或いは衛宮切嗣がほんのちょっと弱かったなら 作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)
いい加減に既存作を進めたいけどね。
新作思いついちゃったらさ……仕方ないじゃん?
ほら、誰かに先越されて二番煎じとかなったら意味無いし……(詭弁)
「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した。問おう、貴方が私のマスターか」
冷たい空気に包まれた静謐な聖堂の中、凛とした声が響く。
発言者は白銀の甲冑を身に纏った、金髪碧眼の少女。相対するは死んだ目をした男とどこか作り物めいた女の二人。女騎士然とした美少女からの問いかけに答える事も無く、ただ呆然としている。それもそのはず、彼らにとってこの事態は想定外にも程があるのだ―――本来
―――どんな願いでも叶えるという万能の願望器『聖杯』の所有権を巡り、7人の魔術師が互いに競い合う魔術儀式、それが『聖杯戦争』。各魔術師はそれぞれ一騎ずつ、過去の歴史・伝説に名を残す英雄達―――即ち『英霊』を召喚、
そして60年ぶり、4回目の開催となる今回の優勝の為に、主催・運営の一角を担うアインツベルンは必勝を期して幾つかの駒を用意した。その一つが傭兵として雇った『戦闘のプロ』である衛宮切嗣であり、もう一つが『自律する聖杯の器』として造られたホムンクルスのアイリスフィール・フォン・アインツベルンであった。つまり、現在女騎士の前で呆然と立つ二人である。
だが、今回の戦争で勝つにはまだ足りない、とアインツベルン家当主のユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト爺は切嗣に語った。そして考えうる限りの最高戦力をサーヴァントとして呼び出す為、円卓を束ねたブリテンの王『アーサー』を召喚する為の触媒を準備したのだ。
切嗣は自身の戦略・戦法上『
「キリツグ、これって―――」
「ああ、その通りだアイリ―――」
今回の戦争に連れ立って参戦する予定の二人は、夫婦でもある。互いにそれなりの期間連れ添ったのだ、相手の言わんとする事は分かるし自分も同じ気持ちだ。
何せ、実際に召喚されたのは
『―――失敗した!!』
「―――はい?」
二人の声が重なる中、当の少女から上がる困惑の声。
「なんて事だ、アーサー王を呼ぶつもりがどこの誰とも知れないコスプレ少女を呼んでしまうなんて!!」
「ええ、確かに見た目は可愛いけど戦力になるとは思えないわ!! だってコスプレだもの!!」
「こ、コスプレッ!?」
騒ぐ二人の会話から、不穏な物を感じ取ったアルトリア―――男装したまま男として歴史に残ったアーサー王の正体たる少女。聖杯からのバックアップにより、『コスプレ』なる言葉の意味は理解できる。理解したからこそ、この二人が何か致命的な勘違いをしているのではないかと慌てて訂正に入る。
「英霊召喚は完全に失敗―――」
「お待ち下さい、失敗などではありません! 私の名はアルトリア、生前はアーサーと名乗り男王のフリをしてブリテンを治めていました。女の王では周囲が納得しなかった故の措置です。その為に後世には男性として伝えられたようですが、私は正真正銘、本物のアーサー王です。ご安心下さい、マスター」
焦りからか若干早口になってしまったものの、とりあえず要点だけ伝えてから頭を下げ一礼。
その自己申告を受け、一瞬だけ面食らったアイリと切嗣だったが、互いの顔を見合わせ頷き合うと再び口を開く。
「アイリ―――」
「キリツグ―――」
『この子、厨二病だ!!』
「ちゅーにっ!?」
息ピッタリで叫ぶ夫婦の口から放たれた単語に、思わずギャグ漫画ばりのズッコケを見せるアルトリア。当然、聖杯から与えられる現代知識によって言葉の意味は分かる。分かってしまう。……なお、ここは厨二病というスラングが第四次聖杯戦争当時に存在している世界線である。
「なんて事だ、ただ女騎士のコスプレしてるだけじゃなくて重度の厨二病とは! やたら面倒くさい設定を、あんな真顔で平然と……それも人前でっ!!」
「ねえキリツグ、もしかするとこの子は自分で作った設定を自分自身で真実だと思い込んでしまった可哀想な子なんじゃ無いかしら? そう考えればこの真剣な様子も納得がいくわ!」
「真性だと言うのかいアイリ!? けどそうか、心の底から自分の事をアーサー王だと思い込んでいるコスプレ少女だからこそ、聖杯の選定を誤魔化してサーヴァントとして召喚されてしまったのだとしたら筋は通る……!」
「いや『筋は通る……!』じゃ無くてですね!?」
二人して明後日の方向に話を飛躍させるマスターとその伴侶に、慌てたのはアルトリアだ。このまま黙っていては、自分は騎士王どころか英霊として扱って貰えるかすら怪しい。というか確実にイタイ子扱いだ。
「私は本当にアーサー王―――」
「
『!?』
アルトリアの声を遮るように、嘲る声が響き渡る。その場に居た三人がハッとして聖堂の入口へと振り返れば、両開きの扉をホムンクルスのメイド達に開けさせて堂々と入ってきたのは一人の老人。
髪も髭も雪のように白く、重ねた
「フン、『
「ま、待ってくれ! これは―――」
「黙れ! どう言い繕った所で貴様がアーサー王の召喚に失敗したという事実は覆らぬわ!」
弁明しようと口を開いた切嗣だが、アハト爺は一喝すると同時に手に持った杖(足腰が悪い訳では無く只の魔術礼装)をダンと地面に打ち付け、その口を閉ざす。どうやら既に聞く耳を持たないようだ。
切嗣が奥歯を噛み締め押し黙ると、フンと鼻息を鳴らしたアハト爺はカツカツと靴音を立てながら彼らの横を通り過ぎ、聖堂奥の壇上へと登る。そんな二人の間で視線を交互に動かしながら、オロオロとするアイリ。……そして何か一番偉そうな人にすら召喚失敗扱いされて呆然と立ち尽くすアーサー王(仮)。
「やはり魔術師崩れなんぞに期待をかけた儂の失策だったな。もうよい、貴様との契約は無かった事とする」
「なっ―――」
決定事項の如く一方的に言い放たれたその言葉に、アイリは目を見開き、切嗣は言葉を失う。
アハト爺と切嗣との間に結ばれた契約とは、即ち聖杯戦争への参戦。数多の外道に堕ちた魔術師を抹殺してきた切嗣がその手腕でアインツベルンを勝利に導き、一族の悲願である失われた第三魔法を復活させる。その見返りとして、切嗣は聖杯のチカラを使い自分の願いを―――長年夢見た理想の世界、『恒久的世界平和』を実現させる。……そういう約束だった。
その契約を破棄するという事は、切嗣にとって最初で最後、唯一無二の理想を叶える機会を永久に失うという事に他ならない。
「そんなっ、早まるな! 例えサーヴァントが変なコスプレ娘だからといって僕のやり方なら問題ないっ、必ず聖杯を手にしてみせる!! だから―――」
「英霊を喚ぶ事すら満足にできぬ身で、どの口が『聖杯を手にしてみせる』だ!! もはや貴様なんぞに欠片も信用は無いわ!!」
(へ、変なコスプレ娘……)
仮にもマスターである男からの余りの言い草にショックを受けよろめくアルトリアだが、誰も気にしない。
「待ってお爺様、キリツグは―――」
「ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン殿っ!!」
どうにか夫とアハト爺との間を取り持とうとするアイリにも気付かない程憔悴した切嗣は、自らの雇い主たる当主殿の名前を敢えてフルネームで呼び、彼の足元に縋り付く。
「どうかもう一度だけチャンスをくれッ!! この失態は必ず挽回してみせる! だからどうか聖杯を僕にっ、でないと恒久平和が、僕の願いが!! 僕にはもうっ、……僕の人生には、もう、それしか無い―――」
「この戯けがッッ!!」
「グゥッ!?」
「キリツグッ!?」
「ま、マスター!」
必死の形相で拝み倒す切嗣を、アハト爺は一喝と共に蹴り飛ばした。老体から放たれたとは思えない威力に、不意を打たれた切嗣は為す術なくぶっ飛ばされてゴロゴロと床を転がる。
起き上がる事も出来ず呻く彼の下にアイリスフィールが駆け寄ると、アルトリアも慌てて剣を抜く。マスターの上司らしき人物とはいえ、サーヴァントたる彼女にとっては令呪を持つマスターの身を守る事が先決だ。
「ご老人、マスターに何をっ!」
「小娘は黙っておれ!! ……なあ衛宮切嗣よ、貴様今何と言った?」
「ガハッ、ぐ……こ、恒久平和……僕には、それしか無いと……!」
困惑しながらも妻の手を取り何とか体を起こした切嗣は、確固たる意志を込めた瞳でアハト爺を睨む。いや、睨んだ
だが傍から見れば、その眼差しは余りに弱々しかった。まるで捨てられた子犬のように覇気を感じられない、震える瞳。聖杯戦争を生き残っていく為に最も重要な英霊の召喚に失敗し、雇い主からは参戦資格すら取り上げられて、本人の思っている以上に精神が追い詰められていたらしい。
それでも昔の衛宮切嗣ならば、ここまで動揺を表に出す事は無かった筈だった。アインツベルンに来る前なら―――アイリスフィールと出会ってから共に過ごした時間を、ささやかながらも確かに幸福だった9年間を経験する前なら。皮肉にも、愛する者達との穏やかな生活が彼の心から『強さ』を……『頑なさ』を奪い去ってしまったのだ。
―――しかし、それは彼の心が『健全な』普通の人間のソレに近付いた事を意味している。
「衛宮切嗣……貴様、本気で言っておるのか? 貴様には『恒久平和』などと言う絵空事な理想しか残っていないと、本気でそう思っているのか?」
「当然だ、僕はその為に―――」
「
その言葉にハッとして、隣を見やる。そこに居るのは当然、自らの愛しい妻・アイリ。繋いだ手から伝わる温もりは、彼女が確かにそこに……自分の隣に寄り添っているのだという事実を感じさせてくれる。
その彼女は今、状況を飲み込めないながらも彼の手を強く握りしめてアハト爺を睨んでいた。
愛する夫に暴力を振るい、あまつさえその夢見た理想をも奪おうとするのは、己の一族の当主。敵意を乗せた視線を送るだけでも、相当の勇気がいる事だろう。いや、
それを為したのは、偏に切嗣への愛情。人形として生まれた彼女を、人間として愛した切嗣が起こした、小さく尊い本当の奇跡。切嗣にとっても、何にも代え難い大切な存在。……さっきまでの自分は、そんな彼女のことさえ頭から抜け落ちていたというのか。
「……切嗣よ、今一度問うぞ。貴様には本当に、手の届かぬ理想しか残っていないのか? 今その手の内にある温もりは掴むに値しないゴミでしかないと?」
「僕は……僕は、……っ……!」
諭すように静かに語りかけるアハト爺。切嗣は言葉に詰まった。
恒久平和は彼が全てを捧げると誓った理想。例え彼自身や愛する妻が犠牲になろうとも、その結果として人類が救われるなら。……そして欲を言えば、ありふれた悲劇が無くなった平和な世界で二人の間に生まれた娘が生きていけるのなら。そう思えば、それこそ己の持つ全てを代償に捧げるつもりだった。
しかし、肝心のサーヴァントは厨二病のコスプレ少女。いくら切嗣が一流の戦闘者・暗殺者だろうが、駒がコレではどうにもならない。古今東西の英雄達が相手では、どう足掻いても彼女を守り切る事は不可能だ。英霊には英霊でしか対抗できない、つまりよく分からんコスプレイヤーでは太刀打ちできないのである。マスター狙いの戦略を取るにせよ、サーヴァント自身の継戦能力は大前提。彼女の脱落がマスターの敗退と同義である以上、勝ち目は皆無と言えた。
―――そんな勝算/zeroな戦いの為に、アイリを切り捨てる? ……そんなの無理だ。昔の自分ならいざ知らず、彼女との幸福に身を浸しすぎてしまった今の自分には、到底……。
「―――お母様? キリツグ?」
「!? イリヤ!?」
突然の声に振り返れば、そこに居たのは切嗣とアイリの愛娘であるイリヤスフィール。幼いながらに緊迫した雰囲気を感じ取ったのか、心配そうな表情で両親を見詰めている。
「儂が呼んだのだ、こんな事もあろうかとな。ご苦労だった、セラ、リーゼリット」
「いえ。我々はイリヤ様のメイドですので」
「エスコートもお仕事の内」
アハト爺はイリヤを聖堂まで連れて来たホムンクルスのメイド二人に労いの言葉をかけているが、切嗣にはそんな事を気にする余裕は無かった。自分と妻の所へ駆け寄る、白銀の妖精と見紛うばかりの一人娘。それしか目に入らない。
虚ろな瞳、しかしイリヤを見て僅かに光が戻りつつある切嗣と、どうしたものかと戸惑うアイリ。二人の間で視線を交互に彷徨わせた後、おずおずと妖精は口を開く。
「大丈夫? キリツグ」
「……ッ!!」
彼女はただ、元気の無さげな父親を純粋に気にかけただけだったのだろう。
だが切嗣は、もう大丈夫では無かった。この瞬間、大丈夫では無くなった。―――大丈夫では無い自分自身を、ハッキリと自覚してしまった。自分はもう、戦えないと……気付いてしまい、認めてしまった。だから。
「ああ、大丈夫……大丈夫だよ、イリヤ……もう、大丈夫だから……アイリも……!」
「……キリツグ?」
涙をポロポロと零しながら、妻と娘を抱き寄せる切嗣。彼はもう、戦えない。
なら、自分がすべき事は彼女達を、家族を守る事だ。世界や人類を救える程、今の自分は強くない。嘗て誓った筈の理想を捨ててしまえる程に弱くなってしまった。だが、それでもせめて、彼女達だけは。『正義の味方』として誰もを救う事は出来なくとも、自分を愛してくれる家族だけは守り抜きたい……『愛する者達の味方』でありたい。衛宮切嗣は、今新たにそう誓う。
「二人共、僕は……僕はね、『正義の味方』に、なりたかったんだ……」
「キリツグ……」
突然の独白。涙はまだ止まらないが、憑き物が落ちた様にスッと晴れやかな顔を見せる切嗣に、二人は神妙な面持ちでただ静かに聞き入る。
「でも、今は……君達二人の、『家族の為の正義の味方』でありたい。心からそう思う……どうしてかな、僕の過去は、それを許さない筈なのに。僕にそんな事を望む資格なんて、無い筈なのに……それでも、そうしたいんだ。……はは、こんなザマじゃあ始めから正義の味方なんて無理だったかな」
「そんな事無いもん! 私にとって、キリツグはずっと正義の味方よ! 私とお母様を見守っててくれるもの! そうでしょ、お母様?」
「そうね、イリヤの言う通りよキリツグ。私達にとっては、貴方は今も昔もずっと変わらない……ちょっと不器用で頑固者で、でも優しくて頼りになる、世界で一番かっこいい『正義の味方』よ!」
その言葉に、切嗣は答える事が出来なかった。ただ嗚咽だけが喉から絞り出せる精一杯だった。それでもその両腕は、目の前に居る掛け替えのない家族をしっかりと抱きしめていた。二度と手放さない様に。
「ふん、アイリスフィールめ、絆されおって。それでも我がアインツベルンのホムンクルスか、聖杯の守り手か!」
「! アハト爺……!」
暫し経った頃、背後から投げつけられた声。すっかり家族三人だけの世界に入り込んでしまっていたが、彼らの目の前にはアインツベルンの当主が立っていたという事を、今更ながら思い出す。
「私は、―――」
「今更言い逃れが通用すると思ったかアイリスフィール!! 切嗣が戦意を喪った今、貴様も聖杯戦争に参戦などするものか!! 我らが悲願、第三魔法の復活を、よもや聖杯の守り手が放棄するなど……恥晒しめが!!」
口を開きかけたアイリは、再びその口を閉ざすしか無かった。図星だったからだ。切嗣が聖杯による理想より自分達家族との幸せを願った以上、参戦すれば確実に帰れないと分かっている戦いなど出る筈は無い。
―――そんな彼女には見向きもせず、明後日の方向を向いたアハト爺はただ事実だけを告げる。
「尤も、貴様の背信はとうに分かっていた事よ。貴様には聖杯を担う資格など有りはせん……気付いておらんようだが、既に貴様の体からは聖杯の因子を抜き取っておいた。もはや貴様は、性能も寿命も
「ッ!? アハト爺、それは―――」
「フンっ、貴様に"アハト爺"などと呼ばれる筋合いは無いぞ切嗣!」
―――それは、
「……
「お……お義父様ァァァァーーーーー!!!」
一旦は止まった涙が再び湧き出し、感涙に
彼らの様子を見守っていた、セラやリーゼリットを含むホムンクルスのメイド達は、一斉に拍手で祝意を表す。アインツベルンは今日も平和であった。
―――そして、この平和はきっと、これからも続いていくことだろう。末永く。
衛宮切嗣の聖杯戦争は、こうして終わったのだった。
※ ※ ※
「いやいやいやいやいやちょっと待って下さい!! 私はどうなるんですか!? 聖杯戦争は!? ブリテンの救済は!? 呼び出しといていきなり全部放り投げないで!!?」
「何じゃ、まだ居たのかコスプレ娘。空気の読めん奴め」
白けた目を向けられるが、セイバー・アルトリアにとっては死活問題である。彼女とて、叶えたい願いがあるからこそ聖杯戦争への召喚に応じた訳で。それを自分の与り知らぬホームドラマで軽くスルーされたら堪んない訳で。というか、色々あったけど結局誤解は解けないままだし。
「……まあ、実を言うとお前のような英霊
「お義父様、そこまで考えて……!」
「え、英霊もどき……私、本当にアーサー王なのですが……」
遠い目で哀愁を漂わせる英霊の中の英霊、英霊代表のアーサー王氏。もうなんか、マスター達に理解してもらうのは不可能な気がしてきた。
「まあそんな訳で、種を明かせば今回の召喚失敗は半ば出来レースだったのだ。何せ触媒は儂が用意した偽物―――『ミニチュア・ラウンド☆ナイツ』シリーズのガムに付いてきた玩具の鞘なのだからな」
「そうか、道理でエクスカリバーの鞘がプラスチック製で5cm大だった訳だ……言われるまで全く気付かなかった……!」
「えっ何? 私食玩に呼ばれて来ちゃったんですか!? 嘘でしょう!!? うっそだぁ!!」
今明かされる衝撃の真実。死んだ目で、キャラもブレそうになりながら必死に否定したがるアルトリアだが、悲しいかな事実は事実。召喚陣の脇にぽつんと置かれたプラスチックの小さな鞘が全てを物語っていた。
「い……いえ、この際そんな事は構いません! 問題は聖杯戦争です、聖杯戦争! もう私の正体とかマスターの戦意とかはさて置いても、私の願いの為には聖杯が必要なのです! マスターにその気が無くとも、私は戦わねば―――」
「ええい、喧しいわコスプレ娘! 儂とて何も考えていない訳では無いわ!」
喚き立てるアーサー王(笑)をギンと睨み、一喝で黙らせるアハト爺。
その迫力たるや、幾多の
「そもそも我らアインツベルンは聖杯戦争の主催、そして聖杯とは我らが悲願・第三魔法への唯一の足掛かり。切嗣とアイリスフィールを抜かした所で、戦争自体を辞退するとは言っとらん! 駒が使えなくなったなら、其れなりの戦い方を
「は、はぁ……? まあ私としては戦えるのなら文句は有りませんが……"それなりのやり方"?」
「!! お、お義父様ッ、貴方はまさかッッッ!?」
アハト爺の言い分に怪訝な顔をしながらも、一応は納得した表情を見せるアルトリアとは対照的に、彼の思惑に気付いた―――
が、その様子を一瞥するなり、アハト爺は鼻で笑い。
「そんな顔をするな切嗣、儂を侮辱する
「っ! い、いいえ、そのような事はっ!」
「ならシャンとせんか馬鹿者め。これは儂が儂自身の意志で選んだ道よ、そこに貴様が責任を感じるなど思い上がりも甚だしいわ!」
ピシャリと言い放ち、羽織っていた上着をバサリと翻しながら聖堂の出口へと歩を進める。その足取りはとても老爺とは思えぬ程に力強く、覇気に満ちていた。
「……えっと? その、私には話が見えないのですが……結局、私とマスターは……?」
「フン、貴様も切嗣も必要は無い。此度の戦―――」
困惑しつつも切嗣とアハト爺を交互に見遣るアルトリア、溢れそうな涙を堪えて敬礼する切嗣、そして深く、深く頭を下げるアイリスフィール。両親の間でキョロキョロと目を泳がせたかと思うと、取り敢えず敬礼を真似ながらぴょこんと一礼するイリヤスフィールや、恭しいカーテシーで見送るセラ達メイド一同など、聖堂に残る人々を一顧だにせず出口の敷居を跨ぐと、彼は持っていた杖を勢いよく地面に打ち付け、高らかに音を響かせながら宣言した。
「―――
―――アインツベルン当主『アハト爺』ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、参戦。
最初に思いついたシーンは最後の一言。
これだけは絶対に書かなければという義務を感じた。
後悔はあまりしない方向で逝きたい(震え声)