「ふむ、亀よ。強くはなったようだが、精神はまだまだのようだな。天井は後で修理をしておきなさい。鶴も早く列に戻りなさい」
「「はっ、誠に申し訳ありません!!」」
「よい。誰も怪我などしていないのだからな。なあ、イナリ殿?」
あれ、バレてる?流石だねぇ。
それなら止めてくれても良かったのに。多分私が動かなかったらこの人が止めてたんじゃないかな。
「既に知っているかも知れないが……、私が武泰斗だ。弟子が世話になった」
「イナリです。問題ありませんよ、私も楽しませてもらったから。それに大体カリン様がやったし」
「ほう、カリン様とな。ではあのカリン塔に登られたのか」
「そうだよ」
ザワザワと驚いたような声が聞こえる。
やっぱりネットがないこの時代でもカリン塔は有名なんだね。
昔の神様が情報を流したりしたのだろうか。
「亀も一緒に?」
「ううん。亀は後から来たんだよ。カリン塔で知り合ったの」
「なるほど」
つまり亀は一人で塔を登り詰めた。
その事実に再びざわめきが大きくなる。
「――静まれ」
だがその声は一声ですぐさま鎮められた。
誰もが惹きつけられる様なカリスマ。
それだけで言えば、この人は作中トップクラスかも知れない。
「それでこの街にはなにをしに?」
「うん、亀からついて来て欲しいって言われたからね。ふふ、道中楽しかったからついて来て正解だったよ」
「それは重畳。……ふむ、それではこの街でやる事は特に無いと?」
「そうだね。強いて言うなら亀に街中を案内してもらうことくらいかな」
亀への視線の圧力が強くなった。どうしたんだろ?
「それでは……、私と手合わせをしてくれないかね?亀のあの大技を止めた君に興味が出た。是非ともお願いしたい」
へえ、それは。
「こちらこそ、是非に」
きっと私は今、笑っているのだろう。
とっても楽しみだ。
道場内ではなく外でやろうと言われた。
つまり――
「気は……ありで?」
「ありでやりましょう。使っても問題ない相手がなかなかいませんでな。問題なさそうな君に相手を頼みたい」
「わかったよ。では――」
一礼。そして構える。もちろん武泰斗様も。
座ったままなんて舐めた真似をしてくれなくて安心したよ。
「それでは武泰斗様対イナリ殿の試合を始めます。両者構えて……始めッ!!」
「ダッ!」
開始の合図と共に鋭く踏み込み接近する武泰斗様。
取り敢えず様子見で牽制の気弾を投げつける。
「カァッ!」
とはいえそんなものが効くはずもなく、気を纏った手刀で弾き飛ばされた。
「はっ!」
ならばと目前まで迫った武泰斗様に手を突き出し、気合砲で弾き飛ばす。
発動の早い気合砲を避けることは出来ず、クルクルと宙を舞った武泰斗様だったが、すぐさま体勢を立て直し構え直した。
「……来ないのですかな?」
「そっちこそ。もっと本気出していいんだよ?」
「そうですか。なら……!!ハアアアアァァァァっ!!」
半身になった武泰斗様が手刀を突き出す様な形で気を高めていくと、体全体から溢れ出た気が可視化しさらにそれが腕に集まっていく。
これはすごい。
「ぜあッ!」
まるで弓の様に腕を肩につがえ、突きを一閃。
「ッッ!!」
咄嗟に避けた。
突きの直線上にあったブロック塀が貫かれている。
当たったら体に大穴が空いてたよ。
まだ終わらない。残っていたエネルギーを使って手刀を横に薙ぎ払った。
それを私は走高跳の背面ジャンプの様にして避け、接近していく。
背後のブロック塀には切れ目が入り、ずり落ちていた。
「危ないな。当たったら真っ二つなんだけど!!」
「当たったら……であろう?」
「結果論!!」
技の危険性くらいもうちょっと押さえてよね!!
「……イナリ」
武泰斗様とイナリが戦っている。
危険だからと、かなり離れた場所からしか戦いを見ることは許されなかった。
――二人が戦えば、どちらが強いのだろう。そう考えたことは何度かあった。
その戦いが、目の前で繰り広げられている。
凄まじい戦いだ。余波だけで地面が揺れている。きっとこんな戦いは滅多にお目にかかれない。
周りで観戦してる奴らだって、目を見開いてポカンとしている。
鶴だってそうだ。
武泰斗様の攻撃をイナリが避け、反撃する。
――なぜ、あそこにいるのが。イナリの前に立っているのが俺ではないのだろうか。
そんなことを思ってしまう。答えは簡単だ。俺がまだ弱いからだ。
だから前に立つには足りない。横に立つ資格すらない。
ならばこそこの戦いを目に焼き付け、俺の糧にしてやる。
武泰斗様に向けて駆けるイナリは、後ろの離れた塀が切り裂かれる程の手刀を背面跳びの要領で避け、速度を落とすことなく接近する。
足を緩めることなく進みながら、右手と左手に気を集めそれを眼前で組み合わせる。
「流星群!!」
球体状になった気から、幾筋もの光線が発生し、曲線を描いて武泰斗様を四方から挟撃していく。
避けられる場所はない。万事休すかと思われたがしかし――
なにやらバババッと高速で手を動かしたかと思うと。
「カアァッ!!」
全て気合いでかき消してしまった。
あれを防ぐのか。凄いな武泰斗様は。
イナリも無傷だとは予想していなかったのだろう。驚愕を押し殺して食らいついていく。
しばらく二人は気を用いての攻防を続けていた。
地面がえぐれ、大気が震え、衝撃が髪を揺らす。
やがて二人は離れた位置で向き合っていた。
「……さっすが」
「いや、私もここまでできるとは思っていなかった。正直楽しくてたまらんよ」
二人とも表情を見る限り余裕そうに見えるが、実際イナリは内心冷や汗を掻いているのだろう。
左耳だけペタリと伏せている。あれは余裕がないときの癖だ。
……きっと今までの試合運びを見るに、イナリは始解とか言うあの技を使えば、今からでも圧勝できる筈だ。
でも、彼女は使わない。なぜなら、武泰斗様は気での勝負を望んでいるから。
なればこそ体術を除いた、他の不思議な術は使わないと言っていたから。
「……どうにも気に関する技術はあなたが勝ってる様だね」
「確かにそうですな。このまま続ければ私が勝つでしょう。降参されますかな?」
「……冗談」
フッと口角をつり上げた。
「仕方ないから体術も絡めて仕留めてあげるよ」
イナリの宣言に武泰斗様の眉がピクリと動く。
「……やってみなされ」
「……シッ!」
「ッ!!?」
攻防は一瞬。気づけば懐にイナリが入り込んでおり武泰斗様が吹き飛んでいた。
……カケラも目で追うことが出来ない。わかるのはさっきまでイナリがいた場所の地面が大きく陥没している事くらいだ。
どれだけの力で踏み込めばああなるのだろうか。
吹き飛んだ武泰斗様はすぐさま体勢を立て直すものの。
その後ろには既にイナリが回り込んでいる。
なにも出来ずに武泰斗様は再び吹き飛ばされた。
……あの武泰斗様が押されている。
ところどころ地面が陥没している事から、さっきの高速移動をしているのだろう。速すぎる。
吹き飛ぶ武泰斗様に迫るイナリ。
追撃を仕掛け――武泰斗様の目が鋭く光った。
イナリの拳を往なし、武泰斗様の腕が絡みつく。
しまったと思ってももう遅い。
「甘いわ!!」
「……カハッ!?」
「イナリ!!」
イナリは自らの勢いのまま地面に叩きつけられた。勢いのあまりお椀状に地面が陥没する。
背負い投げだ。
すぐさま腕を振りほどき飛び退いたが、しばらくイナリは咳き込んでいた。
「ケホッ、ケホッ。もうちょっと女の子に優しくしてくれてもいいんだよ?」
「もう少し老人を労ってほしいものですな」
冗談の応酬をしてはいるが二人とももう余裕はないはずだ。
双方肩で息をしている。感じられる気も少なくなってきた。
決着は近い。
本人達も同意見だったのだろう。
二人ともほぼ同時に気を高め始めた。
「次で最後ですかな」
「そうだね。出し惜しみなしだよ」
「もちろんです」
武泰斗様は両手を突き出し、イナリは拳を引き絞る。
両者の気の高まりが最高潮に達し、技が発動した。
「
武泰斗様は両手の平に集めたエネルギーを凝縮した、螺旋を描くドリルのような一条の光線を。
「狐楼砲!!」
イナリは、正拳突きの要領で足からの回転エネルギーを腰、胴体、拳へと体中から伝播させ、同時に身体中の気を拳のみに凝縮していく。
あの気の技術はたしか、応用技だと言っていた流という技術か。
凝縮された気のエネルギーと鍛え上げた肉体のスペックによる物理的エネルギーが混ざり、渾身の砲撃として打ち出される。
互いの技が激突し、衝撃とともに多量の砂埃が宙を舞った。
「どっちが勝ったんだ……?」
誰がともなく呟いた。
視界が悪く二人の様子が全く見えない。
やがて砂埃が収まり、景色がゆっくりと晴れていくと薄らと見える人影が一つ。
立っていたのは――――イナリだった。
グッと拳を突き上げる。
「はあ……、はあ……、私の……勝ち」
疲労の色は濃かったもののその顔は誇らしげだった。
ちなみに……
武「次で最後ですかな」
イ「そうだね。出し惜しみなしだよ」
卍解+瞬閧+チャクラ+オーラ「「「「呼んだ?」」」」
イ「狐狼砲!!」
武「あっ」 ジュッ
亀「武泰斗様の気が……消えた……?」
綺『当然ね』
となります。
イメージとしては魔貫光殺砲が近いかも?
違いとしてはピッコロの方が一瞬で貫通するタイプで、武泰斗の方がゴリゴリ削っていくタイプです。
本編でイナリの重量は増したままです。