D.C. 〔3〕    作:消雪

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〔7〕

~海岸沿い~

~休日~

 

 

 

音夢が久しぶりに、一緒に海を見たいというので海岸沿いを歩いていた。

昔に比べると、少し汚れた気もする。潮の香も微妙に変わった。

 

しかし、何年も形が変わらず保ち続けているのは、この海岸くらいだ。

人も建物も、慌ただしく形を変えていく。

 

今まで通っていた場所がなくなると、まるで人がいなくなった様に寂しくなる。

 

 

 

『なつかしいね。この場所でこうやって二人で過ごすの』

 

『そうだな。しかし、ここは全然変わらないな』

 

『思い出の場所、そのままだね』

 

『人も形が変わらず、そのままの状態を保ち続ける事ができたらいいのにな』

 

 

『そうだね……』

 

『わりぃ。しんみりしたな』

 

『こういうしんみりは割りと好き。形が変わらずか。それって人間関係も?』

 

『そうだな。いつまでも居てほしい妹だけど……』

 

 

『……難しいね』

 

『難しいな』

 

 

 

穏やかな波の音のせいか、音夢とぼんやりした時間が流れる。

俺も喋ろうとしなければ、音夢からも喋ろうとしない。

 

たまに、顔を向け合うと、お互いに笑顔だけを交わす。

そして、また海に視線を戻す。

 

 

 

『ねぇ、兄さん?』

 

『どうした』

 

『ちょっと言いづらい事を言うけど……』

 

『言いづらい事?』

 

 

『白河さんの事です』

 

『ことり?』

 

『……付き合わないの?』

 

『………』

 

 

 

音夢に恋してから、自分の純愛ぶりに辟易していた。

一体、音夢の気持ちをどこで区切って、納得していいのか分からない。

 

……自分は相手を好きになる事を恐れて、すぐに気持ちを引き返す様になってしまった。

すぐに、引き返す分には好きになる事もないから、その相手に対して一切の苦痛を生まない。

 

誰かを好きになる事を恐れるのは、恋愛恐怖症とでも言うのだろうか……

 

 

 

『白河さんは人の気持ちをよく理解してくれる人だから』

 

『…、それは分かるな』

 

『でしょ?』

 

『………』

 

 

『私は、兄さんにピッタリだと思う』

 

『………』

 

 

 

お前と比べてどっちがピッタリだ?と言いたかったが、またややこしくなるので口を閉じた。

今になって思うが、人を好きになるのは大変な事かも知れない。

 

大変な事なのに、最終的には友達か恋人か二者択一を迫られ、決断しないといけないんだ。

時間の流れと共にどちらかが、あるいは二人が変わっていく中で、付き合う事をキープするのは容易ではない。

 

 

恋人と決めてしまう事が、本当にいい事なのか分からなくなる。

火種か争いの始まりの様に思えてならない。

 

独占欲になるのか分からないが、やはり特別な関係を夢見て、恋人関係を作るのだろう。

 

 

 

『私たち、兄妹で生まれたのは失敗だったね』

 

『そうかもな。でも、おかげで子供の頃からずっと居られたんだし』

 

『やっぱり難しいね』

 

『難しいな』

 

 

 

海原の景色に見とれて、会話に集中していると、時間はあっという間に流れるもので、いつの間にか夕暮れになっている。

夕暮れの海は美しいというが、本当にその通りだ。

 

オレンジ色の空が果てしなく、いつまでも綺麗だった。

また、一緒にこの海の姿が見る事が出来ればいいな。

 

 

 

『また、見に来ようか』

 

『うん、絶対』

 

 

 

太陽が沈むと、空や海がやたらと青く、黒くなっていき何とも言い難い感覚を感じる。

終わりの見えない黒というか、終わりのない深さと言えばいいのか。

 

ホラーとは全く別の怖さを感じていた。

 

名残惜しいが、時間もあるので家に帰る事にした。

……自分のそばに大切な人が居ると、やっぱり心地よさが全然違うな。

 

 

 

……

 

 

 

 

~通学路:朝~

 

 

 

音夢と一緒に登校するのも、少し間が空いたな。

こうやって登校するだけでも、気分が全然違うのが分かる。

 

人は、やっぱり人が一番大切だ。

心から沸き起こる、力やオーラの出方が違ってくる。

 

 

 

『登校も久しぶりに一緒だね』

 

『そう、だな』

 

『どうしたの?』

 

『いや、何でもない』

 

 

 

嬉しさが隠しきれなくて、少し照れていた。

人は、好きであっても嫌いであっても、最終的には大切な人か?を問われて、相手を選ぶのだと思った。

 

感情での行動は、ひと時の満足であって、過ち以外の何物でもない。

 

 

 

『兄さん、見て見て』

 

『…、ことり?』

 

 

 

俺の知らない女の子と一緒に登校していた。

ことりは、気さくで誰にでも話しに行くから、友達も出来やすいのだろう。

 

俺は歩きながら、その様子を見る事にした。

……他の女の子と比較すると、やっぱり背は高く見えるな。

 

 

 

『声かけないの?』

 

『いや、会話してるだろ』

 

『じゃあ挨拶だけ』

 

『オッケー』

 

 

 

ことりと目が合うと、驚いた様に見えたが、すぐに笑顔を返しながら挨拶をしてくれた。

しかし、その後の動作が、やけにぎこちなく見えた。

 

 

 

『やっぱり、私ちゃんと挨拶してくる』

 

 

 

音夢は小走りで、ことりの方へと駆けていった。

音夢の様子が気になったので、ことりの方へと走った。

 

途中、さっきまで話していた女の子が離れた。

何かあったとは思えないが……

 

 

 

『おはよ。あの子は?』

 

『先に行っちゃったみたいです』

 

『行っちゃったみたいって、なんで?』

 

『用事があるからって』

 

 

 

何となく、お茶を濁す様な返し方だったので、余計に気になった。

さっきまでの笑顔はなく、やたらと落ち着きがない。

 

 

 

『ことり、違うの。私、もうすぐ……、だから今日は最後の……』

 

『……もしかして、まだ言ってないの?』

 

『……うん』

 

『倒れちゃうよ。それは……』

 

 

 

……話が全く見えない。

嫌な予感が拭えなかったが、全く分からない事をいちいち予測を立てても仕方がない。

 

音夢とことりって、内緒話が出来るほどの仲だったのだろうか。

しかし、今まで散々悩んでいたせいか、考える事自体、体が拒否している。

 

 

これ以上、ややこしい話を聞きたくないので、挨拶を軽くして先に学校へと行った。

何だか悪い気もしたが、このままだと頭が変になる。

 

 

 

~桜公園~

~放課後~

 

 

 

音夢はことりと話してから、やけに元気を喪失してしまっている。

普段の俺だと、気になって話を聞きに行っているが、今はその余裕がない。

 

体も精神も、疲れ切っていたので、ややこしい話そのものが拒否反応を起こしている。

音夢自身も、喧嘩ではないと言ったので、敢えて深くは聞こうとしなかった。

 

 

肩のこった体をほぐしていると、遠くからことりが歩いてきた。

ここは待ち合わせポイントになってきたな。

 

 

 

『やっほ』

 

『ちょうどいい所に』

 

『何ですか?』

 

『今朝のあれは何だったの?』

 

 

『それは……、終わった話だから』

 

『そっか。じゃあいいか』

 

『あれ、あっさりですね』

 

『今は難しい話は拒否反応が出るから』

 

 

『……隣座っていい?』

 

『もちろん』

 

 

 

ちょっとした違和感を感じる……

それは微かで、何か引っかかるだけが……

 

何とか、拒否反応を抵抗しようとしたが、やっぱりダメだった。

体が休め休めと言って、精神的に来るものは何も聞けない。

 

 

 

『朝倉君って、結構悩む事が多いの?』

 

『そうだと思う。今までのは特に』

 

『もしもだけど、もしまた悩む事があれば……』

 

『あれば?』

 

 

『一人で悩まず、私を頼ってね』

 

『………』

 

 

 

ふわっと優しい感覚を覚えた……

けど、それとは別に、何かを予期している様にも感じ取れた。

 

しかし、気恥ずかしい気もするので、適当にお茶を濁した。

 

 

 

『ありがと。恋愛以外の事なら何でも相談するよ』

 

『ダメ。何でも相談に乗るから』

 

『……それは、これから俺が悩みに直面するのか?』

 

『備えあれば憂いなしだから』

 

 

 

よく解らないが、やけに強く言うので素直に頷いた。

音夢の事もある程度片付いたので、今の所相談する事もない。

 

もし、これから悩み事が出てくるとしても、今の様に見ざる聞かざるを貫けばいい。

思考さえ働かせなければ、とりあえずは大丈夫なはず。

 

 

 

『約束だからね』

 

『ああ』

 

 

 

……

 

 

 

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