
空元気も出せず、何も言い出す事が出来ない。
音夢は何も言おうとせず、フェンスに背に持たれかけた。
俺も何も言わなかった。
無理に何かを言おうとしたら、俺は突拍子もない事を言い出しかねない。
今は無言を貫いた方が、お互いに一緒に居られる。
『音夢と一緒に居られる空間、何だか久しぶりだな』
『……私も』
『………』
『………』
動物の様に、人間にもテリトリーというものを持っているのではないだろうか。
自然、動物、特定の人を、自分のテリトリーの中に入ると効能をもたらす何かを覚える。
やっぱり、音夢が近くに来てくれると嬉しい。
『音夢はどうだ。調子は?』
『いいと思うの?』
『いや、何でもない。喋るのは止めるよ。その方が長く居られる』
『………』
……
…
~学校~
~桜公園:放課後~
いつものベンチが取られている……
俺の特等席を……、と思ったらことりが座っていた。
今日は、いつもの2人はいないようだ。
『悩み事?』
『あ、こんにちは。どういう挨拶ですか。別に悩みなんてないですよ』
『てっきり、俺の様になったかと』
『座ってただけです』
『そっか。隣座るよ』
『本っ当に、いつもここに来るんですね』
来慣れた場所は、やたらと落ち着くというか……
ここの除けば、他に行く場所もない。
時間がゆっくり過ぎていくのも、気に入っている。
人の往来は印象的でもある。特に、スーツケースを持って旅行に出かける人とか。
『……最近、分かってしまいました。憶測だけど』
『何を?』
『朝倉君の事です』
『ベンチに座りながら、時間の流れを待つからジジ臭いってこと?』
『違います。話は最後まで聞いて下さい』
『はい』
『あ、その前に携帯教えて』
『じゃあ、はいこれ』
……俺の携帯と全然違うな。
機種変更もロクにせず、ずっと使い続けているので銀色の部分は所々剥がれている。
携帯はメールか電話なので、余計な負担をかけないから故障もせず、5年間は長持ちしている。
『朝倉君の悩みは、ズバリ音夢さんの事でしょ?』
『…、……』
『……どうしたの?』
『苦しい……』
俺はあからさまに嫌な顔をして、胸を押さえた。
こうして休んでいる間は、わずかでも考えたくはない。
いつでも思い出したいが、思い出すと一気に胸が苦しくなる。
胸を押さえて、吐き気を堪えた。
『ごめん。大丈夫?』
『……ああ』
『………』
『………』
『本当に大丈夫?』
『うん、大丈夫』
今の自分にとっては、本当にデリケートな問題になってしまった。
学校の屋上では、無言状態になってようやく一緒に居られる様になった。
会話しようものなら、顔を合わせる度に、胸がジンジンと痛んでしまう。
こういうのって俺だけ……、なのか。
『俺、こんなだから……』
『こんなだから?』
『会ってると楽しくないよ』
『そんな事ありませんよ』
『今の、こんな俺でも?』
『はい。青春してていいじゃないですか』
『これが青春だったら、皆病んでいるぞ』
『本気で好きになっている事ですよ。今の朝倉君を見てると、素直に喜ぶものではないけど』
『………』
『羨ましいです。そこまで本気に好きになれるなんて』
『…、……』
『……音夢さんが羨ましいな』
逆に、今の俺は八方美人になれる方が羨ましい。
あれこれ、女を好きになれるのだから、一人相手にここまで好きにならないはず。
胸を押さえていると、心配そうに見てくる。
『だ、大丈夫ですよ。想いは通じますよ』
『そんな事ない。既に断られているんだし、兄妹だという事もあるし……』
『……もう、じゃあ、打ち明けているんですね』
『………』
告白までは言ってないと思ったのだろう。
驚いた様子だった。
感傷の限界を超えて、その場で嗚咽を堪えて泣いてしまう。
素直に、涙を出すと少しマシになれた。
『…、……。どうすればいいのか、わからない』
『……相当辛そうですね』
『…、……』
『大丈夫ですよ。大丈夫ですから……』
全然、具体的でない励ましだが、本気で励ましてくれていた。
ちょっとだけ楽になったが……
……ちょっと、遠くで思いっきり泣いてこよう。
俺は席を立って、桜公園の人気のない奥まで行く事にした。
『どこへ行くの?』
『ごめん、先に帰っててくれ。ちょっと一人になるよ』
『そんなんじゃ心配だよ。私も付いていきます』
『ちょ……、それは止めてくれ。本当に大丈夫だから』
思いっきり泣いて全てを発散したいのに、ことりが居たのでは恥ずかしくて出来ない。
案外、思いっきり泣くと、結構スッキリするので泣きたい時は、心済むまで泣いていたい。
『……大丈夫だから』
『………』
『ありがと、ことり。励ましてくれて』
『………』
……
…
桜公園の奥へ暫く歩くと、大木の様な桜の木に膝から崩れて、思いっきり泣いた。
これは自分だけなのか、自分だけなのかと問いかけてしまう。
『音夢、苦しいよ……』
誰か、アドバイスだけでもくれ。
どんなアドバイスでもいい。
どうすれば、この苦しみから逃れられるのか。
誰か……
……
…
~家~
~自室:夜~
『眠い……』
今日は、眠気がある間に寝よう。
最近は思った様に睡眠が取れず、寝不足が続いている。
夜になっても中々眠れないので、悩みの種だ。
アロマテラピーでも試してみようかな。ちょっと値段が高いが。
ん?
携帯が鳴っている。誰だろ……
『もしもし朝倉君?』
『ことりか。どうしたの』
『もう大丈夫なの?』
『ああ、あれか。大丈夫だよ』
『………』
『……大丈夫だよ。俺の出した話題が迂闊だった』
電話越しだと、相手の表情が分からないから何とも言えないが、ことりの心配の強さが伝わってくる。
いつもの口調ではなく、ちょっとした言葉の鋭さを感じる。
いつまでも、こんな調子ではいけないのは解るが……
けど、今の俺では……
『えっと、何か用?』
『明日、一緒に登校しようよ』
『一緒に……』
『この前話したでしょ。追いかけを止めさせてもらう事』
『ああ、あの彼氏のフリか』
『とにかく明日、7時には起きていてね』
『ん、俺の家が分かるの?』
『………』
『あれ、もしもし。聞こえてる?』
『聞こえてる。じゃあお休みなさい』
ありゃ、切られてしまった。
なんで、俺の家を知っているんだろう……
7時か……
最近は生活リズムなど無く、起床時間はランダムに近い。
眠くて起きられないのだけは避けないと。
今日はこのまま電気を消して、そのまま眠る事にした。
~家~
~自室:朝~
『………』
あんまり時間に余裕がない。
まだ眠いがとにかく朝食を食って、歯を磨いて顔を洗わないと。
頬を何度かビンタ並みに強く叩いて、目を覚まそうとした。
ご飯を2口ほど頬張り、つくだ煮を口にいれた。
その後、歯を磨いて、カバンの用意も整った。
念の為、家の外で待つか。
もしかしたら、俺の家を知らないのかも知れないし。
……
…
『お、おはよー。ひょっとして待った?』
『おはよー。今来たところだよ』
『良かった。待たせたと思った』
『大丈夫だよ過敏にならなくても。じゃあ行こっか』
……
…
~通学路~
通学の途中から、生徒から視線が止まなかった。
意外な視線、好奇心な視線、ショックで固まっている男……
ことりは手こそ繋がないものの、体を密着させてくるので、俺の方がドキドキしていた。
結構、積極的なんだろうか。
『今日も寒いですね』
『そうだね』
『でも天候は晴れてそうだから、贅沢は言えないかな』
『と思う』
『もうちょっと何か喋って下さいよ。さっきから私ばっかりですよ』
『ごめん。ドキドキがちょっとね……』
『解ってる。朝倉君の心臓の音が伝わって面白い』
『………』
俺はあがってしまって、ことりにペースを握られっぱなしだ。
正直、ここまでアプローチされるとは思わなかった。
何日か、登下校が必要と思っていたが……
今日一日で済みそうな感じがする。そればかりか、一日で噂が駆け巡る気がする。
『ことりはドキドキしないの?』
『朝倉君がそれだけドキドキしてくれたら、逆に面白いです』
『むむ……』
『学校に居る間に青春しないと。ね?』
『……だな』
『早く悩みが無くなるといいね』
ことりが励ましてくれているのが分かる。
世話になりっぱなしだ。有難い存在で感謝の言葉もない。
ことりの言う通り、悩むだけ悩んだら俺も青春していかないと。
『……ありがと、ことり』
お礼を言った後、俺もことりの方に体を傾けた。
学校に着くまで、少しだけ温もりに甘える事にした。
……これ、本当に心音が伝わってくるな。
それと、暖かい……
『ここまで密着したら、一日で恋人だと噂されそうだな』
『……ですね』
『追いかけの類いが解散するといいな』
『……です』
……ことりも照れ屋さんじゃないか。
まぁいいや、このまま学校まで行こう。
今は、ただの恋人のフリだったか。
しかし、フリであっても本物の恋人だと錯覚に陥る。
『うぅ、ことりに癒されるよぉ。ことりが傍に居ると、心が楽になる』
『そ、うなんです、か』
『だって、心が癒されていくし。手もギューっとさせて』
『…、ちょっと待ってほしいな』
『ギュー。やっぱり暖かいよぉ』
『……いきなり積極的です』
『暖かいー』
『……甘えん坊になってますよ』
ことりの手は外気に照らされ、冷えていた。
最初は俺しか手を握っていなかったが、向こうも握り返してくれている。
『ことりは。暖かくない?』
『別に。朝倉君のアプローチがぐいぐい来るから、よく分からない』
『暖かいよぉ』
『…、甘えん坊さんですね』
学校に着くまで、ずっと皆の生徒を感じていた。
しかし、恋人って早く作った方がいいものかもな。
時折、男が目を見開いて立ち止まるのが面白いが、複雑でもあった。
……どうか俺の様にはならないでほしい。