かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
『──指令が入った、総帥はまだ私を見捨てていない……いいかお前たち、雷門を完膚なきまでに……我らの地位を脅かす原因となった害虫を駆除するのだ!!』
──ハッ!
御影専農はこの一年で強くなった。帝国に敗北を喫した後、取り入れられた技術が俺達を強くした。
ホログラフの映像を組み合わせ写し出される敵はどんな状況下、片田舎の二軍選手どころか帝国の一軍選手までを再現することが出来る。
データは重要だ。
癖、筋肉量、骨格、来歴。一見関係ないだろうとさえ思える学業の成績、趣味。何もかもを集約し、分析すれば相手が何をどうするかなんてのは正確にわかる事だ。
ドリブルで右に行くか左に行くか、或いは上に行くか。
パスを誰に出そうとしているか。
コースは何処を狙おうとしているか。
当然、人間は成長し、変化していく生き物だ。試合の最中で強くなる、なんてことも往々にしてあり得る。測った後に行われるであろう訓練量も予測し、成長率を考え推測する。
全てはデータが裏付ける。個々人にあった練習、思考によって最大限にまで鍛えあげられた我々が今の今まで勝利できてきた理由もそこにある。
感情を廃し、ベストを尽くすサッカーロボ。御影専農の選手たちはデータを裏切ることはない。
「……なんだ、これは──!?」
……データが裏切らない限りは。
雷門は古くは敵なしとも言われたチーム……イナズマイレブンが在していた中学。その時に生みだされた必殺技が時を経て、受け継がれている可能性は低いがありえていた。事実、イナズマ落としが野生中で使われていた。まだ何かほかの必殺技が隠されていても全く不思議ではなかった。
結論から言って、
だがそれを試合前に撮れたことは我々にとってメリットはあれど、デメリットは何もない。
また学校に戻り、大量の機材を用いて分析、再現。対策を練ればいいと考えていた。
……豪炎寺の脚力がシュート1本ずつ増して行っているのにやや気を取られたが、誤差の範囲内だ。
そんなことは今はどうでもいい。
「──ッ!!」
太陽を頭で隠し、フィールド全体に影を落とさんとする巨大な龍。多くの動物の声が混ざり合った様な鳴き声を散らし、自身の生誕を祝う。
酷く上機嫌に聞こえるそれがなぜか恐ろしかった。
その足元には止めたボールを足で押さえている長久。そうして肩に乗ったまま欠伸をしている蛇。奴に宿るとされている悪魔は変わらず、そこに居る。
つまり、この龍はあの蛇とは別物だということに……。
「白龍……!? 奴に宿る悪魔は蛇ではなかったのか!?」
この状況下においても少しも揺るがず、気にも止めていない。つまりこの現状は彼らにとって、全く不測の事態ではないということを指し示す。
……サクリファイス・ハンド。ボールの威力を悪魔に捧げることでシュートを殺す技。そうして捧げた力がついに実ったとでもいうのか? 何故織部が態々雷門に来ていたのかはわからなかったが……これが目的だったのか!?
「な、なんなんだこれは……!?」
混乱する。
下鶴が見上げ声を荒げる横で考えなくてはならない。かき集めた情報を整理し、今この状況を理解せねばならない。
──織部長久。
小学二年の誕生日に両親を交通事故で亡くす。その後は叔父と暮らしていたが、叔父は4月より出張今は一人暮らし。
元々は口数の多い子どもであったが、事件を機にそれも減り目立った交友関係もない。
そんな男が習合中学に入学後突然サッカーを始め、部活を設立。
帝国学園を相手に悪魔のキーパーとして君臨し、日に日に増えていく異名をほしいままに。
……小学生時の身体能力の数値は入手済み。しかし、成長予測される数値とあまりに合わない実態……誰の目からも隠れ、秘密の特訓を行っていた、もしくは既に悪魔を体内に従え……隠していたと推測できる。
何のためにか、がまだわかっていないが。
習合中学は、帝国に敗れた男が作り上げた場所。
帝国の手から隠れるにはあまりに都合がいい場所だというのも気がかりだ。
「……そうか、足りないかフェルタン」
顔を上げ、肩の蛇と会話をする織部。返事のつもりなのか蛇は頭を縦に振る、奴に宿っているとされる蛇……こいつもまた厄介だった。
そもそも蛇としての姿を持つ悪魔、非科学的な存在が現れただけでこちらは混乱したのだ。何かトリックを使っているのではないか、幻覚ではないのかと議論もした。
それでも、事象としてそこに存在するのであれば解明せねばならない。
だからこそ、織部がわざわざ我々の前に悪魔を出したことも幸運だった。
それだというのに、まだろくに分析もできていないというのに……二体目だと!? 情報量の暴力に思わず頭を抱えたくなる。
だか今俺達に出来る事は……この場を少しでも情報として残し、持ち帰ること。
理解せねばならないと、思い立った。
「くっ下鶴、カメラをあの龍に──」
──不躾なやつじゃなぁ……?
「っ!?」
指示を飛ばそうとして体が止まる。脳裏にしみ込んで甘く溶かす、くつくつと笑う声が聞こえる。
瞬間、選手たちを映し出していたモニターの光が途切れた。
バッテリー切れ? いや違う……緊急用電源も発動せず、こちらの操作を受け付けない。
やがて、黒煙が上がり始めた。してはいけない音が鳴り始め、回路が焼き切れる匂いがし、
──小さな爆発。アンテナが折れ曲り、河川敷を転がった。
◇
回路が焼き切れる匂いとともに、痛みが引いていく。脳内麻薬さんいつもお疲れ様です。
多分また30分後くらいにきれると思うので、よろしくお願いします。
──ほんと貴様許さんからな貴様覚えておけよ
──アイムハングリー、ナガヒサおかわり
あぁ……まじで痛かった……そしてまた両手がお釈迦だよこん畜生……フェルタン、さっき無理って言ってたけどやっぱり治せない……?
そっか、駄目か。足りないかぁ……染岡さんにドラゴンクラッシュ撃ってもらえないかな。駄目だな。もう五本蹴り終わったし。
コルシアもそんなこと言わんでくれ、なんか目の前で進化されたらサクリファイス・ハンドを使わざるを得ないんだよ。ぐっこれが雷門の力──みたいな感じで吹っ飛ばされたらめっちゃ噛ませ犬だもん。
はあ、帰りの新幹線骨折しながら帰らなきゃだめなんかな……。
──フハハハ! 体、妾の体だ! 憎き神々よ、みているか! フハハハハ!!
……で、トロアちん。めっちゃはしゃいでるところいいかな。あともうちょいボリューム絞ってくれない? 頭痛に混ざって中々痛いからさ……。
俺の足の影からおもっくそ生えてる事実とかにはもう何も気にしないから。そのうちコルシアとかも顕現出来たらどこからか生えるんだろうか。
──うん、なんだ契約者よ。今妾はひどく機嫌がいい、出生から今ここにこうして至るまでの説明だってしてやろう
いやもうそこは聞いてもどうしようもないのでいいかな。
なんか神話大戦とか聞かされそうだし……そっちじゃなくてさ。
その……御影専農のさ……、チラリと視線をずらせば……煙を上げている車が見えるわけで。
トロアが壊した? っていうか壊したよね。ふんっ、て感じで一瞬力んだ感覚したもん。確実に君だよね。
なんで壊したん?
──ふっ、許可も撮らず妾の姿を捉えようとした愚か者には生ぬるい処罰であろう
──トロアっち相変わらずだいた~ん
やめてくれよ……機材直せとかいわれたら極貧生活待ったなしなんですけど。ただでさえ今も残されたお金と保険金が頼りなんだからね……叔父さんにお金頼むの気が引けるし。
そしてフェルタンは友達ならあんまりこういうの褒めないで、間違っていることは訂正してくれ……。
今後も映像とられるだけで壊すんだったら目にレモン汁かけてでも追い出すからな……。効くかな?
──……塩も混ぜておくといいぞ
──あっ許さんぞコルシア貴様!
サンキューコルシア。
で、どうするよこの状況。順番的に次は御影の攻撃で雷門防衛側なんだけど。
とりあえず消防車呼ぶ? ついでにその隙に逃げていいかな。こう、俺は幻覚でしたみたいなノリで……次会っても「え、東京にいた? 知らんなぁ……生き別れた血のつながってない弟とかじゃないかなぁ」みたいに誤魔化せたりしない? 無理か。
……あ、車が急に走り出した。走っていいのそれ?
「あっ、御影の奴ら帰りますよ!」
「……勝負はこちらの負けでいい。だが次は──!」
雷門の……オレンジアフロくんの指摘に対し、捨て台詞を吐いて去っていく御影専農カー……。
えぇ……御影専農の二人帰っちゃったよ。後で請求書届いたりしないかな。しないよな。
……よし、助かった! ってないな。いやどうするよ本当にこの空気。あ、とりあえずトロアはもう出るのやめてくれない? じゃないと明日の新聞の一面とか飾りそう。
「……トロア」
──む……もう少し暴れたかったが、まぁよしとしよう
その巨体で暴れたら真面目に世界の終わりとか来そうなのでやめてくれください。
……で、帰っていいかな。もうPKする感じじゃないよね。雷門のみんなもドン引きしてるもん。巨体の子、壁山君だっけかもうベンチを頭巾代わりに持ち上げて震えてるし。筋力凄いね。
……よし、帰ろう! 「続きはフットボールフロンティアで……」みたいな感じに上でお前ら待ってるぜ! 的なこと言えばなんか逃がしてくれそうだもん。それでうん、地区大会突破頑張ろーみたいなノリになってくれれば御の字ですよはい。
いいぞ俺の灰色の脳細胞、これはパーフェクトコミュニケーションに違いない。
「……続き──」
「──よし、続きをやろうぜ織部!」
……うっそだろ円堂さん!?
なんでたった今龍見たのにそんな鼻息荒くしてキーパーの位置に着こうとしているの!? あれか、逆境◎みたいな人なんですかね君ぃ。
君もしかしてマゾの類か何かか……!? 部員たち「キャプテン!?」とか「無茶だ円堂!」みたいに諫めてますけれども! あ、豪炎寺さんは笑ってますね。一年生の子はすっごい心配そうに……二年はいけんのか……? みたいな顔してる。
まあ私シュートなんて練習の時以外しないから専門外もいいところなので本当余裕なんですけども。
「さぁこーい!」
「……ふっ、そうだな」
まぁ、なんというか悪魔見られた後でノリノリでサッカーしようとしてくれるのはありがたいな。 うちの部員以外でそんな目で見てくれるやつ見るの久しぶりかもしれん。
……よーし織部長久くん、はりきってボール蹴っちゃうぞぉ!
見た目のキャラに合わない感じにめっちゃコース狙っていいかな。得意技としては足元狙うと見せかけて右上ギリギリみたいなのとかあるけど。
──ごはん?
いやいやフェルタン、今はシュートの時間だから。
……いやいけるか? 雷門中正ゴールキーパーの円堂、必殺技は……熱く煮えたぎる決意と共に振るわれる熱血パンチ。
そして彼の代名詞とも言えるゴッドハンド。こっちは気のエネルギーで大きい手を作り出して、それをクッションにシュートの威力を殺す……みたいな感じだったかな。あの帝国のやばいデスゾーンも止めてる実績のある大技だな。
……神の手、生物枠で……もしかしてフェルタンゴッドハンド食べられる?
──たべたい! 神の手食べるって響きもいい! ボールに乗り移るからお願い!
やったぜ。勝ち確だなこれ。お風呂入りたい。暖かい布団で眠りたい。
とりあえず5本ぐらい蹴って5回ぐらいゴッドハンド使ってくれないかな。両手治るかもしれんし。そのためにはコース狙うのは駄目か。確か熱血パンチが出が早いから、迂闊にコース逸れるとそっちで対応されるやもしれん。
「──行くぞ」
──ん? あぁシュートをするのか……いいこと思いついたぞ契約者よ
真っすぐ、威力がありそうに見せる蹴り方を……。
右を軸足にして、左振りかざして……あぁドラゴンクラッシュみたいな感じの構えがいいな。
すっごい力が足にたまる感じする。でもこの構え方だと真っすぐにしかボールが飛ばない気がする。なんでこれで空中へパスできるんだ、染岡さんすごいな。
で、トロアはなに思いついたの? すっごい嫌な予感するんですけど。
──なに、妾も神の手なんぞぶち壊してやろうと思ってな……
え、あの……ボールに乗り移る予定のフェルタンはともかく、なんでトロアの力が足に纏わり始めてるの? 白い顔が顕れはじめてるんですけど。
なんか勝手に必殺技みたいなノリで出て来てますけど何も聞いてないんですがあの、すっごい足が
すっごい痛いんですけど! 視界的に見えてないけどもしかして僕の足に噛みついてたりしない?
──? 悪魔の力を使う代償に足が壊れるのは当たり前だろう
──……こういう奴なんだトロアは
トロアさんは押し売りやめて? あとコルシア助けて。
もうこのまま痛みでぶっ倒れたいんですけど。駄目ですよね蹴らないと。足振りかぶっていきなり倒れるとか格好悪すぎるもん。わけわからんもん。
ああ叫ばないともう力はいらないってすぐ分かる。ついでになんかいい感じの技名付けちゃう? ……はい、整いました。
「ロアフェル──」
足がボールに触れる。瞬間、足が爆発……纏っていた龍の顎が開き、間欠泉の如く噴き出た炎がボールを吹き飛ばす。
空を切る、乗り移り大きくなったフェルタンが大口を開く。そして左足がぐにゃぐにゃに砕け散る感覚がする。
これ完全に左足の骨全部行きましたね。それどころか筋肉もいかれやがりましたね。
「──ドミネーション!」
……痛いとかいう次元じゃない。複数のペンチで引っこ抜かれようとしている感じがする。俺なにかしたかな?
そうか、調子に乗ってシュートしようとしたからだな……二度と調子に乗らないので勘弁してください。
──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛゛ぁ゛゛ぁ゛!!
あ、あのカラスの声が聞こえる。
ははは、死肉寸前の男はここだぞ。
助けて。
最近忙しかったり忙しくなかったりする
~オリ技紹介~
・ロアフェルドミネーション シュート技
トロア+フェルタンの力が合わさって最強に見えたりしなかったりする。 白き龍のブレスに黒き蛇が撃ち出され相手を喰らう。
代償として左足が使い物にならなくなるレベルで骨が木っ端みじんになり筋肉がイカレル。皇帝ペンギン一号みたいだぁ……
そこそこ強い
~オリキャラ紹介~
・トロア
押し売り。
神なんてくそくらえ。ゴッドハンドなんて名前がついているのが運の尽きよ。
・コルシア
神なんてくそだけど押し売りは駄目だと思う
・フェルタン
オレンジソーダ味