「それは本当なのか!?」
「ひぃ!?」
信じられない報告に鶴は思わず報告に来た弟弟子の一人に掴みかかった。
それを亀が努めて冷静に嗜める。その隙に弟弟子は慌てて退出していった。
「鶴、何やってるんだ。落ち着け……」
「これが落ち着いてられるものか!なんたってお前……」
――イナリの故郷が跡形もないなんて。
「一番最初に跡形もなく破壊されたと伝わっていた街がイナリの故郷だった。イナリも行方不明だ。ピッコロ大魔王が暴れ始めてもう四日になる。被害は広がるばかりだ」
幸いにもイナリの地獄の修行を受けた者は、ピッコロ大魔王の眷属に打ち勝つことができる。
だがそれはあくまで一対一の場合の話だ。多対一では手に負えない。
だがそれでも。
(イナリとの修行がなければ被害はもっと甚大だっただろうな)
それがなければきっと勝てる者はごく僅かだったはずだ。それほどピッコロ大魔王の眷属は強かったのだ。
別に武泰斗様の修行が無意味だったわけではない。イナリが無茶だっただけだ。特に疲れているのを無理矢理癒やして修行に連れて行くのはどうなのか。鬼か。悪魔か。狐だったな……。
いやそれのおかげで助かっているのだが素直に喜べない。
波状的にやってくる眷属達を門下生があらゆるの街に散って、無辜の民を守っている。
今のところは優勢だ。だが――
(いずれ負ける)
ピッコロ大魔王の眷属は倒しても倒しても無尽蔵にやってくる。それなのにこちらは戦いの傷が癒えることはない。
大本を叩かないと意味がないのだ。
そして大本がやって来た街は……滅ぼされた。
(武泰斗様、早くしてください。もう持ちません)
ピッコロ大魔王を倒せる奥義の修得をしていると言う。イナリのいない今はそれだけが希望だ。
今の状況は薄氷の上にいるようなもの。
だからこそ……。
「今トップの俺達がうろたえたら士気に関わるだろうが」
「だからってお前何でそんなに落ち着いていられるんだい!!」
「俺が落ち着いているように見えるか……?」
ミシリ、と亀が手を置いている机が音を立てた。
そこで冷静になった鶴が始めて気づいた。亀の手が硬く握られ、血が滲んでいることに。
「済まない……。アタシが無神経だった」
「良い。お前の気持ちだってわかる。気にするな」
いつもならいがみ合っている二人がそんなことができないほど余裕がないのだ。
亀だって今すぐに飛んでいってイナリを探したい。
生きてるはずだ。だってあいつはあんなにも強いんだ。
恥も外聞もかなぐり捨てて、大声で探し回りたい。
でもできない。それをすれば、きっと今の状況は瓦解する。
そしてイナリが戻ってきたときに悲しむはずだ。私のせいで……と。
それはできない。イナリに理由を押しつけて、自分だけが勝手なことをするなど許されることではない。
だから血が滲むほど手を握りしめて我慢しているのだ。
イナリが帰ってきたときに胸を張って迎えられるように。
そして朗報はドアが勢いよく開かれる音とともに突如やって来た。
「亀、鶴!!武泰斗様が戻ったぞ!!」
「「なに!!」」
部屋を飛び出して駆け出す。
武泰斗様は怪我人がいる治療院にいた。
皆を元気づけるように話しかけて回っていたのだ。
「武泰斗様!!」「お師匠様!!」
「む、亀、鶴。今戻ったぞ。私がいない間も立派にやってくれたようだな。勝手にいなくなって済まなかった」
静かな謝罪に二人そろって首を振る。
「そんなことはありません!!」
「そうです!お師匠様のおかげでアタシ達は希望を捨てずに頑張ってこられたんです!!」
希望。その言葉にハッとした。
「武泰斗様。戻ってこられたと言うことは……」
「そうだ。遂に習得した。奴を倒す奥義、魔封波だ」
「魔封波それは一体……」
そこでまたしてもドアが荒っぽく開け放たれた。
「皆イナリさんが現れた!!」
「「「なに!!!!」」」
それは二つ目の希望が現れた瞬間だった。
「しかもイナリさんは各地に大量に現れて魔族を倒して回っているらしい!!これで勝てるぞ!」
「本当か!?」
「やっぱイナリさんはすげえや!!」
既に勝利ムードが漂い始めていた。さっきまで土気色の顔をして今にも死にそうな表情をしていた怪我人達にも笑顔が戻っている。
なにせ、ここにいる奴らはイナリが武泰斗様にも勝てる実力を持っていることを知っているのだから。
だが――
「いやな予感がする……」
「なに?どう言う事だ亀」
「ともかく急いで見に行きましょう。何かわかるかも知れません」
外に出て予感は確信に変わった。
「不味いです武泰斗様。早くイナリの本体を探さないと!!」
「どうしたというのだ亀よ。イナリ殿はあんなにも容易く魔族を倒しているではないか。私の奥義も用なしではないかと思うほどだ」
「そうだぞ、亀。今のイナリさんを見てみろよ。絶好調じゃないか」
違う、違うんだ。
今のイナリの分身は全員、左耳がこれ以上ないほど倒れ伏しているんだ。これがどう言う事か俺にはいやと言うほどわかる。
「……今のイナリは余裕が全くといって良いほどないんだ!!」
イナリの分身から本体の居場所を聞き出すと、今まさにピッコロ大魔王と戦いを始めたところだという。
場所はさほど遠くない。
武泰斗様と鶴と一緒に走って向かっていると、遠目に強烈な電撃が見えた。
あれはきっとイナリだ。
いやな予感がする。このままでは間に合わない。そんないやな予感が。
「筋斗雲!!」
頼む。今だけで良い。俺をイナリの所まで運んでくれ!!
やって来た筋斗雲に飛び乗ると……足の裏に不思議な感触が。ありがとう……!
「乗れた!!武泰斗様、鶴。先に行きます!!」
「な!?待て、亀!!」
残念だが筋斗雲は一人乗りだ。
怒鳴る武泰斗様と鶴を置いて、さっきの雷が見えた方へと全速力で筋斗雲を飛ばした。
それが見えたとき俺は目の前が真っ赤に染まる思いだった。
ピッコロ大魔王に首を掴んで持ち上げられるイナリ。既にあの卍解という姿ではなくなっていた。
体中ボロボロで傷が付いてないところを探す方が難しいほど。密かにイナリが自慢にしていた耳と尻尾は土と血に汚れて力なく垂れ下がり、喜悦の表情で何度も殴り続けているピッコロ大魔王にあわせて揺れるばかり。
目はうつろで今にも光が消えてしまいそうだった。でも……生きている!!
「――かめはめ波アァァ!!」
「ぬおおおお!?」
これ以上やらせるものか!!
我が身を焦がすほどの思いを乗せて放ったかめはめ波は狙い過たずピッコロ大魔王のみを捕らえて、イナリから引きはがすことに成功した。
飛び降り、全速力で、しかし不用意に揺らさないようにイナリを筋斗雲に乗せる。
「イナリ!大丈夫かイナリ!!」
「……ぅ………ぁ」
いつもは憎らしいほどにきれいな声を聞かせてくれる唇からはうめき声が漏れるばかり。
もうイナリの気がほとんどないことがわかってしまう。しかも残った気すらみるみる減って行っている。
このままではイナリは死んでしまう!!今日ほど仙豆を貰ってこなかったことを後悔した日はないだろう。
カリン様の元に連れて行くにしても圧倒的に時間が足りない。
「イナリ、頑張れ!!早く自分を回復するんだ!!じゃなきゃ死ぬぞ!!」
「…………………」
もう、うめき声すら上げていない。このままイナリが死ぬのか――?
だめだ!!まだ何の礼もできていないのに!!
「イナリ!!」
「……………………ぁ」
万感の思いを込めて叫ぶと、僅かだがイナリがうめき声を上げた。
そして刀が光ったかと思うとイナリの体を優しい光が包み込んだ。
「きら?手伝ってくれたのか?」
しかし返事は聞こえなかった。刀のままだと声は聞こえないのだ。
ともかくイナリの気の減少は収まった。かすかにしか感じられなかった気が僅かに感じられるほどには戻っている。なんとかなりそうか?
このまま病院まで連れて行きたいがどうやらそうは問屋が卸さないらしい。
遠ざかっていた邪悪な気が近づいてきている。
「貴様ァ!!人間の分際で良くもやってくれたな!!」
「お前こそミドリムシの分際でよくもイナリにこんな怪我を……!!」
筋斗雲に指示を出し、余波が届かないところまで遠ざける。
このまま病院に連れて行ってくれれば良いけど、どうやらそれは無理なようだ。
乗っている本人に意識がない状態でできるのはまっすぐ飛ばすことだけ。
病院で止まることはできない。ならある程度側にいさせた方が安全だ。
本当にどうしようもなくなったら俺がピッコロ大魔王を足止めして、筋斗雲をまっすぐ飛ばせば良い。
「来いよミドリムシ」
久しぶりに……キレちまったぜ。
アンケートを始めました。
作者としても酷い展開だと思ったので、書き直すかどうかを検討中です。皆さんの意見を聞かせてください。期間としては一週間ほどをを予定しています。ちなみにそのままの場合は結構な絶望ルートです。
ピッコロ大魔王編を書き直すかどうか。【1、2】と【3.4】は同じ票として計算する。なお、5を選んでもやめることはありません。皆さんの忌避のない意見を聞かせてください。(書き直す場合は何事もなく封印するルート。)
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1.この展開は嫌。書き直す
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2.もっとしっかり案は練るべき。書き直す
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3.別に問題はない。そのまま
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4.展開自体は嫌いじゃない。そのまま
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5.へたくそ。書くのをやめるべき