D.C. 〔3〕    作:消雪

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〔6〕

~学校~

~昼休み:食堂~

 

 

 

『それで話って?』

 

『………』

 

 

 

午前中の授業が終わった後、音夢が神妙な面持ちで聞きたい事があると言われたので、食堂で聞く事にした。

 

普段の俺は昼食を終えると、屋上で午後の始業時間まで風に当たっている。

そのせいか、人込みをやたら気にしてしまう。

 

 

 

『白河さんと付き合ってるの?』

 

『ああ、その事か。あまり大きな声では言えないが……』

 

『……付き合ってるの?』

 

『ちょっと小声で話したいから、隣座るぞ』

 

 

 

ことりが普通の学校生活を送りたいので、対案として、恋人のフリを行っている事を伝えた。

 

やっぱり、あれだけ体を密着させれば、どう見ても恋人同士に見られるのだろう。

俺はともかく、ことりは学園のアイドルの位置づけしているので、噂の広まり方も半端ではない。

 

 

 

『そうなんだ。それだけ?』

 

『それだけだ』

 

『なんだ、びっくりした……』

 

『……なんで、そこまで胸を撫で下ろすかな。音夢は俺を兄妹としか見てないんだから止めてくれ』

 

 

『私……、そこまでは……』

 

『じゃあな……』

 

『もう行くの?』

 

『……キツい。またすぐに恋愛に結び付けてしまう』

 

 

『………』

 

『すまない。じゃあ……』

 

 

 

……

 

 

 

食堂を出ると、後ろからみっくんに声をかけられた。

声と表情、妙に元気な部分が目立つ。

 

 

 

『朝倉君じゃないですかー』

 

『ああ。どうした』

 

『ああじゃないでしょ。今朝見ましたよ』

 

『………』

 

 

 

今にして思うと、ちょっと恥ずかしいな。

俺はというと、ことりの手の暖かさに甘えていて、ずっと手が暖かいとばかり言っていた。

 

 

 

『朝倉君は甘えん坊なんですね』

 

『そんな事は……』

 

『ないんですか。ずっとことりに寄りかかっていたくせに』

 

『イロイロあって、暖かさに触れていたかったと言うか……』

 

 

『でも、意外だったな。ことりも嫌がる素振りがなかったし』

 

『……今にして思うと、ちょっとアプローチが行き過ぎたか?』

 

『ちょっとね。ことりの顔も赤かったし』

 

『…、それって怒りすぎて赤かったって事?』

 

 

『そういう意味じゃないよ。恥ずかしがってたの。朝倉君の意外な一面が見れたって笑ってたよ』

 

『そ、っか、びっくりした。それならいいんだ』

 

『……やっぱり朝倉君と一緒に居てると違うの。また一緒に登校してあげて下さい』

 

『ああ、また機会があれば。いつでも』

 

 

『それと、また甘えている所を見せて下さい』

 

『それは無理だ』

 

『暖かいよーって言って下さいね』

 

『無理だって』

 

 

 

~学校~

~廊下:昼休み~

 

 

 

屋上で階段を歩いている時だった。

学校の放送で俺が呼ばれたので、歩く方向を変えて化学室へと向かった。

 

先生も誰だったか、あまり記憶にない。

……自分がよほど、授業を適当に受けてきたか解ってしまう。

 

とりあえず、ドアを軽くノックした。

ドアが開くと、俺を厳しい目で見てくる。

 

 

 

『何か用ですか?』

 

『………』

 

『先生?』

 

『ま、入ってその辺に腰を下ろしてくれ』

 

 

 

話がすぐ終わる訳ではなさそうだ。

込み入った話になりそうで、座る前から思いやられる。

 

このまま屋上を走り去ったら、やっぱり怒るだろうな……

とりあえず、その辺のイスに座る事にした。

 

 

 

『それで何ですか?』

 

『ちょっとした噂を聞いてな。生徒の間ではちょっとどころか、大きすぎるな』

 

 

 

噂……、それで何の話か一瞬で分かった。

だが、なぜこの先生が他人のプライベートに口出しするのか分からない。

 

 

 

『朝倉はことりと付き合ってるのか?』

 

『えっ?』

 

『だから付き合ってるのか?』

 

『………』

 

 

 

相変わらず、俺への視線は厳しかった。

だが、この先生、なぜことりを白河で呼ばないのか分からない。

 

知り合いなのかと憶測して、答える事にした……、が。

さすがに、事情を話すのは難しい。

 

何とか、無難に答える事にした。

 

 

 

『まぁ、ボチボチ』

 

『解らん。どっちだ?』

 

『人のプライベートにそこまで突っ込まれても……』

 

『妹の彼氏の気持ちを、本気か確かめたらダメなのか?』

 

 

『い、妹?じゃあ先生とことりは姉妹?』

 

『……いくらボーっとしていても、私の名前が分からない事はないよな?』

 

『も、勿論です。……し、白河先生ですよね』

 

『もういい。で、どうなんだ?』

 

 

 

これは困った。

先生が本気で尋ねる訳だ。

 

しかし、どう言えばいいのか分からない。

最終的には、ありのままを話すしかない訳だが……

 

 

 

『やっほ』

 

 

 

突然、ドアが開いたと思ったらことりも来た。

空気の張り詰めた部屋が、一気に柔らかくなる。

 

 

 

『なんでお姉ちゃんに呼ばれたのですか?』

 

『……全然、似てない』

 

 

『うるさい。で、本気で付き合ってるのか?』

 

 

 

ことりにまで会話内容が伝わったし……

どうしよう、この場合はことりに任せた方が無難の様な気がする。

 

タイミングがいいのか、ことりはご機嫌の様だし。

 

 

 

『そういう話だったんだ』

 

『どう答えていいかな』

 

『朝倉君に一任します』

 

『もう……』

 

 

 

頼みの綱にしていたのが甘かったか……

この場合、恋人のフリをしていたと言うだけでいいんだから、深く考えても仕方ない。

 

それに、実の姉なんだから、妹を心配するのは当然の事だし。

 

 

 

『それで、付き合ってるのか?』

 

『先にはっきり言っておきますが、今回のは恋人の……』

 

 

『朝倉君、違うでしょ』

 

 

『……何が?』

 

『質問に、答えて』

 

 

 

照れながら言った。

質問に答えてと言われても、言われても言われても……

 

…………それは、どういう、意味が。

頭が真っ白になりながら考えた。

 

まだ会った回数は数えるくらいだし……

けど、けど……

 

 

 

『朝倉、いつまで待たせる気だ』

 

『…、……』

 

 

『………』

 

 

 

もういい、ことりの期待通りに言うしかない。

俺は口を手で押さえながら、言う事にした。

 

恥ずかしくなると、なぜか口を押さえてしまう。

 

 

 

『こ、ことり、と、つ、付き、合って、ます』

 

『ロボットかお前は。もう一回』

 

『付き合ってます。ことりと!』

 

『……しかし、友達になったのは間もないはずだが。一体いつの間にそこまで進展があったんだ』

 

 

 

そこは、俺も気になっていた。

最初から、ずっと好印象で、一気に恋人にまで進展した。

 

そういうのもあるのか。それとも以前から気になっていたとか……

 

まさか、ことりという名前なのは、鳥が持つ「刷り込み」でも持っていたのか。

いや違う。違うはず。

 

俺はもう答えたので、今度はことりに尋ねるのを待った。

 

 

 

『今度はことりに質問するが、朝倉と本当に付き合ってるのか?』

 

『今はいい人とだけ言っておく』

 

『ことり』

 

『いい人だって。お姉ちゃんが心配する事はないから』

 

 

 

そう言うと、部屋を出て行った。

……俺には二者択一させておいて、ことりはそれだけか。

 

それより、俺もそろそろこの部屋から出たい。

 

 

 

『俺もそろそろ戻りますね』

 

『ああ。それと朝倉』

 

『はい』

 

『あの子を悲しませる事だけはしないでくれ』

 

 

『勿論です。当たり前です』

 

『……安心した。そっちは力強く言えるんだな』

 

『では、失礼します』

 

『ああ、くれぐれも授業に遅れるなよ』

 

 

 

先生の発言を背に、自分は部屋を出た。

さすがに、もう屋上で休んでいる時間はない。すぐに教室に戻らないといけない。

 

しかし驚いた。

あの人がことりの姉に当たるとは……

 

 

 

~桜公園~

~放課後~

 

 

 

なぜか、誰かが居るのを期待してしまう俺がいる……

けど、今日は俺一人になりそうだ。

 

あるいは、後で来る人が居るだろうか。

 

 

 

『………』

 

 

 

人の精神的なバランスを保つというのは、本当に難しい事だと思う。

自分自身の問題ですら困難な時がある。

 

今の俺がそうだし……

 

更に、外部からの干渉や障害が出始めたら、精神的なバランスを保つのは一気に厳しくなる。

特に、若い今は本当に精神の傷が付きやすく、逃げる事で精一杯で……

 

救いの手を期待してしまう。

男の俺であってもそうだし、女の子であるなら特に……

 

 

 

……

 

 

 

あれ、今日はみっくんだけか。

ともちゃんと一緒に居ないなんて珍しい。

 

 

 

『いつもここだね。飽きないんですね』

 

『こんちわ。今日はみっくんだけ?ともちゃんは』

 

『さすがにいつも一緒じゃないですよ』

 

『そっか。隣座る?』

 

 

 

一言も礼を言わず、俺の隣に座る。

ズケズケした行動や態度を感じるが、別に悪い気がしない。

 

いい意味で言うと、この人は知っているから遠慮はしないという感じだ。

 

 

 

『ちょっと聞きたいんだけど、ことりと付き合ってるの?』

 

『……さすがに、その事はことりから聞いていると思うけど』

 

『それは解ってるの。でもことり、本当に朝倉君の事が……』

 

『俺と付き合った所で、先ず、釣り合わないだろう』

 

 

『そんな事ないですよ。……まぁその通りだけど』

 

『悪かったな。その通りで』

 

『怒んないでよ。朝倉君もそう思っているんだから』

 

『……それも、そうか』

 

 

 

みっくんと会話をしていて分かったが、ともちゃんも色々と悩み事があるようだ。

俺ほどの重度なケースではないと思うが、多感な時期だから、何とか最低限の心の傷で前へ進んでくれる事を祈りたい。

 

悩み事は尽きる事はない。

そう考えると、相談できるポケットは多ければ多いほどいい。

 

所詮、俺もまだまだ若いから一人で考え抜いても限界があるのかも知れない。

それよりは、親身になって相談できる友達と一緒に付き合った方がいいのだと思う。

 

 

 

『私、そろそろ帰りますね』

 

『ああ。女の子なんだし、明るいうちに帰った方がいい』

 

『大丈夫ですよ。この辺りは物騒な場所じゃないし』

 

『……みっくん』

 

 

 

俺は立ち上がって表情を一切崩さず、真顔で見据えた。

みっくんも何かと、驚いているようだ。

 

 

 

『な、何?』

 

『その油断はいけない。それが危険に繋がるかも知れない。いつでも毅然と冷静を保って』

 

『そう、ですか』

 

『わりぃな。これは危ないと思ったら、本気で注意するんで』

 

 

『……分かりました。気を付けて帰ります。朝倉君も男だからといって過信せずに、そろそろ帰ってね』

 

『そう、だな。言っている本人が、これじゃ示しがつかないな』

 

『じゃあね』

 

『じゃあ、また』

 

 

 

……さすがに、家を避けすぎている。

例え、自分の想いを捨てきれないと言っても、やはり家には居ててあげないといけない。

 

家の防犯の事もあるし、いつまで距離を置いていては音夢がかわいそうだ。

どうしても、ツライ時はまたここに来てもいいだろう。

 

 

 

~家~

~リビングルーム:夜~

 

 

 

久しぶりに、音夢と寝るまでの休息の時間を満喫している。

てっきり、一緒に居たら避けられると思ったが……

 

……俺はと言えば、わだかまりの様なものが心に残り、何かが葛藤し合っている。

まだまだ治りそうにない、みたいだ……

 

 

 

『久しぶりにこうやって過ごすな……』

 

『………』

 

『今まで、ごめん……』

 

『………』

 

 

 

リモコンを手に取って、ボリュームを下げた。

しかし、長い会話になっても全部聞いてあげなければいけない。

 

元はと言えば、俺の一方的な想いが原因なんだから。

 

 

 

『私、兄さんほど素直に言えない……』

 

『………』

 

『お願い。心の叫びを聞き取って』

 

『………』

 

 

 

どこか抽象的で、どこに本心があるのか言ってもらわないとわからない。

俺が好きなのか、単に寂しいだけなのか。それとも、好きではないのか……

 

単に、兄妹としての関係が一番好きなのか……

 

 

 

『音夢、それは言わないと分からない。心の叫びでは聞こえない』

 

『………』

 

『分かった。例え、……好きだと分かっても兄妹の仲を守る』

 

『………』

 

 

 

止めた方がいいかな……

 

音夢にとっては酷なだけだ。

それに、このままだと時間が過ぎて深夜になってしまう。

 

口なんて喋るだけで簡単なんだが、恋愛における最初の「好き」を言うには、すごく勇気が必要になる。

俺は素直に言う方だが、それでも殆ど金縛りにあったみたいに口を閉じてしまう。

 

 

 

『音夢?』

 

『………』

 

 

 

これはマズイ。

音夢が泣きそうになっているので、俺は慌てて音夢を抱きしめた。

 

卑怯な手だが、この状態では思う様に泣けない。

とにかく、赤子をあやす様に背中を撫でたり、肩を抱きしめた。

 

 

 

『悪い。パンクさせかけたな。この話はこれで終わりにする。約束するよ』

 

『……ごめんね』

 

『全て俺が悪いんだから……。謝る必要はない』

 

『………』

 

 

『さ。ね、寝るか』

 

『もうちょっとだけ、このまま……』

 

『……オッケー』

 

『……ありがと。兄さん』

 

 

 

ずっと、ずっと側に居てくれたらいいのに……

 

もしかしたら、これが音夢との一生の思い出になるのかも知れない。

 

音夢に愛情を抱いて、好きになって、答えが見えないままだが、最後に抱きしめる事ができた。

……たったこれだけなんて足りなすぎるが、今のわずかな時間を一生の思い出に変えるくらいしか思いつかない。

 

 

 

『あたたかいな』

 

『ホントだね』

 

『………』

 

『………』

 

 

 

久しぶりに笑顔で交し合ったな、今。

俺もすぐに気づいたが、音夢も同じみたいだ。

 

……今まで恋愛という概念にこだわり過ぎていたのだろうか。

音夢に好きか、そうでないのかとこだわっていたのだろうか。

 

 

今、こうしてお互いに大切な人だと確認し合うと、恋愛か友情かをこだわるのがバカらしくなる。

無理に答えを探そうとしていたのが、間違いだったな……

 

音夢は俺を大切に想ってくれている。

今は……、それでいい。

 

 

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