かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
お気に入り、評価、また誤字訂正報告、感想、ありがとうございます。
3回は読み直しているのにどうして誤字はなくならないんだろうか……
それはそうと、ポケモンマスターズのアカネチャンの声がめっちゃ好みだったので私はミルタンクになりたいです。
その日は、雲一つもない晴天だった。
窓から校庭に視線を落とせば、各々の練習着に着替えた運動部たちが忙しそうにしつつも楽しそうに部活動に励んでいた。
住宅街の近くにあるこの中学は中々に広く、決して東京にあるとは思えない程の広大さがあると言える。
──普段彼らはこのように学校から離れた位置にある公共の河川敷で練習を重ねておりまして、その際は近隣住民の方からは応援のメッセージもいただいております。
決して理事会で議題に上がりましたような不正薬物、虐待と言えるような訓練などといったものは……
──えぇ、もちろん私の方でもそのように考えております。
ただこの度は理事会の混乱も酷く、帳塚さん並びに習合サッカー部のみなさんに不名誉な噂が立つのも止められずに大変申し訳なく……、
また大会の棄権を申し出た東部近畿地区に在するサッカー部からは、動画を見て体調を崩したと訴える子がいることは事実であり……
「……ふぅ、これはまだまだ時間がかかりそうですね。キャプテンは何処へ行ったのか……」
陳情をしに来たはいいが、挨拶と無実の表明をするとさっさと後は大人たちでと追い出されてしまった。正直父さんがいるより私が話した方がいい気もするが仕方がない。せいぜいここで雷門中の様子を見つつ会話の内容を盗み聞きすることしかできない。
キャプテンは「……あいつらは、胸を張れることをしています」と言えたので気が済んだのか、理事長室から追い出されると何処かへ行ってしまった。フェルタンさんのお腹が空いたから購買に行くとは言っていたが……明らかに何処かへ寄り道をしている。悪目立ちする見た目をしているので、迷子になるという事はないだろうけど……。
「……しかし、今日はお忙しい中、お時間を取っていただき誠にありがとうございます。雷門さん」
「下の名前で構いませんよ。それに、今日は校舎改築のための資料を整理していただけですので……。
ところでそうね……帳塚、望さん。もしお暇であればそちらの部長さんのお話などを聞かせていただきたいのですが」
「雷門──いえ、失礼。夏未さん……」
廊下に立つ私の隣にいるのは雷門中理事長──雷門総一郎の娘、雷門夏未さん。赤みがかった髪と吊り目が特徴的だろうか。丁寧に掛けられたのであろうウェーブも相まって、ザ・お嬢様と言える存在だ。
一見ただの世間話のようにも思えるが……その実は、うちに対する探りだろう。彼女はキャプテン調べによればかなり雷門サッカー部に近しい人間。とある事情によって語るのも恐れられる存在となってしまったキャプテンの情報を少しでも手に入れようとしているのだろう。
……彼曰く、ちょうどあの試合後までは撮られると
思考が逸れた。さて、別段そんな悪魔が宿っていることを教えてもさほどデメリットはないだろうけどどうしたものか……。どうせ情報を渡すのならこちらも見返りが欲しいところだが……。
「(あれ、そういえばサッカー部が見当たらない……?) それもいいですが、こちらとしては是非雷門サッカー部のお話をお聞きしたいですね。
──出来れば、練習風景も拝見させていただきたいものなのですが……」
私たちが帝国との練習試合に勝利する前に、帝国側の棄権で勝利した雷門。
つい先日は地区予選一回戦では野生中を下しており、強力なキャッチ技「ゴッドハンド」を持つ部長、円堂守を中心とした彼ら。キャプテンの話では昨年の準優勝校のエースが今年加入したらしく、今ノリに乗っている話題性の高い男たち。
しかし、元は弱小サッカー部……廃部寸前だったという話も聞いている。それゆえ、校庭も使えず河川敷にでも出ているのだろうか。ちょっとした親近感がわいた。
そう言うと夏未さんはやや顔を悪く、苦虫を噛み潰したように歪ませる。ふふ、聞いた方が先にお話しすべきですよね。
「……彼らには今、基礎練習だけしかしてはいけないと伝えてあります。あまりに注目が集まり過ぎてしまっているので……」
「あ、あはは……そうでしたか。それは大変ですね……」
そういえば校庭のあちこちに他校の生徒と思わしき人間がちらほらと。これは大変そうだなと苦笑する。話題を集めるのも本当に考え物だ。これでは雷門サッカー部も練習がしづらくてたまらないだろう。
「……他人事のように笑っているけれど、そちらは他地区からの偵察は来てはいらっしゃらないのかしら。公式戦0回で地区予選突破なんて、目立ちすぎにもほどがあると思いますけれど」
あまりにわざとらしい笑い方を不満に思ったのか、やや砕けつつ強気な言葉をぶつけられる。これはいけない、怒らせる気なんてみじんもなかったというのに。
慌ててこちらも訂正する。
「すみません……確かにそれらしき人は何人かいたのですが……」
「?」
思い出すのは、河川敷で必殺技を練習をしていた時。恐らくはどこかのサッカー部であろう人がこっそりと覗いていた時の事。
……視線に感づいたのか、キャプテンがチラリとそちらを向いてしまった時の事。
「──みんな、キャプテンを見るといつの間にかいなくなっていて……」
蛇に睨まれた蛙。まさしくそんな状況が何度も起きるうちに、誰も偵察なんてしないようになっていった。……人避けにとても便利でいい人です。
苦笑し、視線を逸らす私を、彼女はどんな目で見ていたのだろうか。
そんな時に視界の端で、晴天を覆う様に黒い雲が出来上がりつつあるのを私は見た。
一雨降るのだろうか? 傘は持って来ていないから参ったなとこぼし……河川敷の方を見た。
◇
その日はいい天気であった。こんな日にグラウンドを思いっきり走れば、心地の良い風を切っていい気分になれるだろう。
そんなことが確実に思える日だった。けれど、どこか俺の心は浮かないどころか息苦しくなっていて……。
次の相手に勝つためには必殺技を編み出す必要がある。
けれど練習を見られ、研究されては意味がない。だから俺達は基礎に励むしかない。橋の上に並ぶギャラリーの視線の先で今日もみんな、河川敷で練習に取り組んでいた。
今日なんて次の対戦相手、完璧なデータをもとに機械の如く精密な動きをする中学──御影専農がテレビ局の中継車と見間違うほどの設備で現れ……気に入らない、気分が悪い日だった。
「──何故必殺技の練習をしない」
御影専農のキャプテンがそう言って、俺達の練習を邪魔して来るとは思ってもいなかったが……少なくとも、そこに好意はない。
ただ、自分たちがデータを欲しがっているだけだと簡単に見て取れた。
「君たちのデータは既に網羅している。いくら基礎を鍛えようが無駄だ。……君たちの評価はD-、我々に勝つ確率は1%もない」
「御影専農のキャプテン、
「──試合だと?」
突然練習を中断させられ、やや語気が強くなっている円堂を前に、杉森は眉一つ変えることなく淡々と自分の意見を述べていた。
もう一人の御影専農……エースストライカーである男がそこに割り入る。確か名前は
「貴様らでは試合にすらならないだろう、一方的な……
「──なんだとっ!?」
下鶴の言葉に感情はない……少なくとも貶すためではなく、奴はただそれが事実だと認識していた。
……余計に、腹が立った。少なくとも、俺達はここまで必死に練習をしてきたんだ。立たない訳がなかった。
チームのみんなもすっかり怒りを噴出させておりもはや一触即発。次に何か下鶴が言えば、染岡あたりが強制排除に名乗りを上げるかもしれない。
──風が吹いた。
生暖かく、それでいてなぜか底冷えのする。いやな風だった。
怒りで熱くなっていた頭を刺激し、俺の目をそちらへと向けさせるには十分だった。
……そういえば、やたらギャラリーが静かになっていたと思った。
てっきり御影の奴らが押し入ったことにより静かになっていただけだと思っていたが……違った。
「お、おい……みんな、あっち」
「どうしたでヤンスか風丸さん」
橋の欄干に集まっていた人はいつのまにか、すっかりと姿を消していたのだ。大事であろうはずのカメラすら置いて、まるで何かから逃げ去ったように。
そうして橋からは誰もいなくなったのかといえばそうではない。
ただ一人だけ、じっとこちらを見つめている男がいた。遠くにいてその詳細は分からないというのに……それを理解した途端、体中に悪寒が走った。少なくとも、アイツはまともじゃない。
──なんでも、動画を見ると呪われるって
音無の言葉を思い出す、ああそうだ。きっとそれは事実だ。そうでなければこの体の震えはなんだと言うんだ。
見える、見えてしまう……あいつの後ろに黒い何かが蠢いているのを……!
「──習合の、キャプテンがいる」
「っ!?」
その言葉にいち早く反応したのは雷門ではなく、杉森だった。
円堂からにらまれていたときは何も反応しなかった男が、冷や汗を流し奴を見て動かなくなる。きっと、奴も俺と同じ思いをしている。
いつのまにかそれは伝染し……喧嘩の雰囲気なんてどこへやら。ただ、突然やってきた奴から目を離せず動けずにいた。
……やがて、奴は首を回し……しばし考え込むそぶりを見せた後、俺達の方へと向かってくる。
その間、なにも発さず……一歩、また一歩近づいてくる。気のせいか、足音が地面に響いているようにも思えた。
そうして……俺達の前に立つと、奴はこう言った。
「──サッカー、しようぜ」
普段なら円堂が挨拶の様に言いまくっていた言葉の筈なのに、どうして俺達は……それが酷く恐ろしいものに感じて取れてしまったんだ。
◇
……フェルタンの要望で食べ歩きしてたら、河川敷で練習しているサッカー部見つけたんだけど、いつのまにか絡まれた件について。
いやしょうがないじゃん、しようぜ? って持ちかけたけどさ、みんな俺見て動かなくなるんだもん! ただ見学してただけなのに……へーやっぱ基礎大事だよなーとかほほえましく眺めてたのに。
まぁあれよ、商店街寄って大盛りメニューいくつか勝利してきたし、腹ごなしに練習ってのはいいと思うんだよ。こっちはそこまで練習は化け物チックじゃないし。混ざって練習するだけならいいよ、楽しそうだし。
「──君のデータもとらせてもらう」
うん、まぁ観察するのはいいけど、くれぐれも動画とかには気を付けてね……たまに変な悪霊みたいなの映るみたいだから。
……でさ、なんで俺ゴールに立たされてるの?
雷門の皆さんもなんで固唾を呑んで見守ってるんですか?
「覚悟しろ織部……長久!」
えーとキミは……下鶴君だったか。なんで君はシュートの体勢に入ってるの?
位置的に俺に蹴る気満々だよね?
──さっきの話を聞いていなかったわけではあるまい長久。単に三校合同のPK対決だ
──アメリカンドッグ食べたい
うるさいよコルシア! 知ってるよ! 現実から少しでも目を離していたかったんだよ!!
おかしくない!? PKって……うち今シュート役いないんですけど! 俺が守って俺が蹴るの!? 無理でしょ、超次元な奴らに勝てるわけねーだろ!
今からでも学校に戻ってワタリ呼んできていいかな……駄目? いっそメアとか心の底で呼びかけたら飛んでこないかな。
──来たら地獄絵図になるだろ、やめんか貴様
──諦めも肝心だよナガヒサ
来たら、じゃなくて来ないだろってツッコミが欲しかった! やっぱやめよう、今呼び掛けて反応されたら本当にホラーになる。
あ、こんなあほなことで時間使ってたらもう蹴ろうとしてるよ下鶴君!
やめて、せめてノーマル、ノーマルシュートでお願いします!
「──
はい。
知ってましたよ……君の必殺技だって調べてあるんだから。そうそう、ボールを高く蹴り上げて……空中で静止する。
そしてその後、いきなり火炎が噴射して……加速し俺に迫ってくる。うん、まったく原理が分からん。
「──
──よかったな、この間の百烈ショットよりかはまだマシそうだぞ
いや今重りは20kg分しかないんですけど……旅行だからって気を抜きすぎていた。
ははは、こやつめははは……少なくともあと四本これで、雷門の五本も受けないといけないの?
助けて。
織部長久が現れ始まったPK戦、
御影の必殺シュートを防ぎ切るほどの強敵、俺達は勝てるのか?
……染岡,豪炎寺,壁山、お前たちが頼りだ! 俺もゴールを守り切って見せる!
次回、イナズマイレブン「龍呑む蛇」
これが超次元サッカーだ!
◇
雷門「やべぇよやべぇよ」
御影「弱小校煽ってたらなんか来たよ」
的な話です
~裏話~
高天原中は実力が一定あったが故、心が折れました。
しかし、それ以外の中学の多くは……彼らの偵察なりが持ち帰った映像も合わせて、恐怖に支配され危険を感じ棄権を表明しました(激ウマギャグ)。
ちなみに今の長久君をとっても呪われたりしません。せいぜい家の中の果物が無くなってたりするぐらいです。
安心だね!