かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について   作:低次元領域

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 Twitterでいろんな人と話している内に、松風世代になったらさすがに現役参戦はキツイけど三国さんの装備枠になりそうな部長が誕生しました。
 いつか辿り着けるといいなぁ

 それはそうと更新遅れてすまない。5V色違いギガイアスが欲しい


眩む炎天、遠点に未来を見出す日

 故郷はただただ広かった。

 けれど、それに比例する人の数が生み出す闇は……際限がなかった。

 

「────!」

 

 自分の生まれがあまり恵まれていないことは知っていた。

 それは自分に最初、戸籍の存在すらなかったことは勿論。物心がついた時、親と言える存在がいないということも。

 ただ一番古い記憶、誰かに連れ去られ、我に手を伸ばす誰かが居た。

 それが何を意味するのか、理解しない脳ではない。

 

「──!」

 

 地頭が、見た目も悪くはないというのは本当に運が良かった。

 そうでなければ、ただ我は他の人の歯車の代替品になるのみだったから。

 

 狭い檻の中に閉じ込められ、人間らしい生活なんてのは知識としてすら得ることが出来ない。

 求められた"未来の値段"のために日々泣きながらも頑張るしかなかった。

 

「……あぁ」

 

 足りないものを探し出し埋める。飛び出ている点に気が付き伸ばす。一日中。

 

 媚を売った、周りを蹴落とした。己の扱いをよくするための手段は選ばなかった。泣き言を言った仲間を足場にするなんてのは手慣れた事だった。

 どんなことをしてでも我は勝ちたかった。人になりたかった。家畜で終わるのが……材料で終わりたくなかった。

 

 やがて行動は報われた。ある程度よい買い手に気に入ってもらえたようで、そこからはようやく"人並み"になれた。

 でもそこでも更に我と同じような子供が大勢いた。

 力をつけて、周りを蹴落として、また次の買い手へ……また力をつけ……。

 

 いくら生活が裕福になろうが、踏み外せば溶岩に飲まれる。

 安全安心と言える日がなかった。これはきっと人生が終わるその時まで続くのだろうと気が付けたのは救いか否か。

 

『……ご、ゴォール!! 2-0、織部の超ロングシュートが突き刺さる!

黒月の爆炎シュートを吹き飛ばし……再び得点、習合の勢いは止まりません!』

 

「……今がその時か?」

 

 分からなかった。確かに習合の面々は化け物ぞろいであったが、それはこの大会基準においてという話。

 世界を相手にした時、才能に溢れる怪物はいくつも見た。

 祖国は世界を相手にした時、まだまだ見劣りするレベル。我がいたチームよりも強いなんてのは至極当たり前にあること。

 

「……油断せずいくぞみんな」

 

「リーダー、今のシュートもう一回、もう一回! ほらワタリくんからも!」

 

「メアさん、シュート重ねようとしてタイミングが合いませんでしたね。出来たらそれこそえげつない物になりそうなので安心してますけど。

あキャプテン、包帯が焦げちゃって黒くなってますけど交換しなくて大丈夫ですか?」

 

「……問題ない」

 

 目の前で天使、烏小僧が織部に駆け寄る姿を見ていた。

 乾いた墨の様にひび割れた包帯、転がり戻ってきたボールから這い出る黒蛇が足に巻き付き締め付けたかと思えば消えていく。

 

「……?」

 

 一瞬の違和感。織部の足の何かが変わったような気がする。目をこすり凝らしてみたが分からない。

 気のせいだったのか?

 

 ……この日本で、我の必殺技が耐えることも出来ずに食い破られるなんて……起こり得る筈がないと思っていた。

 我の本業はドリブル、もらったボールを継いで攻撃役に渡すこと。けれど他も一流だと自負していたから。

 

 なんならば、今大会で一二を争うであろうエンゼルブラスター改すらも弾き飛ばす自信もあった。

 

 だが、奴のロアフェル・ドミネーション……サクリファイス・ハンド。

 あれは……本当に何故我の必殺技を破れた? 負け惜しみではない、謎が残る。

 こちらが凌駕していたはず……それなのに。

 

『再び代之総中ボールで始まります。悪魔、天使のごとき力を前にどう立ち向かうのか!』

 

「くっ、負けてなるものか。いくぞお前ら!」

──お、おぅ!

 

 ああ違う。悩むのは常の事だが、足を止めるのは違う。

 笛はなる、皆は動く。時間は無くなる。

 刻一刻と変わる状況に対応するため、生き残るため……我は切り開いて見せなければならない。

 

「──ボールを、我に!!」

 

 そう叫び、もう一度大地を強く踏みしめ飛んだ。

 考えなしと言われるだろうか? それでもいい……ただ、停滞は嫌いだから。

 

 思考に思考を重ねるのもいい。けれど動かなければ始まらない。

 竦む自分の尻を叩き、眼前にある……高さも厚さも分からぬ壁へ飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラさん!」

 

「トールとウリ坊は引いて必殺技で、カガとバングでプレス! ソニックは呆けてないではよこっちだ!」

──オゥ!!

 

 黒い軌跡が綺麗だなぁ……自慢のディフェンス陣がどんどん抜かれていく。

 ……やばいやばいやばい、何がやばいって黒月さんが駄目押しの如く黒龍炎弾狙ってくることだよ!?

 あんなの二度も三度も撃たれてたまるか! いくらフェルタンが食べられても完食するまで耐えなきゃいけないんだぞ!

 

『一回戦とは思えぬ攻防! 巻き起こる砂煙と共に飛び交う習合と黒月選手! ボールはずっと彼の足に吸い付いて離れません!』

 

──お代わり? よろしくナガヒサ

──しかも今両腕火傷してるしな……白い包帯後悔してたし、黒くなってよかったな

 

 燃え尽きて炭になっただけだがな! 今もポロポロ零れてるから替えたいけどみんなの前で変えたら火傷した腕が見られそうで迂闊に替えに行けないんだよ。

 あとフェルタンはもう満腹になったりしないの……? いや食べてくれるのはありがたいし治してくれるのも大助かりなんだけどさ。

 

 というかほんと黒月さん強すぎてどうしようもないんですけど。

 バングとソニックの永遠に追っかけまわされるコンビ突破する当たりテクニックが一人だけ天元突破してますね。

 

「追いついたぞ貴様──ストームブリンガー!

 

『おおっと、砂嵐が急に……! 黒月の周りを駆け巡ることで生み出される大嵐だぁ!』

 

 ナイス追っかけてきたソニック! 流石に耐えられても足を止めればカガが喰らい付ける。

 カガの粘り強さがあれば……あんま関係ないけどなんかポケモンバトル見てる感覚になってきたな。よくよく考えたら竜巻起こせる走りって何なの?

 

「むっ!?」

 

「その速さは認める……けど、巧くないネ」

 

『な、なんと嵐を駆け上がり突破しました! ストームライダーと言うべきでしょうか!?』

 

 なんなの? 風を足場にするとかもうわけわかんないすけど。

 しかもその勢いのまま高く飛んでるんですけど!? やばい既にシュート体勢に入ってる!

 止めてグラさんかトール! ウリ坊は何とか天に向かって猪突猛進できないかどうか……無理だなよし!

 

「ちっ……デッドスナイ──なんだと!?」

 

「撃たれると分かってて当たる馬鹿もいない」

 

 空中で身をよじって狙撃も躱しちゃったよ!

 マジでどうやって止めりゃいいのアンタ!? あああぁぁぁ、また大地から溶岩吹き出し始めて黒龍が!

 あれちょっとなんかさっきより少し熱気強くないですか? もしかしてですが進化の兆しですがやめてくださいほんと!

 

「──黒龍炎弾!

 

「舐めんな──雷鳴一喝……ぐぅっ!?」

 

『またもや炎を纏う黒龍が習合ゴールへ……雷も物ともせず突き進みます!』

 

 あああの皇帝ペンギン2号すらかなり削ったトールの雷鳴一喝食らっても駄目か!? ……今日いい天気だからあまり威力出てないってのもあるけど。

 そんでも少しは減衰するぐらいしてほしいかなぁ!? カガの必殺技……は喰らい付いてから出す技だし上空の物には無理だな!

 ジミーとかメアは「あれすっごいけど止められるし問題ないよな」的な視線こっちに送って来てるし。加えてメアはさっきスタミナが回復してなくてエンゼルブラスターズレたせいなのか「もっかいドミネーションして!」って分かりやすい気持ち抱いてるし!

 

 絶対断る、炎を消すいい案があるとかトロアに騙されて放ったあれを公式試合では唯一のシュートにしてやる!

 

──また犠牲か……闘争の場に出つつお前がゴールに立たないいい方法はないも──

 

サクリファイス・ハンド!

 

──あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!

──いただきます……!

 

 あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ! そんで肉が焼けるにおい! 

 MFのシュートをサクリファイスして威力半分ぐらいしか殺せないってホント化け物だな世界級! 

 炎の中で頭突きして膝蹴りして火傷済みの左手でぶんなぐって……あのフェルタンなんかさっきより完食するのに時間かかってません?!

 

──おーおーいい炎じゃ……単独顕現で暴れたりしたいのぅ

──味わいふかし

 

 ……???

 

 

 ……え、ちょ早く食べ……助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──習合の勝ちだな」

 

 病院のベッドの脇で、かつて天才ゲームメイカーとうたわれた男、鬼道が言った。

 苦痛に、戦いの場にもうしばらく立てなくなった男たちがひしめくこの病室でただ一人唯一"軽傷"で済み入院生活の必要がなかった彼。

 

 昨日の戦いの傷からも既に復帰し、足に若干の不安だけを残し歩く。

 未だ痛みにうなされる仲間達の様子を見つつ、部屋に設置されたテレビを見ていた。

 

「そうだな」

 

「雷門……なんだ、来ていたのか。……円堂はいないのか?」

 

「あぁ……電話で呼ばれたらしくて遅れてくるそうだ」

 

 覇気の消えた奴を前に、思わず動揺していた栗松たちを差し置いて俺は声を掛けた。

 一瞬驚き目を丸くする鬼道を見て、やはり隙が多いなと一人零した。

 

「そう見えるか? お前がそう言うという事は……そうなんだろうな」

 

「鬼道さん……」

 

「え、ででもまだあのへいふぇい?って人を誰も止められてないじゃないでヤンスよ?」

 

 自嘲気に佐久間を見下ろした鬼道。

 栗松は彼から目を逸らし、周りに訴えかけるようにきょろきょろと見まわす。

 前半が終わろうとしている今も6度目の黒龍炎弾が織部を襲い飲み込んだ。その間も習合メンバーは動くが未だ誰一人として黒月からボールを奪えていないのは確かだ。

 

 そう、6度目だ。

 

「……一人だけ強くても意味がない」

 

 鬼道が強く拳を握りしめる。

 仮に、全員が習合と渡り合えるほどの強さを持っていれば……黒月はその倍、前半終了までにシュートしていただろう。

 しかし、既に代之総中は限界を迎えながらも走るキャプテンを除き全員戦意を失っている。

 ……ああ駄目か、そのキャプテンさえも防ぎ切った織部を見て崩れ落ちた。

 

「黒月にとっての不運は、相手が習合……織部率いるチームだったこと、仲間がそれをあまり理解せず試合が始まってしまった事だ」

 

 経験者は語る。と言うべきだろうか。

 少なくとも俺達が織部達の事を何も知らず、挑んでいた時はどうなっていただろう。

 隣で源田たちを見て険しい表情をしている染岡は、食い散らかされた黒龍を見てあの日の事を思い出しているのかもしれない。

 

「奴が集めたメンバーも傑物ばかりだが……悪魔を宿す奴は次元が違う。俺の目にはどうして黒月の一撃が止められるのか分からない程に……」

 

「そして、そんな奴を相手にした時、人は気持ちが折れてしまうことがある」

 

 そうすればエース格に割ける人員が増え、さらに苦しくなる。

 織部が集めた者達は成長性も高い、格上とのぶつかり合いで少しずつだが確実に力をつけ始めている。

 後半戦に入れば、ボールが奪えるようになるかもしれないほどに。

 

「習合を相手にするときはどれだけ絶望的だろうと、諦めない心が必要だ。奴らとのサッカーは超えられない壁に当たり続ける様な苦行に等しい」

 

 拳を握り続け……やがて、もう一度テレビを見る。

 その目に宿る感情は……悔しさ、だろうか。

 

『ここで前半終了! 攻撃の主導権を握られつつも織部が防ぎ切り、3-0で習合がリード!』

 

「──でも、そんな相手だからこそ勝ちたいと思う、思っていたんだ」

 

 帝国は、世宇子との戦いで惨敗し敗退。

 チームメンバーの自分以外もしばらくはサッカーが出来ない体にされてしまった。

 もはや帝国学園に今季出来る事はない。

 

『……おおっと、たった今代之総中監督より試合続行の拒否がございました。これにより試合終了……帝国学園に続いての放棄試合です』

 

『……黒月選手がなにか監督に訴えかけているようですが……』

 

 悪意はなく、ただ力の差に心が折れてしまう習合。体を痛めつけ自発的に身も心も折ろうとしてくる世宇子。

 俺達雷門が勝ち進めば決勝で必ず、この二つのどちらかとぶつかることになるだろう。

 部屋に重苦しい空気が流れる。

 

「──そうだよな!」

 

 明るく笑う声が聞こえた。

 病室のドアが開き……両手にカバンを持った円堂たちが入ってくる。

 その隣には同じようにカバンを抱えた音無、秋、夏未たちマネージャーも。

 

「円堂……? 一体どうしたんだそれ」

 

「いや、そろそろ昼だからって秋たちが作ってくれててさ! せっかくだから鬼道達にもって!」

 

「いっぱい作ってきたから遠慮せずにどうぞ~!」

 

 開かれたカバンには大量の握り飯。炊き立てなのだろうか。消毒液の匂いに米と海苔の匂いが混ざる。

 ポカンとする帝国のメンバーたちにも握り飯が渡されていく。

 当然、鬼道にも。音無が直接渡した。

 

「春奈……」

 

「らしくないですよお兄ちゃん、こんな時はご飯食べて元気出さなくちゃ!」

 

 そこで漸く悟った。鬼道を心配する音無の事を思い、秋たちが気を利かせたのだろう。

 円堂は大方作り過ぎて運べなくなったから呼ばれたのかそれとも企みの一人なのか。

 

 ……配り終えたら早速ほお張っている辺り、ただ呼ばれただけだろうな。

 

「織部たちもさ! この間やってみて分かったんだけどすっげぇサッカー楽しんでてさ! それで強いんだから流石だよな。

……だから、今度は絶対止めて見せる! それで、強くなったみんなであの守りを突破するんだ!」

 

「きゃ、キャプテン……米粒飛ばしながら話さないで欲しいっス」

 

「それに、まだ世宇子が上がってくる可能性だってあるんだぞ?」

 

「いいや、勝つのは織部達だ!」

 

 ゴッドハンドが破られて円堂は落ち込んだ。

 けれど、そこから再起した。夏未が用意したイナビカリ修練場、聞き出された習合の特訓メニューを参考にし雷門はあれから格段に強くなった。

 それもひとえに、円堂のやる気に皆が付いてきたからだ。

 

 勝つのは無理だ、という諦めから頑張れば可能性があるかもしれない。そう思えるようになって栗松たちも頑張った。

 少し前まで廃部寸前の部活で遊んでいたとは思えない程の根性を見せた。

 

 ……楽しい、最高のサッカーになる。勝敗はともかくとして。

 何故だか俺にはそんな確信があった。

 

「……頑張れよ。リベンジは……またいずれ果たすとしよう」

 

 握り飯を口に入れ、鬼道は少し笑う。

 悔しさの目は消え、羨望……そんな感情が見て取れて──

 

「──お前も来ればいいじゃないか」

 

 その全てを後ろから見ていた、監督の声により……事態は急変することになる。

 




 スカウト力SSSの響監督に参りますね……
 あと代之総中の展開がプロットとかなり変わって苦しみましたね。本当なら習合に後に加わるはずだったんですがそのもろもろのフラグへし折ってみました。
 つまり……昨日の敵は次の次の次の敵だな!


 かなり強引ではありますがこれにて「部長、地獄の幕開けだってよ」編は終了。
 次回より「部長、パイレーツオブ狩火庵、呪われたサッカーだってよ」編がスタートします((

~オリキャラ紹介~
・黒月 夥瓏 MF
 いつだって諦めないドラゴンボーイ。
 このままではすまさんぞ……後地味に何かに気が付いたらしいぞ。
 詳細は次話で

・織部 長久 GK 1番
 多分前世はマグマ遣いに喧嘩でも売ったのだろうってぐらい焼かれた。
 途中から包帯が完全に焼け落ちていたのでフェルタンの回復がなかったら即バレだった。
 あぶにぇーい


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