~海岸沿い~
~休日~
音夢が久しぶりに、一緒に海を見たいというので海岸沿いを歩いていた。
昔に比べると、少し汚れた気もする。潮の香も微妙に変わった。
しかし、何年も形が変わらず保ち続けているのは、この海岸くらいだ。
人も建物も、慌ただしく形を変えていく。
今まで通っていた場所がなくなると、まるで人がいなくなった様に寂しくなる。
『なつかしいね。この場所でこうやって二人で過ごすの』
『そうだな。しかし、ここは全然変わらないな』
『思い出の場所、そのままだね』
『人も形が変わらず、そのままの状態を保ち続ける事ができたらいいのにな』
『そうだね……』
『わりぃ。しんみりしたな』
『こういうしんみりは割りと好き。形が変わらずか。それって人間関係も?』
『そうだな。いつまでも居てほしい妹だけど……』
『……難しいね』
『難しいな』
穏やかな波の音のせいか、音夢とぼんやりした時間が流れる。
俺も喋ろうとしなければ、音夢からも喋ろうとしない。
たまに、顔を向け合うと、お互いに笑顔だけを交わす。
そして、また海に視線を戻す。
『ねぇ、兄さん?』
『どうした』
『ちょっと言いづらい事を言うけど……』
『言いづらい事?』
『白河さんの事です』
『ことり?』
『……付き合わないの?』
『………』
音夢に恋してから、自分の純愛ぶりに辟易していた。
一体、音夢の気持ちをどこで区切って、納得していいのか分からない。
……自分は相手を好きになる事を恐れて、すぐに気持ちを引き返す様になってしまった。
すぐに、引き返す分には好きになる事もないから、その相手に対して一切の苦痛を生まない。
誰かを好きになる事を恐れるのは、恋愛恐怖症とでも言うのだろうか……
『白河さんは人の気持ちをよく理解してくれる人だから』
『…、それは分かるな』
『でしょ?』
『………』
『私は、兄さんにピッタリだと思う』
『………』
お前と比べてどっちがピッタリだ?と言いたかったが、またややこしくなるので口を閉じた。
今になって思うが、人を好きになるのは大変な事かも知れない。
大変な事なのに、最終的には友達か恋人か二者択一を迫られ、決断しないといけないんだ。
時間の流れと共にどちらかが、あるいは二人が変わっていく中で、付き合う事をキープするのは容易ではない。
恋人と決めてしまう事が、本当にいい事なのか分からなくなる。
火種か争いの始まりの様に思えてならない。
独占欲になるのか分からないが、やはり特別な関係を夢見て、恋人関係を作るのだろう。
『私たち、兄妹で生まれたのは失敗だったね』
『そうかもな。でも、おかげで子供の頃からずっと居られたんだし』
『やっぱり難しいね』
『難しいな』
海原の景色に見とれて、会話に集中していると、時間はあっという間に流れるもので、いつの間にか夕暮れになっている。
夕暮れの海は美しいというが、本当にその通りだ。
オレンジ色の空が果てしなく、いつまでも綺麗だった。
また、一緒にこの海の姿が見る事が出来ればいいな。
『また、見に来ようか』
『うん、絶対』
太陽が沈むと、空や海がやたらと青く、黒くなっていき何とも言い難い感覚を感じる。
終わりの見えない黒というか、終わりのない深さと言えばいいのか。
ホラーとは全く別の怖さを感じていた。
名残惜しいが、時間もあるので家に帰る事にした。
……自分のそばに大切な人が居ると、やっぱり心地よさが全然違うな。
……
…
~通学路:朝~
音夢と一緒に登校するのも、少し間が空いたな。
こうやって登校するだけでも、気分が全然違うのが分かる。
人は、やっぱり人が一番大切だ。
心から沸き起こる、力やオーラの出方が違ってくる。
『登校も久しぶりに一緒だね』
『そう、だな』
『どうしたの?』
『いや、何でもない』
嬉しさが隠しきれなくて、少し照れていた。
人は、好きであっても嫌いであっても、最終的には大切な人か?を問われて、相手を選ぶのだと思った。
感情での行動は、ひと時の満足であって、過ち以外の何物でもない。
『兄さん、見て見て』
『…、ことり?』
俺の知らない女の子と一緒に登校していた。
ことりは、気さくで誰にでも話しに行くから、友達も出来やすいのだろう。
俺は歩きながら、その様子を見る事にした。
……他の女の子と比較すると、やっぱり背は高く見えるな。
『声かけないの?』
『いや、会話してるだろ』
『じゃあ挨拶だけ』
『オッケー』
ことりと目が合うと、驚いた様に見えたが、すぐに笑顔を返しながら挨拶をしてくれた。
しかし、その後の動作が、やけにぎこちなく見えた。
『やっぱり、私ちゃんと挨拶してくる』
音夢は小走りで、ことりの方へと駆けていった。
音夢の様子が気になったので、ことりの方へと走った。
途中、さっきまで話していた女の子が離れた。
何かあったとは思えないが……
『おはよ。あの子は?』
『先に行っちゃったみたいです』
『行っちゃったみたいって、なんで?』
『用事があるからって』
何となく、お茶を濁す様な返し方だったので、余計に気になった。
さっきまでの笑顔はなく、やたらと落ち着きがない。
『ことり、違うの。私、もうすぐ……、だから今日は最後の……』
『……もしかして、まだ言ってないの?』
『……うん』
『倒れちゃうよ。それは……』
……話が全く見えない。
嫌な予感が拭えなかったが、全く分からない事をいちいち予測を立てても仕方がない。
音夢とことりって、内緒話が出来るほどの仲だったのだろうか。
しかし、今まで散々悩んでいたせいか、考える事自体、体が拒否している。
これ以上、ややこしい話を聞きたくないので、挨拶を軽くして先に学校へと行った。
何だか悪い気もしたが、このままだと頭が変になる。
~桜公園~
~放課後~
音夢はことりと話してから、やけに元気を喪失してしまっている。
普段の俺だと、気になって話を聞きに行っているが、今はその余裕がない。
体も精神も、疲れ切っていたので、ややこしい話そのものが拒否反応を起こしている。
音夢自身も、喧嘩ではないと言ったので、敢えて深くは聞こうとしなかった。
肩のこった体をほぐしていると、遠くからことりが歩いてきた。
ここは待ち合わせポイントになってきたな。
『やっほ』
『ちょうどいい所に』
『何ですか?』
『今朝のあれは何だったの?』
『それは……、終わった話だから』
『そっか。じゃあいいか』
『あれ、あっさりですね』
『今は難しい話は拒否反応が出るから』
『……隣座っていい?』
『もちろん』
ちょっとした違和感を感じる……
それは微かで、何か引っかかるだけが……
何とか、拒否反応を抵抗しようとしたが、やっぱりダメだった。
体が休め休めと言って、精神的に来るものは何も聞けない。
『朝倉君って、結構悩む事が多いの?』
『そうだと思う。今までのは特に』
『もしもだけど、もしまた悩む事があれば……』
『あれば?』
『一人で悩まず、私を頼ってね』
『………』
ふわっと優しい感覚を覚えた……
けど、それとは別に、何かを予期している様にも感じ取れた。
しかし、気恥ずかしい気もするので、適当にお茶を濁した。
『ありがと。恋愛以外の事なら何でも相談するよ』
『ダメ。何でも相談に乗るから』
『……それは、これから俺が悩みに直面するのか?』
『備えあれば憂いなしだから』
よく解らないが、やけに強く言うので素直に頷いた。
音夢の事もある程度片付いたので、今の所相談する事もない。
もし、これから悩み事が出てくるとしても、今の様に見ざる聞かざるを貫けばいい。
思考さえ働かせなければ、とりあえずは大丈夫なはず。
『約束だからね』
『ああ』
……
…