武泰斗様や亀たちとの協議の結果、ピッコロ大魔王の入った電子ジャーは結局原作通り海に沈めることに決まった。この時代、深海に近づく方法は人類にはないからだ。
少し違うのは、封印が解けた時点で私に伝わるように細工をしたと言う点。これでなにかの弾みで封印が解けても、すぐに私に伝わる。すぐ対応に動くことが可能だ。
もちろん他の方法も考えてみた。
人に見つかった場合、知らずに封印を解いてしまう可能性がある以上、そもそも人が近づけない場所であるのが前提条件だ。
そのため森や砂漠なんかの人が訪れる可能性のある場所は除外する。
結果まず思いついたのは私が持っていること。
だが却下。さっき言ったように人が接触できる可能性があるし、ずっと私が見ているわけにもいかない。
何より戦闘になった時に余波で電子ジャーが壊れたら目も当てられない。
影分身をずっと側に置いていればいいかもしれないけど、やはりそもそも近づけない方が守りとしては堅実だ。影分身は強い衝撃で消えてしまうデメリットもあるし、時間経過で消えてしまう。
何より嵩張るんだよねあれ。邪魔です。
次は宇宙に放り出すこと。
だが不可能。宇宙に行ったら私が普通に死にます。
結界忍術を応用すればいけるかもしれないけど今の私では無理。
空気のあるギリギリの成層圏あたりから宇宙に向かって電子ジャーを投げる案も考えたけど、確実性がないから却下。流石に月までは投げられないし、失敗して重力に引かれて地球の周りをぐるっと回ったりしたらどこに行ったかわからなくなる。電子ジャーは落下途中で燃え尽きるだろうけど、ピッコロ大魔王は生き残るかもしれないし。死んだら死んだで問題があるんだけど。
そう言うわけで宇宙案はなし。
最後はカリン様に預かってもらう案。
これは申し訳なさから却下。何かの弾みで封印が解けた場合、真っ先に殺されることになるのがカリン様だ。その恐怖に300年も晒すのは忍びない。私の感情が元どおりで、自分を殺せる奴が封印されたものが常にそばにある状況に放り込まれたら、きっとストレスで禿げる。
普通は無理だ。
例えば、ゲームやアニメなどにでてくる強大な存在の封印を守っている的な一族もいるが、あれは世代交代が進んで実物を知らない場合がほとんどだ。
その場合は伝承は口伝で行われるので恐怖がだいぶ薄れている。だがカリン様に世代交代はない。実物を知っている上でそれを守っていくのは、相当な覚悟を要する。そんなわけで、結局海に沈めることが一番だと結論が出た。
さて。それはそれとして今は目が覚めてから早数日。武泰斗様の道場があるトレインシティで、私はピッコロ大魔王の被害からの復興の手伝いをしていた。
人間たくましい物で、あんな被害があった後でも立ち直る力は持っている。
私も全力で手伝わせて貰った。影分身でいろんな場所を回り、困っていそうな場所で手を貸していく。壊れた建物なんかの材料を運ぶのが一番多かったけど、この程度の材料の重さなら楽勝だ。全く苦にならない。
少しでも役に立てるのなら安い物だ。
とりあえず最低限度、二次災害での被害が出ないレベルまでは立て直すことができた。
「あ、亀、鶴」
「……なんだイナリ」
「どうしたんでしょうか、イナリさん」
そろそろ出かけようかと言ったところで、歩いている亀と鶴を見つけた。丁度良いので少し話をしておこうか。
「少しやる事ができたからちょっと出てくるね」
「……そうか。いつくらいに戻れる?」
「わからない」
ゆっくりと首を振った。どれくらいの時間がかかるかはまだ未定だ。
一日で済むかもしれ無いし、一年はかかるかも。
おそらく今は離れるべきで無いと考えているであろう。皆ピッコロ大魔王の被害を受けてもくじけることなく、復興に向けて頑張っている。
亀は難しい顔をしていた。鶴だってそうだ。
さて、どうやって説得したものか。
「……気をつけろよ」
「え?」
「気をつけろって言ったんだ。そんで早く戻ってこい。皆待ってるから」
「……うん。ありがとう。ごめんね、二人には迷惑を掛けることになると思う」
「そんなことないですよ!アタシはイナリさんの戦う姿を見てまだまだ人間捨てたもんじゃないって思えました。貴女の分身が大量の眷属を退けていく姿には痺れました。だから貴女はもっと偉そうにしても良いんですよ」
「そうだ。偉そうはやり過ぎかも知れないけど、お前の頑張りを知っているやつで文句を言う奴なんていないって。もっと気を楽にすればいいさ」
「……うん、ありがとう。じゃあ行ってきます」
二人の思いに涙が出そうになったけどそれをグッとこらえ、踵を返して歩き始めた。
既に料理を教えてもらっている所には話を通してある。時間がかかるかも知れないことも。だからこのまま行っても問題ない。
私が今考えていること。それは今回の件で死んでしまったみんなを、ドラゴンボールで生き返らせる事だ。
ただ、世界に散らばるドラゴンボールをレーダー無しで探すのは至難の業。そもそもこの時代はカタッツの子が神になった直後で、作られているかも世に放たれているかも怪しい。
亀の話にも何度か出ていたし、占いババに頼むのもアリだったけどもっと手っ取り早い方法をとることにした。
飛雷神の術で目的地に跳ぶ。着いたのはカリン塔。狙いはその先の神殿だ。
直接本人にドラゴンボールを使わせて貰う。文字通り自分の身から出た悪意だ。それくらいのサービスはあってもいいと思わない?
「……来たかイナリ」
カリン塔に飛んで最初に目に入ったのが、神妙な表情をしたカリン様だった。やっぱり下界の様子を見て知っているんだろうね。
「単刀直入に言うよカリン様。ピッコロ大魔王がどうして現れたのか知ってるよね。知らないとは言わせないよ」
有無を言わせぬ口調。カリン様が悪いわけではないので心苦しいがここは心を鬼にして続ける。
「……うむ、知っておる。じゃが……」
「……私には知る権利があると思うんだけど?」
「そう言われると弱いの……。わかった話そう。儂の知るピッコロ大魔王の全てを」
しばらく渋っていたカリン様だったが、私の故郷がどうなったかも知っているのだろう。ちゃんと話してくれた。
カリン様から聞いた話はおおむね原作通りだった。
神様になりたかったカタッツの息子が神として認めて貰うために悪の心と分離した。そしてその悪の心は神の元を逃げ出し、ピッコロ大魔王になった。
少し違うのは、自らも神になろうとしていたガーリックが、ピッコロ大魔王の封印の邪魔をしたということだろうか。悪の心が地上で暴れれば、カタッツの息子に対する先代神の心象をを悪くし、自分こそが神に選ばれると思ったらしい。もちろんその思惑はバレ、今代の神はカタッツの息子になった。
それを不服に思ったガーリックは反逆し、今も神殿に対し波状的に攻撃しているらしい。
「へえ、そうなんだ」
ちゃんと封印をしようとはしていたんだね。それをガーリックが邪魔をした……。そっか。そうなのか……。
「これが神殿に至るために必要な鈴じゃ。これがないと神殿に着く前に弾かれる」
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
カリン塔の頂上。そこに設置されている如意棒を上へと伸ばし、神殿へと続く一本の柱にする。カップ麺ができそうなほどの時間が経過して、遂に神殿に到着した。
伸びきった如意棒が神殿の底に接合して止まったので、側にあったはしごを伝って登っていく。
少し長めのはしごを登り切ると静かに佇む真っ黒な人間がいた。とりあえず挨拶を。
「はじめまして」
「はじめまして。私はミスター・ポポ。神様の付き人をしている」
「私はイナリだよ。はいこれ鈴。これで神様に会えるんだよね」
「うん。ホントならテストがあったんだけどお前は特別。神様が会うって言ってる」
へえ、テストないんだ。じゃあ、ピッコロ大魔王のことで来たことはわかっているのかな?
まあ、ここでテストなんて言われたら対応が少し手荒くなったとは思うけどね。今は感情が薄くなってるから、キレちゃうことはなかっただろうけど。それでもやっぱり感じることはあっただろう。
私の怠慢で防ぐことができなかったとはいえ、下界で起こった事の元凶とも言える人に雑な対応をされれば私でもきっと怒ったはずだ。神様にとっての規則といわれればそれまでだけど、どれはそれだ。
とは言えそれはもしもの話。今は全く関係がない。
「着いてこい。神様の所に行く」
「うん。お願いね」
……実は電子ジャーを火山にぶち込むのを思いついたのですが、それをすると電子ジャーもろともピッコロ大魔王が死んで、神様も死んで、ドラゴンボールも死んで、原作も完膚なきまでに死ぬので、そもそも主人公には思いつかせませんでした。
思いついても結構な葛藤の末にやらない方を選んだとは思いますが、テンポを考えると不要かなと。