かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
ちなみに地の文に ! ? とか使っていますが、一人称だしコメディだし許して許して……
特訓始まる日
夢を見た。
それは暗い教室で一人、掃除をしていたときのこと。
掃除当番を押し付けて帰っていった二人は、俺のことを「友達だよな」って言ってくれていたけど……友達って何なんだろう。悩んでいた。
「……」
そもそも、あの二人は俺のこと「お前」とかって呼んでたけど、一度たりとも名前で呼んでくれなかったような……。
友達って、一緒に掃除したり、あだ名で呼びあったり、一緒に帰ったりするものだよな。
間違ってないよな。何度も自分に投げかける。
「……」
答えなんて、とっくに出ていたのに。上辺だけの関係だろうって、分かっていたのに。
なら、掃除当番なんて投げ出して、明日三人まとめて先生に怒られてしまえばいいのに。
それも出来ずただ、ウジウジと手を進めていた
「──誰かいるのか?」
錆びついて滑りが悪くなったドアを、半ば蹴破るように強引にこじ開けた彼が、やって来るまでは。
「えっ…?」
「……手伝おう」
彼は、目が点になっている俺を見ると何か察したのか、ロッカーから箒一本取り出して手伝い始めてくれた。
後片付けまで一緒にしてくれて、そのまま一緒に帰ることにもなった。
帰り道、今日は何があったとか、好きなことはとか、今夜の面白いテレビはとか、俺の他愛ない話をしっかりと聞いてくれて、笑ってくれた。
やがて、途中にあった空き地を通りすぎようとした時。
彼は何処からか持ってきたボール片手に、こう言ってくれた。
「……サッカー、しようぜ?」
俺は、あの日を決して忘れない。
けたたましく鳴る目覚まし時計を止め起きる。今日は待ちに待ったあの日なのだ。
ゆっくりはしていられない。
すっきりとした目覚めを更に引き締めるため、俺はバンダナを頭に巻いた。
◇
──習合サッカー部の朝は早い。
どれくらいかといえば、俺の毎日八時間はあったはずの睡眠時間がなんと……六時間に減ってしまったほどである。
誤算だった。運動部はやたら朝練が好きなのだ。素人ばかりを集めたサッカー集団であっても、そこは変わらなかった。
眠く重い瞼をこすりながら起きて、寝ぼけながらシリアルをむさぼって、一度間違って後ろ前逆にしてしまったシャツを正しての登校。
気が滅入る。
何故部結成の次の日からこんなことに……俺はもっと、和気あいあいとした緩いサッカー部を作るつもりだったというのに。
もしかしたら昨日の俺の「フットボールフロンティア」という単語のせいかもしれないが……過ぎたことを気にしてもしょうがない、しょうがないんだ。
ふと、左腕にはめた腕時計を見た。
「(……約束の時間まで30分、歩けば20分はかかるけど十分間に合う……が、あいつらのやる気を考えると全員15分前にはいそうだな。
部を作った奴が朝練で一番遅く来るのは……)
……走るか」
走った。それなりに速く、具体的に言えば50m7秒切れるぐらいには。自慢じゃないが足はそこそこ速い。中学生でこれなのだから高校生になる頃には5秒台に入れるかもしれない、と己の将来性に夢すら見ていた。
◇
「あれ部長、まだ約束の時間にはちょっとはやくないスか?」
「……お前らがハァ、言うのか? フゥ……」
息を切らしつつ辿り着いた校門前には、すでに全員がそろっていた。
なんでだよ、まだ二十分以上前だぞ。お前ら全員常に三十分前行動とか心掛けてるの? 社畜もびっくりだよ。
しかもウリ坊とかはもうストレッチ始めてるし。
そのせいでなんか、約束の時間より前に来たのに遅れました感出てるじゃないか。どうしてくれるんだこの罪の重さ。いや、無罪なんだけどね。
「アハハ……みんな気合ノッてるみたいで。そんなことより部長、息切らしてますけど……」
まずい、ドベは嫌だから全力で走ってきました何て言ったら引かれそうだ。初手ドン引きはまずい。
かといって、なんて言うべきだろうか?
実は宇宙人がいきなりしょうぶをしかけて来て世界の命運をかけた戦いをしていましたとか……駄目だ、酸欠の脳みそじゃろくな返しが浮かんでこない。
「……なんでも、ない」
「え〜……絶対なんか隠してるっス」
誤魔化した。すっごいわかりやすい誤魔化し方だ。あかんこれじゃバレる。人目がなければ直ぐに頭を抱えて落ち込みたいぐらいやらかした。
希望ポジションはMF、〜スが口癖でおでこでバンダナがクロスしている、俺がポケモ〇のバ〇ギラスをイメージしながら「バングロス」、もといバングと名付けた彼もすっごい訝し気な目で見てきている。もう終わりだ。
「ふっ、甘いねバング」
詰め寄られこれまでかと腹をくくろうとしていた矢先に、
希望ポジションはFW、集めた十人の中では一番の優男。入学して一週間だというのに既に二回告白されたらしい経歴を持つ者。モテ男を目指していた俺にとっては最大のライバルであったため、皮肉を込めて「メシア」という事で、女っぽいしこれでいいだろうと縮めて「メア」と呼んだら甚く気に入ってしまった。恐らく厨二病の方だったのだろう。
普段から煌めくその髪も相まって、今は本当に救世主に見えてしまう。
「えっ、どういうことっスかメアちゃん?」
「……ちゃん付けはよして欲しいんだけど。簡単なことさ、僕らがリーダーは
「ズル?」
やっぱり違ったわ、こいつ堕天してるわ。なに自信満々に言ってくれてんだ、その銀髪を黒く染めて黒光りさせてやろうかメシアぁ!!?
無表情で睨みつける俺を、メアはどこ吹く風で受け流す。こいつホントメンタル強い……。
「リーダー、君は
「えっ、そうなんスか?! なるほど、だからそんな疲れてんスね!」
えぇ……練習の前に練習とか意味わかんないよ。否定した方がいいのか?
ああでも、家から学校までそれなりに距離あるし、そこから全力疾走してきたっていうのはある意味練習になる、のか……?
肯定でいいか。口にたまった涎飲み込むついでに頷く。
「はー、流石は部長。精が出ますね〜これから朝練ッスけど体力は大丈夫……って聞くまでもないッスね!」
あ、わかる? 実のところ結構疲れてるから約束の時間まで休ませてもらえると助かる。
あれ、みんな何でもう動き出してるの。 なんでみんな口々に「負けてられるか」やら「部長に続け」とか言ってんの?
違う、待って、このままだと俺ぶっ倒れるんだけど。続いたら俺の屍超えていけ状態になるんだけど。
頼むウリ坊、皆を止めてくれ。懇願と期待の混じったの視線を送る。
「……? あっ! 僕!?」
よかった、届いたようだ。
そうだ止めてくれ、なんなら始める前にちゃんともう一回ストレッチをしよう、とかで時間稼いでくれ。
あれ、なんでトコトコと俺の隣に来るのかな。 もしかして何言えばいいか分からない系かな。
そうだよね、息がまだ整ってないけどちゃんと言ってくれないと困るよね。ごめんごめん。
ん、なんで足踏み始めてるの?
「よーし、じゃあみんなぁ! 部長の後に続いて校外走るよ!
ゴー!」
違う。声かけ頼んだ、の合図じゃない。そんな奮起しないで!
そんな内なる声虚しく、強引に背中を押され走り出すサッカー部……当然、ウリ坊の言葉通り先頭は俺だ。
──習合―ファイ! オー! ファイ! オー! ファイ! オーー!!
決めた覚えのない掛け声が朝の学校に響く。
半ばやけになって全速力気味で走る。肺が痛い。
というか、みんな俺の後ろってことは……俺はどう足掻いてもサボれないじゃないか! 下手に遅かったら格好悪いじゃん?! 無理やり体動かしてでも走り続けるしかないじゃん!?
全身が既に悲鳴を上げているというのにこれ以上の無茶は……。
「(……いや待て、俺達は素人集団がいいとこの烏合の衆。いくらやる気に満ち溢れていると言っても、そんなに速く走れないはず)」
そうだ。その殆どがなにかスポーツをやっていたという訳でもなく、サッカー経験者も俺を含めて僅か二名という状態だ。
なんなら、早歩きと殆ど同じぐらいのスピードでも問題ないんじゃないか?
これは参ったな、最初のスタートダッシュはみんな景気がよかったかもしれないが、今の俺の速さに徐々に置いてかれるメンバーが出てきてしまうのではないか?
それじゃあ部長失格ダナー、ちゃんと速度調節シナイトナー。
そんな期待を込めて、曲がり角の所でチラリと後ろを見た。
唖然とする。
──全員ピッタリとついてきている。
なんならバング辺りなんて汗一つすらかいて無くない?
「部長、どうかしたんスか?」
「……いやゼェ、きつくは、ハァないか?」
「大丈夫ッス! なんならもうちょいペース上がってもいけますよ? な、みんな!」
──オゥ!
わーみんなすっごい優秀。泣きたい。これジョギングとかのペースじゃないと思うんですけど。
「あ、そうだ部長。これあとどれくらい走りますか?」
同じように息を切らしていないウリ坊がついでとばかりに尋ねてくる。そうかお前も余裕か。
俺? もうこのペース、下手すりゃもっと上げなきゃならないって気が付いて絶望と共に吐き気を催しているよ。
……せめて、せめて校外三周ぐらいだよね?! うちの一周は800mはあるはずだからそれだけ走ればアップに相応しいと思うんだよ俺。
その後軽くボール蹴ってパス練とかドリブルすれば丁度いい時間になると思うんだよ。
ということで、もうこれ以上喋ると吐いてしまいそうなので三本指を立ててウリ坊に見せた。
「──わかりました! 校外走30分 」
──オーゥ!!
助けて。
~選手紹介~
・バング MF 8番
おでこを中心にしてクロスするバンダナがトレードマーク。
小学生の頃はよくパシリ的役割をしていたそうで持久力に自信アリ(超次元的)
ッスが口癖だけど、偶にはずれたりしているのは気のせいなんだろうか(部長談)