かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
基本強敵相手だとコメディが取れそうになるから困る
なので更に部長に責め苦を与えるものとする
──自分がどこまでも人と馴染めない人間だと思ったのはいつの事だっただろうか。
俺は、色々と考え事は出来る。見る力もあって、いろんなことに気が付くことが出来る。体幹だって、まあ人並み以上にはある。
相手が自分を見て、大体何を考えているかも分かる。
けど俺は喋らない、
それは障害とか、そういった体質的なものではない。
単に、話すのが苦手なだけ。
何かしゃべっても、大概勘違いされたり、何度も聞きなおされたり……迷惑をかけることしか出来ない。
なんでなんだろうか。相手がどう思っているかはわかるのに、言葉では碌に伝わらない。
そんなことばかりだったからだろうか。
俺はいつの間にか口数が減っていき……ある日とうとう、喋ることを止めた。
喋ろうとする力を、他に注ぐようにした。
誰かに話しかけて時間を取られるなら、その分早く自分で動いた方が何倍も効率的だった。
無口になれば、みんな「アイツは何を考えているのかが分からない」で統一されてやりやすくなった。
俺の事は俺しか分からない。
下手に教えて勘違いされるなら、何も教えなくてもいい。
そんなことばかりしている内に、俺の口は機能を落としていき……今では喋り方すら忘れてしまっている。
けどいいやって、どうせ思い出しても今更伝えたいことなんてないし。そうやって、生きていこうと思った。
……あの日までは。
「──サッカーやろうぜ?」
彼が来たのは、そう心に決め中学に入学し、一週間程度が過ぎた頃。
花壇の花が枯れそうだなと思って、水をやっているときのことだった。
第一印象は不思議不可思議、ナゾな人? とにかく分からなかった。
まず疑問に思ったのは、「この人、一体何を考えているんだろうか?」ということ。
静かに、返事もしない俺に対して彼は眉一つひそめることなく話しかけてはいたが……決して無表情という訳でもなかったのに。
対面している時に出る所作、表情の動き、或いは喋り方。
どれもこれも、俺が短くも積み重ねた経験からは想像が出来ない。この動きをしたという事は今彼は、というのがテンでバラバラ。
しかし決して支離滅裂、思考破綻者と言うわけでもなさそうで、彼から感じさせる一つ一つには確かに、何か一本芯の通ったものがある。
悪い人ではなさそうだが、どうしようか。
サッカーは好きだけど……と、しばし悩み「お試しで少しだけ」と思った時、また別の衝撃が俺を襲った。
「──そうか、ありがとう」
「……? ──ッ!?」
彼は、俺の伝えようとしたことを受け取っていた。
首を傾ける、手で何かジェスチャーしたわけではない。
何故分かった? 頭の中は混乱し、口は開き呆けてしまう。
「……違ったか?」
しまった。混乱が伝わってしまったようだ。
違う、サッカーはやる。
「……ならよかった」
だから何故分かるんだ!?
もしかして心が読めたりとか、そういった力を持った人なのか。混乱のあまり思わず、特異な才能の存在を疑う。
すると彼は「雰囲気」とだけ答えた。いわゆる空気が読めるという奴、だろうか?
それでも、動きも喋りもなく……理解できるものなんだろうか?
体の動きも、言葉も含まないナニかを理解する彼。
この人なら──、
少しだけと揺らいでいた天秤は──勢いよく彼の方へと傾いた。
「……よろしくな、カガ」
その後も、彼は俺が思うだけで理解してくれた。
DFをやってみたいとか、背番号は五がいいとか。
それを周りの仲間達に伝えてくれて、自然に他の人も俺の事を少しずつだけど分かってくれるようになった。
……流石に、キャプテン並みにとは行かないけれど。むしろこれでもみんなかなり凄い方だ。
毎日はどんどん楽しくなっていって、前のような仏頂面が抜けて来ている内に、俺はふと思った。
──きっと、きっと俺の言葉を皆はちゃんと分かってくれる。
なら、言わなきゃ駄目だろ。なぁ俺? って。
だから俺は、みんなに……喋れるようになったら
今日はウリ坊が掃除を手伝ってくれたとか、アルゴに美味しい甘酒を貰ったとか。色々。
ただのジェスチャーでも、文字でもない。ちゃんと俺の言葉で、言わなくちゃと思うことがいっぱい。
俺の中に詰まって、頑張る原動力になっている。
いつか、喋り方を思い出した時は……。
まず最初は、部長の所に行く。行って、言う前に多分全部悟られちゃうけど……伝えたいことがあるんだ。
誰にも見せないメモにすら書いていない、心の中の0ページ目。
部長、俺を──。
◇
最近やたら視線を感じるようになってきたが、辺りを見回しても誰もいない。せいぜい散歩中のおじいさんがプルプルと震えているか、近くの電柱にやたらカラスがとまっているぐらいだ。
まさか、カラスが死にかけの俺の肉を貪ろうと集まってきたのだろうか。
なんてな、流石にないよな。
元々この地域にはカラス多かったし、気のせい気のせい。
……多分、死んでも包帯やら湿布だらけですっごい不味いと思うし。
「部長、部長ー!! しっかりと見てて下さいね!」
あ、うんウリ坊。大丈夫、見てるよ。
最近やたら意識が飛ぶようになってきてるけど、今は大丈夫。
なんか、メアのエンゼル・ブラスター受けた後とか気が付くと数分経ってたりとかする。怖い。
DFいなかったら多分これが永遠になる。なお怖い。
幽体離脱とかしてるのかもしれない。幸いなことにまだ誰にも気づかれてないみたいだが。
探りを入れてみたところ、なんか俺が意識失っている時もちゃんと返答とか練習もできているらしい。
夢遊病かな。
「……行くぞ、ウリ坊!」
相手はトール。まぁつまるところ、また
しいて言うなら、今度はトールが攻撃側だってことだ。彼の鍛え上げられた丸太の様に太い足から力強いドリブルが繰り出される。
「よーし──!」
ウリ坊はトールが走り出したのを確認すると、ただでさえ低い体躯を屈め、同じく自分も走り出した。
この時点で、ウリ坊の頭はボールと同じ高さにまで下がっている。
「まっすぐ、すばやく、豪快に……!」
次第にウリ坊は加速していく。普段なら一歩で進む距離をワザと二歩、三歩……踏み込み蹴り出す回数を増やす。
──やがて、ウリ坊のその小さな体は……大猪の幻覚を見せるほどの突撃を成した。
「──猪突猛進!」
横で見ている俺ですらそう思ったのだ。対面しているトールには、どれほど凶暴な猪に見えているのだろうか。
これがウリ坊が作り出した必殺技。
周りの事を考えず、ただまっすぐに力を込めた走りから暴れ猪を見せて相手を脅かし、ボールを奪う。
相手が怯えずとも、イノシシは全てを轢き倒し走り去っていく。
……なんでバングといい相手を吹き飛ばす技を覚えるんだお前ら。
よほど鬱憤が溜まってるのか。
話が逸れた。ともかく、その勢いを正面から殺すことは不可能だという事は傍目でも分かった。
「──っ、負けっかぁ!!」
……それでも、トールは止まらなかった。
むしろ、相手を弾き飛ばしてやると更にドリブルの勢いを強めた。
みんながギョッとする。その姿は奇しくも、高天原の必殺シュートに対し頭突きで応えた俺と重なった。
つまりは俺と同じ、無茶な行動だ。
「──ん?」
いくらトールが力を強く振るおうとも、今のウリ坊を止められる訳が…そうと思いながら彼らがぶつかる瞬間、トールの動きに違和感を覚えた。
けれどそれが何かは分からなくて……そのまま二人は激突する。
結末は……想像したとおりになった。
「……やられたか」
「ふぅ……あっ、見ましたよね部長! これが僕の新必殺技です!!」
トールは猪に吹き飛ばされ、ボールは笑顔のウリ坊が頭の上にのせていた。
ウリ坊の努力が実ったことは喜ばしい。ついでに、この技は「シュート相手にも使える」という事実がめっちゃうれしい。
これで敵の必殺シュートも怖くないぜ!! あ、嘘です……出来れば普通のサッカーでお願いしますほんと。
「……やったな、ウリ坊」
「~~っ、はい!」
一先ず走り寄ってきたウリ坊におつかれの言葉を贈る。
うれしさのあまりか、ハイタッチをしようとジャンプして俺の高さに合わせて叩いてきた。そこそこ痛い。
強く叩きすぎだぞ。ようやく火傷も治って筋肉痛しか起きていない右手なんだからもっといたわってくれ。
何度も跳ねてくるウリ坊は、地味にダメージを蓄積させてくる。
やっぱり君俺に敵意ない? ないってわかってるけどさ。
「おぉ~すっごい、めちゃくちゃキバすっごい猪だったッスよウリ坊!」
「先こされちまったな! 俺ももう少しなんだが……」
「……!」
そしてまた同じようにウリ坊を褒めたたえる皆。
あとカガは俺も続くぞと言いたいならウリ坊の目の前に出ないと伝わらないと思うぞ。
何はともあれ、みんなの声(一人だけ違うけど)を受けて増々ウリ坊の力強さは増していく。やめて……。
……まぁしょうがないか。これで三人目。
メア、バングに続き三つ目の必殺技だ。オリンピックで言えば銅メダル。体長を気にしていたらしい彼が、自分の何倍もあるトールを吹き飛ばせた。
その興奮は、計り知れないものがあるのだろう。
「……くそっ」
けれど、仰向けになっているトールを見ると……何とも言えない感情が込みあがってくる。
トールは、明らかにスランプだ。ディフェンス能力は上がってるし、筋肉量だって日に日に増えている。
それなのに、一向に必殺技にたどり着けない。
今まで気にせずとも、喧嘩をしている内に強くなっていったといつの日か話していた彼にとって「伸び悩む」ことがどれだけ苦痛か。
だから、トールは積極的に他の部員の必殺技を受けに行っている。
みんなの技を受けて、少しでも感覚を掴みたいと俺に零していた。
その努力もかなわず、今日DFの中でウリ坊に先を越された。同じDFのグラさんとカガもその片鱗を見せている。
自分が一番、出遅れている。その思いが焦らせ、調子を崩す要因となっている。
……本当にそれだけなんだろうか? ふと思った。
俺の碌に信用性のない見立てだけれど、トールは既に技を完成させていてもおかしくない水準にまで来ているはずだ。
他に、なにかトールの足を引っ張っていることがあるんじゃないか……?
それさえ見つければ、きっとトールも……。
「よーしウリ坊の頭もかなり撫で回されたし、そんじゃみんな練習再開だ! 部長、俺達FW三人のシュートを止められるかな!?」
「……ジミーさん、僕はアルゴさんとドリブル練をしようとしていたのですが」
「まぁまぁ、アルゴくんはさっき甘酒を補充しに一旦学校に戻ったし」
……え、三人のシュートを今日は受け続けるの?
ははは、ナイスジョーク。ジョーク……。
トールの事も大切だけど、俺も必殺技をいい加減覚えないと死ぬことを、改めて思い知らされた。
必殺技の覚え方の本とか、後でネットで売ってないか探すか……。
「いくよリーダー!
──光よ」
了承を得ずに始めないでくださいお願いします!
あっ、翼が二対になって……維持しきれず、一対に戻った?
やった! まだ完成してないんだ。ははは、流石に才能マンでもそんなに早く完成は出来ないよな。
「……助けを求める人々へ」
でも死ぬね。
誰か助け──待てよ、助けを求める人々へなんだから助けてって言ったら逆に来るんじゃないか?
なーんだ、じゃあ助けなんていらないって思えばいいんだな。
簡単じゃないか。ははは、こんなことで技を防げるなんてちょろいちょ──、
「エンゼル・ブラスター!」
あっ、しまっ──助けて!
「──待って! 必殺シュート相手でもすごいってことを部長に見せるんだ、邪魔させてもらうよメア!
──猪突猛進!!」
調子に乗ったウリ坊がいきなり割り込んできた。
助けが来た!?
「ぐっ……うわぁぁぁっ!」
そしてウリ坊吹っ飛ばされた!?
でもボールの勢いはノーマルシュート並みになっている。これなら片手でも余裕だ!
助かった!
……まぁ、この後まだいっぱいシュートくるんですけどね。
◇
……夜中。
自分しかいない家で一人、眠たい瞼をこすりながらマウスを握る手を動かす。
その視線の先には、例の出品者の新しい品物が……相変わらず激安だ。
・【訳アリ】兄が三年間書き記した必殺技ノート【サッカーやる人に】
「……この子、本当はお兄さん嫌いとかじゃないよな?」
いくらなんでもノートは売らないでやれよ……買うけどさ。
なんだかんだ言ってこの人の兄が使っていたもの、やたら高性能なんだよな。スパイクとか諸々。
助かる。
購入っと…………うわ、また直ぐにメッセージ送られてきた!
怖い。いや同じ人から何度も買ってる俺みたいなやつも怖いだろうからおあいこだろうか?
けどなんか、今日のは少し長いな。
えーとなになに、「いつもありがとうございます! こんなに買っていただけるなんてきっと──ところで、是非とも使っているところが見たいので練習風景などを写真に撮って送っていただけませんか。
ちなみにどこに住んでらっしゃるんですか!?」
……ところでの使い方おかしくないですか。
しかも住所特定しようとしてないこの人?! こわっ。
助けて?
レギュレーション違反を確認
難易度上昇
-オリ技紹介
・猪突猛進
野生に生きる、野生中の人たちに似合いそうなブロック技
駆けこむ足を増やし、恐れを知らずただ相手のボールめがけてツッコむ。
暴れ猪を幻影として纏い、全てを引き倒す。
ファール率高し。シュートブロックも可能。
けどエンゼル・ブラスターにはかなわなかったよ……
~選手紹介~
・カガ DF 5番
いわゆる、無口な人。けれどいろんなものをよく見ており、相手の動きに耐えて、隙を見つけるまで食らいついて離さない。
隙をつける俊敏さというものはグラさんなどに比べると低めなので、スタミナ切れ狙いが大きいか。
あだ名の由来はカミツキガメ。本名は加賀。ゲームやアニメとかに加賀さんがいても特に関係はない。