D.C. 〔3〕    作:消雪

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〔5〕

~学校~

~屋上:昼休み~

 

 

 

悩んでいる時は、意外に人とずっと接している事の方がいい。

一人で居ると常に考え事が絶える事がない。

 

気付いたら、途方もない時間を悩み事に費やしてしまう。そして、精神が病んでいくのだ。

そう、自分自身で上手くコントロールできないものだ。個人差はあるのかも知れないが。

 

 

それなら、友達となるべく一緒に過ごして、会話と遊びに集中している方がいいだろう。

俺の場合、そうしている間に音夢への想いも溶けていくだろう。

 

時折、強く吹く風を受けながら、授業時間を待ち続けた。

 

 

……音夢。

ドアの音で振り向いたが、屋上に来るなんて珍しい事もあるんだな。

 

 

 

『どうした?』

 

『ここ最近、会う時間が少ないから。調子はどう?』

 

『………』

 

『………』

 

 

 

元気と言えば嘘になるし、ノイローゼになりそうと言ったら心配をかける。

空元気も出せず、何も言い出す事が出来ない。

 

音夢は何も言おうとせず、フェンスに背に持たれかけた。

俺も何も言わなかった。

 

無理に何かを言おうとしたら、俺は突拍子もない事を言い出しかねない。

今は無言を貫いた方が、お互いに一緒に居られる。

 

 

 

『音夢と一緒に居られる空間、何だか久しぶりだな』

 

『……私も』

 

『………』

 

『………』

 

 

 

動物の様に、人間にもテリトリーというものを持っているのではないだろうか。

自然、動物、特定の人を、自分のテリトリーの中に入ると効能をもたらす何かを覚える。

 

やっぱり、音夢が近くに来てくれると嬉しい。

 

 

 

『音夢はどうだ。調子は?』

 

『いいと思うの?』

 

『いや、何でもない。喋るのは止めるよ。その方が長く居られる』

 

『………』

 

 

 

……

 

 

 

~学校~

~桜公園:放課後~

 

 

 

いつものベンチが取られている……

俺の特等席を……、と思ったらことりが座っていた。

 

今日は、いつもの2人はいないようだ。

 

 

 

『悩み事?』

 

『あ、こんにちは。どういう挨拶ですか。別に悩みなんてないですよ』

 

『てっきり、俺の様になったかと』

 

『座ってただけです』

 

 

『そっか。隣座るよ』

 

『本っ当に、いつもここに来るんですね』

 

 

 

来慣れた場所は、やたらと落ち着くというか……

ここの除けば、他に行く場所もない。

 

時間がゆっくり過ぎていくのも、気に入っている。

人の往来は印象的でもある。特に、スーツケースを持って旅行に出かける人とか。

 

 

 

『……最近、分かってしまいました。憶測だけど』

 

『何を?』

 

『朝倉君の事です』

 

『ベンチに座りながら、時間の流れを待つからジジ臭いってこと?』

 

 

『違います。話は最後まで聞いて下さい』

 

『はい』

 

『あ、その前に携帯教えて』

 

『じゃあ、はいこれ』

 

 

 

……俺の携帯と全然違うな。

機種変更もロクにせず、ずっと使い続けているので銀色の部分は所々剥がれている。

 

携帯はメールか電話なので、余計な負担をかけないから故障もせず、5年間は長持ちしている。

 

 

 

『朝倉君の悩みは、ズバリ音夢さんの事でしょ?』

 

『…、……』

 

『……どうしたの?』

 

『苦しい……』

 

 

 

俺はあからさまに嫌な顔をして、胸を押さえた。

こうして休んでいる間は、わずかでも考えたくはない。

 

いつでも思い出したいが、思い出すと一気に胸が苦しくなる。

胸を押さえて、吐き気を堪えた。

 

 

 

『ごめん。大丈夫?』

 

『……ああ』

 

『………』

 

『………』

 

 

『本当に大丈夫?』

 

『うん、大丈夫』

 

 

 

今の自分にとっては、本当にデリケートな問題になってしまった。

学校の屋上では、無言状態になってようやく一緒に居られる様になった。

 

会話しようものなら、顔を合わせる度に、胸がジンジンと痛んでしまう。

こういうのって俺だけ……、なのか。

 

 

 

『俺、こんなだから……』

 

『こんなだから?』

 

『会ってると楽しくないよ』

 

『そんな事ありませんよ』

 

 

『今の、こんな俺でも?』

 

『はい。青春してていいじゃないですか』

 

『これが青春だったら、皆病んでいるぞ』

 

『本気で好きになっている事ですよ。今の朝倉君を見てると、素直に喜ぶものではないけど』

 

 

『………』

 

『羨ましいです。そこまで本気に好きになれるなんて』

 

『…、……』

 

『……音夢さんが羨ましいな』

 

 

 

逆に、今の俺は八方美人になれる方が羨ましい。

あれこれ、女を好きになれるのだから、一人相手にここまで好きにならないはず。

 

胸を押さえていると、心配そうに見てくる。

 

 

 

『だ、大丈夫ですよ。想いは通じますよ』

 

『そんな事ない。既に断られているんだし、兄妹だという事もあるし……』

 

『……もう、じゃあ、打ち明けているんですね』

 

『………』

 

 

 

告白までは言ってないと思ったのだろう。

驚いた様子だった。

 

感傷の限界を超えて、その場で嗚咽を堪えて泣いてしまう。

素直に、涙を出すと少しマシになれた。

 

 

 

『…、……。どうすればいいのか、わからない』

 

『……相当辛そうですね』

 

『…、……』

 

『大丈夫ですよ。大丈夫ですから……』

 

 

 

全然、具体的でない励ましだが、本気で励ましてくれていた。

ちょっとだけ楽になったが……

 

……ちょっと、遠くで思いっきり泣いてこよう。

俺は席を立って、桜公園の人気のない奥まで行く事にした。

 

 

 

『どこへ行くの?』

 

『ごめん、先に帰っててくれ。ちょっと一人になるよ』

 

『そんなんじゃ心配だよ。私も付いていきます』

 

『ちょ……、それは止めてくれ。本当に大丈夫だから』

 

 

 

思いっきり泣いて全てを発散したいのに、ことりが居たのでは恥ずかしくて出来ない。

案外、思いっきり泣くと、結構スッキリするので泣きたい時は、心済むまで泣いていたい。

 

 

 

『……大丈夫だから』

 

『………』

 

『ありがと、ことり。励ましてくれて』

 

『………』

 

 

 

……

 

 

 

桜公園の奥へ暫く歩くと、大木の様な桜の木に膝から崩れて、思いっきり泣いた。

これは自分だけなのか、自分だけなのかと問いかけてしまう。

 

 

 

『音夢、苦しいよ……』

 

 

 

誰か、アドバイスだけでもくれ。

 

どんなアドバイスでもいい。

どうすれば、この苦しみから逃れられるのか。

 

誰か……

 

 

 

……

 

 

 

~家~

~自室:夜~

 

 

 

『眠い……』

 

 

 

今日は、眠気がある間に寝よう。

最近は思った様に睡眠が取れず、寝不足が続いている。

 

夜になっても中々眠れないので、悩みの種だ。

アロマテラピーでも試してみようかな。ちょっと値段が高いが。

 

 

ん?

携帯が鳴っている。誰だろ……

 

 

 

『もしもし朝倉君?』

 

『ことりか。どうしたの』

 

『もう大丈夫なの?』

 

『ああ、あれか。大丈夫だよ』

 

 

『………』

 

『……大丈夫だよ。俺の出した話題が迂闊だった』

 

 

 

電話越しだと、相手の表情が分からないから何とも言えないが、ことりの心配の強さが伝わってくる。

いつもの口調ではなく、ちょっとした言葉の鋭さを感じる。

 

いつまでも、こんな調子ではいけないのは解るが……

けど、今の俺では……

 

 

 

『えっと、何か用?』

 

『明日、一緒に登校しようよ』

 

『一緒に……』

 

『この前話したでしょ。追いかけを止めさせてもらう事』

 

 

『ああ、あの彼氏のフリか』

 

『とにかく明日、7時には起きていてね』

 

『ん、俺の家が分かるの?』

 

『………』

 

 

『あれ、もしもし。聞こえてる?』

 

『聞こえてる。じゃあお休みなさい』

 

 

 

ありゃ、切られてしまった。

なんで、俺の家を知っているんだろう……

 

7時か……

最近は生活リズムなど無く、起床時間はランダムに近い。

 

眠くて起きられないのだけは避けないと。

今日はこのまま電気を消して、そのまま眠る事にした。

 

 

 

~家~

~自室:朝~

 

 

 

『………』

 

 

 

あんまり時間に余裕がない。

まだ眠いがとにかく朝食を食って、歯を磨いて顔を洗わないと。

 

頬を何度かビンタ並みに強く叩いて、目を覚まそうとした。

 

 

ご飯を2口ほど頬張り、つくだ煮を口にいれた。

その後、歯を磨いて、カバンの用意も整った。

 

念の為、家の外で待つか。

もしかしたら、俺の家を知らないのかも知れないし。

 

 

 

……

 

 

 

『お、おはよー。ひょっとして待った?』

 

『おはよー。今来たところだよ』

 

『良かった。待たせたと思った』

 

『大丈夫だよ過敏にならなくても。じゃあ行こっか』

 

 

 

……

 

 

 

~通学路~

 

 

 

通学の途中から、生徒から視線が止まなかった。

意外な視線、好奇心な視線、ショックで固まっている男……

 

ことりは手こそ繋がないものの、体を密着させてくるので、俺の方がドキドキしていた。

結構、積極的なんだろうか。

 

 

 

『今日も寒いですね』

 

『そうだね』

 

『でも天候は晴れてそうだから、贅沢は言えないかな』

 

『と思う』

 

 

『もうちょっと何か喋って下さいよ。さっきから私ばっかりですよ』

 

『ごめん。ドキドキがちょっとね……』

 

『解ってる。朝倉君の心臓の音が伝わって面白い』

 

『………』

 

 

 

俺はあがってしまって、ことりにペースを握られっぱなしだ。

正直、ここまでアプローチされるとは思わなかった。

 

何日か、登下校が必要と思っていたが……

今日一日で済みそうな感じがする。そればかりか、一日で噂が駆け巡る気がする。

 

 

 

『ことりはドキドキしないの?』

 

『朝倉君がそれだけドキドキしてくれたら、逆に面白いです』

 

『むむ……』

 

『学校に居る間に青春しないと。ね?』

 

 

『……だな』

 

『早く悩みが無くなるといいね』

 

 

 

ことりが励ましてくれているのが分かる。

世話になりっぱなしだ。有難い存在で感謝の言葉もない。

 

ことりの言う通り、悩むだけ悩んだら俺も青春していかないと。

 

 

 

『……ありがと、ことり』

 

 

 

お礼を言った後、俺もことりの方に体を傾けた。

学校に着くまで、少しだけ温もりに甘える事にした。

 

……これ、本当に心音が伝わってくるな。

それと、暖かい……

 

 

 

『ここまで密着したら、一日で恋人だと噂されそうだな』

 

『……ですね』

 

『追いかけの類いが解散するといいな』

 

『……です』

 

 

 

……ことりも照れ屋さんじゃないか。

まぁいいや、このまま学校まで行こう。

 

今は、ただの恋人のフリだったか。

しかし、フリであっても本物の恋人だと錯覚に陥る。

 

 

 

『うぅ、ことりに癒されるよぉ。ことりが傍に居ると、心が楽になる』

 

『そ、うなんです、か』

 

『だって、心が癒されていくし。手もギューっとさせて』

 

『…、ちょっと待ってほしいな』

 

 

『ギュー。やっぱり暖かいよぉ』

 

『……いきなり積極的です』

 

『暖かいー』

 

『……甘えん坊になってますよ』

 

 

 

ことりの手は外気に照らされ、冷えていた。

最初は俺しか手を握っていなかったが、向こうも握り返してくれている。

 

 

 

『ことりは。暖かくない?』

 

『別に。朝倉君のアプローチがぐいぐい来るから、よく分からない』

 

『暖かいよぉ』

 

『…、甘えん坊さんですね』

 

 

 

 

学校に着くまで、ずっと皆の生徒を感じていた。

しかし、恋人って早く作った方がいいものかもな。

 

時折、男が目を見開いて立ち止まるのが面白いが、複雑でもあった。

……どうか俺の様にはならないでほしい。

 

 

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