D.C. 〔3〕    作:消雪

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〔8〕

~学校~

~教室:昼休み~

 

 

 

食堂から教室に真っ直ぐ戻るのは、久しぶりになる。

一人に慣れ過ぎたせいか、教室がやたらと騒がしい気がしてならない。

 

少し見ない間に、クラスメイトで意外なコンビが出来ている。

……あいつら、仲が良かったかな。

 

 

そいつらも、俺を物珍しい目で見ている。

何せ、今までずっと屋上に居たので、あれ?という感じがあるのだろう。

 

眞子もその一人のようだ。

 

 

 

『珍しいわね。いつも屋上なのに』

 

『色々悩みがあったが、一段落してな』

 

『そうなんだ。それは何よりね』

 

『音夢は?』

 

 

『兄妹は似るというけどその通りね。音夢も兄さんは?ってなるし』

 

『…、そっか』

 

『白河さんと一緒だったよ』

 

『そうなんだ。最近はよく会うのかな』

 

 

『結構、前から知り合いだったと思うよ。会話ぶりからして、いい友達みたいね』

 

『そう、なんだ』

 

 

 

結構、前から……

 

そんな話は聞いた事がない。

また、そんな場面は一度も出くわした事がないので、余計に気になった。

 

音夢も、頭を軽く下げる程度の挨拶なら……、と言っていたのを覚えてる。

そうなると、どちらかが全く違う事を言っている……

 

 

 

『だ、い、た、い、でいいんだけど、結構前っていつ位から?』

 

『なんで片言になるの?大体半年前くらいかな』

 

『仲がいい事はいい事だ』

 

『……そんな難しい顔しながら言われてもね。あ、ほら戻ってきたよ』

 

 

 

音夢がドアを閉じる姿が目に入る。

一段落終えたはずなのに、またもモヤモヤが体中に広がっていく。

 

いやいや、絶対に違う。

絶対に大した事ではないはず。俺が聞く様な話ではないはず。

 

また、モヤモヤが続くのかと思うと、何も考える気になれず敢えてこの事は聞かなかった事にした。

 

 

 

『今日は教室なんですね』

 

『ああ。とりあえずな』

 

『どうかしたの?難しい顔して』

 

『そうか。いつも通りだぞ』

 

 

『………』

 

『………』

 

 

 

早速、感づかれた……

俺としては感づかれまいと、頑張ったが裏目に出たようだ。

 

俺と今まで話していた相手、眞子に視線を向けた。

 

 

 

『眞子、兄さんと何を話してたの?』

 

『さっき、白河さんがあんたを尋ねてきた事だよ』

 

『それだけ?』

 

『半年前からの知り合いって事も』

 

 

 

俺は見たくなかったが、眞子がその発言をした時、音夢の表情が変わるか注意深くみた。

……注意深く見るまでもなかった。

 

目を大きく見開いて、マズい事を聞かれたという様子だった。

……いや、女の子同士の会話だ。あんまり大っぴらにしたくないだけだろう。

 

 

俺は二人を無視して、席に着いた。

これ以上、精神的にくる話を聞いていたら、しんどさのあまり頭がおかしくなってくる。

 

 

 

……

 

 

 

~家~

~夕ご飯前~

 

 

 

聞いてはいけないと思いながらも、心の中ではすっきりしたくて仕方がなかった。

ご飯前に、わずかでもいいから話を聞いた。

 

音夢は、悪く取らないでねという前置きから、話が始まった。

一体どういう話が始まるのか、聞く前からしんどくなっている。

 

 

 

『絶対に内緒にしてね。そうでないと話せない』

 

『女の子のプライベートに頭を突っ込み気はない。何の話かだけでいい』

 

『……それが内緒の話になるから』

 

『……分かった。内緒にするよ』

 

 

『白河さんとは、知り合って7カ月くらいになるかな。いきなりアイドルみたいな人に挨拶されて慌てたけど』

 

『それで?』

 

『……兄さんの事をよく聞きたがるの』

 

『………』

 

 

『好きな食べ物とか、趣味とか、好きな人とか……』

 

『………』

 

『すぐにピンときた。女の子同士だからすぐに分かってしまうんです』

 

 

 

それで最初からあれだけ好印象だったのか。

モテるような事は、何もしていないだけに、俺の事を最初から好きだったとか考えた事もなかった。

 

俺はこれ以上は聞いてはいけないと思い、すぐに手で制止した。

 

もう分かったから、これ以上は言わなくていいと。

けど、音夢はまだ話があると言い、話を続けた。

 

 

 

『私自身、兄さんへの想いを止めるいいキッカケだと思って……』

 

『ちょっと待て!なぜ、なぜ何も言わなかった……』

 

『だって、その時はまだ兄さんの気持ちなんて知らなかったし。当時の私も兄に告白なんて……』

 

『…、……』

 

 

『まだ話があるんだけど、……聞く?』

 

『聞くしかないだろ』

 

『兄さんにとって酷な話になるけど……』

 

『…、構わない』

 

 

『私、看護学校に行くの。島を離れて……』

 

『そ、そうなのか』

 

『うん』

 

『……それのどこが酷な話になるんだ?寂しくはなるが、学校の卒業後は皆、別れと出会いの始まりだろ』

 

 

『……学校の卒業後じゃなく、もうじき』

 

『……もうじきって、いつだ?』

 

『………』

 

『………』

 

 

 

なんで、こんな大事な事が勝手に話が進んでいるのか全く分からない。

黙ってやる事ではないはずだ。

 

……だが日取りが決まっているなら、俺が何を言っても無駄な事だけは分かった。

同時に、この苦しみの暗黒が続くのも理解してしまい、軽く目まいを感じる。

 

 

人生は試練だというのは解るが、ここまで連続で来られたら対応しようがない。

 

……昨日、お互いに大切な存在だと再確認したのは、一体何だったのだろう。

俺にとっては、水中から水面に向かって、わずかに呼吸しただけなのか……

 

 

 

『いつだ!!!!』

 

『よ、4日後』

 

『……そんなに早くか』

 

『……ごめんなさい』

 

 

 

一体、何がどうなっているのか分からない。

今は睡眠中で、悪夢でも始まったのか。

 

うっかりのレベルではない。

ほとんどイタズラの様な行動で、わざととしか思えない。

その場に居るのが耐えられず、俺はそのまま自分の部屋に戻るしかなかった。

 

 

 

『………』

 

 

 

衝動的のまま、2千円程度の入っている財布を取り出すと、家を飛び出した。

 

 

 

……

 

 

 

~桜公園~

~夜~

 

 

 

こんなマズい物を大人は飲んでいるのか。

ジュースを買うべきだった。

 

ドラマでは定番であり、世の大人たちがストレスから逃れる為の飲み物……

アルコールを一気飲みして、桜公園のベンチで寝ていた。

 

 

気持ちは空回り、相手は勝手に居なくなるという。

こんなバカな事があってたまるか。

 

酒を何度も強引に飲み、五臓六腑を焼き尽くす。

後から、顔が熱くなり、意識がボーっとし始める。

 

 

 

……

 

 

 

『朝倉君?』

 

『………』

 

『大、丈夫?』

 

『……ことり、なんでここに?』

 

 

『音夢さんから電話があって……。それより、このお酒はなに?』

 

『………』

 

 

 

俺は家を飛び出して財布だけ持って行ったから、携帯は家に置いたままか。

自分の状態を確認すると、気持ち悪さはそのまま残り、平衡感覚は無いに等しい状態だった。

 

辺りを見渡すと、人通りは殆どなく深夜になりかけていた。

先生が誰かに電話している様子が、見える……

 

 

 

『私の彼氏が車で来てくれるってさ』

 

『よかった。でもまた寝ちゃったよ』

 

『高校生がこれだけ飲むか。完全に停学だぞ』

 

『……酒っていびきが凄くなるのかな?お姉ちゃん』

 

 

 

……

 

 

 

~家~

~自室:昼~

 

 

 

『うぅ……、気持ち悪い』

 

 

 

昨日、飲んだ酒はトイレで全部吐いた。

過剰に飲み過ぎたせいで、二日酔いで頭がガンガンする。

 

まだ酔った状態だが、今、自分に置かれている事を整理した。

 

 

音夢がもうじき、島から離れて看護学校に通う事。

このとてつもなく重苦しい状態が、また続く事。

 

それから、ことりが俺を……

 

 

 

『………』

 

 

 

洗面所で、自分の顔を確認した。

疲れ切った顔が、そのまま精神から表面化したようだった。

 

とにかく、顔を洗ってさっぱりする。

やけに顔が脂ぎっているな。酒のせいだろうか。

 

 

……そういえば、俺はいつどうやって家に帰ったのか思い出せない。

公園のベンチで飲んでいたのを境に、記憶がない。

 

もう少し、自分の部屋で休んでおくか。

 

 

 

……

 

 

 

『おはよ、兄さん』

 

『おはよ、音夢』

 

 

 

……

 

 

 

『!!!』

 

 

 

いつの間にか、うたた寝していたのか……

 

いつもの朝のやり取りのワンシーンが、夢で再現されていた。

汗びっしょりの額を拭い、ベッドに腰をかけた。

 

……もう夢でしか見られないのかも知れない。

 

心が、昨日見た深淵の海の様に、どこまで黒く感じた。

一体、俺はどこまで深く落ちてしまったのだろう。

 

 

 

……

 

 

 

~自室:夜~

 

 

 

軽く自分の部屋のドアがノックされる。

すぐには反応できず、ドアを見ていたが、お互いに声をかけるのを躊躇った。

 

こうしていても仕方がないので、俺がドアを開けると、怯えた様子の音夢が立っていた。

話があるようだったが、中々口を開こうとしない。

 

音夢が何を言うのか待っていたが、喋ろうとしないので、俺から声をかけた。

 

 

 

『いきなり看護学校を行くので驚いたが、もういいよ』

 

『ごめんなさい。言い訳にもならないけど、学校までの間を兄さんと普段通りに過ごしたかったから』

 

『……音夢』

 

『……何?』

 

 

『俺は疲れ果てた。意味が分かるな?』

 

『……難しいけど』

 

『そうか。とりあえず看護学校が上手くいくように祈ってるよ』

 

『えっと、さっきの意味は?』

 

 

『………』

 

『………』

 

『疲れ果てたから、眠りたいだけだ』

 

『それもちょっと分からない』

 

 

『俺もよく解らないが、長い眠りにつくだけだ』

 

『長い眠りって?』

 

『悪いな、おやすみ』

 

『おやすみ、なさい』

 

 

 

俺はベッドにも行かず、床の上で微睡んだ。

今の状態では、ため息すらリラックスにならず、睡眠で寝ている時だけ苦痛から逃れられる。

 

そう感じていた。寝ている時だけが、自分の……

 

 

 

~家~

~自室:朝~

 

 

 

『これは、さすがに……』

 

 

 

さすがに、二日連続で風呂に入らないと臭うな。

出かける前に、朝風呂でもしておこう。

 

タンスから着替えを取り出すと、風呂へと向かった。

 

 

 

……

 

 

 

『おはよ。調子はどう?』

 

『変わり、ない』

 

『それだけ?』

 

『………』

 

 

 

いきなり音夢が勢いよくドアを開けて挨拶したから驚いたが、無難に返しておいた。

相手する余裕もなく、スルーして風呂場へと向かう。

 

今は体を洗わないと。

 

……風呂だけじゃないな。飯も全然食っていない。

後で、何か適当に食べておこう。

 

 

 

……

 

 

 

入浴後、今までの事もあり食欲は出なかったが、無理にでも何か食べる事にした。

一番無難な栄養補給は、バナナとスポーツ飲料くらいか。

 

テーブルに座ると、タイミングを見計らった様に音夢が階段から降りてきた。

二日前は、あれだけの事があり、いつもなら俺の感情を見計らうが、今回は全く躊躇いがない。

 

俺が怒りもせず、淡々と話すので何か異変を感じ取っているようだ。

 

 

 

『兄さん。看護の方は学校卒業してからにする。今は家に居る事にしたの』

 

『大金を払って入学日時をズラす気か。勿体ないにも程がある。二日後だ』

 

『……でも私、家に居た方がいいと思う』

 

『金をドブに捨てるなら、そうしてくれ』

 

 

『だって、兄さんが危ないのかも知れないし』

 

『何もかも勝手に話を進めたのはお前だ』

 

『………』

 

『先に学校へ行くよ』

 

 

 

今更、何を言われても心の状態だけは変わる事がない。

これ以上、振り回されるのだけは嫌だった。

 

とりあえず、体にムチを打ち学校に行く事にした。

 

 

 

~学校~

~化学室:授業中~

 

 

 

学校に着くと早々、先生の鬼の形相で出迎えられた。

元々、精神的にしんどいというのに……

 

けど、飲酒をしていたから仕方がない。

今になって分かったが、桜公園で酔っぱらっていた俺を先生が家まで運んでくれたようだ。

 

よく解らないがいきなり話題が変わり、イジメられていないかと質問をされる。

いじめなんて無縁だが、日本中が話題となると、調べない訳にもいかないのだろう。

 

 

 

『あんな姿は見たくなかったな。それと、よくあれだけ飲めたものだよ。本当に』

 

『根性で……』

 

『根性で飲むな』

 

『でも、先生も若い頃なら飲んでそう……』

 

 

『関係ない話をするな。で、何があった?』

 

『イロイロです』

 

『そのイロイロを知りたいんだが』

 

『………』

 

 

『恩人の頼みでもダメか?これで貸し借りは無しになるぞ』

 

 

 

上手い事、話を運ぶものだな。

そう言われたら、俺も何も言わない訳にはいかず、大まかに伝える事にした。

 

 

 

『多分聞いていると思いますが、音夢が看護学校に……』

 

『あーーー、あれか。……もしかして、いきなり言われたのか?』

 

『………』

 

『それは、キツかったな』

 

 

『………』

 

『でも、妹の門出だけはしっかり見送ってやれ。もう仕方がないよ』

 

『……ですね』

 

『あとで、ことりにも事情は説明させてもらうぞ。あの子も心配してたんだから』

 

 

『………』

 

『顔色悪いぞ。本当に大丈夫か?』

 

『ええ。でわ失礼します』

 

『いや、お前本当に顔色が悪い。保健室へ……』

 

 

『放っておいてください』

 

 

 

俺は早歩きで化学室を後にした。

後ろでは、まだ話は終わっていないと聞こえた気がする。

 

俺はそのまま耳を塞ぎながら、靴箱で靴を履き替えて、学校を後にした。

何もかもがウザい、しんどい。

 

今すぐにでも、睡眠を取りたかった。

こうして起きていると思考、思考、思考の連続で休まる事がない。

 

 

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