かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
みたいなの誰か書いて♡
最近ツイッターでエゴサをしていると捕捉されて焦ったりしてる。
習合ユニフォーム決まりました。ロゴについてはデジモンなどを執筆されているアズマケイさまより頂きました!ありがとうございます
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※私の説明不足で感想欄にて混乱が起きていて大変申し訳ないのでこちらでも明記させていただきます。いずれの内容は本編にても説明が入りますが、ルール把握のためとして……
1.フェルタンが技パワーを食べることができるのは動物系必殺技かつ、動きが鈍っている物です。
2.蹴った瞬間にだけ気迫の様に出るものもアリ
3.メアが生やした翼は行けますが、光弾の方は無理なので部長は死にます(確定事項)
──帝国学園理事長、突然の辞任を表明。経緯は語らず
新聞の三面に書かれていた記事を脳裏に浮かべながら私は、校門前で立っていた。
本来なら今日はいつも通りキャプテンの家の前に集まってドリブルをしながらの登校となるはずだったが……キャプテンが試合の疲れからの故障を考え、大事を取っての一日練習無しだ。
確かに、初めての試合はかなりくるものがあったが……。とは思ったが、擦り傷など目に見える傷もあったので素直に頷いた。
……みんな、キャプテンだけはこっそり練習をしているだろうと口に出さずとも理解していた……まぁ一人だけ規格外なのでそれくらいがちょうどいいのかもしれない。
帝国との後半戦も重りをつけたまま出る気だったようだし、私たちに合わせてくれているだけで普段はもっとハードな練習をしているのだろうか。
「あれって──」
「ああ、例の十番──」
「……有名人になった気分です」
いや事実、有名人なのだろう今は。
校門前に立っていればいやでも目立つ。通り過ぎていく生徒たちが口々に私の事を指さすもので、思わず肩に力が入る。土曜の試合の結果は公式のものではなかったというのに、
帝国の事が載っていた所とは別のスポーツ紙では快挙として載せられ、さっそくFF優勝候補として一躍躍り出た習合。商店街の近くを歩くだけで今では声を掛けられてしまうほどだ。
先ほど校舎の方へと向かっていったウリ坊さんは、今朝はやたらとご老人に頭をなでられたと複雑な顔をしていた。
……まあ、朝起きて玄関を開けたら昔喧嘩した人たちが報復を恐れて謝りに集まっていたと言っていたトールさんよりはマシだろう……。
ジミーさんはそれらのことを聞くと、自分から絡みに行っていた。試合中は私のフェイク・フェザーからのタイミングずらしのループシュートで得点をしたりと、技巧派として活躍していたはずなのに……。
「……」
そうこうしている内に校舎の針が進み……そろそろ来なくては遅刻の疑いも出てくる頃に差し掛かる。
まだ来ていない部員は二人……一人はキャプテンだとして、もう一人は──来た。
普段と真反対の方向から、似合わぬツバ付き帽子を被り薄茶色の眼鏡をかけてコソコソと一人やってきているのが見える。
……メアさん。顔を隠しているつもりなのかもしれませんけれど、すっごい目立っています……!
「……何をされているんですか?」
「あっ……ワタリくん、おはよう。いや、その……警戒を」
声を掛けられるとビクンと体を震わせ、周りを注意深く観察し声を細める。
しかし、彼の声は透き通り、本人が思っているより響く。どうやらそれがいけなかったらしい。
──あっ! メア様~~!!
──見ろよ、帝国相手に三点奪い取ったメアさんだ!
まだ玄関近くで駄弁っていたり張っていた者たちが一斉にこちらの方を見る。
それに誘われ、教室へと向かおうとしていた者たちもこちらに戻ってきそうなのが見えた。
……そうか、これを警戒していたのか。迂闊だった。既に習合のエースストライカーの顔を見ようと多くの人が玄関で壁を作り出している。
「うっ! まずい見つかった!?」
「……ははは、人気者ですねメアさん」
「くっ……他人事じゃないだろう君も。どうにかあの人の群れを突破する術を探さないと……!
この分じゃお昼に食堂も使えないぞ……!?」
メアは頭を抱える素振りを見せもはや無駄だと言わんばかりフードを脱ぎ捨てる。相変わらずの顔の良さが露になり、黄色い声が聞こえた。
……確かに、私もそろそろ教室に向かわないといけないが……心配はしていない。何故かと言えば……そろそろ
普段口を開けば彼の事を語ろうとするメアさんにしては珍しい……と思っていた時だった。
「──おはよう」
その一言が後ろから掛けられる。共に、キャプテンが現れたのだろう……騒めきだっていた玄関は一気に静まりかえる。
やはり彼に対しての反応だけは私たちに向けられるものとは一線を画しているなと苦笑しつつ振り向いて、固まる。
両手にはそよ風になびく黒い包帯、もはやキャプテンのトレードマークとなったものが巻かれている。これは別に想像通りだ。
「……その、キャプテン……あの、それ」
「──ん? あっ、おはようリーダー! 今日もいい天気だ……ね?」
傍目に映るメアさんが、眼鏡をはずし目を輝かせ始めているのが分かる。つまりは、そっち系だ。
彼の右肩には、先日も皇帝ペンギンを前に現れたあの蛇が顎を乗せ鎮座していた。
胴体部分は彼の背中の方へと落ちている辺り、あの時の様に背中辺りから生えているのだろうか……?
もはやペット感覚で一緒に登校してきた蛇を前に、何と言っていいのか分からないでいた。
「……あぁ、すまん。
──フェルタン」
私たちの反応を見て異変を察知したらしい。キャプテンは右肩に向けて……恐らくは、その蛇の名前を呼んだ。
数秒も経たないうちに、舌をチロチロと動かしていた蛇は霞がかかるように消える。
──な、なああれって……
──馬鹿、指さすな!? ダークネス部長の噂を知らないのか?!
あまりの光景に誰かが声を出し指摘しようとしましたが、直ぐにそれは別の人によって阻止されました。
メアさんなんて「あぁ……写真を撮っておけばよかった」と残念そうにしていたが……私はまだ冷や汗が収まらなかった。
この部の皆の自由さには慣れ始めていたつもりだったが……流石はキャプテン。まさか自由自在に蛇を出すとは。
「だ、大丈夫なんですか……その、子?」
「……あぁ、天気が良かったからな。日向ぼっこの気分だったんだろう」
そういう問題なのだろうか。というかその蛇って部長に秘められた闇の力的なものだったんじゃ……日光を浴びる闇の力……深く考えないことにしよう。
──予鈴がなりました。それを聞くとキャプテンは会話も手短に「行くか」とさっさと歩いて行こうとします。
……私もさっさと校舎に入りつつ、伝言をしてしまいましょう。
キャプテンが玄関に近づけば近づくほど、まるでモーセの海割りの如く人ごみが勝手に避けていきます。
「……キャプテン、放課後なんですが──」
「フェルタン……? サタン、ルシフェル……? うーん──あっ、待っておいてかないで二人とも!」
──ヒッ、こっちに来るわ!?
──メア様に近づきたいけどあの人が怖くて近づけない……
……お昼ご飯の時もキャプテンに同席しましょう。
別に、人避けに使えるなんて失礼なことは思っていません。ただ今日は、母さんにお弁当を作ってもらえたのでそのお礼を伝えようと思っただけです。
はい、他意はありません。
……嘘をつきました。
◆
放課後、無言で廊下を突き進む。すっごい視線が痛い。
……なんかますます皆が俺をやばいものを見る目で見てくる件について。
教師にすら怯えられたぞ今日は……? 将棋部の顧問の先生には「本当に私は名前を貸すだけでいいんだよね……?」って疑われたし。何だ、俺が一体何をしたと言うんだ。
メアの奴は休み時間など上級同級構わず話しかけられて困って俺を盾にするし。盾として機能するのが悲しいよホント。
──いや、腰から蛇生やしてるからだろう。もう貴様完全にビックリ人間コンテスト優勝確定だぞ
──ナガヒサ優勝おめ
不可抗力だ……フェルタンは祝わなくていいから。というか君本当に自由だね……、いや腕治してくれたことには感謝してるけどさ。
あの後鶏のから揚げ大量生産させられるとは思わなかったぞ……蛇なのに揚げ物好むな。
しかも自分で食べないで俺に食べさせるし……なんなの、一回俺の胃を通さないといけないの? 皇帝ペンギンは自分で食べてたのに。
……まああっちは超次元的力で出した謎の力の集合体みたいなところあるし、普通の食べ物とは訳が違うか。
──次回はニンニク強めでお願い。それとしっかり食べなきゃ早死にしちゃうよ?
ちゃんと食べないと死ぬって、そんな田舎のおかん的なこと言わんでも……やばい、自分で言ってダメージ食らった。
しかし……日曜の日はほとんど食料の買い出しと調理で終わってしまったんだけどな。フェルタンが一回の食事で満足する量って異常に多いというか……。それに応じて俺の胃袋も大きくなってる感じがするし、これはエンゲル係数が高くなる……業務ス●パーとかいって安めの鶏肉大量に仕入れておかないと。
まだ左は治ってないから中々苦労する。
その点、うちの食堂は安いし学生向けの大盛りメニューとかも揃えていて助かる。
流石は私立だ……まあ俺は学費免除してもらってるけど。
──お、おいアレ……
──あぁ間違いねぇ……今日の食堂で暴食の限りを尽くしたベルゼブ部長だ……!
……。
──……ダークネス部長って呼ぶ奴が減ってよかったな
うるさいぞ第二の俺。しょうがないだろ……フェルタンが食堂のチャレンジメニューのデカ盛り系食べたいってせがむから……。
20分以内に食べきったら無料って書いてあったからつい……。可愛いお弁当を手にしていたワタリが引いてたのをよく覚えている。奇跡的に快復したお母さんが帰って来て作ってくれたと嬉しそうに話していた直ぐ後にそんな気持ちにさせて本当にすまない。
──途中で飽きたけどうまかった。明日はテラカツカレーってので
いやだよ……テラカツカレーって確か3kg近くある化け物メニューだぞ。今日の2.5kgのラーメンでも周りの視線痛かったのに。
ちなみにその横でトールが負けん気を発揮し、俺と同じのを頼んでいたが撃沈しDF陣と分け合っていた。
そのせいでメアが試合中呟いたベルゼブブのあだ名が広まったし……俺後いくつあだ名がつくんだ……サタン、ルシフェル、ベルゼブブとか七つの大罪うち半分に差し掛かってるじゃねぇか。
──まあ、傲慢……虚飾に近い事はお前の性分だな。いつも怒ってるから憤怒も満たしているだろう。暴食も達した……彼女を欲しているから色欲もか。体を休められないか画策するのは怠惰に当たるだろう……嫉妬もある。
おい、既に七つ達しているぞ。呼ばれるのも時間の問題ではないか?
──セプテム・ペッカータ・モルターリア・ナガヒサ
こいつらっ……覚えていろよ第二の俺、地区予選で凶悪なシュートが来たら躊躇なく使うからなサクリファイス。出来れば使いたくないけど。
せめて痛みさえなくなれば……いやそれはそれで危ないな。痛覚死んだら危機を危機ともとらえられなくなるか。気が付いたら死んでましたじゃ笑い話にもならない。
──……何故我だけ? 今確実にフェルの奴も何か言っただろ
籠っている感情の問題だよ。お前は笑っている感じが強いんだよ。フェルタンはなんか純粋な感じが強いんだよ。
……と、目的の場所についたか。すごい廊下が長かった気がしたぞ。
重厚な作りの扉に軽く右手でノック──不意に、後ろから視線、先ほどまでの畏怖が混じっているようなものではない。
……まぁ気になるよな。しゃーないしゃーない。気づかんふりしとこ。
「……織部です」
「──どうぞ」
落ち着いた声が返ってきたので扉を開ける。
その先にはカーテンが閉め切られ、弱い明かりのみで照らされた理事長室……そこに、ワタリ父が立っていた。怖いわ、ホラーゲームかな。
じゃなかった……なんかワタリが父さんから伝えたいことがあるらしいってことで呼ばれたんだよ。
「……わざわざすまないね織部君。お茶を入れるからソファにかけて待っててくれないか」
「……はい」
なんだかんだ言ってこうやって対面で会うのは初めてかもしれない。しかし……一体何の用──あっ、ソファ柔らかい。
じゃない、ワタリの言い分ではサッカー部を潰そうとしていた人だ。奥さんが戻ってきたおかげか大分憑き物が落ちた感じになってるけど、流石に気を抜いちゃ駄目か。
次はこの学校と勝負ね、とか言い出されたら丁重にお断りしよう。
「……今日はね、色々なところから編入願いが届いたんだ。それにいったいどんな教育をしているんだって問い合わせすら……来年の入学希望者も増えるだろう。君たちの活躍のおかげだね……」
「……そうですか」
へー転入生が来るかもしれんのか。帝国学園に勝ったことが契機なら、すっごい腕、もとい足に自信のある子とかいないかな。……出来れば練習は超次元じゃない子。
で、それをわざわざ俺に話してどういう意図が……入部希望くるかもしれんから心構えつくっとけ的な? 違いそうだな。
「……ところで、織部くんは本当に四月までサッカーの経験は……?」
「……いえ、小さい時ボールで少し遊んだくらいで」
あったらこんなに死にかけたり第三の俺まで発生したり蛇まで出てきたりしてませんよ。
……後者は関係ない気もするが、いいか。
「──そうか……君は、私と……本当に違うね」
あっ、これもしかしてワタリが言ってた……帝国学園に負けたって話思い出してる?
そうだな、目を見る感じ「こんな小さい子が帝国を打ち砕いたというのに自分は」ってめっちゃ落ち込んでる。
えぇ……どうせぇと?
この人は多分、無力感に苛まれていたんだろうってのはわかる。帝国に負けて、部も自然消滅して、サッカーにトラウマを抱くほどになっちゃって……奥さんいなくなった後にわざわざサッカー部がない学校つくる労力凄いなと思ったが。
帝国と試合を組んだのは……案外、諦め大概……希望ほんの少し、だったりしないのかな。
自分じゃもう何にも出来ないけど、今のサッカー部ならもしかしてって……都合のいいように考えすぎか?
でもなぁ……帝国相手で潰されると思っているなら、態々観客用意する意味はあるのか……?
観衆のド真ん中でボロボロにするため? いや、なんかかみ合っていないような気が……。
普通それは皆に期待された後にやることで……あの場に俺達が帝国に勝てるなんて想定していた人なんていないだろうし。
うーん、下手な励ましは逆効果だな……この人についての経歴は又聞きもいいところだし……。
かといって放っておいたら駄目そうだ。覇気が無くなってるというか……執着が無くなっちゃってるというか。
……そういえば今、アイツらは扉に耳でも立てているのかな?
……そうだ、この作戦で行こう。名付けて、一人じゃ何にもできないんですよ作戦だ。
「……いや、俺だけでは勝つのは無理でした。……メア、ジミー、バング、ソニック、アルゴ、ウリ坊、トール、グラさん、カガ、
──ワタリ達がいなければ」
事実100%だぞ。みんないなけりゃ0-100とかになってる気がする。
特にワタリのフェイント技のおかげでメアが自由になったわけだし、ワタリはあの試合での貢献度はかなり高い。
「……」
「……当然、これから始まる地区予選は公式試合。相手も死に物狂いで挑んでくる……一筋縄ではいかないでしょう」
帝国以上の奴がいるとは思えないけどな!!
でもこちとら技も骨と精神犠牲とかいうふざけたもの一個しかないんだよ。苦戦はあっても、余裕はないと思う、思う。まだまだジミー以外はテクニックもないしね。
──正直、メアの一撃で大概ひれ伏すんじゃ──
第二の俺、ハウス! もしかしたら10人ぐらいメアにマークつくかもしれないだろぅ!?
それかメッチャ強いけど今まで部活に入らずブラブラしていた奴がいきなり加入して化けるとか!
──後者はともかく前者はもうほぼ負けではないかそれ……?
「……?」
あ、ほら理事長さんも首傾げてるじゃないか! 「え、地区予選……帝国崩しといて何言ってるのこの子?」みたいな顔してるよ! こっちの混乱が伝わったか!?
ええい、さっさと畳みかけてしまえ!
「……例え地区予選を勝ち抜けたとしても、その次は本戦……チームメイトだけじゃない。より多くの協力者が必要となります。
……理事長も、その一人です」
お前さんにはこれから部室作ってもらったりとか、FF出ることにより発生する行事とかいろいろ動いてもらわないといけないんだよ!
顧問には働かないことで契約してしまってるし、学校側の動いてくれる味方が欲しいんだ。落ち込んでる暇ないぞ。
あと単純に部員の保護者としても、これからが大事なんだよ!
ワタリ、いま母親帰って来てウキウキしてるけどなぁ。 母親いなくなった後、一番ワタリが寂しがってる時に支えてやんなかったのアウトだかんな!? この点においては病気になったからと言って姿くらますお母さんにも物申したいけどさ! まだお弁当作ったりとかそれっぽいこと早速してるからいいとして!
今からでも遅くないから、ちゃんと父親としての勤め果たしてくれ……頼むよホント。
「理事長として──父親として、ワタリ達を支えてやってください」
そう言い切って、頭を下げる。
久しぶりだぞこんなにしゃべったの。勧誘始めて暴走してる時ぶりぐらいかもしれん。今じゃみんな「わかったぜ部長!」って言って切り上げるからな。
「……」
……沈黙が続く。
顔見えないから今何考えてるかさっぱり分かんない。響いた? なんか心の炎燃えましたか?
あ、手を組んでおいてた膝が震えてる。そんなに自信がないのか。えぇ……どうすっかな、口下手過ぎてなんも思いつかないぞもう。
……ん? なんか扉の方が騒がしいよなような……。
「……しか──」
理事長がなにかまた発しようとしたとき、重い木の扉が勢いよく開かれる音がした。
◆
「──しかしもカカシもありません!!」
頭に血が上っていた。
自分で心配だから聞き耳したいと言い出しておいて、その場をぶち壊していた。
「ちょっワタリ、今はいっちゃ駄目だって!」
「わわっ押さないで下さ──ぐへっ……ッス」
後ろでバングさんが潰される音がするがそんなことは今どうでもいい。
とにかく、頭下げてるキャプテンの目の前で無様晒してるこの人をどうにかせねばなるまいと息を巻いていた。
ズカズカと歩みを進めて……ああもう暗い! なんで毎回カーテン閉め切ってるんだこの部屋! こんな部屋にいるから陰鬱になるんだ。 二度と使えなくなってしまえ、と思いっきりカーテンを引っぺがす。
「──あぁ」
「眩しいからって目を閉じないでください。父さん……ここまでやられて、まだ立てませんか?」
朝、せっかく母さんが家に戻って来たのに声もかけられず、私と目を合わせることも出来ず、ただ作ってもらったお弁当を無言で受け取ることしかできなかった父を情けなく思ったが、その比ではない!
私と同い年のキャプテンに励まされて、力を貸してくれと頼まれて、なぜ取り繕うことも出来ない!?
「いいですか? 父さんが帝国に負けたのは実力の差です。部がその後跡形もなくなったのは信頼関係の差です。比べるまでもなく、父さんとキャプテンじゃ何もかも違うんです!」
「うっ……」
「お、おいおいワタリそんなにオヤジさんをいじめて──」
「グラさんも今は黙っていてください。事実確認ですこれは」
自分ですらおかしいと思いました。今になって考えてみると何故キャプテンと父さんを重ねてみたのか全く分かりません。
少なくとも、帝国が来るという事を知ったあの時点でもみんな信頼し合っていました。ただかき集めて空中分解しないように気にしていたという父さんでは天と地ほどの差があります!
「それで、キャプテンと違うと気が付いて、このままウジウジと過ごすつもりですか!? 私達は、必ずFFを優勝して見せます。トロフィーを持ち帰る私たちを見て、何もできなかったとまた落ち込むんですか!?
……私の、ワタリの父だって言うのなら……習合イレブン10番の父親だって周りに胸張れるくらいにはっ……!」
胸倉つかんで叫んで……言葉が詰まりました。
父の表情が、壊れたあの日から戻ることのなかった顔が、戻っていた……。自分と同じ色の瞳で、逸らすことなくしっかり私を見ていたから。
……よく見れば、目が次第に潤いを帯びていっているのがわかりました。
「──ありがとうな、望」
……多分、それは私も。最近、随分と涙腺が緩んでいるようです。
ただ、名前を呼ばれただけで、泣くわけがありません。
「……部活は、サッカーは……楽しいよな?」
胸倉をつかんでいた手を父さんがそっと触れて、静かに聞かれて……強く、頷き返しました。
◆
「……随分と迷惑かけたね、織部君」
うん、本当にかけてくれたね。大人が泣き出して俺めっちゃワタワタしてたからね内心。
あとアルゴは他メンバーに見えないようにこっそり甘酒飲むのやめなさい。今は駄目だよ流石に。
「本当です、これからは馬車馬の様に働いてもらいますよ父さん……」
「ははは……手厳しいな」
がんばれよワタリ父。正直信頼マイナススタートだからな。部室めっちゃ綺麗なの頼むぞ。
個別着替え室とかシャワールームとか……流石に贅沢かな。まあ任せるよ。
「いやー一時はどうなるかと思ったぜ……雨降ってなんとやらってやつだな!」
「地、固まるだな。副部長」
しかしなぁ、何人かつけて来てるとは思ったけど……全員いるとは思わなかったぞ。
練習今日はないんだからみんな帰って休んでくれればいいのに。
「……皆、地区予選一回戦はすぐそこだ。明日からの練習も頑張るぞ」
頑張りたくないです。でもこう言わないとね……ほら、解散解散。
……うん、なんでみんな微妙な顔してるの? さっきの理事長の時と同じような顔だけど……まさか帝国に勝ったから練習しばらく抜きとか……いや絶対違うなこれ。
「……その、キャプテン……新聞読みました? なんなら昼食の時話していたんですけど」
どうしたワタリ。新聞? いやうち新聞取ってないけど……ごはん時? すまない、チャレンジメニュー相手に格闘してたからかなり聞いてなかった。
なんか聞かれたら顔見れば大概分かるしいいかなって……。え、なに?
「──うちを除き、ここのブロックの出場校が全部出場を棄権したため……うちは確定でFFに出場です」
──ひれ伏せさせるまでもなかったか……
──ナガヒサ、今日は棒棒鶏がいい
……え?
助かっ……てない、地獄へのエスカレーター式じゃねぇか!?
助けて!
無 血 開 城
くぅ~これにて「FF地区予選・部長、ウワサの人になるってよ編」完です!((
次回からは「激闘!FF前日譜 部長、雷門に殴り込むってよ編」が始まります
……二、三週間充電してからな!