「回道の九:回」
イナリの指先から現れた優しげな光がゆっくりと武泰斗様に溶け込んでいく。
発光が収まると、閉じられていた瞳が開かれた。
「大丈夫ですか?武泰斗様?」
「亀か。ここは……そうか、私は負けたのか」
亀の手を借りながら体を起こして座ると、ゆっくりと息をついた。
「天晴れだ。実に楽しかったよ。君の様な若人が育っていることを嬉しく思う」
「あ、武泰斗様。こいつ見た目通りの歳じゃーーゴフッ!?」
「なんか言った?」
「……いえ、なんでもないです」
笑顔で聞くと亀はプルプルしながら答えた。
「武泰斗様もありがとう。私も楽しかったし、おかげで良い経験になったよ」
私たちは話しもそこそこに道場に帰ることにした。
「到着して疲れもあっただろうに私の我儘に答えてくれて感謝する。今日はゆっくり休んで行ってくれ。それと困ったことがあったら伝えてほしい。できる限り力になろう。傷まで治してくれたからね。遠慮などしなくていいからな」
と道場で告げられて武泰斗様はどこかに行った。修行かな。
私はだいぶ疲れたしゆっくりしたい。
道場に戻ってきた状況としては、来た時とほぼ同じ。
違うのは弟子達の目だろうか。
今までは好奇心の対象でしかなかったのに、今では視線に敬意が混じっている。恨まれてるんじゃないかと思っていたんだけどな。
大切な師匠をボコってしまったわけだし。
まあ私は彼らを見誤っていたわけだ。つまり、武闘家として有り様を。
「ゼエ……、はあ……、ゼエ……。三百……人切り……達成……。もう無理。休む……」
疲れのあまり足はガクガクと震え、汗は頬を流れ落ちて所々床には水たまりができている。
武泰斗様との全力戦闘を終えた後の私にはキツい。
組み手が楽しくて機嫌が良かったところに、キラッキラした目で手合わせしてくださいとか言ってくるから、安易に了承してしまった自分を殴りたい。そっからは弟子の波が押し寄せてきた。自分も自分もと飛び込んでくるから止めることなんてできない。倒すしかなかった。じゃないと押しつぶされる。
しかもあいつらゾンビ戦法をとってきたのだ。他の奴を倒している間に倒された奴が休んで、復活してくる。
完全記憶能力あるんやぞ!!二回来たらわかるわ!!挙げ句の果てに三回来たやつ居ただろ!?
そっからは手荒くなったけど文句ないよな?だってお前ら起きてくるもの。
「ありゃ?」
視界が歪み、地面が迫ってくる。途中で倒れていることに気づいたけど動くのも億劫だ。
別に今更地面に倒れ込んだところで、痛い訳でもないと倒れるがままに身を任せていると。
ポスンと受け止められた。
「……んぅ。かめ……?」
「……お疲れ。大丈夫か?」
「へへ……だいじょぶだいじょぶ。へいきだよ」
「……強がるな。かなり参ってるじゃないか。倒れかけたのが良い証拠だ。変に最後まで付き合うから……」
……だって断りづらいじゃん。皆楽しそうだったし。
「ほら、部屋まで運んでってやる」
「へ?あ、ちょっと!?」
断るまもなくひょいと亀に抱き上げられてしまった。
疲れていて碌な抵抗もできない。
それにこれって……お姫様だっこじゃん。
「暴れるなって。落ちるぞ?」
「ううぅぅ……」
……私汗臭くないかな?
『ギリギ(ry』
「ふあ……」
カーテンの隙間から漏れる日の光に目を覚ました。
あの後客室に通された私は軽く身を清めてすぐに就寝することにしたのだが……。
いつもと同じように寝る前に分身を解くと分身から送られてくる疲労によって、気絶するように眠りに落ちた。
……いや実は気絶したんじゃないかな。分身といてから記憶がないもの。
そうだなぁ。せっかくだし今日はちょっと戦闘の修行はお休みしようかな。
とりあえず料理修行用の影分身を送り出す。お店で頼み込んで働きながらやってるわけだし、いきなり休むってのは無理だからね。休むのは戦闘の修行だけ。家にも説明用の分身は送ったし、ゆっくりしよう。
――コンコン
「おいイナリ、起きてるか?」
「はいはーい、今行くよ」
昨日は途中までで終わっちゃったし、今日は色々と亀に街を案内して貰おうかな?
『……ちょっといい?』
「……ん?なあに?きら」
ストックが少なくなってきたのでこれから一日一回投稿にします。
回道の九:回 簡単な怪我を治療する。他人にも使用可能。