地球人で転生!!~でも人間じゃないよ~   作:ねむ鯛

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お久しぶりです。
アンケートありがとうございました。
結果は『そのまま』となりました。詳しくは活動報告をご覧下さい。


第二十二話 欠落

「んぅ……」

 

目が覚めた。

瞼がすこぶる重い。どうしたんだろうか。寝る前の記憶がよく思い出せない。

 

体を起こすだけで一苦労だ。まるで泥の中に沈んでいるかのよう。

 

「ふう……」

 

一息つく。

……動き回るのは無理そうだ。仕方がないので周辺の観察に勤しむことにした。

部屋は……全く見覚えがない。だが内装の様子から言って、恐らくどこかの宿屋だろう。泊まっても体力は全回復しなかった様だ。残念。

 

枕元には刀、綺羅星(きら)が立てかけてあった。手元になかったから思わず飛び起きそうになった。無理だったけど。見つかってほっとした。

いや……ああ……そうだ。思い出した。私の家族はもう……彼女しか……。

 

『……起きたのねイナリ』

 

「きら……」

 

私が思考の中に沈む前に、唯一の家族とも言えるきらから声が掛けられた。

 

「ピッコロ大魔王はどうなったの?」

 

『はあ……、あんたは……。封印術は無事成功した。今は電子ジャーをどうするか決めかねている所よ』

 

「そっか。良かった」

 

『良くないわよ!!あんたはもう一週間も寝込んでたの!どこも良くなんてない!!』

 

「そんなに怒らなくても」

 

一週間も寝込んでいたのはすごいと思うけど、別に死んだ訳じゃないんだし。

 

『先に言っておくけど、私は貴女さえ無事なら他はどうでも良いの』

 

憮然とした口調でそう私に伝えてくる。私にはそれが嘘偽りのない言葉だとわかった。

その気持ちはうれしいよ。でもね……。

 

「ダメだよきら。困っている人を見捨てていたら、いずれ大事な人だって見捨ててしまうことになる。だからダメ」

 

見捨てることに慣れすぎてしまうと、大事な人だって咄嗟の判断で目捨ててしまうことになる。それはとっても恐ろしいことだと思う。

だからだめだ。それはやってはいけない。

 

そこできらがため息をついた。

 

『……気づいてないの?貴女感情が希薄になっているわ。無理をした後遺症よ。今の、今までの貴女ならもう少し感情が出ていたわ』

 

「私の……感情が……?」

 

言われてみればそうかも知れない。心の動きがなんだか鈍いような気がしないでもない。……いや、正直わかんないな。

でも……そうだな。確かにピッコロ大魔王のことを思い出しても、張り倒してやりたいとしか思わない。

戦っている最中に抱いていた強烈な殺意(具体的には体に風穴をたくさん開けた後、再生忍術で体を戻して、最終的に体の細胞が全て壊死してどろどろになるまで殺し続けるほど。……いや、やっぱ無理かも)。

それが今は浮上してこないのだ。

 

『貴女今凄いこと考えてなかった?……まあいいわ』

 

少し怯えたような声を出したきらが咳払いをして話を進める。一体何があったというのだろうか?

 

『……貴女は足りない霊力を自らの魂を削って肩代わりしたのよ。下手をすれば死ぬどころか消滅してたわ。私の目が黒いうちはもう二度とあんなことさせないからね』

 

「……そっか。その魂の傷は直らないの?」

 

『……いいえ、直る。何百年とかかるけどね』

 

……なら、問題ないね。どうせ今から三百年は生きる予定だし。

 

「まあそうでもしないとね。知っててあの惨劇を回避できなかったんだから」

 

あらゆる街に張り巡らせた分身ネットワークも。

自分の街に設置しておいた感知結界も。

そして私自身も。対策にはなり得なかった。

 

『仕方ないでしょう。もう今年に入って九ヶ月が経つわ。毎日毎日いつ来るかもわからない敵を夜通し世界中で探していればまともに動くこともできなくなるに決まってる。そもそも無理な話だったのよ』

 

確かにそうかも知れない。でもだからといって多くの犠牲が出てしまったことをなかったことにはできない。

大変なことをわかっていて誰にも相談しなかったのは私なのだから。

例え説明した後の反応が怖かったからといっても。

 

カリン様にも神様にも記憶を読まれることは避けたかった。それが一体どんな結果につながるのかわからなかったから。

記憶を読んだ結果、よかれと思って行動したことが裏目に出ることだってあり得ることだ。記憶を読んだわけではないが、原作の界王神だってその一例たり得る。

 

最初が小さなバタフライエフェクトでも今は原作から三百年も前だ。孫悟空が地球の味方として存在しない未来が生まれたりしたら、私はどうしたら良いのかわからない。

いや……それを言えば私の存在だってバタフライエフェクトになるのか。

……今これを考えるのはよそう。私がこの世界に生まれてすぐに死を選ばなかった時点で、既にどうしようもない。できるのは悪い方向に逸脱しないように見守ることだけだ。

 

ともかく私は失敗したのだ。あと少しで武泰斗様をも死なせてしまうところだった。

 

『……あんたは良くやったわ。毎夜神経をすり減らして世界中を分身で監視してた。貴女……分身の活動時間合わせて一日どれだけ起きていたかわかってるの?修行で慣れていると言ってもやり過ぎよ。ブラック企業も裸足で逃げ出すわよ?』

 

まあ確かに数百人体制で監視していたけども。結局無意味だった。

たくさんの人が死んでしまった。なら私の九ヶ月は無意味だった。

そうは思わない?

 

『……貴女、感情が死んでるから無駄にネガティブになってるわ。しゃんとしなさい』

 

そうだろうか?これは結構普通な考えだと思うけど。

どんなに頑張ったって。どれだけ準備したって。

結果が出せなかったらそれは無意味だ。

 

『そうじゃないわ。やろうとした。それ自体に意味があるのよ。じゃなきゃ世の中なんて無意味なことだらけじゃない。それに他の誰かが同じ事を言っていたら貴女は必ず否定するわ。自分を戒めるために言っているとはいえ、結局は自分が否定するようなことを言う物じゃないわよ』

 

そう……なのかな。そう言ってくれて少し気が楽になった。

 

「……ありがとう。きら」

 

『ふん。貴女のその無駄な卑屈さが鼻についただけよ』

 

ふふ、そう言っていつも私のことを考えてくれているんだよね。ありがとう。

そんなことを考えていたせいだろうか。

私はカチャリとドアが開く音に全く気づかなかった。

 

「……イナリ。起きたのか」

 

気づけば開いた扉の前には亀が立っていた。

 

 




ちなみにきらは話をそらして『主人公以外はどうでも良い』を翻していません。
彼女はイナリの言うことを聞くばかりではない強かな女性なのです。

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