すぐさま削除しましたが、読んでしまった方には誠心誠意謝罪します。
もうし訳ありません。
その代わりと言っては何ですが、わび石ならぬわび投稿です。
それでは楽しんでいって下さい。
主人公をいじめる回。
安心してください、カリン様がいるよ!
……なんでこうなったんだろ。
「くっ!いっそ殺せ!」
「はっはっは、悪いがお前には死ぬ権利すらないのさ」
「ち、ちくしょう!!」
涙目で睨みつけるがそれは亀の愉悦を煽るだけ。
「この借りは……、いずれ……」
「悪いなイナリ。それもできないはずだろ」
「うううぅぅぅ」
く、屈辱だ……!!
勝負に負け、亀に「1つだけ相手になんでも言うことを聞かせられる」権利をとられてしまった。
だがそこはカリン様。
監修のもと、『1日だけ』と言う条件が追加され、さらに人として最低限節度のあるようにと、亀の願いの可否を決め、行動を見ていてくれることになった。
で、決まった願いが『今日1日亀に奉仕をすること』だ。
もちろんカリン様がいるので健全な範囲だ。
が、ここで悪辣なのが亀。普段は脳みそ働かないくせにこんなときだけはフル回転させてさらに条件を追加した。
『今日一日
この条文が追加されたことで、亀を影分身に任せて「バカめ、それは影分身だ!」と煽ることも、「よくもやってくれたな!」と次の日ボコボコにすることもできない。
影分身の存在を亀にバラしてしまった過去の自分を殴りたい。
ちなみにこんな姿を見られたくないのできらには眠って貰っている。かなり渋られたけど、泣いてお願いしたら聞いてくれた。マジ良い娘。
「ほら、手が止まってるぞ。早くしろ」
私に出させたソファにふんぞり返り、亀が偉そうに指示をする。
「ご、ご主人様、……あーん」
「あーん」
私にアイスを作らせた上で、ご主人様呼びをさせ、食べさせてもらう。
こいつ、心底楽しそうにニヤニヤと愉悦してやがる。
ご主人様呼びは誠意に入るらしい。
そう言われるともうなにも言えない。
「はっはっは。金持ちがやってるみたいに、一度メイドさんにやってもらいたかったんだよ。服装が違うのが残念だかな」
「さすがにそれは出せないよ」
完全記憶能力があっても、馴染みのあるものじゃないと具現化するのは難しい。
メイド服に馴染みがあるわけないだろ。
「わかってるって。ほら、次」
「ぐ……あ、あーん」
「あーん」
ううううぅぅぅ!!恥ずかしい、なんだよこれ!なんで亀の方は普通なんだよ!
きっと私の顔は真っ赤だろう。怒りも屈辱も恥ずかしさも混ざって。
だが、それを解決する方法は存在しない。
だってそれがルールだから。
それからも亀に対する奉仕活動は続いた。
風遁があるのにわざわざ団扇で仰がせたり、喉が渇いたからとパシリにされたり、屈辱的な時間が長々と続いた。
「ぐぬぬぬぬ……」
やらせることがなくなったのか、しばらく考えていた風だった亀がおもむろに口を開いた。
まだ何かやらせるつもりなのか。
「……そうだなぁ。それじゃあ次はイナリに手伝って貰って、カリン様から超聖水を取ってもら––」
「それはダメだよ」
愉悦する亀を凛としたイナリの言葉が遮った。
決して大きな声ではないのに、続きの言葉が口から出てこないほど力がこもっていて。
先ほどまでとは全く違う、真剣な表情のイナリ。
思わず亀も息を飲む。
「それじゃあ亀のためにならない。あれは自分の力で掴み取るべきものだ」
亀の為にならない。故に奉仕ではない。
例えそれが奉仕の範囲内だとしても決してやらなかっただろう。
それが正しいことだと信じているから。
「例え冗談でも人から貰うことを前提にしちゃダメだ。今の亀の言葉はいままでの努力全てを否定することにも繋がるんだよ」
その言葉はどこまでも亀のことを思ってのものだった。
「……悪かった。もう言わない。聞かなかったことにしてくれ」
正面から射抜いてくるイナリの瞳に、亀は思わず目をそらす。
イナリの真摯な思いは、調子に乗っていた亀にもしっかりと伝わった。
だからこそすぐさま反省し、言葉を取り消した亀。
亀も武に取り組む姿勢は真剣そのものだ。イナリのことだって真剣に目標にしている。
そこを認めていなけばイナリだってここまでは言わない。
だがそこは亀仙人クオリティ。
心から亀の為を思って諫めてくれる事は感謝しつつも、同時にモヤモヤしたものも湧き上がってきた。
今は俺の方が立場が上なのに、なんか気に食わん、と。
確かにイナリのお陰で俺は自らを貶めることはせずに済んだ。
だが――
「それとこれとは話が別だ!」
悪戯心を発揮した亀が緩やかに揺れていたイナリの尾を掴む。
「ひゃうん!?」
「……
驚かせる程度に止まるだろうと思っていた亀は、しかし驚愕することになる。
イナリが艶めいた声を上げて床に座り込んだからだ。
「急に触らないでよぅ……」
床にへたり込んで自らの尻尾を抱きしめるイナリは、突然の暴挙に頬を上気させ瞳を潤ませていた。
獣人にとって耳と尻尾は結構敏感な場所なのでびっくりしてしまったのだ。
特に前世で元々持っていなかったイナリはなおさら。
「…………」
ペタンと耳を伏せ上目遣いで見つめてくるイナリ。その色香にゴクリと亀の喉がなる。
無意識のうちに手が伸び、そして――
「こりゃ、落ち着かんか」
「いてっ」
ポカッとカリン様に頭を叩かれた。
その衝撃ではっと正気に返る。
「お、俺は……」
一体ナニを……?
「どうじゃ、もう大丈夫かの?」
「え、ええ。助かりましたカリン様」
「えっと、どうしたの?」
不思議そうに首を傾げるイナリは、何が起こっていたのか全く分かっていないようで。
そのことにひどく安心した。
「なんでもない。お前は気にしなくて良い」
「ええー、なんでよぉ。教えてよ」
「うるさい。カリン様、超聖水の続きをお願いします」
「そうじゃのう。今日はその方が良いかの」
「え?こっちの続きはしないの?」
突然の奉仕活動の終了にキョトンとした顔をする。全く訳が分かっていない。
「ああ、もう良い。お前は帰れ」
「はあ?なんで亀がそんなこと決めるの」
私は不満ですタラタラですと隠すこともなく表情にだすイナリ。
だが今回はカリン様も賛成した。
「イナリよ。儂は亀と話ができた。お主は帰れ」
「えぇ。わかりましたよ。私はお邪魔なんですね、全く……」
「なんだ、まだ続きがしたかったのか?」
「ッ!そんな訳ないだろ!!帰る!」
そっぽを向くと同時にイナリの姿が掻き消えた。
ようやく帰ったのだろう。
「はあ……、危なかった。何やってんだ……」
「お主も大変じゃのう」
「全くですよ……」
普段ははしゃぎ回っているだけの癖にふとした拍子で、女性らしさが前面に押し出されてくる。それだけではない。女性らしさとは全く違う、真剣なときの彼女の心の在りようにもひどく魅了される。
いつもと違う顔に思わず惹きつけられるのだ。これがギャップの力か。もともと可愛いのもたちが悪い。
もっとたちが悪いのは本人が、自分の魅力を全く理解できていないことだろうか。まあ容姿が整っていることくらいは分かっているかもしれないが、それだけだ。
こちらは目をそらすのに非常に苦労するというのに。
「それもまた修行よ」
「それで全て済むと思ってませんよね?」
「……そんな訳なかろう。さて、煩悩退散の為に厳しく行くかの」
「ご無体な!?」
ケモっ娘の尻尾や耳が敏感なのはお約束。
ちなみにこの時代にメイドカフェはない。
作者も知らない。