地球人で転生!!~でも人間じゃないよ~   作:ねむ鯛

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ご指摘を頂き、カストロの念能力「ダブル」を「デュアル」としていたのを改稿しました。ご指摘ありがとうございます。

カリン様視点です。


第八話 不思議な来訪者

カリン塔の主である仙猫カリンは、その日来客の気配を感じ取って下界を見下ろしていた。

ここが挑戦者が現れるカリン塔である以上、それは珍しくあるものの驚くべきことではなかった。

 

ただ、その挑戦者は珍しいことに女性だった。

その女性はさらに珍しいことに、腰に刀と言われる極東の珍しい武器を提げた獣人の女性だった。しかもそれが大層な美人であるなら尚のこと。

 

濡羽色をした髪を腰当たりまで伸ばし、同一の美しさを持つ狐の耳と尻尾を風に揺らしている。

その瞳は星の輝く夜空のよう。

大きな瞳とスッと通った鼻梁のかわいらしい顔立ちで、顔に浮かべた自信に満ちた表情は見るものに快活な印象を与え、魅了して止まない。

すらりとした体躯は、しかし少しばかり幼くは見えるものの、女性と少女の境界にある危うい色香を秘めている。

 

仙猫であるカリンをしても、美しいと感じる程であった。

見た目の年は15程。その歳でここを登ろうとするなら、驚くべきことだ。しかし仙猫であるカリンは、その女性が見た目相応の歳でないことを見抜いていた。

 

(なんじゃ?20……。いや、もっとか?むむ、なんとも分かりづらいのう……。……は?)

 

女性はいつのまにか塔の麓まで来ており、そして二人に増え、巨大化した腕でもう一人をぶん投げた。なんだそれは。

 

(またなんともけったいな奴が来たものじゃ)

 

常識で見ればありえない状況。しかし驚きはしたものの咎めることなど何もない。なにせ自らの技だ。それもまた修練のたまもの。

とんでもない速度で飛んでは来たものの、それだけでは天辺まで程遠い。やがて速度が緩み、落ちないように塔に張り付いた。

 

(ふむ、上を見てげんなり……か)

 

無理そうではなく、げんなり。それは彼女が登りきれる自信を持っていることを示していた。まあ、世の中には自信だけはあるものもいる。しかし……。

 

(大丈夫そうじゃの。すいすい登っておるわ)

 

彼女に関しては違うようだ。

今までにこの塔を登ろうとした者たちとは段違いのスピード。

 

(こりゃあ後四時間ほどで着くかのう)

 

今までにいなかったほどの傑物、それを確信して楽しげにヒゲを震わせた。

 

 

 

四時間弱。

スピードを緩めることなく円盤の底まで着いた彼女はしかし、流石に疲れたのか床に倒れ込んでいた。

 

だがカリンはそれは見ていなかった。

 

(なんじゃ?床に倒れた時の音に違和感があった。まるで物凄く重いものが転がったかのような……。骨格は獣人の女性のもので間違いない。何かが化けているわけでもない。……なら考えられるのは重しか?……呆れた奴じゃ。この塔を重しをつけて四時間で登りきったのか?)

 

ともかく考えているだけでは始まらない。

 

仙術で寝転がっていた彼女を呼びつけ、歩く足音で確信を深めた。

体格に対してあまりに音が違いすぎる。

 

(まるで鉄の塊を背負っているようじゃな。よくやるのう)

 

これもまた彼女にとって修行なのだろう。なら自分がとやかく言う必要はない。

 

「お嬢さんよく来たのう。儂はカリン。仙猫のカリンじゃ」

 

「はじめまして、イナリです。修行しに来ました」

 

イナリと名乗った女性は、背中で揺れている髪と同じ濡羽色の尻尾をゆったりと揺らしていた。視線はカリンから外れることはない。

この魅惑のぼでぃーに見惚れてしまったのかな?……まさか食べる気じゃないよね?

 

ふるふると雑念を振り払って、自己紹介を終えたカリンは正直な疑問をイナリにぶつけてみた。

 

「ふむ、成る程。今でもかなりのものだと思うのじゃがまだ上を望むのかね」

 

「いや、まだ全然足りないんだけど……」

 

(強くなりたいではなく足りない……。まるでこれから必要になるときが来るかのような……。考えすぎか)

 

仙猫であるカリンは心を読むことができるが、不必要に探る必要はないかと考えを断ち切った。話すのが苦手なわけでもないのにみだりに心を読むものではない。

それに流石に心を読まなくとも邪な者かそうでない者かぐらいはわかる。

 

「ふむふむなるほどのう。では儂からこの超聖水を奪い飲んでみよ。さすれば力が何倍にもなろう」

 

カリンは中央に鎮座されていた壺を杖を使って持ち上げ、先端に引っかけた。

 

(まあこれはただの水なんじゃがのう)

 

「わかりました。やってみます」

 

力強い踏み込みとともに一気に近づいてくるイナリ。

だが武を嗜んでいるカリンから見ればそれはいささか直線的すぎた。

 

(早い。だが上手くはない。無駄な動きもいくつか見える。才は並か。なるほど、努力型じゃな)

 

おそらくは鍛え上げた身体能力でもって戦ってきたせいで、競える相手が少なかったのだろう。その様は少し力任せな気もした。

 

「ほれほれ、無駄が多いぞ。儂はこっちじゃ!」

 

「くっ……!」

 

武の術理を以ってそれを教えるように翻弄するカリン。

上手く捕まえる事のできないイナリは悔しそうに歯噛みしている。

 

「どうした、下で出しておった分身は使わんのか?」

 

ひょいひょいと少女の攻撃を身軽に避けながら、誘いをかける。

 

「今日は、もう、無理、だから。このっ!」

 

「そうか。それは残念じゃのう。その刀も使わんのか?」

 

「これは、持ってる、だけ……!!武器は……苦手なの!」

 

そんなたわいもない話を続けながらも、カリンはイナリの観察を続けていた。

 

(不思議なやつじゃのう。動きのキレが一度上がると下がることがない)

 

普通ならそんなことはありえない。

練度が上がるにしても普通なら10回に1回良い動きができ、それを積み重ね、10回に10回良い動きが出来るようにしていくものだ。

だが、この少女は1回良い動きをすれば後の9回が全て良い動きになる。

 

動きのキレがよくなり始めるタイミングは平凡だ。才は並、その評価に齟齬はない。

だがその成長スピードは眼を見張るほど。

 

カリンに知るよしもないがこれもイナリの完全記憶能力による物だった。

 

(なるほど、努力型ではなく超努力型といったところか。あるいはこれも才能型かの。なんにせよもう一段階ギアを上げるとしよう)

 

仙猫は落ちる事のない少女の動きのキレに、大成の予感を感じ気合いを入れ直した。

 

 

六時間程の格闘の末、遂に少女の体力が尽きた。

最後あたりになると流石に動きのキレは落ちていたので、疲れると維持はできないのだろう。疲れても同じキレを保っていたらどうしようかと思っていたカリンだった。

 

「はあ……、はあ……、ふう……。なんで……」

 

「まだまだじゃのう。相手の動きを予測せねば無駄な動きが増える。増えた無駄は相手に隙を与えるだけじゃ。特に相手が動きを読んでくる場合はな」

 

「わかりました……。ありがとうございます……」

 

フラフラと立ち上がった少女に、カリンは壺を持っていく。

 

「ほれ、これは仙豆といってじゃな、一粒食べれば十日は食事を摂る必要がなくなり疲れも吹き飛ぶありがたい豆じゃ。食べて良いぞ」

 

「あー、……うん。いや……」

 

なにやら少女は逡巡していたようだったが、首を横に振った。

 

「やっぱりいいや。ありがたいけど、家で両親とご飯を食べるので」

 

「ふむ、帰るのは良いがその疲れで大丈夫かの?」

 

「うんまあ。瞬間移動みたいなことができるので」

 

「は?瞬間移動?」

 

「うん。このお皿を目印に飛んでくる事ができるの。ここに置いてても良いですか?」

 

「ほ?うむ、構わんが……」

 

許可を出すとパアっと笑顔を浮かべて、端の方に駆けていった。頭の上の耳がルンルンしている。非常に感情がわかりやすい。

お皿を小さな木箱にしまい、しゃがんでそれを置く。

 

「じゃあ今日は帰るね。ありがとうございました」

 

「……うむ、ゆっくり休めよ」

 

ペコッと頭を下げるとすぐに姿が見えなくなった。

 

「……けったいな娘じゃなぁ」

 

 

 

カリン塔二日目、前日と同じような手合わせが朝早くから繰り返され昼になった。

 

「はあ……、はあ……」

 

「だいぶ良くなっておるぞ。あとはその予測を的確かつ即座にできるようになることじゃな」

 

「はい……」

 

しばらく大の字になって休んでいた少女はおもむろに起き上がると、持ってきていた鞄をあさり始めた。

 

「せっかくだし今日はお昼ご飯をごちそうしようと思うの」

 

「ひょ?儂は仙人だから食事はいらんよ」

 

「でも食べられなくはないでしょう?一人で食べるのもなんだし、一緒にたべてくれない?」

 

純粋な好意によるもの。特に理由もないのに断る必要もないかと、頷くことにした。

 

「そういうことなら御相伴に預かろうかの」

 

作ってもらえるなら断る必要もないかと頷いてみせる。するとイナリはとてもうれしそうに笑顔を咲かせた。

尻尾がブンブンしている。非常に感情がわかりやすい。大丈夫だろうかこの娘。

 

「……は?」

 

準備を進めていく少女を眺めている内に、またもカリンは訳のわからないものを見ることになる。

 

まずどこからともなく台が現れた。とても料理に使いやすそうな機能的な台じゃな……。違うそうじゃない。

混乱している内に、まな板が台の上に現れ、取り出された野菜がいつの間にか握られた包丁で一瞬で刻まれ、その上に落ちる。すると、フライパンがいつの間にか現れ、台に開けられたちょうど良い大きさの穴に乗せらた。穴の下には空洞が見えたので薪でも入れて火を付けるのだろうかと思っていると。

 

「火遁・狐火」

 

違った。

 

「…………は?」

 

少女はいきなり炎を作り出すと円形に並べ、それをフライパンの下に設置した。

気づけば台に鍋やらフライパンやらが追加され、食材が一瞬で処理されると、加工されていく。手元の速度など目にもとまらず、まるで何かの舞を見ているかのようだった。

 

「できたよ。食べよう?」

 

(けったいな娘じゃな)

 

結局、謎の娘は謎が深まるばかりだった。

 

ちなみに料理はめちゃくちゃうまかったです。

 

 

三日目。

朝からの追いかけっこの後昼食を食べ終え、続きをしようと少女が立ったところでカリンが待ったをかけた。

 

「のう、イナリよ。お主は不思議な術を使うがあれは儂には使わんのか?」

 

「えっと……」

 

「どうじゃ、一度あれも含めて本気でやってみてはくれんか?少し気になっておっての」

 

「あー……、うん。わかった。じゃあ行くよ?」

 

僅かに逡巡していたようだったが、どうやらやる気になってくれたようだ。

 

「うむくるがよい」

 

瞬間、少女の姿がかき消え、気づけば僅かに杖の重さが減っていた。

 

「………………は?」

 

まさかという思いで出杖の先を見るがそこには既に壺はない。気配を感じて後ろを振り返ってみると、バチバチと薄く電気を纏って佇むイナリの姿が。

彼女はカリンの様子に気づくと電気を消し、歩いて来て壺をずいと突きだした。

 

「ハイこれ、返すね。もう良いかな」

 

「う、うむ」

 

(この儂が全く見えなかった。なんちゅう娘じゃ)

 

さしものカリンも冷や汗を流したという。

 

 

 

五日目。

 

今日もイナリは地面に倒れ伏していた。違いは手の中の壺だろうか。遂にカリンから壺を奪うことに成功したのだ。三日目のせいで結構今更感があるが。

 

「はあ……、はあ……、ふふ」

 

「うれしそうじゃな、イナリよ」

 

「まあね。でも五日もかかっちゃった」

 

カリンは(儂から五日で壺を奪おうとする方が間違いなんじゃがな)と死んだ目で思っていた。なお薄目すぎてその様子は見えない模様。

 

「重しを付けてやろうとするからじゃ。そんな者は前代未聞じゃぞ」

 

「あははー、ばれちゃってた?」

 

「まあの、体格から予想される足音とお主の足音に違いがありすぎる」

 

「うへぇ、そんなことでわかるの?」

 

「わかる。仙猫を舐めるでないわ」

 

「ははー、お見それしました」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

深々と平伏するイナリに胸を張るカリン。

とまあこんなやりとりができるくらいには二人は仲良くなっていた。

 

 

 

「じゃあもう行くね」

 

「うむ、旅を続けるのじゃな?」

 

「そうだよ」

 

この五日間でカリンはイナリが食堂の看板娘であることや、瞬間移動や分身を使って旅をしていることを聞かされていた。

 

「お皿置いていくから、たまに遊びに来るね」

 

「うむ、楽しみにしておくぞ。励めよ」

 

「うん。おいで、筋斗雲」

 

筋斗雲。

 

黄色い雲の形をした乗り物で、なんとマッハ1.5の速度を持つおしゃれなマシンだ。

心の清い者しか乗れない条件があるが、試したところイナリは乗ることができた。

イナリとしては人並みの欲はあったので不安だったのだが、筋斗雲的には問題なかったのだろう。

壺を取ることができたお祝いとして、カリンがイナリにプレゼントしたものだ。

イナリはたいそう喜んで、こちらまでうれしくなったものだ。

 

「ばいばいカリン様」

 

簡単な別れの挨拶とともにイナリは筋斗雲に飛び移り、瞬く間に見えなくなってしまった。本人はまあ来るつもりなのだからこれくらいで良いのだろう。

 

「……濃い五日間じゃったの。じゃが悪くない」

 

結局、不思議な娘はさらに不思議であることがわかっただけだった。

けったいな娘であるという印象は今も変わらない。

だが好ましいと思うほどにはカリンも絆されていたのだった。

 

 

 

 




カリン様は重しと言っていますが、正確には違います。気づいている方もいるとは思いますが、詳しくは楽しみにしておいてください。

包丁の切れ味が良いのは風遁チャクラです。

料理道具がポンポン出ているように思えるかも知れませんが、実際には料理の手順から逆算して十秒ほど前から準備しているからこそできる芸当です。
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