かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について 作:低次元領域
※朝練の30分走は二回あったので訂正いたします。
そのため、時速50kmで走らされる部長はいなくなりました。深く感謝いたします。
僕は生まれつき、背が低かった。
それは周りの成長に合わせてどんどんと顕著になっていき……中学に入る頃には、他の子の半分くらいの高さで落ち着いてしまっていた。
僕よりも4つか5つも年下の子とよく目が合って、同年代には顔を上げなきゃならない。日常生活から不満はあったが、僕の鬱屈はもっと別の所で溜まっていた。
基本、スポーツは体格がものをいう競技だ。野球バスケバレーの球技どころか、階級分けされるボクシングや柔道とかの格闘技だってそうだ。
だから、僕はスポーツがそんなに好きではない。家でも好きな番組がスポーツ特番に潰されているのを見るたびにうへ、と声に出しそうになる。
だから、だから、僕を『サッカー』に誘って来た彼に対して……僕は嫌悪感を少しも隠さず睨みつけてしまった。何せ僕はサッカーなんて未経験。
それを知っていて、僕みたいな低身長の子を誘うのは裏があるに違いない、そう思い込んでいた。
どうせ数合わせ要員でしょって、そのうち人が増えれば仲間外れにするんでしょ、と彼に吐き捨てた。
彼は、次の日も僕を誘ってくれた。僕は無視した。
次の日は、他の部員候補だろう子が一人、彼の死角にこっそりと隠れているのが見えている中でのスカウトだった。僕は断った。
その次の日は、部活が成立する最低限の五人が揃ったらしく、ほんの少しだけ興奮した調子で話す彼がいた。相変わらず一生懸命な彼が少しは報われたのか、と少しは心に余裕が出来た。僕は丁寧に断った。
次の日も次の日も次の日も……
──そうして、最初のスカウトから一週間が経とうとしている日のこと。
彼の周りには、既に九人の部員がいた。ここまで集まればもう流れに乗ったも同然だろう。サッカーをしたいという人間は探せば校内にいくらでもいるはずだ。
だから、もう僕を誘う必要なんてないのに。
なんで、なんでそうまでして僕に話しかけてくるんだ。ずっと変わらず目線を合わせ誘ってくる彼に対して、激昂した。
「なんで──!」
「……お前が必要なんだ。『最後の一人』として」
けどそれは、彼の口から自然に出てきた言葉にあっさりと鎮火されてしまった。
はぇ、と開いた口からは怒りが煙となって出て行ってしまった。
気が付いたら、僕は入部届に名前を書いていた。
迎えてくれたチームのメンバーは、それまでの僕の怒り様を揶揄って「ウリ坊」なんて呼ぶけれど、不思議と悪い気はしない。
そこに親しみが込められているからだろうことが半分、もう半分は……。
部長から、中学サッカーの日本一を決める『フットボールフロンティア』優勝を目指していることを聞かされた。
それを目指すメンバーの一人として、部長から必要とされていたのだ。それさえ知っていれば、この体格が今は自分の武器であるとさえいえた。
小柄だけど決して非力ではないって、皆に見せてやるんだ。そう高い高い空に向けて誓った。
後に聞いた話では、僕たちが揃った後からも入部希望者が幾人か現れたらしいが……全員、部長が面接した後に辞退してしまったそうだ。
残念だと思う反面、ほっとしている自分がまだいることに気が付いて、思わず顔を顰めた。
◇
入部希望? うれしいねー全然大歓迎だよ。まだまだ出来てから一週間も経ってない部活だし、全然なじめると思うよ。ちなみに目標は?
へーリフティング十回ぐらいできるようになりたいんだ、いいね。やっぱり小さなことからコツコツとだよね。
えっ……毎日の練習スケジュールが知りたい?
そうだなえっとまず朝練が、校外走30分、休み挟んでもう一回……え、何kmぐらい?
…………合わせて、25km。
あ、待って! 逃げないで! 逃げるな! くそぅ!!
てなことが今日もあったよ。
まあ当然だよね、誰だって毎日朝から25km走るとか聞かされたら逃げるよね。俺も逃げたいもん。
不思議なことに、今の部員メンバーのような超次元的な奴が部結成以降は入ってくる兆しがない。誰か一人でも来てくれたら「すまない、持病の膝が悪化してしまった……俺はマネージャーとして裏方に回る」とかいって任せられるというのに……。
いや、マネージャーだとモテないか? まあいい。
せめて隔日だよね、ほんと。
しかもメアの奴が言い放った「部長は朝練の前に練習してる」発言のせいで、事態は悪化した。
みんな詰め寄って「なにしてるの?」って聞いてくるもんだから、誤魔化そうにもうまい言い訳が思いつかず、
「……(教科書を殆ど教室に置いてきているのでペラペラな)カバンを背負ってドリブル」
なんて言ってしまったもんだから、今は校外走よりも前に全員うちの前に集まり、カバンに重り(10kg)を入れて背負い、ドリブル練習しながらの登校と言う地獄なのだ。
誰だ、重り入れるとかいう発想提案した奴。なんで10kgなんだ。腰と膝が死ぬわ。
なんで毎朝足腰がガクガクになりながらの勉強しなきゃいけねぇーんだよ!? 初日なんてほぼ死にかけで走れメロス朗読してたわ!
メロスも辛いんだな……ってすっごい感情移入して涙出そうになったし。
しかし迂闊にも気絶しようものなら、同じクラスにいる部員たちに見られるし、何より「練習のし過ぎでぶっ倒れた奴」というレッテルが貼られ、哀しい学生生活になるだろうことは確実。
どうにか見た目を取り繕って「平気ですよ、空気イスだってできます」と言って誤魔化すしかないのである。
……上記のことを口にしたら、間違いなく部員全員が授業中空気イスをするようになるだろう。当然俺も。
絶対に言わないことにしよう。心の中で誓った。
幸いなことに、放課後の練習は今はそこまできつくはない。
理由としては、作られたばかりのサッカー部は中々校庭を借りることが出来ず、狭いところでパスやドリブル練習するぐらいしかできないからだろうか。
せいぜい始めと終わりに10kmずつ走る程度で……朝に25km、放課後に10+10で20km。つまり一日で45km。
おかしい、フルマラソンより長い。
マラソンの起源メロスが走った距離は片道で40km近くだったはず……あれ?
メロス大したことねーな!
◇
ここ数日で、明らかに俺の体は限界を迎えている。ずっと我慢していたけど、正直体全身が棒のように痛い。
布団の様な柔らかいモノに触れると気が付けば寝てしまっていることも多々ある。
昨日なんて玄関マットで数時間寝てしまい首を寝違えた。おかげで今日の俺は黒板から目を逸らす不良児だった。
この状況は非常にまずい。あと一週間もすれば俺は死ぬかもしれない。
フットボールフロンティアの地区予選が始まるまであと三週間を切ろうとしているこの時期でこれだ。
どうにかして練習を減らすしかあるまいが……何と言って誤魔化す。
1.オーバーワークだと言って休むように促す
観察した限り、俺以外は適度に疲れている状態。今の訓練量が適切か少ないくらいだと推測できる。
つまり反論を食らう。駄目。
2.メンタルトレーニングだと言って瞑想を取り入れる
メンバーのやる気だと確実に魔改造を加える。下手をすると尖った岩の先端とかでやらされそう。
いや確実に奴らはやる。むしろ一人してそうな奴がいる。ナシ。
3.全てを告白し練習量を抑えてもらう
くそカッコ悪い、たとえ死んだとしてもそれは嫌だ。
駄目だった……何一ついいアイディアが浮かばない。
どうにかして、俺は楽できて、アイツらも苦労して納得するような夢のような特訓はないものか……。
そう思い、サッカーについての雑誌をあさっていた時であった。
「……炎の、ストライカー?」
それは、去年のフットボールフロンティアにて準優勝した学校を取り上げた記事。
木戸川清修という中学のFWが繰り出す強烈なシュートの瞬間を切り取った写真が、ページの片方を独占していた。
炎を纏い(この時点ですでにおかしい)、足を回転させヘリコプターの様に上昇し蹴り落す『ファイアトルネード』
明らかな人体発火を捉えた写真を見た時は「俺のサッカーに関する知識ってやっぱおかしいのかな」と白目をむきかけたが、少しした後に思いついたのだ。
「これだ……!」
思い、ついてしまったのだ……。
◇
俺は放課後、皆が校外を走ろうと準備をしている中言い放った。
「必殺技の開発……ですか? 部長」
「そうだ、地区予選を勝ち進むためにも。みんな、頑張ろう」
名目はそれだった。地区予選の1回戦目とかはともかく、勝ち進めばそれに伴って敵チームも超次元度を増していくだろうと俺はみんなを説得する。
火曜日と木曜日はペアを組み、お互いのいいところや不足している所を指摘し合う。そして補う、あるいは強みを伸ばす必殺技を作り出そうと提案したのだ。
もちろん、必ず一個は完成させろ。といった様なノルマも存在しない。
どの記事を読んでも、必殺技の開発は一夜にして成るものではないと書かれていた。つまり、部員たちがどんなに才能豊かな連中であったとしても、必ず苦戦するだろう。
つまり、俺も苦戦し皆も苦戦する。
最悪、これで自分の力の限界を感じ、
……多分そこまでになる奴は一人もいないだろうなとは薄々勘づいてるけど。
更にこの特訓のいいところは、「ペア」を作るという点だ。我が習合サッカー部は十一人。
そう、どう足掻いても一人余るのだ。当然、その枠は俺だ。部長と言う立場を活かし、或いは部員全員が何故か俺に抱いている「自分たちよりも努力している」という幻想のおかげで俺は一人になれるのだ。
完璧だった。後はそれこそ必殺技のイメージを練っているんだと言いながら座禅でも組んでいればいい。誰かに介入されなければ瞑想も安心だ。
みんなもすっかり騙されてくれて、各々どんな技がいいかとか、技名をどうするかとか談笑している。
「ふふ……なら、僕は空高く飛び立ち、皆の道を照らす光を放つ一撃を目指すとするよ」
「あー? あー、必殺シュートって意味か。メアの言うことはなんかズレてんだよな……」
「ジミーくんに言われたくはないんだけどね……」
その中で厨二病を相変わらず発症しているメアは、唯一のサッカー経験者且つ同じFWである副部長、ジミーに話しかけていた。ちなみにメアが十一番でジミーが九番である。
……別にいじめてるわけではない。本人がジミーって呼んでくれって何故かイキイキと宣言していたのだ。確かにこれと言った特徴もない彼だったからピッタリと言えばピッタリなのだが……もしかして本人は地味を皮肉ったあだ名だと気が付いていないのだろうか。いやまさかそんな訳──、
「じゃっ、部長」
思考はジミーが話しかけてきたことで遮られた。その後ろをついて、メアもやってきている。
一体何なんだろうか。ほらゴールなら空いてるからそっちに行くといい。
「……うん? なんだ」
「いや、俺とメアが必殺シュートの練習するからさ……」
──キーパー役お願いな
殺害予告かな。
そこでようやく気が付いたのであった。
俺の背中には一番の数字、ポジションはGK。
自分で考えた作戦が、実は自分を地獄に蹴落とすものだった……と。
助けて。
やめて!二人超次元的才能を持ったFWの必殺シュート特訓で、日が沈むまで続けられたら、朝練ですでにズタボロの雑巾になっている部長の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで部長!あんたが今ここで倒れたら、部員全員でフットボールフロンティアへ行く約束はどうなっちゃうの? 寿命はまだ残ってる。ここを耐えれば、玄関マットに勝てるんだから!
次回、「部長死す」。デュエルスタンバイ!
~選手紹介~
・ウリ坊 DF 4番
身長100ないでしょう系ディフェンダー。部長が転生者とかだったら病気を疑っていただろう。
小さい身長からは想像できないタックルの強さが売り、ウリだけに(激うまギャグ)。
スポーツが嫌いだというけれど、それは参加したいのに身長のせいで門前払いにされるといった感情の裏返し。