かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について   作:低次元領域

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 感想欄をニコニコ読みながら思ったんですが

Q.天照(シュート)で腕に負担かかるのっておかしくない?
A.確かに




大は小を隠す日

 鯨を骨の指で握り刺す。突進の威力を受けひび割れる破片となり散っていく疑似骨。

 先端は素早く、段階的に折れていき……やがて土台が割れる。

 

 その中にあり、到達した……黒い握り拳がアヴィの鼻先に突き刺さる。最後の疑似骨で出来た殻と骨が折れる。

 

『ぐっ……た、助け──』

 

 この一瞬の間に、再び腰から出てきたフェルタンが顎を巨大化、鯨を丸のみにした。

 

 南無南無……。

 

あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ゛!!

 

 痛みが手から全身に駆け巡る。

 

 カラスが鳴いた。まるで俺の心の内を代弁してくれるように。

 この技痛い……痛すぎて碌に動けない。

 

 サクリファイス・ハンドでコルシアが被ってくれていた痛み分もこっちに来るから当たり前だけどくそぉ……。

 大丈夫? 顔強張ってない?

 

──安心しろ、少し不機嫌そうだなってぐらいの顔だ。せいぜいアヴィに対しての憎しみだろうと誤解される

 

 サンコル。

 これ以上変な誤解されないように、めっちゃいい笑顔しておかないと……こう、歌のお兄さんの如くハツラツな。

 

 やあ会場の皆、試合中にお邪魔してすいませんね。試合中断させた鯨はもう食べられましたので安心してね!

 ついでに習合のキャプテン織部をよろしく。 ほら、ニコッ!

 

──威嚇か?

 

『……空が晴れて残ったのは習合中、悪魔のキーパー……ダークネス織部です!』

 

 怪獣大決戦を見たかのような震え声はやめて。なんか「勝ち残った方が私たちの敵です」って雰囲気やめて。

 あとさりげなくダークネス部長をダークネス織部にするな。もはやハーフみたいになっちゃったじゃないか。

 

 こちとらバリバリ日本人だぞ。

 

──な、なにあの人……人?

──ばかっ目を合わせちゃ駄目だ!

 

 ……うぅ、近くの席の人たちがすごい距離取り出した。

 

──当たり前だ……それにしても、貴様またこの技を使いおったな? 痛みがあるのはいいし我を犠牲にしないのもいいが……体に巡らせてやった力を回収するのは誰だと思ってる

 

 その声と共に、周辺に散らばった骨の破片が霧散。

 黒い砂煙となって俺の元へと戻って来て壁となり、視覚的に隠れ少し落ち着ける。

 

 サンコル。

 狙ったわけじゃないけどこれで安心して治す姿を隠すことが出来る。

 

──けふぅ……余は満足じゃぁ……あ、治しとくねナガナガ

──偶にはこういう摂取も悪くないのぉ……けぷ

 

 さいですか。でもありがとう……痛い痛い痛い痛い!! ああっあっ、あ゛ーっ!!

 

──……やはり完全回収は厳しいが、二度の痛みと治す際の痛みで儲けは出るか。ふふふ、完全復活も近い……!

 

 ……ふぅ、ふぅー……痛みの中に万全な腕が出来上がっていく感覚がもうわけわからんけど耐えた。

 痛みに耐え抜けば、丁度良く煙も体の中に消えて視界も晴れる。

 

 さてと。状況を確認しよう。

 

 試合は後半が始まったばかり、1-0でうちが勝っているなよしよし。

 コルシアに大部分は食べさせるって話ししていたけど、会場着いたら思いのほかアヴィちゃんが力取り戻してたから焦ったな。

 でも0-0で押さえてたのは流石うちの防御陣。そして二号もかなり強くなっている。これなら本当に俺無しでも大丈夫そう……うん。

 

 そして得点をしたのはメアと一号二人の合体必殺技。お疲れ様。

 やっぱ二人とも才能というか色々すごいわな……合体必殺技を練習も無しで完成させてるし。

 個人技と比べて難易度が段違いだって聞いてたんだが……あぁトールとソニックの合わせ技も凄かったな。あれももう少し工夫すれば合体技になりそう。

 

 竜巻と雷……すでに強力だけど何がいるかなぁ。あとで考えておこう。

 

 そんで……破れているゴールネット。いやパナイなこれ……。

 俺がまともに受けたらヒルデガ●ンのごとく腹に大穴開きそう。

 

 ……エンゼル・ブラスターと光陰如箭の合わせ技。どっちも改の技を基準にしているからか進化する必要もないぐらい強い。

 

 あ、一号君がすっごい睨んでくる。えーと……「今に追い抜いてやる」って感じだな。……いやもう完全に抜かれてますけどね。

 あとちょっと腕に違和感ありそうだからあとで冷やしといたほうがいいな。

 

 ……他のみんなもすっごいガン見してくるせいで試合が再開されない。

 どうしよ。

 

──大丈夫かお前ら!

『……む、なにやら狩火庵中のベンチが騒がしく……あ、あれは行方不明になっておりました東船道選手です!』

 

 おぉナイスです解説さん。

 どうやら船長も辿り着いたらしい。倒れたチームメンバーに駆け寄っている。

 みんなの視線が一瞬ズレたのを利用しさっさと降りた。地味に足に響く。

 

「……エマ、これ以上邪魔をしないよう隠れるぞ」

 

「あ、お帰りなさい兄さん……はい、逃避行ですね!」

 

「……何か違う気がする」

 

 着地点で待機していたエマを連れ、俺達はその場を後にする。

 少し駆け足。

 

──ひぃ!

──ちぃっ

──な、長久君……?

 

 会場で人の横を通り過ぎる度に悲鳴上げらるのはスルーして……いややっぱ辛いわ。

 涙目の子供や引いている大人。

 呆然としている叔父さんに、睨みつけてきているこの前の占い師さんとかいろんな人とすれ違って──

 

「……む?」

 

 あれ、なんか二人ぐらい知り合いいたな。思い振り返る。

 占い師さんは何故かもう姿を消していた。

 

 けれどあの人だけはやはりいて……俺に対し、少しだけ伸ばした手で虚空を掴んでいる。

 

「……おや、貴方は兄さんの」

 

 夏だというのに、スポーツの会場には不釣り合いなスーツに身を包み、ネクタイを締めもう片方の手にはビジネスバッグ。

 見るからに仕事の合間だと思えるような姿。というよりそれ以外の格好がなかったのかな。

 

「や、やぁ……三ヶ月ぶり、だ……ね?」

 

「──叔父さん」

 

 腫物を触る様に言葉を濁す、保護者の顔があった。

 やべ、保護者に悪魔を出してるところ見られた。どうしよ。

 ……あ、エマこら! なんか暗示をかけようとするんじゃない! やめなさい、やめっ──

 

 

 助けて、っていうか逃げて!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔と悪魔の対決は、一方的過ぎる……ただの食事で終わった。

 

『し、試合は狩火庵中の続行不可能という判断により終了! 1-0で習合の勝利です』

 

 リーダーが姿を隠ししばらくした後、大きなホイッスルとともに試合は幕を閉じた。

 痛みを訴える狩火庵中の生徒達が次々と担架や肩を貸されて運ばれていく様は、彼らをそこまで追い込んでしまった僕たちの心を憂鬱に……。

 

「習合のものどもよ……狩火庵中を代表しこの俺様、東船道が感謝を告げよう!」

 

 と思っていたのだけれど、彼の一言により困惑に変わって訪れていた。

 というか君って確か行方不明になっていた船長さんだったよね。なんで今ここに……。

 

「なに、あの鯨によって遭難させられていた所に羅針盤長……織部も流されて来てな。そのまま一緒に帰って来たのだ!

感謝する、奴が居なければここまで早く帰って来れなかったからな!」

 

「そ、そうですか……あとでキャプテンから詳しく伺っておきます」

 

 ワタリはそれを聞いて頭を手で押さえる。痛いのかな。

 そっか二人一緒に……ん、流されて? ということはリーダーも遭難したの?!

 

 ……ああいや、流石にそんなわけないか。

 海に行くって言いだしたのも、エマちゃんと口裏を合わせ、彼を救出しに行くための理由だったり?

 てっきり息抜きのためだと思ってたのに……。

 

「そして東京湾に着いたはいいが何をするにも金銭が無くてな。賭けバレーをして銭を稼ぎようやく辿り着いたというわけだ。中々に強敵だった……」

 

「賭け……? 部長にしては珍しいな……よっぽど急いでたのか? よくわかんね」

 

 ……意外と楽しんでる? ジミーが首をひねっている。

 うーん……リーダーとバレーか、いいなぁ。賭けはよくわからないけど。 

 ただ急いでいた、という単語に反応し船長君は指をジミーに向けた。

 

「そうだ! 急いでいたのだ俺様達は……決して、手遅れにするまいとな!」

 

 そう言って彼は次に、フィールドに残っていた一人のメンバーを連れてくる。

 先ほど天照が撃ち込まれたゴールキーパーの子だ。

 やはり彼も負傷していて、赤く腫れている腕を抑えている。

 

 あのメルビレイ・ザ・ホールの反動と、無理に天照を止めようとしたのが原因だろうか。

 

「よっ……天使さんと、赤い仮面被ってる奴。()()()()()()()()()()()!」

 

 だがなぜか……その顔に悲哀、憎しみの色はない。それどころか、僕たちに近づくと彼は笑顔になった。

 鯨に侵されていた時とは違う、心からの笑顔にどうしてだと僕たちは更に疑問に思った。

 

「……えっと」

 

「ナハハ! 分からんのか貴様ら!」

 

 困惑を深める僕たちを見て、愉快なものを見たと船長君が隣にいたキーパーの肩を何度も叩く。

 「いてぇーぞバカ船長!?」と叫んで、また彼らは笑った。

 それは痛覚が生きている証。

 

「……こうして叩いて叫ぶほどの元気がある。他の者共も少し入院する必要があるが、後遺症などは残らない程度だろう……船長としての勘だがな!

あの鯨擬きが憑いたままではどうなるかもわからんかった事を考えるに、十二分の結果と言える」

 

「……」

 

「ふん、納得していないな? 俺達は罠にかかり馬鹿をしていた。その馬鹿を殴り止めて崖から落ちるのを阻止したのだ。どこにお前らが気にする必要がある」

 

「……!」

 

 きっとその言い分は正しかった。憂鬱になる原因を刺激し、溶かそうとする。

 

 けれど消えない。足りないからだ。

 こうして落ち込んでしまうのは……リーダーがあんなにも簡単に悪魔を吸収してしまったのを見てしまって……思ってしまったせいなのかもしれない。

 

 ──サクリファイス・ハンド。

 ボールに掛かっている力を殺す……代償に見立て捧げることを契約に悪魔の力を引き出し止める技。

 精神を乗っ取られかねない大技。でもリーダーは完全に使いこなしている。

 

 けれどブラックの一撃を殺しきることは出来ず、無理に何度も骨を折りながら戦わせてしまった。

 

 狩火庵中の戦いを見て改めて感じたけど……危う過ぎる。

 これからも相手が強くなるなら彼を支えられるよう強くならなきゃと思った。

 

 

 ──ダークネス・ハンド。

 きっとあまり理解されないかもしれないけど、綺麗な技だと思った。見ているだけで魅入ってしまうほどに。

 

 そして……怖くなった。

 リーダーの出した骨が折れる……なんて光景だったからか。

 

 君の強さに安心するのに、「僕たちが無理をさせた結果」を引き出している様な不安を。

 見る人を恐怖に陥れるかもしれないそれは、力の凄さを視覚的に訴えかけていたのか。

 

 見て何となく思ったのは……「衝撃」を黒い骨に吸収させているという事。

 砕け散る黒骨を見て顔色一つ変えなかった辺り、砕かせるまでが技の流れなんだろう。

 そして弱くなった勢いを最後、殴りつける。

 

 その迫力からして、サクリファイス・ハンドの時よりも強く鮮やかに、悪魔の力を引き出しているとすぐにわかった。

 

 怪我をしてしまったという意識が彼の技に変化を与えたのだろうか。

 ブラックの猛攻を骨折しながらも防ぎ切った彼は、休んでもらっていると僕たちが思い込んでいる間にも進化を遂げていた。

 

 ……行ってはいけない領域へ、踏み込んでいる気がした。

 更にもう一歩進めば……崖から落ちてしまうような不安を覚えた。

 

「……もっと、僕たちに力があれば」

 

 あの鯨の技をもっと早く突破できていれば。

 試行錯誤でようやく成長できたと思っても、リーダーは……周りは待っていてくれない。

 もっともっと強くならなきゃ──そう気張った時、

 

「──自惚れるな」

 

 船長は、その線を切った。

 鈍い痛み。少しした後、彼が僕の頭にチョップを一つ入れたことに気が付いた。

 

 思わず頭を押さえる。

 

「えっ……」

 

「……お前らは神ではない。万能ではないし、全てを救う必要もない。その上で最善を尽くし、誰かを救えたのだ、勝利を手にしたのだ……誇り進め!

さもなければ、負けた者たちへ、そして……信頼し託してくれた者への侮辱となる」

 

 先ほどまでの笑顔とは一変、まるで刃物が付きつけられているように鋭利な警告の視線。

 

 負けた者とは狩火庵中の……いやこれまでに戦って来た代之総、帝国、高天原を含めて全てのこと。

 信頼してくれた者とは……誰と言われなかったけど悟った。今ここに姿を見せないで「任せた」という意思を伝えてくれたリーダーの事。

 

 強くなることは当たり前だとして、至るまでに不安を抱えるなと言外に。

 その鋭さは……僕が今付けようとしていた枷を、大きく切り落としてくれた。

 

「再度言おう、お前らは俺様のチームと全力でサッカーをして、その最中で呪いを解いた。その感謝を然りと受け取れ」

 

 言い切ると、また笑顔になって……彼は手を差し伸べてきた。握手を求めている。

 僕は……それを、

 

「……ありがとう」

 

 強く、握り返した。

 

「あ、それは副部長の俺の役目だろメア~!」

 

「ナハハハッ! 狩火庵中を代表して全員と握手してやろう!」

 

 慌てたジミーにもう片方の手を差し出し握手。

 次はワタリ、その次は一号……次々と繰り返していく中で、皆の憂鬱とした気分は抜けていくように見えた。

 

 ……ちょっと遠くでアルゴが残念がってたけど。

 

「……ふん、羅針盤長に伝えておくがよい。残った借りは必ず返すと! ナーハッハッハッ!」

 

 どうして彼が船長と呼ばれているのか、よくわかる瞬間であった。

 

 

 

 ──リーダー……走るのを邪魔するようなことをしてごめん。

 

 今度はちゃんと一緒に走ろう。ちょっと転んだり遅かったりするかもしれないけど、立ち上がって追いかけるから。

 もし君がどこか行ってはいけない場所へ落ちてしまったのだとしたら……僕が飛んで掴んで見せるから。

 

 晴れた空を見て、そう誓った。

 

 

 

 

 

 

「……ついでに言えば、大量の金貨を処分せずに済んだので丸儲けなのだ、ナッハッハッハッ!!」

 

「退院したら焼肉行きましょーぜ焼肉!」

 

 ……うーん、台無しかな?

 




遺失物(所有者は目の前で消えた模様)
海辺に換金所があればバレー部のお小遣いは助かったのに((



 これにて「部長、呪われた男だってよ編」が終了となります。
元ネタはパイレーツ・オブ・カリビアン~呪われた海賊たちから。金貨という点や不死身の体という点を参考にさせていただきました。
 
 次回から「部長、反転した神を討ち滅ぼすってよ編」が始まります。
 時間渡航者による小細工、部長たちの存在による歪みなどが巻き起こす難易度上昇をかけたらなと。
 スポットを当てる予定はアルゴ、ジミー。そしてカガ。


~オリキャラ紹介~
・東船道 尊 MF あだ名:船長
 この章におけるブラック君ポジ。
 キーパー技以外の三種で「ディプシー」技を所持。その身体能力の高さとカリスマ性でまともに戦えば苦戦する相手でした。
 とはいえ原作世宇子は無理でしょうけど。

 金貨は操られていた監督含め皆で豪遊したり船の改造費用とかに使うらしいっすよ?
 治療費に使え。

・勅使ケ原 明 FW11番 メア
 少し気が変わった人。
 今なら翼を5枚にまでならいけると思う。あと少し何かあれば行ける気がする。
 怖い。天使の羽ばたきがめっちゃする。

・謎の占い師 FW10番
 次回登場。なんか適当に漂流させようとしたら強化されて帰ってきたのを見て舌打ちをする。
 ただ、彼女らの思惑的には習合が勝ちあがっても問題はない筈だか果たして……?

~オリ技紹介~
・ダークネス・ハンド パンチング技
 見た目が強そう。
 魂を犠牲にしなくなった。
 そして感想欄でも指摘されてたけど強化の余地がある。コルシアが気づいてるかどうかは内緒。
 部長は技進化、成長どちらの面でも一応なんとなく気が付いている。

・天照 シュート技
 せっかくゴールネットを破ったのにあまり話題にならなかった可哀想な子。気がついていた人に花丸さしあげますわ(唐突なお嬢様)
 原作ゴッドノウズより威力はまだ及ばないものの、スピードという観点で見たらかなりのすご技。
 改*改なので、二人の技が進化すれば自動的に天照も進化する。
 ガニメデプロトン

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